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REQUIEM館

外伝:癒やされぬ傷を背負い

鳴りやまぬ爆音、悲鳴、怒声

今、一つの国が終わりを迎えようとしていた。

国という機能が完全に麻痺して数年、世界中で戦争が起きていた。

国としての力を失い、さらに国境が曖昧となりいつかは隣国同士の争いが起きる。弱ければ滅びていく混沌の時代であった。

そしてこの時代に、戦場で恐れられている存在がいた。彼らは口をそろえて言う。
「死神」と

その少年の名前はとーる、まだ10歳を迎えたばかりであった。

この物語はまだ彼が彼の運命を変える人物と出会う前の話である。



とーるはとある焼け跡となった街の中を歩いていた。その先には城が見える。

とーるは周囲を見回しながら先にある城を目指す。とーるはあと数日と持たず滅びる城下町にいたのだ。

「そこのお前とまれ」
一人の兵がとーるを見つけ止める。とーるは兵の言う言葉を無視し足を進めた。
無視されたことが頭に来たのか兵は無言でファマスを撃った。

「じゃまだ」
とーるは射線からはずれ背負っていたAKを構え兵を撃ち抜いた。
この瞬間、とーるの周囲にいた兵が一斉にとーるに向かってファマスを乱射した。
着弾点はずれたりしていたがそれでも数百発の弾丸がとーるを襲う。とーるを貫通して後ろの壁にあたり壁は音をたてて崩れた。崩れた衝撃で砂埃が舞い、とーるがいた場所を覆う。

兵たちは確実に仕留めた確信していた。あれだけの弾をばらまかれて生きてる人間なんて普通はいないだろう。
普通でああるならば・・・

兵たちは緊張をときファマスを下した。
ターン
かん高い音がなると同時に一人の兵が吹き飛んだ。
兵は眉間を撃ち抜かれ絶命していた。兵たちは慌てて構えなおすともう一度煙が舞う場所にファマスを乱射した。
しかし

ターン…タタンタン

音が止まず一人また一人と兵は眉間を撃ち抜かれる。
続けざまに一人、また一人と倒れていく。兵たちは背筋が凍った。
既に数での圧倒など意味がなかった。兵たちは下がることもできずにいた。後ろを向けば間違いなく狙われる。

カツン
何かが音をたてて兵たちの足元に落ちた。それを見た兵たちは顔を真っ青にした。
目の前に落ちたそれは強烈な爆音をたて残された兵をすべて吹き飛ばした。

煙が晴れるとそこには誰もいなかった。まるでそれが当たり前のような静けさであった。
ゴト
突如石畳の地面から音がした。
ガラガラガラ
石畳のタイルがめくれそこからとーるが出てきた。どうやらとーるは兵の銃撃やグレネードの衝撃を全て地に潜ることでやり過ごしたらしい。その判断、実行力は既に年齢に不相応であった。
そして彼には表情の変化がないのだ。
とーるは周囲を見渡す。周囲には人の気配はない、残っているのは城にいる者だけであった。
とーるは城を目指し歩き始める。城に着くまでに8回ほど交戦があったがとーるは全てを撃破。
これで完全に場内以外に人がいなくなったことになる。
とーるは一度歩いてきた道を振り返った。その先に何があるわけでもないがそうしなければいけなかった気がした。
とーるは城内に侵入すると堂々と廊下を歩いていた。足元には少し前まで戦場であったことを物語るかのように数えきれない人が倒れていた。

とーるは一度だけ俯き何かをつぶやいた。しかしそれは誰も聞こえることはなかった。
とーるはさらに城の奥へと足を進める。奥の方から銃撃の音や悲鳴が聞こえる。
足は自然と音がする方へ向かう。そして一つの大きな扉のまで壮絶な戦いが繰り広げられていた。

とーるはまるで彼らを見つけると、まずドアから離れている兵をAKで狙った。
こちらに気づいてない相手は目の前の兵を相手にすることで精一杯で会った。
とーるは容赦なく引き金を引き一気に弾をばらまいた。それは既に目の前にいる兵を中心にばらまかれた。
とーるはAKの弾がきれると同時に腰からにつけたHEを取り出し投げつける。
かろうじで生き残った兵もHEで吹き飛ばされる。
とーるは既に息をしてない兵たちを冷たい目で一瞥すると今のHEで吹き飛んだ扉を抜けた。

とーるが扉を抜け部屋に入ると同時に銃弾が一斉に放たれた。
普通の人間ならまず確実に死が待っていた。
しかし銃弾はとーるをすり抜けうしろの壁を撃ち抜いた。
「何」
「どこだ探せ」
部屋にいた兵たちが一斉に動き始めた。侵入者を探し始めたが彼らにとってそれが死を意味する行動とは気づくことができなかった。
とーるは、扉を抜けた時点で銃弾がくるのを予測していた。扉を抜けた時点でとーるは彼が出せる最高速度で部屋の壁を蹴り上げ2階に上っていた。
とーるは慌てふためく兵をしり目に部屋内を見渡した。
部屋の中央に王と思わしき男を見つける。そしてとーるの考えは正しかった。
とーるはすぐさまAKのリロードを行い構える。今の彼は王以外の兵を全て消すことであった。
とーるは腰につけたありったけのHEを1階の兵に向って投げつけた。
部屋はこのときから残酷的な場へと変わった。一方的な爆撃をうけた1瞬で部屋の中央にいた兵まで全員が物言わぬ存在へと変わった。とーるは続けざまに部屋奥にいる兵を狙う、王以外を狙って。

そしてそれからわずか3分で部屋に残っている人間はとーると王のみとなった。
とーるは2階から飛び降り王の前へゆっくりと歩いて行く。
王は彼の姿まるで死神のように思えた。それほどまでに彼の纏う雰囲気は冷たく死を象徴しているように見えた。

「お前が王だな」
とーるの声に感情はなかった。とーるは王を見下ろしながら話した。
王はことばにならずただ首を縦にふった。
「今から3年前に起きた悲劇を覚えてるか」
とーるは探るように王を見下ろす。しかし王は言葉の意味が理解できずただ震えているだけであった。
「3年前、とある村に悲劇がおきた。それまでは平和であった村が一日で焼け跡に変わった」
「まっ、まさかお前」
「たった一日で全て消えた。友も親も妹までも俺の元から消えた。奪い去られた」
とーるはここにきて初めて感情をむき出しにした。その感情は怒りと悲しみそして憎悪といった暗いものであった。
「父が俺を川へ突き落してくれなかったら俺も死んでいただろう。そして何とか川から這い上がり村へ戻ってみるとそこには残酷な現実がまっていた。村人は全員殺されそこに襲ってきたやつらの姿はなかった。俺は必死で生き残った人を探したが生存者は見つからなかった。しかし俺はある物をみつけた」
とーるは服のポケットから一枚の布を取り出した。その布にはこの国のマークが記されていた。
「俺はまさかと思い調べて分かった。この数日後、隣国に宣戦布告、さらに1年後隣国を滅ぼし国を吸収して拡大。その宣戦布告は隣国がわが領土を侵したとあった。俺はそれを見て確信した」
とーるは銃を王に突きつた。
「お前たちの欲望のために村は捨てられたんだ。もう忘れたとは言わさんぞ」
とーるは今までになく声を張り上げた。
「あ、あれは仕方がなかったんだ」
王は慌てて話し始めるがとーるにとってはどうでもよかった。王の言葉を遮り引き金に力を入れる
「どうであれ俺はこの時を待っていた。あんたを殺すことだけがおれの生きる意味だった。だからお前だけは俺が殺さないと気が済まない」
「ま、まってく」
とーるは引き金を引いた。甲高い音が部屋に響き渡り王は絶命した。
とーるは絶命した王に背を向けると部屋をでていった。
「俺はこれからどうすればいいんだ」
とーるは途方に暮れいてた。このまま死んでもいいとすら思っていた。
とーるの足は自然と重い足取りへと変わった。

この後とーるは数多の戦場を駆け廻り敵味方を問わず己の怒りをぶちまけた。
そしてついた彼の名前は「死神」であった。

そして5年後、彼の人生を大きく変える人物に彼は出会う。がそれはまだ先の話である。





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第12話:緩やかな変化

「おはようございます」
朝、ナナリがリビングに入ると台所から声が聞こえた。
「おはよう、エリス君」
ナナリは台所にいるエリスに挨拶をすると冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注いだ。
「ナナリさん、私考えましたが、やはり家事全般は私にまかしてもらえないでしょうか」
エリスの言葉にナナリは少し考え込む姿をした。
「君がやってくれるならありがたいが、いいのか」
ナナリは止める気はなさそうだ。
「これしか取り柄がありませんから」
エリスの台所捌きを見る限りかなりの腕だ。誰も文句は言わないし、約一名大喜びしそうなのもいる。
「それではお願いするよ。変わってほしかったりしたら前日までに俺に言ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
ナナリはテーブルに置いてあった新聞を開いた。新聞の3面に館のことがのっていた。
【館の主が行方不明:失踪の可能性が浮上】
と書き出されていた。

館での一件から1週間がたった。ナナリの家には新たに2人の家族が増えたが大して変りがなかった。
「おはようー」
「おはよう」
リオとフリューベルがリビングに入ってくる。
「おはよう、お前らも定番だよな」
ナナリはフリューベルを見るが追及されたくないフリューベルは視線を泳がす。
「ベル兄さんは私がいないと駄目だからね」
リオは得意気に言うとフリューベルの腕に飛びついた。
フリューベルは諦めてリオを引きずりながら席につく、リオも並んで隣の席についた。
「本当、エリスが来てから食糧事情が改善されたな」
フリューベルは毎朝同じこと言っていた。男3人だけのころに比べたら栄養バランスはかなり良くなっていた。
「これしか取り柄がないですからね」
エリスは笑顔でこたえる。家事が好きなことが一目でわかる。
「おはようございます」
リビングに元気な声が響き渡る。毎朝元気な声でリビングに入ってくるのは彼しかいない。
「おはよう、ハル」
エリスは笑顔で弟を見た。
「調子はどうだ」
ナナリはハルの腕を持つと脈を測りながら話しかけた。
「最近は特に問題はないです」
ハルの体長は順調に回復してきている。
「とはいえ当分は家からは出れないから安静にしておくんだぞ」
ナナリはハルの腕から手を離して周りを見渡した。
「あいつはまだ起きてこないか」
ナナリはため息をつきフリューベルとリオを見た。
「仕方ないな」
「ふふっ、本当懲りないね」

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

「いってぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーー」
平穏な一日の始まりを告げる断末魔が家中を駆け巡る。
「うん、朝が来たって瞬間だね」
「えげつないぞ」
「楽しそうですね」
今までんフリューベルとリオが首謀者だったが新たな仲間が加わりさらに賑やかになっていた。
「てんめーーー、リオ、ベルさん。つーかハルお前までやるな」
とーるの叫び声など既に聞く耳持たず3人は部屋から飛び出る。
「だから、安静にしろって」
ナナリはため息をつくが本気で止める気はないようだ。
「あらあら」
エリスは楽しそうに一部始終を見届けていた。
新たな家族が加わり気がつけば家の中に暖かな空間ができていた。
「とーるさん、おはようございます」
「エリス、おはよう」


3人はいつも通り大学へ向かった。ちなみにリオは大学と同じ敷地内にある高等部へ編入していたので途中まで一緒に登校する。
ナナリととーるは相変わらず人気者であちこちで引っ張り回されてるようだ。
「羨ましい?」
「全然」
リオは意地悪げな顔でフリューベルを見る。こういうときのリオの小悪魔っぷりは学内では大人気で会った。
最近周りのフリューベルに対する見方が変わってきたのだ。
今までは静かで壁を作って近づけない感じであったがリオが現れてそれに振り回されているフリューベルは面倒見がいい兄という位置づけで捉えられている。
ちなみにリオは高等部で大人気であり、高等部の後輩たちからは嫉妬のオーラがむき出しであった。
「リオ、せめて構内では飛びつくのはやめないか?」
フリューベルは淡々とリオに話しかける。これは今までと全く変わりがない。
「なんで?嫌なの?」
リオは少し困った顔でフリューベルを見る。
「嫌じゃないが、恥ずかしくないか?」
フリューベルの返答にリオはきょとんとした。そしていきなり笑い出した。
「ベル兄さん、真面目な顔してすごいこと言うね」
「おいおい、注目されるから勘弁してくれ」
フリューベルはリオに腕を掴まれたまま困った顔をしている。
周囲も既に慣れてはきたが未だに珍しそうな視線がちらほらと見える。さらには殺意が混じった視線まで。
(帰ろうかな)
フリューベルの頭の中で帰宅の二文字がよぎった。
しかし今日はナナリに夕方研究室に来るように言われていた。
それを思い出したフリューベルは溜息をつくしかなかった。

一方とーるの方でも学内で驚愕的な問題が発生していた。
「えっと、駄目ですか」
「ごめんね、俺もう付き合ってる人がいるから」
とーるは現在エリスと恋仲にある。それはナナリもフリューベルも知っていた。
しかし、大学でその話が浮上した途端、女性からのアプローチが急激に増大したのだ。
今までも多かったかが現在更にとんでもないことになっている。
とーるは律義に全て断わっていた。ちなみに本日は今ので13人目であった。
「うっ」
女性はとーるに背を向けると走り去っていった。目には涙を浮かべているのが見えた。
(さすがにつらいな)
とーるは精神的に疲れていた。人の心を傷つけた経験がなかったためショックは大きかった。
「気にするなよ」
「ナナリさん」
とーるの肩に手を置きながら話した。
「とはいってもショックはでかいですよ」
「だろうな、まぁ青春だな」
ナナリととーるはそのまま研究室に向かった。

ナナリ達が研究室に入ったときには既にフリューベル達はテーブルでお茶を飲んでいた。
「こっちはこっちでお疲れモードだな」
ナナリは苦笑いしながらフリューベルを見た。
とーるにフリューベル、2人は大学内でも話題の中心になっている。
当分はこれが続くだろうと思うと苦笑いしか浮かばなかった。
「さて全員揃っているので話を進めるぞ」
ナナリは3人の見える位置に移動して話し始めた。
「今、調査中の生命の石についてだが驚くべき事が解った」
ナナリは一枚の用紙をテーブルに置いた。
「これは生命の石の活動期を指している。グラフが高くなっている程活動が活発になる。
そしてこの石は日中よりも夜の方が活動期を迎えている。まぁこれだけなら何言いたいのか分からなだろう」
ナナリはもう一枚用紙を出した。
「こっちは人間の脳を指している。眠っている時に脳は夢を見る。その時の脳の活動をグラフ化したものがこれだ」
ナナリの言いたいことは分からないが3人は静かに話を聞いていた。
「結論を言えば、この石は元々何かの生物だったのではないかと推測できる」
ここにきてフリューベルはあることにきづいた。一度リオを見てナナリを見るとナナリは頷いた。
「実はこの波長はリオが洗脳されていた時の脳波と同じなんだ。そしてもうひとつの推測何だがこれはアビッサルで洗脳を施すときに使用されている物と似た物に当たるかもしれない」
「ならばそれと比べてみるしかないな」
とーるは珍しく会話についてこれていた。
「だな、今後の事を考えれば必要なことだと俺も思う」
フリューベルもとーるの意見に賛同した。
「そこで、今回アビッサルの研究施設の襲撃命令が下りている。この時にその石を奪うのが一番手っ取り早い」
ナナリの言葉に3人は頷いた。
「ちなみにリオ、この石を見て何か感じるものがあるか?」
ナナリの質問にリオは首を横に振った。
「全くない。その石を見てもいまいちピンとこないわ」
「そうか、なら拒否反応とかもないだろう。決行は来月の3日だ。全員準備をしといてくれ」
ナナリは必要事項を告げると石を持って奥の部屋に入った。
「んじゃナナリがでてきたら帰ろう。エリスの飯が待ってるんだしな」
とーるは伸びをしながら2人に話しかけた。
「そうね」
「だな」

4人はこれから1ヶ月の休息の後、激戦の地へそして新たな衝撃にでくわすことになる。
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第11話:希望の夜明け

「ちっ」
フリューベルは舌打ちをしながらも周囲の敵をなぎ払っていた。
既に地に倒れている敵の数およそ50、残る敵の数およそ30とフリューベルにとっては余裕な数であった。数であったはずなのだがフリューベルの顔に余裕はなかった。

フリューベルは囲っている敵の数よりも多くの視線を感じていた。
どうやら更に敵が増える可能性があると読んだのだ。
フリューベルは冷静に残りの30人を叩き伏せていく。フリューベルの持っているガリルは弾がつき、背中に抱えていた。一本の槍を操り斬り伏していった。
10分後、黒装束を身に纏った集団は物言わぬ状態となり地に倒れた。

「なかなかやりますね。とはいえこれから本番ですよ」
男の周囲に3人の男女が集まった。
「われら4破醒が相手です」
どうやこの館内でもトップに君臨する4人が相手のようだ。
4人はそれぞれが得意の武器を持ち出していた。
AK、MP5、P90、ガリル
対するフリューベルは槍とDEのみ。
明らかに火力差で劣っている。
しかしフリューベルはその4人を見て笑った。
「何がおかしい」
女がつっかかるがフリューベルは無視してやりを構える。
4人はバラバラに動きフリューベルを狙う。さすがに連携慣れしている。お互いが被害を受けない場所に移動しながらフリューベルに向かって弾丸を叩きこんでくる。
しかしフリューベルはぎりぎりでそれをかわしている。相手に苛立ちを与えるためにいつも以上にぎりぎりを狙う。
だが相手はのってこない。
(さすがに戦いなれてるな)
場は拮抗した。相手もまさか4人がかりで押し切れない、否押されるとは思っていなかった。
事実フリューベルは4人の隙を確実に狙い消耗させている。
「存外にしぶとい、こなれば」
男は指をならし黒装束を呼ぶ。
約30前後の黒装束達が現れる。
先程に比べれば少ないが拮抗した現状でこれはかなり厳しい状態に追い込まれた。
(仕方ない、やるか)
フリューベルは前傾姿勢で構える。その構えは、リオに使った時以外は試したことがない。
何故ならこの技には弱点がありそこを突かれたら危険なのである。
(とはいえこれしか方法がない)
フリューベルが踏み出そうとした瞬間黒装束達が吹き飛んだ。
「なっ」
「だれだ」
男たちは虚を突かれたため完全に動揺している。
「よっ、フリュ」
フリューベルは声が聞こえた方を見るとそこには赤い軍服を着た男がいた。
その服はフリューベルには見覚えのある服であった。
「お前、セツなのか!」
フリューベルの声は奮えていた。
「さぁな、本当かどうかは」
そしてこの言葉にフリューベルは聞き覚えがある。
『戦えば分かる』
フリューベルの体に気力が戻る。
「一気に蹴散らすぜ」
「おっしゃーまかせとけ」
セツの言葉にフリューベルはナナリ達の前では見せない雄たけびを上げた。
セツの動きはフリューベルとは違い一言でいえば強引であった。黒装束の集団を端から追い詰め片っぱしから撃ち抜いていった。
「これを使え」
セツは片手でXMを乱射しながらフリューベルに何かを投げた。
それを手に取ったフリューベルはまるで子供のような意地の悪い顔をした。
フリューベルは自然な動作でバックステップをすると着地際に4人組の女を狙った。
「あばよっ」
フリューベルが狙いを定めるまでに僅かコンマ5秒相手はこちらに気づいてない。
トリガーを引いた瞬間、女は吹き飛んだ。
「なっ」
残された3人は即座に我に返りフリューベルを狙う。がその狙いは間違いであった。
「敵は一人じゃねーぜ」
セツはXMを地面に投げ付けながら腰からP90を引き抜き男にばら撒いた。
「ぐっ」
男はよろめきながらも倒れなかった。
しかし、それは失敗であった。動きが止まった相手をみすみす逃がすほどフリューベルは甘くない。
ズドン
フリューベルのAWPが容赦なく床を貫く。男はきりもみ回転しながら地面に叩きつけられた。
黒装束の集団がMP5を撃ってくるが、狙いが定まってないためセツとフリューベルは無視しながら応戦した。
「くっ」
男たちは厳しい表情で後ろに下がった。どうやら逃げようというのだ黒装束の集団がフリューベルとセツの前に立ちはだかり盾となる。それを見た2人はすぐさま後ろのドアに向かって走り出す。
『馬鹿が』
セツとフリューベルの声が重なった。
同時に2人は左右に跳びHEを投げつけた。HEは扉の左右で爆発し男たちには当たらなかった。
「はっ、苦し紛れのようだな」
男は勝ち誇ったように言い放った。
しかし
「ふっ」
フリューベルの嘲笑と同時にぎしぎしと音がした。
扉の横には柱が立っておりどうやらHEの衝撃で足元が削れ、倒れてきたのだ。
「うわあああああーーーーーーーー」
ドーーーン
男たちは柱の下敷きになり生死は不明だが無事ではないはずだ。
「んじゃ俺はいくわ」
セツは手をあげて階段を降りていった。
「おいおい、まぁ助けられたからいいが・・・」
フリューベルは既に黒装束の集団を壊滅させていた。
「ベル兄さん」
フリューベルは声のした方を振り向くとリオが走ってくるのが見えた。
フリューベルの前まで来ると息を整えてフリューベルを見た。
「さっき男の人が階段を降りていくのが見えたけど」
「ああ、強力な助っ人でな、また会うと思うぞ」
フリューベルはセツが降りていった階段に背を向けると一言つぶやいた。
「また会おう」
リオは意味を捉えかね首をかしげた。
「さぁ、急ごうまだやるべき事は終わってない」
2人はとーるがいるであろう先の階段を駆けあがる。


エリスととーるの激闘は既に1時間を超えていた。
お互い体力、精神力共に限界を迎えていた。
しかし2人とも倒れることはなかった。それはお互いに譲れない信念が故であった。
「何故、君はあいつを信じる」
とーるはエリスの剣撃を避けつつ拳を振り下ろす。
「あの方は、孤児であった私たちを拾って育ててくださった」
エリスはとーるの拳を肘で受け止めはじき返す。
「あいつは君たちを利用してるだけだ。ただ戦力になるから利用したそれだけだ」
エリスの蹴りをとーるは右腕で受け止める。
「それでも私には選べる道がなかった。これしかないのよ」
エリスはとーるが受け止めた腕ごと全力で蹴り飛ばした。
「くっ」
とーるは後ろに滑る力を上に逃がして一回転する。
「そろそろ終わりにしましょう」
エリスは左足を前に出し、太刀を後ろに引いて構える。
剣術でこの構えを「車の構え」と言う。
とーるは無言で構える。やや前傾姿勢で右の拳に左手を添える。

2人は時を精神を集中する。外界の音を完全に遮断し決着の時を待つ。
そして時は訪れる。
部屋の外壁が崩れる音がした。
瞬時に2人は最高速に達っし激突する。
あまりの爆発的な加速に石造りの床から砂埃が舞う。
そして2人の姿が見えた時
「ぐっ」
とーるの肩から血が噴き出した。
「やりすますね」
エリスの声がとーるの耳元で聞こえた。
「だがおれの勝ちだ」
砂埃が完全に晴れてくるととーるの拳がエリスの腹部を捉えていた。
「閃の型:虎鳳」
とーるは呟くと拳を離し下がった。
エリスは立つことができずその場で手を地につけた。
「君の負けだ。これ以上やると本当に死ぬぞ」
「元より覚悟の上」
とーるはエリスから目をそらして呟いた。
「弟のためか」
「そうよ」
エリスは間髪入れずに答えた。
「あの子が元気になるまでは、どんなことでするわ」
「なら、元気になれば問題ないのか」
2人の声とは違う声が部屋内に響いた。
「姉さん」
そしてもう一つ、別の声も聞こえた。
「まさか」
とーるとエリスは声のした方を見た。そこには一人の青年との銀髪の男が立っていた。
「ナナリ」
「ハル」
2人はとーるとエリスの元にゆっくりと近づいてきた。
「どういうこと?」
エリスは状況がつかめずただハルと呼ばれた青年を抱きしめていた。
「まぁ簡潔に説明すると、彼の病は意図的に仕組まれたものであった。それは君の主が仕組んだものだったのだ」
エリスは茫然と話を聞いていた。
「一応私が診断して応急処置をしたが、比較的軽い毒を盛られていたと考えて頂ければいいだろう」
ナナリは淡々と話を進める。
さすがのとーるも半信半疑のようだ。
「一体何故そんなことを」
エリスは呟く
「姉さん、多分なんだけど僕たちの血が原因だとナナリさんが言ってたんだ」
どうやらエリスは思い当たる節があるようだ。
「結局、君たちはバールの掌で踊らされていたんだ」
「そんな・・・」
エリスのショックは相当大きかったようだ。
信じていた主に完全に裏切られてしまいどうしたらいいのか分からなくなっているようだ。
「エリス、すぐに立ち直れとは言わない。でもいいじゃないか、弟は無事で俺達と争う必要もなくなった。これからは俺達だっている。頼ってくれていいんだ」
とーるはエリスに手を差し伸べた。
エリスはとーるを見上げると、とーるは笑みを浮かべて返した。
エリスが手を握ると、とーるは思いっきりだきよせた。
「さーてとお姫様も救出したし。いっちょ悪のお代官様をぶっとばさねーとな」
とーるは張り切って声をあげたが既に限界で立っているのもつらかった。

<そこまでにしてもらおうか>
室内のスピーカーから声が聞こえると部屋の中央にモニターが立ち上がった。
そこにはバールが椅子に座っている姿が映された。
<エリスよ今まで育ててやった恩を忘れたか。今なら許してやる。即そこにいる奴を殺せ>
バールはとーるを憎悪の目で見た。どうやら既に興味はないようだ。
「バール様ひとつ質問をしてもよろしいでしょうか」
<なんだ?>
「ハルの病は貴方が仕組んだというのは本当ですか?」
エリスはとーるに支えられながらバールを見た。
<・・・そうだ、とはいえお前を育ててやった事には間違いない。その恩を忘れたのか>
「黙れ、お前が今までしてきた事を棚に上げてそう言うことを言うか」
とーるはバールをにらみ叫んだ。
「とーるさん、いいです」
エリスはとーるをの怒りを抑えバールを見上げた。
「私を育てて頂いたことは感謝しています。しかし、弟にした仕打ちは許せません。もう貴方に従う気はありません」
エリスは強く言い放ちバールを見上げた。
<ええい、忌々しい、仕方ないお前の弟には小型の爆弾をセットしてある。これが爆発すればお前達は助かるまい>

「ふん、やれるもんならやってみな」
突如ナナリが叫んだ。
<ふん、もう止める気もないわ。吹き飛べ>

バールは手に持ったスイッチを押す。
しかし何も反応はなかった
<何故だ。なぜ爆発せぬ>
バールのうろたえに対してナナリはあざ笑うかのようにバールを見た。
「簡単なことだ。解毒のときに俺が気づき、俺が取り除いたからだ」
<馬鹿な>

バールは完全に混乱状態に陥っていた。
<バール、終わりだな>
映像から別の声が聞こえた。
<ここまで腐った人を見るのは久しぶりだ>
声の相手はフリューベルとリオだった。
「ベルさん、リオ」
とーるは驚いていた。
<わりーな、止めは俺がもらうな>
フリューベルはそう言うとバールの頭に銃を突きつけた。
<終わりだ>
フリューベルの言葉が終わる前に映像がきれた。

「終わったな」
とーるはナナリを見て訪ねた。
「ああ、終わったな」
「んじゃ帰るか」
とーるはエリスを起こすと笑って見せた。
「あとは俺たちに任せな当分は大丈夫だよな」
「ああ」
とーるの問いにナナリは答えた。
状況についていけないエリスはきょとんとしていた。
「いいんですか?」
変りにハルが訪ねた。
「問題ない。むしろ賑やかになっていいことだ」
ナナリは笑ってハルを見た。
「てなわけで帰ろうか」
とーるはエリスの手を強く握ると走り出した。
「えっ、ちょっと」
エリスは思いっきり引っ張られたが嫌な気はしなかった。
「ほらほら行くぞ」
とーるは楽しそうにエリスをみた。
「とーるさん」
「ん?」
エリスも笑顔でとーるを見る。
「ふつつか者ですが。よろしくお願します」

エリスの笑顔に朝の日が射し、その笑顔は太陽のように温かかった。





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第10話:終わらぬ夜

深夜11時とーるを含める3人は館の門を乗り越えていた。
警報装置の範囲を紙一重で避け、一行は館の庭に侵入する。

3人は最奥にある館を目指す。
「それにしてもばかでっかい庭だな」
フリューベルは感心している。しかし庭に配置された警備の数もかなりのものだ。
「ベルさん、ここは分散して余裕があれば合流しましょう」
「そうだな、館内侵入後合流できなければ、リオが注意をひきつけるために暴れてくれ」
「分かった。でもベル兄さん暴れるってのは酷い言い方だよ」
リオは少し拗ねた顔をしたが概ね合意のようだ。
「では、また後で」
とーるの言葉に2人は散開する。
(行くぞ)
とーるは一息すると気合を入れなおした。とーるの目つきが変わる。数多の戦場を駆け抜け生き残ってきた男、切り替えの良さ、瞬時の反応は一級品である。

とーるは仲間と鉢合わせにならない館への最短ルートを割り出し疾走する。
警報装置にさえかからなければ容易につくだろう。とーるは感覚を研ぎ澄まし警護の人間がいる所へ瞬時に移動する。
後ろに周りこみ首へ手刀をいれる。
「っが」
これを繰り返しとーるは館の裏口へ周りこむ。脱出の際に見つけた扉で使われてなかったのか少し古びているようだ。とーるは針金を取り出すと鍵穴をいじる。

カチャ

扉の鍵が開いた。わずか十数秒の出来事だった。
「おっ、開いたか」
「そうねいきましょうか。外の人間は全員寝てもらったわけだし」
後ろから聞き覚えのある声がする。
「何故についてこれますかね~。本当味方でなかったらぞっとする」
とーるも途中で何人か気絶させたが、この2人はとーるが鍵をあけるまでに外を半周はまわっているということになる。しかも迎撃込みでだ。
扉の先に何が待っているかは知らない。3人は警戒を強めつつ扉を開けた。
反応がない、フリューベルがFBのピンを抜き中に投げ込む、
強い閃光が扉の外にまで漏れる。
閃光が収まるタイミングでとーるが中に飛び込む、次にリオ、フリューベルと続く。

とーる達が入った部屋には誰もおらず、罠もなかった。あるのは先に進むための扉のみ。
そしてその扉はとーるが触れる前に勝手に開いた。
「お呼びってことか」
フリューベルは武器を持たずに扉の先に向かった。
とーる、リオも後に続いた。

「やはり、戻ってきましたね。戻ってきたからにはもう一度聞きましょう」
部屋の中には人は見当たらない。部屋の奥にあるスピーカーからバールの声が聞こえる。
「何度も言うが答えはNOだ。今更変える気もない」
とーるは吐き捨てるように言う。とーるの肩にフリューベルは手を置き声のする方を向く。
「バール、久しぶりだな。何年ぶりかな」
「誰だお前は」
スピーカーからの声音では本当に分かってないようだ。
「最後に顔を合わせたのは6年前の死合か・・・」
フリューベルは見下すような目でスピーカーを見た。
「き、貴様フリューベルか」
「やっと気づいたな。とーるは俺の仲間だ。お前側には絶対につかないだろう」
フリューベルはフッと笑った。
「どうせ死ぬのだから、精々意気がっとけばよい」
バールは言い終えると部屋に静けさが訪れる。しかし
「上!」
リオの言葉に2人はそれぞれ左右に避ける。
2人がいた位置には銃撃による穴が開いていた。
上から降りてくる気はないようだ。どうやら相手の領域での勝負となりそうだ。
「ここは私が引き受けるから2人は先に行って」
「いいんだな」
とーるはリオを見ずに聞く。
「あれくらいなら問題ないわ」
リオはかすかに唇を吊り上げ持ってきたケースから銃をとりだした。
「兄さんから譲り受けたこれがあれば私は負けない」
取り出したのはアサルトライフルのM4、それはつい最近までフリューベルが愛用していた銃である。手入れもされ威圧感さえ感じる。ましてやそれを150cm満たない体格で扱うというのだ違和感さえある。
「頼んだぞ」
「任せて」
リオの返答に安心したフリューベルは一瞬だけ笑みを浮かべると、先に走りだしていたとーるを追った。
「じゃあ、始めましょうか」
リオの周囲を包む空気が変わった。頭上にいる相手にもそれは伝わっていた。

次はここか
フリューベルが部屋の扉を蹴破り中に滑り込む。
奇襲を受けても反応できる態勢で滑り込むが攻撃はされなかった。
部屋の中央に一人の男がいた。
「来たか」
男がこちらを向く。見た目は30前後で黒い軍服のような服を着ていた。
「とーるという奴はどっちだ」
男は2人を交互に見て問う。
「おれだ」
とーるは躊躇することもなく前に出た。
「お前は先に行ってよい。バール様直々の命だ。そこの扉から上の階に進める。さっさと行け」
男は部屋の右の扉をさした。
「ということは俺の相手はお前か」
フリューベルは腰に背負っていたガリルを構えた。
「とーる、行け。お前の答えを出して来い」
フリューベルととーるはお互いを信用している。先を任すことに躊躇いもない。
「分かった。後ろは任せます」
とーるは扉に向かい走る。扉は近づくと勝手に開いた。完全にこちらの動きはばれているようだ。
とーるは階段を駆け上がりフリューベルの視界から消えていった。
「さぁ始めよう。死の遊戯を」
男が指を鳴らすとフリューベルの周りに黒装束の集団が現れた。
(やはり、まっとうな奴じゃなかったか)
フリューベルは男がまともに1対1を仕掛けてこないことは予想していた。
理由は2つ、まず部屋が広すぎること。そして男の雰囲気にそういったものを感じたからだ。
「面倒だが、相手してやるよ。どっちが遊ばれる側かその身をもって知れ」
フリューベルが動くと同時に黒装束達は襲いかかった。


とーるは階段の最上段までくると扉が視界に入る。
(あれか)
フリューベルと同じく扉を蹴りあけ、部屋に滑り込む。
「きましたね」
その声には聞き覚えがある。
「やはり君が立ちはだかるのか」
とーるの表情がやや歪む。
「バール様の敵はたとえ誰であろうと阻止させて頂きます」
エリスはすでにファマスを構えている。
とーるはどうでるべきか少しだけ悩み構えをとった。
「何のつもりですか」
「さぁな」
とーるは武器を持たずに無手で構える。
普通ならただのバカ行為だがとーるは例外だ。
エリスは迷わずとーるを狙う。とーるが何もしなければ確実に死が待っている。
しかし
「えっ」
弾はとーるをすり抜けるように後ろの壁に直撃した。
エリスは困惑した。あたりはしないだろうと予想はしていたが、エリスはとーるが何をしたか見えてはいなかったのだ。
「これで終わりか」
とーるはエリスを真直ぐ見た。
「まさか、これからです」
エリスはファマスを片手に持ちステップを踏んだ。とーるは視線だけを動かしエリスを追う。
エリスの動きは常人と比べたらかなり速かった。
しかし縮地を使うとーるは速さだけでみたらエリスの何倍も速い。エリスの射撃タイミングで縮地を使えばお釣りが返ってくるほどの余裕がある。
何十回のやり取りがあっただろうかエリスのファマスは弾がきれていた。
「何度やっても無駄だ。諦めて下がってくれ」
とーるは始めからエリスを撃つことはできなかった。
相手に理由があろうととーるには理由はなかったのだ。
「やはりこのままでは無理ですか」
エリスは諦めた口調でつぶやいた。
「とーるさん、これが最後です。退いて頂けないでしょうか」
現状、押されているエリスが言う言葉ではないのだがとーるは気づいた。エリスが何か隠していることを。だが退くわけにはいかない、この先にとーるの目的があるのだから。
「無理だ、バールは許さねえ。それに俺は仲間が作ってくれた道を無駄にすることはできない」
とーるの言葉にエリスは何か決心をしたようだ
「そうですか、ではこちらも本気で行かせて頂きます」
エリスはファマスを足元に投げると、いきなり服を脱ぎ始めた。

ゴトッ
服が地面に落ちた時、鈍い音が聞こえた。
とーるが視線を戻すとエリスは純白の服を纏い立っていた。
「本気で行きます。どうなっても知りませんから」
そう言うとエリスがとーるの目の前から消えた。
「なっ」
とーるは瞬時に反応し右に体を捻る。
やや遅れてとーるがいた場所に何かが突き抜けた。
「避けますか。さすがに速い」
「刀か、しかも縮地でないな」
とーるの目つきが変わる。迷いを捨てないと一瞬で仕留められる。
「ええ、私は貴方ほど速くはありません。しかしその技法の弱点は私には通用しません」
エリスはとーるの縮地の弱点を一瞬で看破した。
「本気でこないなら、死ぬのはあなたです」
エリスの声はさらに低くなり殺気を放つ。
とーるは戦慄さえ覚えたが恐怖はなかった。
(これは手加減とかいってる場合じゃねーな)
エリスの跳び込みに合わせてとーるも跳び込んだ。
お互いの攻防は一瞬で入れ替わり部屋内にはその衝撃が振動した。


とーるがエリスと戦闘を開始した時、ある部屋では勝負がつこうとしていた。
「ふぅっ」
少女は上から降り注ぐ銃弾を紙一重で避け射線から相手の場所を特定してM4を撃ち込んでいた。
紙一重での回避行動は少女の体に少しずつ傷をつけていた。
「忍びってのは厄介ね」
少女、リオは苦い顔して銃撃をよける。
銃撃戦が始まって30分お互い致命傷はおってないが明らかにリオは追い詰められていた。
既にリオの相手がどういったタイプかは気づいていた。しかし、分かったところで対処できるかと言えば難しい。
結果後手に回りながらの応戦となり、相手が勢いを失うことはなかった。
しかし、このまま追い詰められるわけにはいかない。
(・・・いけるかな)
リオはとある場所を見て決心した。そして気配を消しM4を肩に担ぐ。
敵は銃撃を止めることはなく続けざまに撃ってくる。
リオは一度大きく後ろに後退する。敵はリオの頭上を捉えようと距離を詰める。
しかし、これこそリオが狙っていた罠であった。リオは縮地を全力で放つと地面がえぐれた。
爆発的な加速力をまといリオが先ほど見た場所それは太い柱であった。リオは縮地の反動を利用し柱を蹴りあげる反対側の柱に跳ぶ、敵はリオを狙い柱に向かって撃つがリオの方が速く当たることはなかった。三角跳びを縮地で数度繰り返し柱の上に昇りつめそのまま縮地を止めず柱を駆ける。
この時点で勝負はついていた。ただ上から狙うことしかできなかった相手だ、リオの動きを見きれるわけがない。
「勝負はついたわ」
リオは敵の背後からM4をつきつける。天井に昇りわずか10秒であった。
「死にたくなければ武器を捨ててフードを取りなさい」
リオの言葉に従い武器を投げ捨てフードを脱いだ。
リオはそこで言葉を失った。
「・・・子供」
リオは驚きを隠せなかった。敵の正体が自分よりも背がい低い少年とは微塵にも思ってなかったようだ。
「子供言うな!俺はもう戦えるんだぞ」
少年は顔を真っ赤にして反発してきた。
「どうでもいいけど、君はバールの仲間なの?」
リオの問いに少年は更にむきになる。
「いいだろ仲間であっても、あいつは金をくれるから手伝ってやってるだけだ」
「これ以上深追いはしないと約束するなら、今回は見逃してあげる。ただし今すぐこの館から離れなさい」
少年はリオの真剣な目を見てただ頷くしかなかった。
「分かってくれて助かるわ」
リオは一度だけ少年を見ると笑みを浮かべた。
リオは部屋の棚等を利用して下まで飛び降りた。
「姉ちゃん名前は?」
上から少年の声がする。
「リオよ、そんなことより早くここから逃げなさい」
リオは部屋の先にあるドアを走り抜けていった。
「リオ姉ちゃんか・・・」
少年は少しの間ドアを見ていた。

バールはその一部始終をモニター越しに見ていた。
「ほう、あの娘中々やるな」
バールは他にフリューベルととーるが映っているモニターにも目を向けた。
「まぁよい。夜はまだ始まったばかりだ」
バールは醜悪な笑みを浮かべながらその戦いを見ていた。
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第9話:決意

とーるは館の包囲網を突破し外に置いてあったバイクに乗る。
(どうやら細工とかはされてないみたいだな)
とーるはバイクのエンジンをかけると即座に館から離れた。
とーるは急ぎ家に戻った。家から電機はついてるのが見えるが人の気配がない。
さすがにフリューベルとナナリが殺られるとは思えないが最悪の事態が脳裏に走る。


「凄い顔だぞとーる」
後ろから容赦ない言葉が浴びせられる。とーるの振り向いた先にはフリューベルとナナリ、そしてなぜか二人の手を握るリオの姿があった。
「その顔からすると何が起きたかは知ってるようだな」
フリューベルが真面目な顔でとーるを見る。それは何かを探ってるようにも思えた。
「それについてはお話します」
とーるの言葉に2人頷く。

「今回の件ですが、事の発端は俺がとある人物と接触したことにあります」
とーる、ナナリ、フリューベル、そしてリオはリビングに集まっていた。
「ちなみに、それは女性だろう」
ナナリの言葉にとーるは少し驚いた。
「見られていましたか」
「まぁ、たまたまなんだがな」
とーるは気を取り直し話を続ける。
「その女性なんですが、とある屋敷で働いてるのですがそこの主と会ってくれとお願いされ、会ってきました。そこでどうやら俺の力が欲しかったらしく仲間にならないかと関湯されたわけです」
「よくあるとは言えないが、珍しくもない話だな」
フリューベルはテーブルに置かれた籠に入っているみかんを掴み皮を向き始めた。
「仲間になるなら女性の弟の入院代と手術費を出す。これは俺が彼女に興味を持っているから出された条件なのはわかります。そして断れば」
「とーるの身内、つまり俺たちを襲うということだったのか」
ナナリはとーるの言葉を遮った。言いづらそうにしてたとーるを庇ったようにもみえる。
「まぁ、仕方ないな。惚れた弱みってのに付け込まれたのなら」
フリューベルは事件の内容よりとーるの弱みについて気になってるようだ。
「本音を言えば気にはないってる。だが、ナナリさん達が狙われるのは間違いだ。俺はあいつを許す気にはなれない。皆を巻き込むことになるすまない。」
とーるは申し訳なさそうな顔で頭をさげた。
「結局とーるはどうしたい?」
フリューベルはとーるの真意を探る。
「俺はあいつを、バールを叩き潰す」
とーるの目に迷いはなかった。
「なら私は協力するわ」
先ほどまで何も言わなかったリオが口を開いた。
その言葉に残された3人は言葉を失ってしまった。
最初に我に返ったのはフリューベルだった。
「この件に関われば今後俺達と同じ道を歩むことになるぞ」
「分かってるわ。というか既に関ってるし。それに私の手だって既に血に染まってるから」
最後の方は少し聞こえづらかったがフリューベルはしっかり聞いていた。
「分かった。それなら俺は止めない。・・・とーる」
フリューベルの声にとーるも我に返る。フリューベルの目は同意しとけと促している。
とーるもそれに気づいた。
「分かった。リオよろしくな」
「いいわ、助けてもらった恩もあるしね」
リオは笑顔で答えた。
「んじゃ俺も行くか。つーかバールとはな因縁を感じる名だな」
フリューベルは意味深な言葉をつぶやいた。
「どういうことだ?」
ナナリがすかさず突っ込んできた。とーるとリオも気になったようでフリューベルをじっと見る。
「前に話したフェンリルという集団がまだ解散する前にいた部隊長の名前だ。俺はあいつらよりも腕が立ったため目の敵にされていたんだが・・・」
フリューベルはふぅと溜息をついた。
「部隊が解散する時に、奴とは部隊を2部して争ったことがあるんだ。結果は引き分け、その時に奴は双頭の狼と剣が刻まれた剣を持って隊を去った」
「ベルさん、その剣ついてなんだが・・・」
とーるはバールがいた部屋でそれを見たことそしてそれを戦場でも見たことを伝えた。
「間違いなく本人だな。ますます行かざるを得ない状況になったな」
フリューベルは笑ってはいたが目は笑っていなかった。
「俺はパスだ。少し急用があって外せない」
ナナリは周りを見て反応を待った。
「分かった。なら3人だな」
フリューベルの言葉に3人もうなずいた。
「とーる作戦は俺が立てるがバールはお前が討て。リオと俺で館内で他の奴らを引きつける」
「まっ、私とベル兄さんがいれば大丈夫よ」
リオ自身満々に言うとフリューベルの腕に飛びついた。
フリーベルは既に諦めてるらしく振りほどこうともしない。
「決行は明日の21時でいきましょう」
とーるの言葉に頷いた。
「武器は地下にあるBランクまでなら使っていいぞ」
ナナリはとーるに鍵を投げる。その鍵は地下倉庫の鍵であった。
「ありがとう、ナナリさん」
「俺は行かないからな。これくらいしかできん」
とーるは早速地下階段に走っていった。それをリオも追いかける。
フリューベルはリオが部屋を出ていったのを見送ってナナリに近づく。
「俺は行かないか、よく言うぜ。期待してるぞ」
フリューベルはナナリの耳元小声で話した。
「何のことか分からん」
ナナリの言葉にフリューベルはニヤついた顔を一度向け部屋を出ていった。
「さて、さっさと終わらすか」
ナナリは自分の部屋へ向かった。


とーるは愛用のDEを手入れしながら空を見上げた。
(エリス、お前はどうしたいんだ)



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第8話:Turning Point

朝、一番早く起きたのはナナリだった。

(朝飯でも作るか)

ナナリはゆっくりとベッドから降りる。今は6月朝の陽気が心地よくつい2度寝をする人が増える時期だが、ナナリは寝起きがいいためそういうことがない。

次に起きるのがリオ
「おはよう」
リオが挨拶をしながらリビングに入ってくる。
「おはようリオ、ベルは起きてたか?」
リオは首を横に振る。
「起してきた」
リオは嬉しそうに報告をする。どうやらフリューベルを起こすことが日課になってるらしい。
「おはよう」
フリューベルが入ってくる。すでに着替えているようだ。
「おはよう、どうやらリオに起こされたらしいな」
「ああ、危うく墜ちるところだった」
フリューベルはげんなりした顔つきで言った。
「つかリオ、目覚ましなる前に起こすのはいいが、口と鼻は塞ぐなよ」
フリューベルはリオに注意するがリオは聞く耳はないようだ。フリューベルもあまり期待はしてないようでわざとらしい溜息を吐いた。
「とーるは・・・聞くまでもないか」
ナナリはうんうんと頷き、叩き起こして来いと拳を振り下ろすジェスチャーをする。
「リオいくぞー」
フリューベルはめんどくさそうにリビングを出た。勿論リオもついていった。

とーるは部屋で未だに寝ていた。
とーるは寝起きが絶妙に悪い。普通に起こせば多分起きないだろう。
フリューベルはへやに入るとリオにやれと言い放った。
リオも手加減する気がないようで手にしたのは洗濯バサミ。
フリューベルはそれを見て既に声を押し殺して笑っている。勿論リオも笑いをこらえている。
リオはまずとーるの鼻を洗濯バサミで挟む。普通ならここで飛び起きるのだが。
とーるは起きない。
リオは続けて両頬を挟む。・・・まだ起きない。
そして少しだけ時間をおき口を(正確には唇)挟む。
2人は急いでとーるの部屋から飛び出した。
それから数秒後
「いってーーーーーーーーーって口がっいってーーーーーーーーーーー」
絶叫が家中に響く。
どたどたと音がする。どうやらのたうち回っているようだ。
ナナリが朝食の支度がおわりテーブルに並べ終えた直後フリューベルとリオが飛び込んできた。
「あっはっはは」
フリューベルが腹を押さえて笑い。
リオは涙を浮かべながら笑っていた。
それを見たナナリはロクでもないことをしでかしたとすぐに悟った。
「っリーーーーオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
怒り全開のとーるが部屋に飛び込んできた。
「ぶっっっ」
ナナリはとーるを見て吹いてしまった。
とーるの顔が真赤になっていたのだ。フリューベルとリオには追い打ちとなりさらに笑っていた。
「とりあえず朝食にしよう」
フリューベルが真面目っぽく言う。
「そうだよね~」
リオがわざとらしく同意する。ナナリは無言で席に向かう。
しかし3人とも心の中では
(笑)
のようだ
結局朝食中も機嫌が悪いとーるに誰も顔をあわそうとしなかった。


とーるは大学の帰りに携帯にメールが入った。相手はエリスからだった。
『本日お時間に空きがありましたらお会いできないでしょうか』
とーるはすぐに返事を返す。
『大丈夫です。どこで待ち合わせしますか?』
『それでしたら、お屋敷まで来ていただけないでしょうか』
とーるは疑問に思った。今までエリスはとーるを館に近づけようとしなかった。
とーるもそれとはなく気づいていた。
メールを返してから15分、とーるは屋敷の前に着きバイクから降りた。
門の前にエリスが出迎えにでていた。
「結構外でまっていたのか?」
「先ほど外に出たばかりですよ」
エリスはとーるの疑問を否定したが、とーるは多分嘘だと思った。
エリスは待ち合わせ場所には10分前にはいる性格だ。多分今回も同じだろう。
「それで本日なのですが、この館の主、バール様とお会いして頂きたいのですが」
エリスの言葉にとーるは少し戸惑った。
今日まで館のことは愚かエリスの日常もあまり知らないのにいきなり主と会う事になるとは思いもしなかったのだ。
「分かった」
だがとーるはあえて受け入れることにした。
エリスは門をあけ館の扉へ歩き始める。とーるも何も聞かずに向かう。
館内は意外にもすっきりしていた。
とーるの中には甲冑等の物々しい骨董品が置いてあるとおもったが。絵画が数点かけてあるだけであった。
エリスが廊下の最奥の扉を目の前にして止まる。
「こちらです」
扉を開け中に入るように促す。
とーるは部屋の中に入ると目の前に長いテーブルが置いてあった。
その一番奥、部屋の奥に男が座っていた。
年齢は30から35くらいだろうか、青髪に、青目。とーるは男の目が野心に満ちていることを瞬時に見抜いた。
(何かありそうだな)
とーるの頭には早く済ませて帰ることにむいていた。
「君がとーる君か、その年齢でここまでのオーラを持つとはすばらしい」
とーるが瞬時に見抜いたように、男もとーるの強さを見抜いていた。
「お呼びとのことで来ましたが、貴方がこの館の主ですか?」
とーるの声が普段よりやや低かった。
「いかにも、私がこの館の主バールだ。そうそう敬語ではなく普段通りに話してくれ」
「分かった。では単刀直入に聞く、要件は何だ」
とーるはバールが何を企んでるかは知らないが面倒な話になりそうなことを予想していた。
「ふむ、確かに単刀直入だな。おもしろい」
バールは不敵に笑う。
「君の力が欲しい。その若さにして僅か数人で企業の軍隊を壊滅させるその力、私は君が欲しい」
バールはテーブル置いてあったリモコンを取って近くに置いてあったテレビをつけた。
「これは先日、君が戦場で戦った時に監視カメラがとらえた映像だ」
それは前回のナナリと2人で研究員の護衛をした時の映像だ。
「知ってるかな、この事件だが君の敵は君たちの倍の人数で攻めてきていたんだよ」
バールがリモコンのボタンを押す。
そこにはとーるが敵陣の背後から突撃して一瞬で壊滅に追い込むシーンが流れた。
「敵の数およそ60、それを僅か3分たらずで壊滅」
その後もとーるが敵をなぎ倒していく映像が流れ続けた。
「ちなみに私の仲間になってくれるなら、色々と援助しよう」
「援助?金には困ってないが」
とーるは怪訝そうな顔でバールを見る。
「君にではなくエリスにだ。君はえらくエリスを気に入ってるように見える。そこでだエリスが何故ここで働いているか知ってるかい?」
バールは横目でエリスを見る。エリスは俯いたまま何も言わない。
「エリスには弟がいるんだが彼は病気でね。手術が必要なんだ。そのためには莫大な資金がかかる。その費用を稼ぐためにここで働いているのだよ」
(なるほど、取引っていうわけか)
「それで俺が貴方達の仲間になると思っているのか」
とーるはバールに対して嫌悪感を抱いた。人の弱みに付け込むようなやり方が気に食わない。
「それとこれだ」
バールが別のボタンを押すとそこに自分の家が映し出された。
「今、家のまわりに私の部隊が200人ほどいる。合図があればいつでも攻撃できる」
とーるは既にブチギレ寸前まできていた。
「脅す気か」
「これは取引だ。君には害がないだろう」
はらわた煮えくり返っていたとーるだがとある一点に気づいた。
部屋の隅に一振りの剣が置いてあった。剣の柄に双頭の狼に横に刺された剣の印があった。
それは先ほど移された警護の事件の最中にとーるが見つけたマークと同じであった。
「はっ、はは」
とーるは笑いが込み上げてきた。同時に怒りは最高点にまで達していた。
「どうしたのかね。何がおかしい」
バールは気づいていない。とーるが先の戦場でマークを見ていることに。
「そこにある剣の印、俺は見たことがある。さっきあんたが言った事件でな」
「ほぉ」
バールの顔つきが変わる。
「悪いが答えはNOだ」
とーるは言い切るとバールに向かって銃を向けた。
しかし引き金を引く瞬間とーるは横からの銃撃に反応して後ろにとんだ。
撃ってきたのはエリス
「とーるさんはマスターの敵になるのですね」
エリスは悲痛な顔をしていた。
「悪いが引く気はない」
とーるはエリスの顔を見ずに窓ガラスに向かって走った。縮地を使い一瞬で窓ガラスを突き破る。エリスは追い討ちはせずただ破られたガラスをみていた。


とーるが屋敷を脱出した頃、ナナリとフリューベルは人気のない鍛練で使う山にいた。
「一体こいつら何なんだ」
ナナリは鬱陶しげにベレッタの弾を入れ替えていた。フリューベルはスナイパーライフル(以後AWP)を構えている。遮蔽物は背中にある太い木のみである。
「分からんが面倒事だよな」
フリューベルは話しながらもAWPを撃つ。遠くで悲鳴が聞こえる。
「やっぱあれかな」
ナナリはぼやきながらもベレッタを両手に持ち気配を探る。
「あれとは?」
「こないだとーるが女をバイクに乗せていてな、そいつがメイドだったんだよ。
もしかしたらそれ絡みかもしれないな~って思ったのさ」
ナナリはうーんと考え込みながらもベレッタの角度を変えて2発撃った。
どさっと言う音が聞こえ命中したことがわかる。
2人の命中率はほぼ100%、大して相手は狙い撃っても外れる。2人は気づかれない程度に少しずつ移動しながら敵の射撃ラインから外れていたのだ。

がさっ

2人の背後から男が飛び出てきた。
無言でフリューベルにMP5を向けてくるが撃つ前に地面に倒れた。否死んだのだ。
「ナーイス!リオ」
フリューベルはニヤッと木の上を見上げた。
よく見ると枝にまたがったリオがいた。
「今のが最後だな、まさかリオがここまでやれるとはな」
ナナリはベレッタを納めながら言った。
「記憶が戻ると同時に身体能力も戻ったのだろう。実際俺も最初は驚いた」
フリューベルは前から知っていたので今回の迎撃にリオを連れていったのだ。
「守りながらだと厳しかったかもな。フリューベルがリオにDEを渡した時は焦ったぞ」
「先に言うとリオに頼りそうでな。できれば戦闘には出て欲しくなかったのだがな」
ナナリとフリューベルは思ったことを話しながら武器を納めていた。
「帰ろうベル兄さん」
リオはフリューベルの手を引っ張る。
「ナナリさんも」
「分かった分かった」
ナナリもリオの後を追った。


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第7話:思い、そして絆

とーるは大学の帰りにバイクで公道を走っていた。
ここ最近とーるはバイクで通学をメインにしていた。
そのため、フリューベルとナナリとは常に行動をしなくなっていた。

バイクを走らせているとある人物が見えた。
とーるはその人物が近付いてくると減速して少し手前で止まった。
「よう」
とーるは何食わぬ顔で手をあげた。
「とーるさん、こんにちは」
その人物は前回とーるが助けた女性であった。
「エリスさんは相変わらずですね」
女性の名前はエリス。とーるとはあの1件以来よく会っているようだ。
とーるはエリスの持っている買い物袋を見ていた。エリスがとーると会うときは買い物帰りが今までのパターンとなっていた。
「とーるさんはいつもこの時間帯にここを通られるのですか?」
「こいつの調子がいいからこの時間帯なら、大体この辺をぶらついてるよ」
とーるはバイクにまたがった状態で後ろをさした。
「送っていくよ」
ヘルメットをとりだしてエリスに渡す。
「いいのですか?」
エリスは少し困った顔をしていた。
「そんなに遠くないしね、てか毎回この会話してない?」
とーるは苦笑いしていた。実はエリスを送っていくという事は最近ではほぼとーるの日課になっていた。その度にエリスは同じ質問を繰り返しとーるも同じ答えを返していた。
最初の頃は断っていたが、何度か会ってるうちに送っていくようになりだしたのだ。
「すみません、今日もお願いします」
エリスはバイクの後部席におずおずと座る。
「毎回言っているけど、しっかり掴まっておくように」
「はい」
とーるは返事を聞くバイクを走りださせた。

「ん、あれは」
とーる達が消えていく向こうで誰かの声がした。

・・・
「着いたぞ」
バイクを走らせること20分で市内から少し離れた場所にある館の前で止まった。
とーるはエリスに話しかけた。
「すみません。毎回送ってもらってなんだかもうしわけないです」
エリスはバイクから降りてとーるに頭を下げた。
「気にすんな。こっちも好きでやってることだし」
とーるは頬をかきながら視線をそらした。
「あーそだった。これ渡しとく」
とーるは鞄を開けてメモ用紙を渡した。
エリスは受け取るとメモ用紙を見た。そこには番号が書かれいた。
「それ俺の携帯番号だから何かあったら連絡してくれ」
とーるは笑顔でエリスを見た後ヘルメットをかぶりなおした。
「んじゃ俺は行くから。連絡待ってるな」
とーるはエリスの答えを聞く前にバイクを走らせた。

「エリス、わかってるな」
どこからか低い声が聞こえた。
「はい」
「あの者達の元にいる鍵を手に入れるのだ
「はい、マスター」
エリスの声が今までになく冷たく聞こえた。



夜、とーるはいつもどおり縮地の鍛練を行っていた。最近は縮地も安定してきた為、フリューベルとは別行動をとっていた。
(そういや今日、鍛練行くのにリオがついていってたな)
とーるはふと鍛錬にいくフリューベルにリオがついていっていることに疑問が浮かんだ。
フリューベルはここ数日はこの山での訓練ではなく、フリューベルがナナリに頼んで更に離れた場所の山を買っていた。そこでフリューベルは訓練をおこなっていた。
とーるの中で好奇心が湧く。
(ちょっと、見に行ってみよう)
別段止められてるわけではないので見に行っても問題はない。
とーるは縮地を使い山をかけおりた。

・・・

とーるとフリューベルが鍛練を行う中、ナナリもとある地下室で訓練を行っていた。
ナナリは両手で太刀を握っていた。
刀身が三尺(約90cm)、柄の部分を入れれば4尺はあるだろう。
ナナリの身長は175cmである。自分の身長の半分以上ある太刀を両手で持ち天の構え(上段の構え)をする。
部屋内にはナナリしかいない。静寂が部屋を支配する。
ナナリは目を閉じたまま時がたつのを待つ。
キーーーン
かん高い音が部屋を流れるた。
次の瞬間、部屋内で爆音がはしる。
ナナリは目を閉じたまま、飛んできたものをはじき落とす。
落とされた者は刀であったり、矢であったりと様々な凶器が飛んでくる。
ナナリは冷静にそれを落としていく。
ナナリは突如半歩身を横にそらした。ナナリが先ほどまでいた場所を銃弾が通過する。
もしナナリが銃弾を斬ろうとしたならばナナリは間違いなく生死を彷徨うことになっていたであろう。
元来ナナリは視覚に聴覚が異常なまでに発達していた。音だけで物を把握することは造作もなかった。しかし、高速で飛来する物体を瞬時に判断して更に的確に防ぎ、避けきるのは如何に聴覚が良いとはいえ普通では無理である。
しかし、ナナリは現に今避けた。更には続く第2波、第3波と飛んできた矢と刀を叩き落とした。
とーるは知らないが縮地は遠くから一瞬で距離を詰める為に使うだけの技ではない。
ナナリはフリューベルやとーるの様に大きな間合い詰める縮地は使えない。
しかし今ナナリが行っている少しの間合いを移動する事にも縮地は使うことができる。
精密性を重視するナナリらしいともいえる。
「っ、ふっ、ふっ」
そして今ナナリが使っている野太刀。ナナリの背丈とパワーがあればこその力技である。
野太刀の長さを使うことで早めに察知すれば察知するほど自分の間合いが広がるのだ。
力と技を兼ね備えることが出来るからこその境地である。
(まだだ、まだ足りない)
しかしナナリは満足していない。
更に先にある世界を彼は見据えていうるようだ。

・・・

とーるは息を殺して草陰に隠れていた。
とーるの視線の先にフリューベルがいた。更に奥にリオがいた。
(こんな時間に何をする気なんだ)
2人の間に流れる空気は今までになく落ち着いていた。
「リオ、記憶も戻ってるだろう。いろいろ聞きたいことはある」
フリューベルは冷静にそして冷めた感じで口を開いた。
フリューベルは一歩前に出た。よく見るとフリューベルは棍を握っていた。
とーるも初めて見る。
「まず最初に、リオ、君は敵なのか?」
フリューベルの質問にリオは首を振った。
「では、味方なのか?」
もう一度リオは首を振った。
「敵ではないです。しかし、今は味方とも言えません」
リオの問いにフリューベルはふむと考え込むようなしぐさをした。
「ですが、それも直ぐにわかります」
リオは不敵に笑ってフリューベルを見る。空気が変わった。
「なるほど、確かにわかりやすい」
フリューベルは構える。どうやら相手の動きを待つようだ。
「では、こちらからいきます」
リオは腰に手を当てると両手に短い刀を握って飛び出した。
(小太刀、それも二刀か)
リオは左の刀を振り出す。フリューベルの額を横から斬りだそうとした。
フリューベルはリオの一撃目を相手に向かって踏み込むことでかわす。二撃目を棍で薙ぎ払い反動で蹴りを放つ。
「っ」
リオは後ろに跳びながら右腕で防ぐ。ダメージとしては大してないだろう。
リオは後ろに滑りながら着地をする。

草むらから二人の戦闘を見ていたとーるは今の一撃でフリューベルの敵ではないと思った。
速さ、力でリオはフリューベルにはかなわない。この時点でフリューベルは負ける要素がないはずであった。
しかしとーるの予想は大きく外れることになる。

リオは一度大きく深呼吸をすると先ほど同じように飛び出した。速度は先ほどの倍
「っく!!」
フリューベルの表情が変わる。この時、フリューベルは直感的に危険と判断した。
フリューベルは棍でガードしつつ反対側からくる太刀をリオの腕を蹴ることで方向をずらした。
間違えれば足を斬られる。相当の集中力がないと一瞬で勝負はついてたであろう。
リオの連撃は止まらない。フリューベルは避ける、受け流しを器用に使いこなし薄皮一枚で持ちこたえていた。
(縮地か、それもかなり速い)
フリューベルも縮地を使い対抗する。速度はほぼ5分、差があるとすれば相手の手数が多いことである。
フリューベルは足技との組み合わせで対抗しているが集中力の消耗は尋常ではない、長期戦になれば先にばてる可能性が高い。フリューベルはリオのわずかな隙を狙い腹部に突きを狙う。しかし、リオも隙が出来ることは分かっているため、すぐ様距離をあける。
(やりたくないんだが、仕方ない)
フリューベルは棍を相手方向に斜めにして構え左手を棍の上に添える。
リオもフリューベルが狙っているのに気づくが、あえて突っ込んだ。
リオの動きを見たフリューベルはまだ動かない。
小太刀がフリューベルの首を狙う。フリューベルは相手の狙いが読めた瞬間右足に全体重をを載せ一気に蹴りだした。フリューベルの棍が小太刀と接触、フリューベルの爆発的に高められた突進力が全て突きの衝撃に変わる。
「っつ」
リオの苦痛の声と同時に小太刀が弾かれる。そのまま体制も仰け反るがフリューベルも反動で動けなかった。
お互いに体制を立て直して反撃しようとする。僅かにリオが速い。
リオは押し切れると信じ残った左の小太刀で斬りかかる。
しかし、必中と思った一撃は空を斬った。
「えっ」
リオの顔に動揺が奔る。
トス
背中に何かがあたった。
「チェックメイトかな」
背中越しにフリューベルの声がする。
「参りました。まさか後ろにまで回り込まれるとは思いませんでした」
「はじめから全力っぽく見せ、最後だけ全力で動いた」
フリューベルは棍を下げて距離をあけた。
「貴方の実力は底なしですか」
リオはフリューベルを見上げた。そこには先ほどまでとは違い安心できる感じがした。
「では一応認めてもらえたのかな」
「そうですね、かなり頼りにさせてもらいます」
リオは少し意地の悪そうな顔でフリューベルを見た。
見た目相応の姿を見たフリューベルは驚いたが、どうやら顔にはでてなかったようだ。
「改めてよろしく」
フリューベルが手を出す。リオも手を出した。
「こちらこそ」
2人の中で新しい絆が結ばれた。

少し離れた草陰にいたとーるは絶句していた。
今回縮地を身につけ少しはフリューベルに追いついたと思っていた。しかしフリューベルの体捌き、余力を残した戦い方、そして最後の一撃とどれを比べても追いついたとは思えなかった。
リオの実力にも驚かされた。フリューベルが余力を残していたとはいえそれでも互角に渡り合った。
このままでは追い付くどころか離されてしまう。とーるの中に危機感がわく。
とーるはフリューベル達に気づかれないようにその場を去った。
(少しは、良い薬になったか)
フリューベルはとーるが先ほどまでいた場所をみた。

一陣の風が吹き抜ける。それは何かを伝えるようにして吹き抜けた。


そして平和という止まった時間は動き出す。
運命という残酷な歯車が今、再び回り始める。








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第6話:限界を越えて

とーるは木にもたれかかっていた。
踵から出血してるようで靴は真赤に染まっていた。
しかしとーるは足の痛みを無視してある一点を見た。
その先には腕を組んで見下ろしているフリューベルがいた。
「とーる、今日は戻れ」
フリューベルはとーるに背を向け山の頂上に向かって歩き始めた。
とーるは唇を噛みながら悔しさに耐えた。
(あれから2ヶ月過ぎてこれだけなのか)
とーるは足を引きずりながら山を降りる。
「ちくしょう」
悔しさから声が出てしまう。
フリューベルがとーるに縮地を教えてから2ヶ月がたった。
とーるは毎夜、縮地の鍛練を行っていた。
しかし、フリューベルが1年かけて習得した技、一筋縄ではなかった。
最初の1か月こそ順調だった。
踵と膝の強化、いわゆる縮地の反動に耐えうる足にするための鍛練は元々、速さで勝負するとーるにとっては直ぐに慣れた。
しかし1ヶ月後実際に縮地の世界、いわば神速の世界という神なる領域は簡単には見えなかった。
フリューベルが言うには相手が止まっているように見えると言う。
その止まっている世界がとーるにはまだ見えていないのだ。
「一体何が足りないんだ」
とーるの頭の中にはいろいろな憶測が飛び交うが答えは見つからない。
とーるは家に戻り止血を行いベッドに潜りこみながらもいろいろ考えていた。

とーるが家に到着して1時間遅れてフリューベルが戻ってきた。
それをナナリが出迎えリビングで2人はいろいろと報告する。
「とーるの調子はどうなんだ?」
ナナリはある程度答えが分かっていながら質問する。
「実際のところ、既に8割は完成している」
「となるとかなり予定より早いな」
「さすが戦の申し子、死神と言われただけのことはあるな」
「ベルがそこまで褒めるのも珍しいな」
ナナリは感心しながら話を進める。
「だが、とーるには足りないものがある」
フリューベルの目つきが厳しいものへと変わった
「危機感だな」
ナナリは直ぐにその原因に気づいた。
「そうだ、縮地の領域へ入るには身の危険が迫った時に起こる爆発的な力が必要となる」
フリューベルはとーるの過去をあまり知らない。しかしとーるが戦闘で死ぬことにためらいがないことに気づいていた。それはナナリも同じである。
「かなり難しいな」
「実を言うと、とーるは既に神速の領域に入っている。縮地対縮地では相手が止まるようには見えないのだから。後はその身体的爆発力が身に着けば本当の完成だ」
フリューベルは今とんでもない発言をしていた。とーるは既に縮地を完成させている。
ただとーるが理解してないだけであるというのだ。
「そのことをとーるには?」
「教えてない」
ナナリはやはりと呟いた。
「なら後はとーる次第か。それでベルの方はどうなんだ?何かしてるんだろ」
フリューベルは毎夜とーるより遅く家に戻ってくる。それには何か理由があるのだろうとナナリは読んでいる。
「それは必要になっときに見せるさ。ナナリこそ何かしてるんだろ」
フリューベルは少しだけ口元をつり上げてナナリをみた。
「ベルと同じくおいそれと教えるわけにはいかないさ」
ナナリもにやつきながらフリューベルを見返す。
お互い奥の手を教える気はないようだ。

とーるが縮地を教わり出して3ヶ月が過ぎた。
未だとーるの縮地はフリューベルを捉える事が出来ていない。
とーるは普段通り大学に向かっていた。今日はフリューベルは大学の講義がなく1日中リオの遊び相手として家にいる。ナナリは午後出勤のためとーるはバイクで通学していた。
(後2カ月しかないのにどうすればいいんだ)
悩みながらバイクを走らせる。ちょうど信号が赤に変わってしまいバイクを止める。
(いかん切り替えないと講義でまた怒鳴られるな)
とーるは最近講義中、上の空で全くきいてなかった所を見つかり何度か怒られていた。
とーるはメットの紐を緩めて冷たい空気を吸い込み頭を切り替えようとした。
「ん?」
とーるの視線に一人の女性が目に入った。
その女性の恰好が珍しくとーるは眼で追ってしまった。
「今時メイドっていたんだ」
とーるの呟きはその場に居た人と同じ感想であった。
周りの人も釘付けにする容姿にメイド服だ世の中のメイド好きなら発狂しかねないであろう。
(結構可愛かったな)
信号が青に変わりとーるはバイクを走らせながらも女性の姿を思い返した。
結局この後、講義中もそのことで頭が一杯で怒鳴られたのは言うまでもあるまい。

午後、ナナリは研究室で石の解析を続けていた。
(生命体、そしてこの成分、この世に存在しない別物質を含んでいるのか)
ナナリは解析結果が移されたディスプレイを見ながら計算式を打ち込む。
(この成分、鉄に似ているが水分を含んでいるのか)
ナナリは更に計算式を打ち込む。
ナナリの頭の中では幾つもの仮定が浮かぶ。
フリューベルもとーるもこの計算式を理解できない。ナナリは3人の中で随一の知識をもっている。フリューベルはナナリの知識量が未だに未知数なため、かなり頼りにしている。
とーるは既にナナリさんは世界の図書館でしょっと言っている。
実際大学の教授の中で彼に勝てる者はいない。生徒からも憧れの人とおりナナリの人気が落ちたことは今までないのである。
(これは、この計算式にいれてこの結果と比較する)
ナナリは机の引出しに入れていたノートに調査結果を書き込む。
(とりあえず、このまま次の結果が出るまで待つしかないな)
ナナリは椅子から立ち上がるとテーブルに置いていたファイルとテキストを持ち講義室へ向かった。

とーるはくたくたになりながらバイクを走らせていた。講義で怒鳴られ周囲からは心配され(特に年上)引っ張りだこにされたのだ。予定なら2時間前に家に着いていたであろうが周囲の強引な気分転換に付き合わされ予定が大幅にずれ込んでしまったのだ。
長時間のバイク移動で疲れが溜まったためバイクを止め近くの自動販売機で炭酸飲料を買った。
とーるはふと朝のことを思い出していた。
(あれ?)
とーるの目の前を見覚えのある女性が通過した。
朝とーるが見た女性であった。朝と違うところと言えば買い出しをしたのであろうビニールの袋を両手に持っている事だけであった。
女性は左右を確認して横断歩道を渡る。
(結構重そうだな。大丈夫か)
とーるの心配は的中した。女性は横断歩道を割り切る手前で倒れたのだ。どうやら足を捻ったようだ。そして最悪なことに横断歩道はあっても信号がついてなかったのだ。
対向車線からトラックが向かってきた。
「ちっ」
舌打ちと同時にとーるは駆け出していた。しかしとーるが如何に速かろうと間に合う距離ではない。しかし、それでもとーるは走った。
(諦めねぇ。間に合えーーーーーーーーーーー)
とーるの体全体に今までにない感覚が訪れた。
トラックがスローモーションで女性に向かってきているのだ。周りの雑音も悲鳴も聞こえない。完全な無の世界にとーるはいた。
(これなら間に合う)
とーるは今まで以上に強い力で地を蹴った。刹那、爆発的な加速力を纏いとーるは女性を抱え反対の歩道に滑り込んだ。
感覚が無の世界から元の世界に引き寄せられる。
「大丈夫か?」
とーるは女性の状態を確認する。
女性は混乱しているのかただ首を縦に振るだけであった。
「そうか、よかった。今度からは信号がある所を渡れよ」
とーるは女性を起こすとバイクの置いてある反対側の歩道に向って走っていった。
女性は頭を何度も下げていた。
「あんま無茶はすんなよな」
とーるは苦笑いしながらバイクのエンジンをいれ走りだした。
とーるが見えなくなるまで女性はとーるの背中を見ていた。

とーるはバイクを走らせながら先ほどの感覚を思い出していた。
無理だと思った次の瞬間周り全てがスローモーションの動きに変わっていた。とーる自体は普通に動けるいわば止まった世界にとーる困惑していた。
(もしかしてあれが縮地だったのかも)
とーるの体は既に縮地の感覚に慣れていた。
(ベルさんに後で聞いてみよ)
とーるは女性のこと、縮地のことについて考えながら帰宅するのであった。

そして夜
とーるはフリューベルに相談できないままいつもの山に来ていた。
「今日も同じだ俺に着いてこい」
フリューベルはそう言い放つと構えた。
とーるは相談することを諦め、帰り道で起きた感覚を思い出すことにした。
「いざっ」
とーるの掛け声で2人は山の頂上に向かい駆け出した。
(むっ)
フリューベルはとーるの動きが昨日までと違うことに気づいた。
縮地というにはまだ荒っぽいがそれでもとーるはフリューベルの後ろを着いてきていた。
(ついに超えたか)
フリューベルの顔に笑みがこぼれる。
そしてとーるも同じく違和感を感じていた。そしてその違和感が実感に変わる。
(これが神速の世界)
とーるは地を蹴り上げフリューベルの距離を保つ。少しずつ離されているが、それでもその差は変わっていない。
とーるはこの時点で縮地を完全に習得した事を実感した。
気がつけば頂上に辿り着いていた。
フリューベルは足を止め後ろを振り向いた。後ろには息をあげながらも着いてきたとーるがいる。
「よくやった。たった3ヶ月で物にするとは思わなかったぞ」
フリューベルはいつもと変わらない表情だったが声は嬉しそうだった。
そんなフリューベルをみたとーるは照れていた。
「今日いきなり使えるようになったんです」
とーるは少し不安そうに話した。
「使えるようになった時の状況を教えてくれ」
フリューベルは真面目な声でとーるに聞き返した。
「知らない女性なのでが道路で倒れてトラックに轢かれそうになった時、無意識のうちに飛び出していたんです。間に合わないのはわかってたんですが、意地でも助けようと踏み込んだらいきなりトラックの動きが遅くなって、それまで聞こえた悲鳴も全部聞こえなくなったんです」
とーるの説明を聞きフリューベルは納得した。
「それは危機感が体の限界を呼び起こしたのだ」
「危機感ですか」
「そうだ、とーるはそういった危機感といったもの今までなかったんだ。それが今回、自分ではなく別の人の危機的状況に反応したんだ。それがとーるの体にあった限界を引きずり出したのだと思う」
フリューベルは親指を立て自分の胸を指した。
「ようは守りたいという強い心が神速の世界への条件だったんだ」
フリューベルの言葉にとーるは未だに信じられなかった。
確かに納得はいくがそう簡単に上手くいくものなのかと思っているのだ。
「にしてもとーる、惚れたな」
フリューベルがニヤッと笑った。
「・・・えっ」
とーるは初めて自分がそういった目で女性を見てたことに気づいた。
そう気にはなっていたのだ。しかし、言われてみて自分はそういった感情を抱いていることwに気づいた。
「ベルさん、それはですね」
とーるは焦っているのか敬語でフリューベルに話しかける。しかしフリューベルは既に確信しているため全く聞く耳がなかった。
「とーる・・・上手くいくといいな」
フリューベルは先ほど同じ真面目な顔をした。とーるもそれを見て頷くことしかできなかった。
とーるの頷きを見てフリューベルはさらに厭らしい目でとーるを見た。
「さーて、皆にどう伝えようかな~」
フリューベルは言い終える前に走り出した。しかも縮地を使って。
「ちょーーーーーーーーーー、勘弁してくださいよ」
とーるは悲鳴をあげながら縮地でフリューベルを追った。
その日山の地面に異常なまでの窪みが出来たことは言うまでもあるまい。









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第5話:一時の平穏(後編)

フリューベルが目を覚まして1週間が過ぎた。

フリューベルは大学復帰しとーるとナナリは今まで通りであった。
変わったことと言えば・・・

「・・・ナナリ」
「ここでは先生もしくは教授だ」
フリューベルの助けを一蹴するナナリだが内心は笑いをこらえてるので精一杯だった。
「ナナリ教授」
珍しく早々と白旗をあげるフリューベル。
「どうした」
「助けてくれ」
フリューベルは本気で困っていた。
時刻は朝の10時、フリューベルは2限の講義に出ることになっている。
2限は10時20分からで、ちょうどナナリの研究室から反対の講義室にある。
歩いていけばいい時間なのだが、残念ながら彼は現在動けないのだ。
「ベル、悪いが無理だ」
ナナリの声にも諦めが混ざっていた。
「なぁ~リオ頼むから、手を放してくれないか」
フリューベルの服はリオが握っていた。しかも涙目になりながら。
「頼むよー。これから講義受けないといけないから離してくれないかな」
「う~、う~」
リオは涙目で首をふる。
(俺、こんなに弱かったっけ?・・・)
最近のフリューベルはリオに振り回されっぱなしで落ち着く暇すらなかった。
何処行くにも後ろから着いてくるのだ。おちおち外にも出れないのだ。
「講義おわったら戻ってくるから。そしたら遊んであげるから我慢してくれないかな」
フリューベルはリオの頭を撫でながらリオに笑いかけた。
リオは一度頷くと服をつかんでいた手を離した。
「いい子だ。ナナリ悪いがいない間の面倒頼む」
「分かった。ベル急いだほうがいいぞあと10分で講義はじまるぞ」
ナナリの言葉にフリューベルが時計を見ると長針は10分を指していた。
フリューベル急いで研究室を飛び出し講義室に向かって走り出した。

少ししてとーるが研究室に戻ってきた。
「ベルさん凄い勢いで走ってったけど」
「出席率悪いからな。ぎりぎりなんだろ」
「なるほど」
とーるは椅子にすわり本を読んでいるリオを見る。
「にしても見た目と中身のギャップがひどすぎるんだが」
リオは身長145cm前後で見た目はとーるよりも若干下。中学から高校くらいにならいてもおかしくない。しかも容姿はとーるから見てもかなりレベルの高い方だと思う。
「ベルの話だと、薬の副作用で一時的に精神年齢が退化してるだけと聞いてるが」
「とはいってもな~。おかげで最近は仕事も2人だけだし」
そうなのだ、とーるが一番気にしているのはフリューベルが前回の一件以降全く戦線に出ていないのだ。
「リオの面倒をみるのもあるが、どうもあの方が禁じているのだと思う」
「やはり」
2人は表情こそ変わらないが、リオの件で何かよからぬことが起ころうとしているのではないかと考えている。
「どっちにしてもベルさんが何か話すまでは今まで通りですかね」
とーるは研究室の冷蔵庫からコーヒー缶を取り出しプルタブを開けた。
「お姫様はいつになったら目を覚ますのでしょうか」
とーるはナナリに問うように聞くが返事はない。結局時間が解決するしかないことを物語っていた。


フリューベルはげんなりした顔で廊下を歩いてた。
理由はリオを大学に連れてきていることだ。最初は3人の親戚と言い張っていたのだが、フリューベルの後ろを離れないことから色々な誤解をされている。
彼女か?妹か?挙句の果てにはどっからさらってきた?などと聞かれる始末。
一つ一つに答えるのも面倒でノーコメントを通していた。それがさらにあらぬ噂へと発展しているのだ。
フリューベルの安まる場所は今はどこにもないのだ。
研究室のドアノブを掴もうとした時
フロア全体をゆさぶる声が響いた
「なんだ!」
フリューベルはドアを勢いよくあけた。
「おっと」
あけてわずかしてリオが飛び込んできた。
事情が分からないがどうやらリオが大泣きをしたようだ。
「一体なにがあったんだ」
近くにいたとーるを見るが、とーるが気まずそうな顔をしていることに気づいた。
「ナナリ頼む」
とーるからは聞くのは無理と判断したフリューベルはナナリに聞くことにしたようだ。
「ベルの戻りが遅いからどうしたって話になったんだ」
ナナリはコーヒーを入れフリューベルに渡しながら話しだした。
「それだけでこうはならんだろ」
フリューベルはリオをあやしながら続きをまった。
「戻りが遅い理由を予想して話してたわけだ。そこでとーるが忘れて帰ったのかもと言ったらこうなったわけだ」
「あー、なるほど。そういうことね」
とーるの方をみて苦笑いした。いつもの冗談会話がリオが入ることで冗談で済まなくなったわけだ。
「とーる気にするな。今回は仕方ない。つっても洒落ですまないことができたから今後は気を付けような」
「そうっすね。気をつけるわ」
フリューベルととーるは共に頷いた。
「では、帰るか」
ナナリは既に帰宅の準備を終えていた。とーるも慌てて準備している。
「わり~、俺動けないから頼む」
完全に離れる気がないリオによってフリューベルは身動き取れない状態になっていた。
「最近ベルさんがベルさんではないような気がするんだ」
「確かに、ベル本物か?」
「失礼だな」
気づけばいつもの雰囲気に戻り笑いがあがっていた。


深夜2時
とーるは近くの山にきていた。
「ベルさん御指名なんて久々ですね」
とーるの見上げる先に木に背を預けたフリューベルがいた。
「それでこんな時間に呼ぶということはあれですか」
とーるは構えた。
「では」
とーるは勢いよくフリューベルに向かって飛び込んだ。
フリューベルがとーるを深夜に呼んだ場合何か意味があってのことだ。
そして、呼ばれた場合はとーるがいつも先制でうってでるのだ。
フリューベルは動かない。とーるはフリューベルに向って右ストレート叩き込もうとする。
しかし拳が当たる寸前でフリューベルが消えた。
とーるは拳を目の前の木に叩きむ、フリューベルは背後に回り込みとーるの背中に同じく右ストレートを叩きこむ。
とーるは木に叩きこんだ反動を利用して回し蹴りをはなった。
フリューベルの拳と、とーるの足が激突する。
2人は激突した反動を使い後ろにさがった。
「今、俺が消えたように見えたか」
フリューベルはいきなり問いかけた。
「はい、当たったと思った瞬間空をきっていました」
「今のは、縮地といい、足に全運動力を注ぎ込むことにより爆発的な移動速度を生み出す技だ。足元見てみな」
とーるが地面を見下ろすとそこはえぐられたような跡があった。
「とーるは俺と似てるところがあるから、使いこなせるかと思って見せてみた。これは膝と踵に異常なまでの負担をかける危険な技だ」
フリューベルは戦闘でしか見せない冷たい視線でとーるを見た。とーるはその視線に寒気を覚えつつも興奮もしていた。
「俺はこれを使いこなすのに1年かかった。だがお前なら半年もあれば使えるようになるはずだ。無理にとはいわないが俺を追い越したいなら、お前の実力を見せてみろ」
「へへっ、ベルさんとナナリさんを追い抜くのがおれの目標、やってやるぁ」
とーるの叫びと共にフリューベルととーるは動き出した。
目指すは神速の領域。
(ついてこいとーる。そして俺を越えていけ)
既にフリューベルは自分を越えていくとーるの姿を描いていた。

「始まったか。願わくばこの平穏な時が長く続けばいいのだが」
ナナリは部屋の窓から山をみて呟いた。









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第4話:一時の平穏

とーるとナナリは無言で朝食をとっていた。

ここはナナリの家である。大学のある場所から車で20分の距離に彼の家がある。
食器のカチャカチャいう音だけが室内に響きわたる。
普段ならとーるの馬鹿話にナナリが突っ込み。フリューベルはそれを見ながら新聞読んでる光景がそこにある。
しかし、今はフリューベルはここにいない。彼はこの3日間ずっと部屋で寝たきりなのだ。
「ナナリさん」
ふいにとーるが口を開いた。
「どうした」
ナナリはコーヒーカップを置きとーるを見た。
「ベルさんいつになったら起きるかな?もう3日も起きてこないけど大丈夫なのかな?」
「何とも言えないが、負傷していたのは右手だけだ。たぶんだが極度の緊張と疲労が原因だろう。だったら目が覚めるのを待つしかない。」
ナナリととーるはフリューベルの部屋を見た。
「それとあの子はあのままでいいのか?」
「仕方ないだろう。あそこから動こうとしないんだから」
とーるとナナリはもう一度フリューベルの部屋を見た。
「救いといえば。食事をとってくれるだけマシだと思わないと今後が辛いぞ」
「とはいってもな~。これからどうするのさ」
洗い物が終わって戻ってきたとーるはテーブルに突っ伏しながらぼやいた。
「最悪は前回みたいに2人で仕事をするしかないな」
「うへ~」
とーるは突っ伏したまま視線だけをナナリに向けた。
「とりあえず大学いくぞ。とーるも準備しろ」
「あーい。ってあの子どうするの。つか知らない奴が家にいるんだ貴重品とか盗まれたらどうするんだよ」
「貴重品類は全部地下だ。あそこは厳重に閉めている。それにあの子は今フリューベルしか見てない。ほっといても危険はないだろう」
ナナリの答えにとーるは追及するのを諦めた。
「とりあえず戸締りはしっかりしていこう」
「あいよー」
気のないとーるの返事にナナリは苦笑いした。
(とーるもまだまだ子供だな)



「おはよー。聞いたよ~。兄が危篤だって聞いたぞ!」
「危篤って言うな。ただ寝たきりなだけだ」
大学にけば毎度このパターンだ。
「ナナリ先生、どうなんですか彼は」
「命に別状はない。ただ何時目を覚ますかわからない状態でもある」
ナナリは眼鏡の位置を戻しながら生徒に話した。
「でも、一人にして大丈夫なんですか?」
女生徒が心配そうに聞いてきた。
「大丈夫だ。家には優秀な看病人がいる」
「確かにいるね~」
とーるとナナリは自分で言ったことに対して笑いをこらえていた。
周囲の生徒には理解できていなかった。


つんつん
ふにふに
「ん~、く~」
フリューベルは変な声を出しながら寝返りをうった。
つんつん
つんつんつん
「んっん~」
今度は逆方向に寝返りをうつ
ぺちぺち
(何だこれ。手?指?)
フリューベルは今までにない感覚に目が覚めた。窓からは日が差し込み気持ちがよかった。
つん
「ふにゅっ」
普段では聞くことができない声をあげた。どうやら頬を突かれたようだ。
・・・指の方を見るとそこには女性というよりは女の子という単語が出てきそうな子がいた。
「えーと、何をしてるのかな」
フリューベルの問いに女の子はフリューベルを指した。そしてベットをその後指した。
「えーと、もしかして起こしてくれたのか?」
女の子はこくんと頷いた。
フリューベルは女の子の視線がずっと自分にあることに気づきさらに気まずくなった。
が気になって視線を戻すと泣きそうな顔でじーっと見られていた。
(ちょっ、俺にどうしろと)
完全に混乱している。こんなとこナナリやとーるでも見たことないだろう。
「あー、えっとな。ありがとーな」
フリューベルが頭を撫でた。
「♪」
女の子はその手を掴んで無邪気に笑っていた。

夕方になりとーるとナナリが帰ってきた。
「ただいまー」
とーるがぐったりした顔でリビングに入ってきた。
「えらい疲れてるな」
「そりゃー大学いけば兄は危篤なのかって質問攻めだ」
「危篤とは失礼だぞ」
「だよなー勝手に決め付けるなって・・・・・・」
場の空気がとまった。空気というより時間が止まった。
「ベルさーーーんが起きてるーーーーーーーーーーーーーーーーー」
とーるの絶叫が木霊した。
「起きたか、結構心配したぞ」
ナナリが入口のドアの側面に肘をつきフリューベルを見ていた。というより下を見ていた。
その視線の先は
「どうやら気に入られたみたいだな」
ニヤっとした顔でフリューベルを見た。普段はクールなのに親しい者に対してはおもいっきりからかってくる。
「悪い気はしないが、トイレから出た時なんて泣きそうな顔して目の前にいるし本当に困ったよ」
それを聞いた、とーるとナナリは完全に壺に入ったらしく大爆笑
フリューベルは珍しく真っ赤な顔をしていた。



「それで、一体なにがあったんだ」
4人が晩御飯を食べ終え、とーるが食器を洗ってる中3人は椅子に座って話をしていた。
「そうだな。そろそろ2人には知ってもらっていい頃かな」
「まずこれを見てくれ」
フリューベルは一枚のコインを取り出した。
そこには双頭の狼に2本の剣が交差するように描かれていた。
「これは、フェンリルという傭兵に所属していた証だ。俺はここで部隊長をしていた」
フリューベルは2人の表情を窺いながら話を続けた。
「しかし、部隊内で色々とあり解散となった。残ったメンバーで新たに部隊を組んで活動を続けた。その頃、クライスという企業が俺達の活動の援助を出していた。このまま活動を続けてもいいかと思ったのだが結局クライスの部隊に俺達は入ることになった。また、俺は研究員としても活動していた」
「ベル待ってくれ。話の腰を折って悪いのだがクライスという企業を俺は知らないぞ。ある程度有名なら情報網に引っ掛かるはずだ」
ナナリは企業の情報には自身があるらしく自分が知らないのはおかしいと言っているのだ。
「確かにクライスは事実上1年も使われなかった。ナナリ達はそいつらのことを知ってる。それにごく最近会ってもいる」
「まさか、アビッサルか!」
現在この世界には国という概念が希薄になりつつある。というのは企業や教団の力が強くなり独自のルールで地域を管理しているからだ。とはいえ大半の企業が地域を維持する程度の力しかない。しかし、ここ十数年で力をつけ企業を合併吸収し地域もそのまま吸収して国以上の力を手に入れた企業がある。それがアビッサルなのだ。
「そうクライスといのはアビッサルの最初の名前だ。そこで俺は部隊長に任命され疾風という名で呼ばれていた。その頃はクライスもまともだった。貧困にあえぐ地域の権利を奪ってクライスで管理する。クライスは全ての管理地域に平等だった。俺達も住民から絶大な支持をしてもらっていた」
フリューベルは一息つきながら冷めたコーヒーを飲む。
「しかし、企業が大きくなるにつれて闇の部分も大きくなっていった。たった半年で国と同等の発言力をつけだした頃、とある事件が起きた」

「一つの管理地域が封鎖され、その地域の人間全てがこの世から消えた。周囲には伝染病が流行しないためへの閉鎖と告げられていた。しかしそれは違った。そこは凶悪な実験場へと変わっていたのだ。そして俺はそこで仲間達が二度と物言わぬ姿に変わっていくのをただ見ていることしかできなかった。そして絶望した俺はクライス抜けた」

フリューベルはテーブルに置いてあったコインをポケットにしまい。2人を見た。
「これがおれの過去だ」

「なるほど大体わかった。それと今回の件の関係は?」

「まず先に彼女の名前を知ってもらった方がいい」
そういうと隣に座ってる女の子に視線が集まった。
「名前を教えてくれないかな」
「・・・リオ・・・です」
リオは顔を真っ赤にしながら答えた。
「まぁ、ここからは2人とも知ってのとおり密輸船での一件になるのだが。
実は保護するだけでは駄目だったんだ」
「どういうことだ?」
ナナリはいろいろな推測をたてるが確信がないため聞くことにした。
「脱走する者がいた場合、内部の情報がばれる。これはアビッサルにとってはゆゆしき事態だ。そのため脱走しても情報が漏れないようにあらかじめ洗脳を施すんだ。主の命令以外に逆らった場合、その場で活動停止状態となる。いわゆる仮死状態だ。それからさらに1週間処置がなかった場合そのまま死を迎える」
「なんだよ、それ」
とーるは人としての常識を無視した行為に嫌悪感を覚えた。
「俺達が見つけた時からの計算だと。どうやら船に無理やり乗って脱走したんだと思う。発見した時点でかなり衰弱して所をふまえると1週間もたないと判断した」
フリューベルはリオの頭を撫でた。
「2人には申し訳なかったけど単独行動の方が何かと都合がよかったのと内容を話すと後からついてきそうだったから黙ってた。すまん」
フリューベルは頭をさげた。
「ベル、お前がやったことは間違ってはいない」
とーるもうんうんと頷く。
「ただ内容は教えてほしかった。理由がどうあれ今回は心臓に悪かったぞ」
「だな、無理しすぎてそこで倒れたらどうにもならないぞ」
フリューベルは2人が怒ってるのではなく心配していた事実に申し訳なさそうだった。
「いじめはだめー」
突如リオが叫んだ。3人とも意表をつかれぽかんとした。
「ぷっ」
「「「あっはっはっはっはーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」
3人はさっきまで漂ってた重い空気を吹き飛ばすくらい笑った。
「やばい、腹がよじれていてー」
とーるが横腹を押えながらも笑い転げる。
「こんなに大笑いしたのは何時以来だ。涙でてきた」
ナナリは笑いすぎて涙が出てきたが既に止められない状態だった。
「あはは、リオこれからよろしくな」
フリューベルは楽しそうな顔をしながらリオの頭を撫でた。
そんなフリューベルの顔を見てリオは笑顔で答えた。



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