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REQUIEM館

第24話:タイムリミット

ナナリは街の裏手にある森にいた。
この森は資源が豊富で自炊生活もでき便利であった。
森の奥地にある滝と対峙したナナリはぴくりとも動かず目を瞑ってた。
頭に浮かべたのは前日のフリューベルとセツの一戦
異常なまでの力の衝突、今の自分ではまず勝てないだろう。

だがナナリにはある確信があった。
(あれを全て受け流せたら)
ナナリは衝突のスロー映像を見て思ったことは音を聴き取れれば受け流すこともできなくはない。
元々、ナナリの強さの秘訣はその聴覚にあった。また性格なのかもしれないが極限状態にまでおいつめられても冷静さを失わず、確実に正確に標的を捉える。
今までの死線を潜り抜けた彼だからこそできることであり、おいそれと真似ができるわけではない。
ナナリは大剣を抜くとフリューベルの頭の中に思い浮かべた。頭に描くは極限の5連縮地。
ナナリは想像のフリューベルが繰り出す縮地の出だしの音を連想する。
縮地の威力が増せばそれだけ発する音が大きくなる。それを捉えた瞬間ナナリは動いた。
ザン
強烈な風切りと共に目の前の滝がバツの字に斬られ分断された。
ヒィィィィィィィン
周囲から高音波が発生する。
ナナリの最大の壁になると思われる高音波。音事態は大して大きくはないが人間の平衡感覚を崩すこの音の波は聴覚が優れてるがゆえに影響をもろに受けてしまうのだ。
ナナリは片膝をつき意識が飛びそうになるのを耐える。一定時間がたつと音は止みよろめきながら立つ。
「今度は気絶しなかったか。少しだが慣れてきたのか」
ナナリは通常の訓練が終わってから自己鍛練で森に入っていた。すでに体は悲鳴を上げているが、気にする気もない。彼の夜はまだ続きそうだ。

ナナリ以外にも同時刻訓練をする男がいた。
男の体には既に傷だらけであった。
ドカッ
「いっつーーー」
とーるは勢いよく岸壁に直撃したようだ。
「ぺっぺ」
とーるは口に入った砂を吐き出しながら立ち上がった。
「やっぱきついなー」
とーるは直撃した壁から離れながら考え込んでいた。
振り向き壁までの距離を計ったとーるが構える。
「原理自体はあれであってるはずだ。後はタイミング」
とーるは壁に向かって縮地で突っ込んだ。壁の数m手前でもう一度縮地を放ちつつとーるは掌を地面に重ねた。
とーるはフリューベルがやった縮地の低空滑空をアレンジして使おうとしていた。
しかし、とーるはフリューベルと違い利き足以外で縮地を使うことができない。元来縮地というのは利き足以外で使うと耐えきれず血管や神経がきれるため危険な技であった。
しかしとーるは足以外で利き手からも出すことができた。そのため条件自体は満たしていた。
ドカッ
「っつーーーーーーーーー」
頭から突っ込み。涙目になりながら岩をどけて立ち上がる。
「だーーーー、ベルさん人体構造異常だろう。めっちゃ難しい」
叫び声をあげながら元いた位置へもどっていった。

「はぁーーーーー」
誰もいなくなった訓練所から気合の入った声が響く。
「ふっ」
キーーン
金属音がぶつかり合う音がする。
訓練所は夜間は認証カードがあれば自主練として使用を許可されている。
とはいえ訓練の後に残って訓練をする者は極めて珍しい。
訓練所にいたのはリオとエリス、それにセツだった。
「まだ移動幅が広い、もっと詰めて移動するんだ。エリスはリオの速度に惑わされるな。たとえ早かろうと体が反応できるように感覚を研ぎ澄ませ」
セツの厳しい指示がとぶが2人は文句も言わずただひたすらに言われたことを実行しようとする。
リオはフリューベルの5連縮地を見よう見まねで習得しようとしている。それに対しエリスは4人の中で最も優れている第6感をフル活用し感覚で速さに対抗しようと言うのだ。
セツは内心危険だと思っていた。セツとフリューベルは幼少期からフェンリルにいたため時間をかけて腕を磨いてきた。しかし彼女達はその下地があるとはいえそれでも足りないくらいなのだ。
とーるとナナリはかなり修羅場を潜り抜けてきたため、きっかけがあれば直ぐにでも自分たちの領域が目の前までくると思う。しかしリオとエリスはかなり危なっかしかった。
確かに2人とも常人たちと比べれば遥かに達人の領域だ。
エリスは居合とその独特な「車の構え」は才能が無ければまず使いこなせないし、このまま技術を磨けばセツと同系統のスタイルでかなりの使い手になるはずだ。
リオはまだ若いがもしこのまま成長すれば間違いなくフリューベルの見ている世界に届くだろう。
だがそれは時間をかけてしっかりと身につけていけばという話だ。
「今日はここまでだ。これ以上やると怪我した時が大変だ」
セツは2人を一度だけ見て訓練所を出て行った。
リオとエリスは素直に訓練を止め明日に備えるのであった。

朝、部屋からうめき声が漏れる。
「いてて」
とーるは体中が傷だらけでひどい有様だった。
「我慢してください。無理して傷だらけになったのですから自業自得ですよ」
エリスは少しばかし怒った顔をしてとーるを見た。
「分かった悪かったからもうちょっと優しく・・・いててて」
とーるは終始悲鳴をあげていた。
「ナナリ、大丈夫?」
リオはナナリのコップを差し出した。
「ああ、大丈夫だ。っとありがとな」
ナナリがコップを持つまで手が左右に動いてしまい危なっかしく見えた。
「今日は休みだから、家でおとなしくしておくことね」
リオはそういうとエリスの方へと歩いていった。
ナナリは苦笑いをしてコップに入っているコーヒーを一気に飲み干した。
(とりあえず様子を見るか)
ナナリはとーるを見ながら考えていた。


ナナリ達が自宅休暇している時、司令室では重苦しい雰囲気が漂っていた。
「まさかこうなるとは」
セツは厳しい表情をしていた。
司令室の机には一枚の報告書が置いてあった。
「どうする?このままだとこちらも狙われるぞ」
入口の壁にもたれかかっていたフリューベルは真剣な顔でセツに聞いた。
「予定よりも早く動くのは確定だが、タイミングが難しい」
報告書を持った手を左右に振るセツは実際困惑していた。
報告書にはこう書いてあった。
『くる6月20日アビッサルはレイドムに対して宣戦布告を行う・・・』
報告の最初から物騒な話題である。
現在レイドムと敵対中のレーベルにとってはありがたい話ではあるがアビッサルがここだけを独立都市として認めるとは考えづらい。
「間違いなく向こうは仕掛けてくるな。それに悪い話があるんだろ?」
セツはため息をつきながらフリューベルを見た。
「執行者が出てきた」
「うはっ、お前がいるとわかったら確実に潰しに来るな」
セツは心底嫌そうな顔をした。
「ちなみに、今回の進軍で出てくるのは間違いなく一人だけだ」
「何故だ?」
フリューベルの断言にセツは首をかしげた。
「残りは周辺地域の鎮圧に回ってるという情報が入ったからだ」
フリューベルは机に一枚の紙を出した。
セツはそれを受取り目を通した。
「まーた因縁めいた奴がきたもんだな!」
フリューベルは黙ってうなずいた。
「殲滅の堕天使やよいか。危険だな」
「どうする」
フリューベルはセツの答えを待った。
「ナナリ達には伏せとこう。最悪俺が相手をする」
「ほんと最悪の場合だな」
2人は笑うしかなかった。
この危機的な状況を切り抜けれる可能性は無いことは無いがかなり厳しい。
間違いなくレイドムとアビッサルの激しい衝突が予想される中、どう対処するか彼らの腕が問われる時が来た。
激動の戦いが始まろうとしていた。

タイムリミットまで後1か月


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第23話:表と裏そして誓い

ナナリ達はセツとフリューベルの許可の元、レーベルの民達へ紹介された。
どうやら民達はナナリ達の事を知っているらしく強い味方がついたと大盛況であった。

そして4人はまとまって一つの部隊を指揮することになった。
ナナリ達は訓練施設内を見て回っていた。訓練施設は軍で使用していたのと比べても同じくらいであった。
「そういえば4人が一緒に行動するのって久々だよなー」
とーるがふと思いだしたかのようにいった。
そもそも4人がそれぞれの部隊をもった理由はIDU内で指揮ができるメンバーが不足していたため自分たちが部隊長をしないといけなかった。
「そうですねー、やっぱり親しい人といると安心しますね」
エリスが笑みを浮かべて答える。
「親しい人って、特別なのはとーるだけでしょう」
リオが意地の悪い顔をしてエリスからとーるへ視線を移す。その視線を追ったエリスの顔が赤くなるのを見てリオはおもしろそうにしていた。
「リオ、未だに免疫ができてないからあまりからかうな」
ナナリは呆れながらも止めに入った。
「ん?」
リオが何かに気づき足を止めた。
リオの視線の先には人だかりができていた。
「なんだろう、あれ」
人だかりに向かって走っていくとそこには兵たちがテレビ画面越しに何かを見ているようだ。
「何を見てるんだ?」
ナナリが兵たちに話しかけた。実は4人の中で一番兵たちと打ち解けていたのはナナリであった。
そのためナナリが話しかけると快く返してくれた。
「ナナリさん、これは闘技場の中継ですよ。鍛えた成果を試すために兵同士で試合をしたり。賞金目当てで猛獣と死合をするのですがその中継を見ているのですよ」
中継からして闘技場には観客席は満員だった。どうやら地方の有力商人等も見に来ているようだ
「結構人気だな。いつもこうなの?」
とーるが画面を見ながら感心していた。
「いえ今日は特別ですよ。この街で双璧と呼ばれている者同士が出てきますからね」
「そうそう勝敗数は24勝24敗18分と実力は五分ですからね~賭けとかでもかなり盛り上がってますね」
兵たちは興奮した口調でとーるに答えた。
「気になるなら来賓席に行ってみてはどうでしょう。ナナリさん達はセツさんの客人ですから多分見ることができますよ」
「お、そうなのか。行ってみようよナナリさん」
兵の言葉を聞いたとーるは既に走りだしそうな勢いだった。
「ちなみに双璧って誰のことだ」
「それはですね・・・」



「お待たせしましたー、本日のメインバトル。我がレーベルが誇る双璧の2人が本日激突!戦績は24勝24敗と互角、本日勝ち差を開くのはどちらでしょう」
アナウンスと共に割れんばかりの声援が闘技場を包み込む。
「それでは登場して頂きましょう。まずは西門から!レーベル最速を誇り疾風の名を連ねた者、その名はフリューベル!」
西門が開きそこからフリューベルが中央に向かって進む。
「対しますはレーベルの守護神!攻撃は最大の防御、その破壊力に裏付けられた技術力は既に神の領域。その名はセツ」
東門が開きセツが現れる。両者中央で対時し一度だけ目を合わすと両者が構える。
その姿を来賓席からナナリ達は見ていた。
「両方とも槍ですか」
エリスが中央にいる二人を見て呟いた。
「ベルさんは分かるが、まさかセツさんまで槍とは驚きだな」
とーるは興味深く見つめる。珍しくリオは何も言わずじっと見つめている。
「彼の実力がどれ程のものか」
ナナリの言葉に来賓席にいた者は静かに開始を待った。

そして、合図もなくその戦いは始まった。
最初に仕掛けたのはフリューベル、客席にいた大半は彼が消えたように見えた。縮地、彼が得意とし記憶をなくす以前より更に鋭くなっていた。
フリューベルの初撃は突き、牽制ではなく必殺の一撃を叩きこんだ。当たれば致命傷は確実、しかしセツは避けようとはせず右足を一歩後ろに下げ腰を落とす。状態を捻り次の瞬間勢いよく槍を突き出す。
2つの槍は寸分違わず一点を突く、すなわち両者の槍がぶつかる。着弾点より強烈な音が発生し観戦者の聴覚を狂わせる。
槍の攻防は一瞬で8合。お互いが打ち込み全て相殺していた。
2人は槍同士の鍔競りになるが視線が合うと、お互い薄笑いを浮かべ連打の応酬。薙ぎ払い、打突、それぞれの攻めを抑え込みながら、自分の有利な状況へと持っていこうとする。
フリューベルは速度で上回っている分、数で牽制、セツは精度で上回り一撃の鋭さで対抗する。
観客も盛り上がることを忘れ、ただじっと見守っている。それほどまでに緊迫した試合内容であった。
フリューベルが一度後ろに退くとセツは腰に装備していた。ナイフを投げつける。
フリューベルはそれを弾き飛ばさず横にステップを踏んでかわす。そこにセツが予想して跳び込んできた。
「月下一閃」
セツの持つ槍は動いたと思ったら元の場所に戻っていた。否あまりの速さに残像が残ったのだ。
フリューベルは瞬時に前に走りこみ斬撃をくぐり抜けた。セツの左横を通り抜けると同時に右に向かって払う。しかしセツは柄で受け止めつつ、地と平行に回転しつつ飛び蹴りを叩きこむ。
フリューベルは右腕で受け止めるが大きく後方へ飛ばされる。
ここまで僅か5分の攻防、しかし見てる者は時間の感覚が無くなるほどのめりこんでいた。
「フリュ、枷を外せ」
受け身を取りしゃがんでいたフリューベルが反応する。
「ったく、お前俺相手にハンデを付けるとは見くびられたもんだ」
セツは飽きれた口調でぼやいた。
「ならお前も、あれを外せ」
フリューベルはセツを真直ぐ見て言った。それを聞いたセツは笑いだした。
「くっくっく、お前が枷を外せば、嫌でも外すさ」
「分かった」
フリューベルは服を脱ぐと体中に巻きつけた鎖を外した。
「アンテ」
腕と足に付けていた黒いリストバンドを一言呟いた後、壁に向かって投げた。
「化け者だな、一体全力を出すとどうなるんだ」
セツは投げられた物を見ながら苦笑いした。
「さぁ、次はセッちゃんあんたの番だ」
フリューベルの言葉にセツは薄笑いを浮かべると目を閉じた。
一瞬、周囲の温度で下がったような感覚に襲われた。フリューベルの目が明らかに警戒の目つきに変わっている。
気がつけば前列にいたはずの観客は皆一番上の廊下で立っていた。一般人ならこの圧力に耐えれるわけがない。
そう彼から漏れるその圧力の正体は殺意であった。
「待たせたな、さぁ始めるか」
一体その場にいた者の何人が彼の変わりように気づいたかわからない。先ほどまでのセツは漆黒の目であったが開かれた目は赤黒く変わっていた。
「それが血眼か。どっちが化けものかわからねーな」
フリューベルは先程言われた言葉をそのまま返した。
血眼とは体内に回る血液の循環速度を高める事によって身体的能力を爆発的に高める、その副産物として目が赤黒くなる。ちなみに視力・聴覚といった5感も通常時を遙かに上回っている。
「では」
「いざ」
2人は同時に動いた。はずである。

ダーーーーーーーーーーン

2人のいた間合いのちょうど中央付近で爆音が響いた。すでに音は衝撃波と変わり観客席にいた観客は立つことができず腰を低くして踏ん張るしかなかった。
来賓席にまでその衝撃波は届きガラスが軋む音がした。
「うわっ!何があった」
とーるは焦った声をあげた。
闘技場の中央は衝撃による土埃で何も見えない状態であった。
しかし、その中でも刃物が交錯する音が止まず響き続けた。
「ありえない、人があんな速度で物を振りまわすなんて」
唯一、衝撃の瞬間を捉えたリオが声を震わしていった。
「あいつらは何をした」
ナナリは冷静にリオに聞いた。
「ベル兄さんはセツさんまでの間合いに踏み込むまでに縮地を5回放ったわ。それも回を重ねるごとに速度は上がってた。セツさんは一足でベル兄さんの背後に回り込み2歩目で槍を地面から引きずりあげるように斬りかかった。そこに5回目の縮地で踏み込んだベル兄さんの上段から振り下ろされた槍が激突、そして今の状態になったわ」
ナナリ達は言葉で聞いただけでは想像ができなかった。
そんな中先ほどの一撃までの映像が画面に出された。
「は!」
とーるは映像を見て開いた口がふさがらなくなった。
「まさに化け物だ」
「彼らに限界はないのですか」
ナナリとエリスも呆然としていた。
リオだけがその状況を見ることができた。実際偶然でしかなかった。2人の衝突するであろう場所を見てたら、たまたま見えたそれだけのことであった。
最初に煙から飛び出したのはセツだった。壮絶な打ち合いがあったと思われるように体中に切り傷や腫れがあった。
「がはっ」
着地と同時に膝をついて血を吐きだした。
一度血を吐いた後、気合で立ち上がると土煙の方を見た。少しずつ煙が晴れていき人影が見えた。
「まさか、あれを相殺するとは思わなかったぞ」
セツは睨むように人影を見た。
煙が完全に晴れたそこにはセツと同様に体中に傷や腫れ、足元には血だまりができていた。
「完全には防げなかったがな」
槍を杖がわりにしてフリューベルはなんとか立っていた。
「それで、スイッチは入りそうか?」
セツは何かを探るような目をしてフリューベルを見た。
「やろうと思えば直ぐにできるさ、とはいえ今はしないが。それより、セッちゃん本気で打ち込まなかっただろう」
フリューベルはセツを睨みつけた。
「いや、あれが限界だ。確かにあれ以上の力を出せないこともないが、危険なリスクが伴うからな。第一、初撃以降全て高速カウンターとかされたら大技なんて撃てねーよ」
セツはいつも以上にぼやいていた。大技を撃てばそれだけ隙が出来る。その隙をフリューベルが狙っているなら易々と出すわけにはいかないからだ。
「なぁ、あれを見せてくれよ」
セツは声を低くしてフリューベルに言った。
「4年前、お前は一度だけあれを使った」
フリューベルは構えを解きセツを見た。
「例え記憶が無かろうと、体が覚えてるはずだ。そしてお前は既に完成させている」
セツは今までにない構えをしていた。
「そもそも流纏なんて流派は存在しない。だが俺はそれに近い型を知っている。俺達が決してたどり着けない人物で既にこの世にいないお方、フェンリル団長が使っていたあれに似ているんだ」
セツは期待するようにフリューベルを見る。先ほどまでの殺意は既に霧散していた。しかし、彼の身から出る威圧感は増していた。
フリューべルはセツの構えを見た後天井を見た。
「まさか、流纏の裏が現存しているとは驚きだ。それもこんな近くにいるとは思ってもいなかった。流纏の相克、絶纏に出会うとは思わなかったな」
見下ろした時には不敵な顔をしてセツを見た。
「何を言う。絶纏の相克になる流纏。俺達は光と闇のような存在。強き方が弱き方を飲み込むように相生にして相克の存在。お前が忘れてるだけで昔いくらでも見せてるんだぞ。それに一合だけ打ち合ってみる価値はあるだろう」
セツは構えを崩さずにフリューベルを見る。どうやらやる気満々のようだ。
「いいだろう。ただし一合だけだぞ」
フリューベルの周囲の空気が変わった。
「さすがフリュ。付き合いいな」
セツの陽気な声とは裏腹に先ほどと同じく周囲の温度が下がる。

フリューベルとセツの構えは同じだった。寸分違わず2人とも槍を相手に向かって斜め下に構えていた。

2人はお互いを見て一度頷くと先ほどと同じ速度で跳び込んだ、時間にしてコンマ3秒の世界だ。
フリューベルは5回目の左足の縮地を移動に使わず地面に向かって垂直に叩きつけその反動を瞬間的な突進力に変える。そして右足がついた瞬間に最後の縮地を放つ、この瞬間フリューベルの体は浮かび低空滑空でセツを貫こうとする。
対するセツはフリューベルとの激突地点で急停止しその流れる反動を体に押し込み体を一回転する。
このとき彼の潜在能力である血眼を全開で開放しため込んだ一撃を瞬時に解き放つ。
「流纏:流牙疾風(りゅうがしっぷう)」
「絶纏:絶廻纏滅(ぜっかいてんめつ」
二つの槍は既に槍ではなくなっていた、ただ目の前の力を壊滅させる矢に変わっていた。
6本の矢がぶつかり衝撃波を生む、衝撃の中心点は既に暴風と化していた。
力と力のぶつかり合い。もはや言葉にできない世界は激突のあった場所が物語っていた。

「やばっ、俺もう駄目だわ」
衝突があった中心点はちょっとしたクレーターができていた。
「くっ、眩暈がする」
フリューベルとセツはお互い立ってはいたが既に戦える状態ではなかった。
「勝負はお預けか」
「そうみたいだな」
2人はその場に倒れ込んだ。

「担架ーー。2人を医務室へ早く治療するんだ」
どこからともなく声がすると、担架を持った男たちが2人を運んで中へと消えていった。
観客は呆然とそれを見守った。来賓席にいた4人も事の異常さにただ見守っていた。
「ベルさんもセツさんも一体何の為にあれ程までの力を手にしたのだろう」
我に返ったとーるは2人が運ばれていった方を見て言った。
「分からない。だが普通に生きてきた人間がああまで強くなることは無理だ。彼らの力は多分、大きな絶望と挫折からくるのだろう」
ナナリは拳を握りしめ己の力の無さに悔しさが込み上げてきた。
「絶対に追いついてみせる。俺達とて楽してここまできたわけではない」
いつものナナリとは違い余裕のない表情で誓った。
「ベル兄さん、今の貴方には絶対に負けたくない」
リオも何かを感じたのか悲痛な表情で誓った。
「彼に追いついて、問題も解決してそして笑顔で帰りましょう」
エリスの言葉に3人は頷いた。

つきつけられた現実、力の差。しかし彼らの歩んできた道も楽な道のりではなかった。だからこそ誓った。
さらなる高みに向かって彼らはまた一歩踏み出すのであった。

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第22話:その力、誰の為に

一夜明けナナリ達はセツのいる家に向かった。

セツの家は街の中でも奥の方にあり、外装からしても年期のある屋敷であった。
どうやら旧貴族の血筋なのかもしれない。
屋敷の前で宿まで案内をしれくれた使用人に会い、そのまま案内された。
室内に案内され5分ほど待たされるとセツが入ってきた。
「結論は出たのか」
セツは席につきながら尋ねた。
「まだ出てないが。ひとつだけ頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
ナナリの言葉にセツは予想してなかったのか少しばかし警戒していた。
「私達を雇ってくれないか」
ナナリは率直に言ってきた。セツは面食らったような顔をした。
「私達も昨日の話を聞いただけでは納得しずらい、時間が欲しい。ここに滞在する時間をそちらが提供してくれるなら、私達の力を好きなように使ってくれていい」
ナナリの言葉に3人は頷いた。どうやらナナリの独断ではなく全員の考えであるようだ。
「ふむ、確かにあんた達の力は俺も知っている。ふむ、となると私の一存では決めれないな。ちょっとついてきてくれ」
セツは立ち上がると玄関に歩いていった。ナナリ達は首をかしげセツの後を追った。

屋敷の外で待っていた車に乗り移動すること20分
「ついたぞ」
セツの声に4人はある一点をみた。
「ここって教会」
エリスは目の前に立つ建物を見ながら言った。
「そうだ、まぁついてくれば分かるさ」
セツは教会の中へ入っていった。
4人は周りを見ながらセツの後を追った。
教会の中に入り、礼拝堂の掃除していた神父に声をかけた。
「神父サレスおはようございます。あいつは何処にいますか?」
セツは神父に丁寧に挨拶をしながら目的の人物の場所を聞いた。
「彼なら裏の湖にいるよ」
神父は穏やかな口調で答えた。
「そういえばこの時間はそうですね。っと神父サレス彼らはフリュの旧友です」
セツは追ってきたナナリ達を神父に紹介した。
「なんと!これも神の導きなのでしょう」
神父は驚きの声を上げた。
「初めまして、私この教会の神父サレスと申します」
神父は微笑みながら手を差し出した。
「これはどうも、私はナナリと申します。それからリオ、エリス、とーると皆フリューベルの友人です」
ナナリは手を握りながら3人を順に紹介した。
「とりあえず、湖に行くぞ」
セツは紹介が終わるや即礼拝堂から出て言った。
4人もサレスに頭を下げるとセツの後を追った。

セツの向かった場所は教会の裏手にある湖だった。
湖からは、複数のはしゃぎ声が聞こえた。
湖が見えるとそこには子供たちが走りまわってるのが見えた。
「いたいた」
セツがある人物を見つけて歩いていった。
4人はそこで以外な光景を見てしまった。
それは子供たちに混ざって湖の中にフリューベルがいたのだ。
彼らの知っているフリューベルは人を近づけず、常に周囲に壁を作っていた。
その為他人からは怖がられたりしていた。それが今目の前にいる人物はむしろ逆であった。
「セツのおじちゃんだー」
一人の子供がセツに気づいて指をさしながら言った。
セツは苦笑いしながら湖の手前まで歩いてきた。
「おじちゃんって酷いな。これでもフリュと同い年なんだよ」
「えぇーーーー、絶対嘘だ。セツおじちゃんとフリュ兄ちゃんが同じなわけないよ」
「老けてるからな~」
子供の言葉にフリューベルが止めの一言を加えた。あたりからは子供たちの笑い声がこだました。
「だぁー、もういい。フリュお前に客だ。正確にいえば滞在許可を出すか決めろ」
セツは投げやりっぽくフリューベル言い子供たちを見た。
「フリュ兄ちゃんはちょっと用事があるから、セツお兄ちゃんが遊んであげるね」
セツはお兄ちゃんの部分を強調しながら子供たちに言った。
「えぇーーー。おじちゃんがーー」
子供達は不満があるのか非難の声をあげた。
「じゃかわしい~、お前らみんな折檻じゃー」
セツは靴を脱ぐと勢いよくむず海に突進し子供たちを掴んでは投げ飛ばしていた。
子供達も嫌ではないらしく楽しそうな声をあげていた。
「んで俺に許可がいるってのは君たちか?」
フリューベルはナナリ達を見ながら聞いた。その声からして、4人を全く知らない他人として見てるのが分かった。
「フリューベルさん私達の事覚えてませんか?」
エリスの言葉にフリューベルは首を振った。
「君たちが俺の事を知っているようだが。俺は知らない。というか記憶がないんだ」
フリューベルは淡々と話した。
「私達はセツ君に滞在の許可を頼んだらベルのとこに案内されたんだが」
ナナリの言葉にフリューベルは頷いた。
「この街には2人の管理者がいる。その2人というのがセツと俺だ。どうやらセツは許可を出してるようだな」
フリューベルは何かを考えながらあたりを見渡した。
「誰もいないし。ここで話を進めよう。俺の質問に答え俺の求めた答えを出せれば許可を出そう」
フリューベルは4人を見透かすような目で見た。
「まず最初に聞こう。君たちは強いか?」
4人は一度だけ考え首を横に振った。
「俺達は強くはない。例え力があろうと一人では越えられない壁は多くある。俺達はそれを経験してきた。だがそれでも力を合わせてそれを乗り越えてきた。一人では弱くても4人でやれば負けねー」
とーるがフリューベルを見て答えた。その視線は真直ぐそして純粋にそう思っていることをフリューベルに伝えた。
「なるほど、力に溺れてるわけではないな。ではこの質問に答えてみろ」
フリューベルは威圧感すら漏れ出るほどの強気で続けた。
「汝の力、誰の為に?」
フリューベルの質問は曖昧であった。捉え方によっては色々な答えが出てくる。
フリューベルはただその質問の答えを待っていた。
「私が答える」
一歩前に出たのはリオだった。リオは目を瞑り何かを思い出しながら答えた。
「その力、大切な守るべき人の為に」
ナナリ達も同じ考えなのか、何も言わない。
「私達の力は悲しみを作り出す原因なのかもしれない。でも私は人を守ることもできると思う。失ったものは戻ってこない、でも失う前なら守り通すことができるかもしれない。それなら私はそのために力を使おうと思う。この救われた命、今度は私が、私達が大切な人を救いたい」
リオは自分が助けられた時の事を思い出していた。ボロボロになりながらも笑みを浮かべていたフリューベルを見て、自分はそんな笑顔に惹かれたのだと思いだした。
「合格だ」
フリューベルは先ほどまでの強気な視線ではなく穏やかな表情でリオをみた。
「力というのは自分の思うままに使うのではなく、大切な人達の為に使うことが重要だ。己の力に過信することは己の破滅を招き周囲にまで被害が及ぶ。力というのはもろ刃の剣だ」
フリューベルは澄んだ空を見上げながらいった。
「セツ、4人の部屋を用意してくれ。セツの客人として俺の客人として住民にも伝えておいてくれ」
子供達を投げ飛ばしていた。セツの手が止まった。
「りょうかいーい。っていってよーこのガキャー」
セツがフリューベルを見ている間に子供達はセツに反撃する。
「だぁーもう。フリュ後は任した」
子供達を湖に投げ終わると急ぎ足でナナリ達の元へ向かった。
途中すれ違いにフリューベルが何かをセツに言っていたがナナリ達には聞こえなかった。
「あいつをあそこまで言わせるとは、何をしたんだ?」
セツは探るような目つきで4人をみた。
「何も思った事を言っただけよ」
リオは平然とした顔で言った。それを見たセツは不敵な笑みを浮かべた。
「惚れてもいいか?」
「駄目。すでに私は別に人に惚れてるのだから」
リオはセツの言葉を一蹴した。
「諦めろ」
ナナリがセツの肩に手を置き、ため息をついた。どうやら呆れているようだ。
よく見ると、とーるとエリスは声を押し殺しているが肩震えていた。
「お前ら、いきなり馴れ馴れしくないか。少しは敬えよ」
セツは苦笑いしながら言った。
「いや、無理。どうやらセツの性格がわかっちまったら。敬うなんてできないから」
「ですね、真面目な肩と思ってたら。面白い人だったんですね」
とーるとエリスは完全に壺に入ってるようで当分返ってきそうになかった。
「お前ら入国拒否するぞ」
たじたじなセツはもうどうでもいいといった感じでだ。
「そうか、そうなったらベルにセツがひどい事言ったと泣きつくか」
ナナリもここぞとばかりにセツを口撃する。
「やめてくれ、あいつがキレたらマジ命ないから」
どうやらセツはフリューベルのマジギレにあったことがあるようだ。しかもどうやらトラウマになってるぽい。
4人の笑い声と1人の溜息が湖を駆け抜けた。
「まぁいい、これからよしくな」
セツは気を取り直して笑みを浮かべながら言った。
「ようこそ、風と水の都市レーベルへ」

この都市に伝わる言葉がある
『一陣の風が舞う時、水が踊り始める』
それが何を意味しているのかまだ誰も知らない。
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第21話:失ったもの

ナナリ達の活躍でアビッサルの活動は一時的とはいえほぼない状態で落ち着いていた。
ナナリ達は解放した地区を軍に任せるとIDUを一時解散し、各自故郷へと帰っていった。

朝とーるが起きてくると4人は朝食まで他愛もない話をする。
それから朝食をとるのだがそこで4人全員が箸をおとしてしまった。
それは彼らが何とはなしにニュースを付けていた時に映された映像にあった。

その映像には彼らも何度か会ったことのある人物がいた。
『どの企業にも属さず独立都市を宣言していますが理由はあるのですか?』
リポーターの質問に答える男の姿を見てだれもが固まった。
『私個人の回答になってしまいますが、企業とは多かれ少なかれ裏の暗い部分があります。私達市民が街を発展させていくことでそういった暗い部分を最小限にする方法選んだのだと思います』
リポーターの質問に淡々と応答する人物は
「なんでセツが映ってるんだ!」
とーるは勢いよく椅子から立ち上がった。
「セツさんの実家でもあるのでしょうか」
エリスは落ちた箸を拾い、替えの箸を取りに行った。
「まさか生きていたとは」
ナナリは冷静に努めてはいたが、かなり驚いていた。
そんな中テレビに食いつきじっと見ているリオがいた。
「どうしたリオ」
不思議に思ったとーるがリオに声をかける。
「もしかしたらベル兄さんがいるかもしれない」
リオはテレビに食いついたまま答えた。
3人はリオと同じく注意しながらテレビを見た。しかし結局報道の最後までそれらしい姿は見ることはできなかった。
「まぁ仕方ない。しかしこれは手がかりになるかもな」
ナナリの言葉に3人は頷いた。その時驚愕の言葉が流れた。
『この街を解放した我が旧友が言うには近く企業レイドムから宣戦布告されます。そうなる前に貴方達はここを離れてください』
4人は一瞬固まった。
「我が」
「旧」
「友」
ナナリ、とーる、エリスの三人はセツが言った言葉を繰り返した。
ダッ・・・ガタン
勢いよくリビングのドアが開かれる音がした。先ほどまでいたリオが勢いよく飛び出したのだ。
取り残された3人も我に返り食器を台所に置くとそれぞれ準備を始めた。

ナナリが確認したところ企業レイドムから宣戦布告は既に一週間前だった。
企業レイドム、アビッサルには劣るが大企業でセツのいた都市周辺を統治していたがあいつぐ反乱にセツのいる都市から一時的に手を引いていたことが調べで分かった。
「全員乗ったか?基地からヘリを出してもらう手筈をした」
ナナリは軍に連絡を取ってヘリを借りることができた。また最新の情報でどうやら戦場は解放軍(軍が勝手につけた)がおしているようだ。
ナナリの言葉に3人は頷くとナナリは法定速度を無視した速度で車をはしらせた。


ヘリが降りた場所から既に交戦している音が聞こえる。
銃撃音、怒声、悲鳴が聞こえる。がどれも聞いてていいものではない。
「とにかく行ってみるぞ」
ナナリが街に向かって走ると同時にとーる達もその後を追った。


「総員、ここが正念場だ。持ちこたえろ」
セツ達が守るこの都市には全部で3つの防衛ラインがある。一つが街の外側に作られた城壁、その内側に同じような防壁がある。この上で攻めてくる敵を迎撃する。もともとあった市街を防衛できるぎりぎりの範囲に作っているためその外側は既に焼けおちたりしていた。
『セツ殿、南門側に敵勢力が集中し始めています』
無線から報告が入る。
「南門はあいつがいった。それより東門の守備が厳しくなっている応援にいける隊はいないか」
『こちらフォード隊東門に向かいます』
「頼むぞ」
セツは無線を全部隊に聞こえるように切り替えた。
「みな聞いてくれ、敵の勢力が一点に集中しだした。余裕がなくなってきた証拠だ。ここをしのげば勝てるぞ。各自死ぬ気で守れ」
セツの言葉に無線越しに聞こえるくらい雄叫びが聞こえた。

雄叫びが聞こえたと同時に南門が開き始めた。
「なんだ」
敵兵は門が開いたことに動揺した。
「今がチャンスだ全員突撃だ」
指揮官の言葉に敵兵は我先と門へ突撃した。
「馬鹿が、砲撃点火~」
門が開いた瞬間目の前に門の横幅と同じ大きさの大砲が現れた。
「流纏隊、砲撃後一気に敵を蹴散らすぞ」
敵兵は砲台が見えると同時に逃げようとするが時既に遅し。
「ぶっとべー」
号令と共に敵兵が無残に散った。この砲台ただの大砲ではない。大砲と違い炸裂時に爆裂し、さらに人間の鼓膜を突き破る大音量の高音が周囲を襲う。その威力HEの50倍の火薬量である。
砲撃により敵の半数以上がこの一瞬で消えた。さらに生き残った者から耳から血を流す者もいた。
「敵は既に死にかけだ。一気に息の根を止める配置につけ」
声に城門から飛び出した部隊がいた。その数は少数であったが全員手にしている武器はAWPだった。
「一発撃ったら即撤退、残りは俺が潰す。撤退した部隊は各自城壁にて待機」
AWP隊は一発ずつ撃ち即座に撤退した。
「さあ、お前たちもこれで終わりだ」
男は言い放つと敵に向かって突進した。

ナナリ達は都市を目の前にして足を止めた。否止めざるを得なかった。
目の前で繰り広げられる異常な光景、一人の男が数百といる敵を一方的に押し切っていた。
しかし、そんな光景よりも彼らが足を止めた理由は別にあった。
その一人の男は赤髪で、目は見る者を焼き付けるように赤く、纏う威圧感は死を体現しているようでもあった。
「見つけた」
リオが呟いた。
「ベルさん。やっぱり生きてたんだ」
フリューベルは敵を完全に壊滅させ人一人逃がさなかった。逃げる者には容赦なく背後からばっさりと斬って捨てるか問答無用で撃ち殺していた。
そして、フリューベルが一息吐くとこちらに銃をむけてきた。

「ちょっ」
とーるが慌ててDEをとりだそうとするが完全に虚を突かれたため間に合わない。
「フリュやめろ。そいつらは敵じゃない」
声とともにナナリ達の前にセツが飛び込んできた。
「フリュは戻って休んどけ。こいつらは俺の客人だ」
セツの言葉にフリューベルは頷くと街へ戻っていった。
その後ろ姿を見ながらリオがセツに尋ねた。
「いったいどういうこと。ベル兄さんが私達を敵として見るなんてありえないわ」
セツは困ったような顔をした。
「そうだな、色々話したいこともあるからまずは俺の家で話そう」




「それで聞きたいことは」
セツはナナリ達に席に座るように促し向き合った。
「単刀直入に聞こう。フリューベルの身に何があった」
ナナリはセツの目を真直ぐ見ていった。
これにとーる、エリス、リオもセツが話し出すのを待った。
「分かりやすく言えば、記憶喪失だな」
セツは真面目な顔で答えた。どうやら本当のようだ。
セツは4人を見て何も聞いてこないので続きを話した。
「原因は4年前のあの戦いだ。あの時、俺は工場から脱出した後フリュ達を助けるために現場に向かった。そしてついた時には俺は絶句した」
セツはその時の光景を思い出しながら話しているのだろうかカップを持つ手が震えていた。
「その場は血の海だった。誰の血とも分からない。真っ赤に染まった大地に赤い髪の男が立っていた。それがフリューベルだ。フリューベルの体は斬られた傷や弾が貫通した後がかなりあった。あれで死ななかったのは奇跡に近かった。そして傷が癒えてきたときに一つの問題が生じた。それが記憶喪失だ。たぶん、痛覚麻痺とかしても戦いすぎたため体が受け付けるショックが限界をこえたのがいけなかったんだろう」
セツはため息をついていった。
「なら何故俺達の元につれてこなかったんだ。すっげー心配したんだぞ。記憶がなくてもあんたがいれば俺たちの所に連れてくることくらいできただろう」
とーるはセツにきつくあたった。4年間自分たちは普通に暮らしている間、フリューベルは全てを失ったいたのが許せなかったのだ。
「俺も最初は考えたが、あいつがそれを拒否した」
セツの口から驚愕の言葉が飛び出した。
4人全員がショックを受けた。
「いや、あんた達が悪いわけではない。俺達を受け入れてくれたこの街はこのとき酷い状態でな、助けてくれた人たちをほっといて行くわけにはいかないって言いだしたんだ」
「フリューベルさんらしいですね。たぶん記憶があっても同じことを言ってたはずです」
エリスの言った事にセツを含んだ全員が同感していた。
「あいつがあれだけ無理したから第4部隊のメンバー全員一命をとりとめることができたんだし。俺はようやったとしか言えんよ」
セツは悔しそうにテーブルを見つめた。
「だから結論をあんた達に言うと、フリューベルがここから離れることはないだろう。記憶が戻れば変わるかもしれんが、今のあいつは恩を果たすたために戦い続ける。もし連れて帰ろうとするならフリューベルと本気で殺し合いになるからやめとけ。俺からは以上だ、悪い事は言わない帰るんだな」
セツは椅子から立ち上がると部屋の階段をあがっていった。
「あーそうそう、今日は宿をとってるからそこに泊っていけ。部屋の外にいる子が案内してくれるからついていけばいい」
そのままセツは自分の部屋へとはいっていった。

4人はしばし椅子に座っていた。あまりの出来事にショックが大きすぎたこと、そしてフリューベルが自分たちを敵として認識したこと。既に頭の中がパニックになっていた。
「どうすればいいんだよ」
とーるのやるせない言葉に誰も返すことができなかった。

彼らの失ったものは大きすぎた。希望が打ち砕かれたそのショックから立ち直るには時間がかかるだろう。
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第20話:胎動

ナナリが指揮するIDUは徐々にアビッサルの支配地域を奪っていった。

ナナリ達は今、一つの地域で激しい戦闘を行っていた。
双方犠牲になった数はゆうに100をこえている。
二つの勢力は互角で丸5日均衡していた。
途中リオが負傷して下がったが今は戦線に復帰している。若干だがこちらが押し始めていた。

「雷鳴隊はポイント2Aへ展開、炎獄隊は4Bの敵を引きつけつつ中央から分断。
光翼隊は中央が孤立次第敵陣へ一撃入れた後左右へ展開、白氷隊は光翼隊の後退後一気に押し切るぞ」

ナナリの声は各伝達がかりに伝わち伝令が飛ぶ。
状況は敵の方に地の理があり均衡していたが時間がたつにナナリが対処し、現在では勢いはナナリ達にあった。
「雷鳴隊展開完了、これより敵陣内部に突入する」
「こちら炎獄隊、同じく展開完了。雷鳴隊の突入と同時にこちらも牽制をかける」
2人の無線がナナリ達に伝わると同時に作戦区域の中央で爆音があがった。
怒号と爆炎にまじりさらに銃撃音と足音が響く。
雷鳴隊のリーダーはとーる。彼の部隊は4部隊中最速の機動力と大胆さで戦場では最前線に立ち敵をなぎ払う。そしてリーダーであるとーるはこう呼ばれている「雷光の鉄槌とーる」と。
次に炎獄隊。リーダーはリオで彼女の部隊は4部隊中でも最大の火力を誇る。簡単にいえばこの炎獄隊の扱う武器に上限がないのだ。他の部隊にはそれぞれ扱える武器を絞って特化する傾向にあるが彼女の隊は全てにおいてエキスパート級なのである。またリオは、とある人物と自分の人生を狂わせたアビッサルに対して強い憎しみを持っている。その時の姿は正に「炎獄の女帝」と呼ばれるにふさわしかった。
とーるが敵陣をかき乱し、リオの容赦ない牽制(総攻撃?)により敵のまとまりは既になく軍としては崩壊状態であった。
「皆さん敵は既に戦意を失っています。今こそ好機です。私に力を貸してください」
声の主はエリス光翼隊のリーダーで4部隊の中では最後に設立された部隊である。
光翼隊についてはほかの3部隊と違いエリスの人柄に惹かれた者たちが集った隊で、その士気と勇敢さは他のそれを凌駕している。彼女の為に剣となり盾となるその姿から親衛隊とまで言われるている。そんな崇拝されているとも言える彼女は「光翼の女神エリス」と呼ばれている。ちなみにとーるはエリスの崇拝されっぷりに気が気じゃないようである。
エリスの合図で光翼隊はファマスを敵陣に向かって撃ちこむ。この時点で既に敵は撤退を始め出していた。
ナナリは冷静にそのタイミングを読みきると合図を送った。
その合図で3人は隊を完全に引いた。
「さあ我ら白氷隊の力思い知れ。全軍構え」
ナナリの合図で兵の半数がしゃがみM4もしくはParaを構える。さらにそのやや後ろでAWPが構える。
「敵一人たりとも逃がすな。死ぬ気でうてーーーーーーーー」
白氷隊、IDUの総司令官ナナリが率いる舞台で4部隊中でも実力はNo1の部隊である。
冷静で冷酷、敵である者に容赦など必要ない。それが彼のやり方である。しかし仲間に対してはそんな素振りを全く見せないのである。まるで戦場では心を凍らしているようにも見えるその姿とその強さから「白氷の獅子」と呼ばれていた。


結果この戦はナナリ達が圧勝をおさめ一つの街(県)を解放した。IDUの快進撃にアビッサルも遂に動き始めた。
ここはアビッサルの議会室である。
「現在我らにとって危険人物だが、予想した人数より多かった。皆注意してくれ」
議場の中央に画面が現れ、そこには名前などのプロフィールまで表示されていた。
その中に
雷鳴の鉄槌とーる
炎獄の女帝リオ
光翼の女神エリス
白氷の獅子ナナリ

の名前がでていた。
更に最後に表示された名前に議場はどよめきが起きた。
疾風のフリューベル
断罪のとーる

4年前の戦いで戦死したと言われている二人の名前が表示された。これには議員から動揺の声があがった。
「彼らは既に死んでいるはずです。何故今も尚名前が出るか説明をいただきたい」
「4年前の報告を覚えていると思うが、彼らの死を見た者がいないはずである。憶測だけで全てを片づけ調査もしなかった。その結果つい先日、断罪のセツらしき人物の目撃情報があった」
これが本当ならアビッサルにとっては最悪のシナリオである。
4年前一つの重要拠点を放棄してでも相手の主力を消したはずが実は失敗に終わっていたことになる。
「まだ確定というわけではないが、おそらく間違いないだろう。もし奴らがIDUに合流されては面倒になる。こうなったら12の執行者を解き放つしかない」
議長の言葉に議員達は固まった。
「12の執行者ですか!あの」
12の執行者、アビッサルの保有する戦力でも上位に位置し、漆黒をはじめ煉獄、混沌をシンボルにした闇の支配者である。ちなみに疾風も12の執行者の一人であったが今は既にそのシンボルはなくなっている。
「後ほど今回の議題の資料を送る。ではこれより、緊急厳戒態勢に入る。各自我らが神のためにその志を結果で示せ。解散」
議員達は一礼すると議会室から出ていった。
議長だけ暗くなった議会室にいた。
「漆黒よお前はどう考えている」
暗闇からうっすら人影が浮かぶ
「俺はあいつが死んだとは思えん。確かにあの数から生き延びるのは奇跡に近いが奴ならやりかねないぞ」
「やはり、地上最強とまで謳われたフェンリルのナンバーズなだけに侮れないな」
「フェンリルのナンバーズで生き残っているのは既に4人だけだが全員その強さは折り紙つきだ」
漆黒の言葉に議長は考え込んでいた。
「もう一度我が陣営に戻ってはこないものかな」
「無理だろう。あいつは本気でこちらをつぶしに来ていたからな」
「それならば奴を消すしかない。戦場での権限はお前に託す」
議長は言い終わると議会室を出ていった。
漆黒はその後ろ姿が滑稽に思えてならなかった。

ナナリ達が街を解放して街の中に入っていく姿を崖の上から見ている男がいた。
「ついに来たか。後は時が経てば自ずと出会うことになるか」
「セツー、そろそろ行くぞ」
見下ろしていた男はセツだった。
「さて彼らを待つのは希望かそれとも絶望か、どっちかな」
セツは踵を返すと崖の裏側へ消えていった。


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第19話:隠し続ける傷痕

ナナリ達4人はある部屋にいた。
ここはある国境の基地であった。
4年前の戦時に発足された機関IDUは正式な軍ではなく、一般の民間と傭兵で構成されたいわば独立組織であった。しかし、先の戦時、軍部は相討ちになると予測し軍の人間を全く起用しなかった。
これに対し、今は亡きフリューベルの采配と少数の犠牲により多くの兵と有能な人材を残した。

その後ナナリととーるは生き残った兵を再編し、戦場を駆け回った。
時を同じくしてナナリ達は軍からの依頼を脱退、新たなスポンサーも現れ、次第に勢力は軍と同等の存在となった。またリオ、エリスといった女性陣は指導力に長けていたため組織の底力は日に日に増していった。


軍も彼らの存在を無視することができなくなり正式に軍への吸収を狙った。ここにナナリはある条件をつけた。
1.軍自体の命令権を一切適用しない。
2.現在のIDUの兵は他部隊への移動はしない
3.訓練施設の提供
4.現在行方不明のフリューベルとその部隊の調査の続行

以上の4点を条件に出した。

軍は渋々この条件をのんだ。はっきり言うと軍に所属しつつも軍ではない組織それがIDUであった。

IDUのリーダーはナナリ、補佐とーる、総部隊長リオ、総部隊長補佐エリスと実質4人がIDUのTOPに君臨していた。

IDUの誕生によりアビッサルとの戦力の均衡が崩れたかのように思えたがそうはならなかった。
アビッサルが特殊部隊の起用を始めた。どうやらとーる達が戦ったスカル等が部隊として実戦運用されたのだ。
結戦力ではお互いに均衡していた。
しかし、最近風の噂でアビッサルに抵抗する組織があると耳にした。本当かどうかは定かではない。

ナナリ達は兵の訓練が終わってから自分たちの訓練を始めるため夜遅くまでいるのが週ん館になりつつある。
「さて、とーるどっからでも来ていいぞ」
ナナリは上着をベンチに向かって投げた。
「それではいきますよ」
とーるは返事をすると即座に縮地で移動を始める。
ナナリはそれを動かずに気配を追う。
とーるとナナリのスタイルは全く異なった。
とーるは速さで相手を撹乱するタイプである。いわゆる連撃タイプである。
対するナナリは相手の攻撃を最小限の動きで切り返す。いわばカウンタータイプである。
静と動の戦いは自ずと力量差が勝敗を分ける。
とーるは鉄鋼をはめており刀などの刀剣に対しても受け止めれるのでおもいっきり踏み込もうとする。対するナナリは大剣で間合いを支配するように牽制をする。
2人の攻防は拮抗し見てる方は演舞でもしてるかのように見えた。

「相変わらず攻守の入れ替えが多いわね」
リオは率直な感想を言った。エリスも同じ感想が浮かんでいた。
2人の激しい攻防はガラス一個隔てて隣の部屋にいるエリスとリオにも見える。
「リオさんよろしくお願いします」
エリスは一礼すると鞘に入っている刀の柄を握って構えた。
「こちらこそよろしくお願いします」
リオも同じく一礼をして両手に小太刀を握り、構える。
エリスは抜刀からの連携と従来の車の構えを得意とする。
リオは従来通りの死角を狙うスタイルで精度をさらに上げた。
2人は無言で距離を少しづつ詰める。先に間合いに入ったエリスだがまだ動かない。
やや遅れてリオが懐に向かって飛び込み小太刀を振り下ろす。
「はぁっ」
そこにエリスが気合いの入った居合を放つ。リオのは小太刀は弾かれ態勢が崩れる。
エリスは居合を放った態勢から一歩踏み込み刀を振り下ろす。普通なら態勢が崩れたリオの負けだがリオは反対の小太刀でそれを受け止める。
そのままお互いの乱撃が始まる。二人の斬撃に守りの二文字はなかった。
2人とも最大限の速度で得物を振りまわす。居合、縮地等お互い手加減する気もない。

4人はそれぞれ訓練事に相手を変えてお互いを高めあっていた。こうして訓練の結果4人の強さからIDU組織ないでも四天と呼ばれていた。

四天とは雷、水、火、光つの称号を現す。

この話は既に戦場では有名で4人の強さは飛びぬけており恐れられていた。
しかしそれは彼らの弛まない努力の結果である。
血を吐き何度も崩れ落ちそうになっても立ち上がってきた。彼らにはやらねばならないことがある。
何度か死にかけた事もある。しかしそんな素振りを周囲に見せなかった。
絶対に追いついてみせる。絶対に見つけてみせる。
むき出しになりそうな感情をひた隠しに訓練は続いた。

彼らの心に刻まれた大きな傷を隠しながら彼らはひたすら前に進むのであった。



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第18話:想いと誓い

あの日、大切なものを失ってから時が経った。

時が経ってもその傷は残ったが、それでも少しづつだが癒えてきてもいる。
そんな彼らを絶望から救ったのは彼ら一人一人に残された一枚の手紙であった。

(1年前)
戦場から帰ってきた。とーる達の姿を見たエリスはほっとした。
しかし、その場にフリューベルの姿はなかった。エリスは彼が残した手紙で既に彼が無事に戻ってこれない事は知っていた。
手紙の内容はこうだ
『色々書きたいことはあるが、まずはエリスに伝えておく。今回の戦、多分だが俺は戻ってこれないだろう。そこで頼みがある。彼らの行く末を見届けて欲しい。とーるは相変わらず無茶をするところがあるから時々でいいから釘をさしてやってほしい。リオには女同士だから話もしやすいと思うので悩みとか聞いてやってくれ。そしてナナリ、今回の件で一番ショックを受けるのはあいつかもしれないが今まで通り接してやってくれ。俺からの頼みはこんなところかな。
最後に、とーるとハルとは仲良くやれよ』
この手紙はエリスの希望とあって3人は見ることがなかったが大体予想はできていた。
そしてナナリ達が戻ってきて5日後、戦場跡から一本の槍が彼らの元に届けられた。
それは覚悟はしていたとはいえ多かれ少なかれショックを与えた。
ナナリはじっとその槍から目を離さなかった。
とーるは目を逸らし見ようとはしなかった。
リオは大泣きして槍を抱いていた。
そんな彼らに槍とは別に手紙が届けられた。
発送者はフリューベルであった消印は戦に出る前日だった。
フリューベルは先に手紙を渡されたエリス以外にも別々に3人へ手紙を出していたのだ。
彼らは絶望から新たなる想いを持ち立ち上がった。





「ふう」
白衣を着たナナリは軽く伸びをしていた。
ナナリは前と変わらずに研究室で石の研究をおこなっている。
前とは違い時々休暇をとったりしているためか顔から生気が見える。
「ナーナリ」
部屋に飛び込んできたのはリオだった。見た目は4年前に比べ大人び周囲からの人気は更に増していた。
「相変わらず元気だなー」
ナナリは笑みを浮かべながら紅茶を入れた。机の上に置いた。
「ありがとう。それにしても相変わらず研究室荒れてるね。掃除しようか?」
リオは研究室内を見渡した。
研究室は機材が壁端に積み上げられていた。
「そうだな、今度時間が空いたら頼む」
「それでどうなの、解析はできたの?」
「まだ、解析途中で何とも言えん」
ナナリはモニターを凝視しつつも自分用の机に載せてある答案用紙を採点していた。
「ナナリ、頼まれて調べてたやよいって子なんだけど。分かったことがあるわ」
ナナリは手を止めてリオに視線を向けた。どうやら聞く気があるようだ。
「私だから気付いたのだと思うけど。あの子洗脳というより精神が破壊されてるわ」
この4年でナナリ達は変わらず戦場に立ち続けた。その中で彼らの共通の理由は2つ。

もしかしたらフリューベルが生きているかもしれないということ
アビッサルを完全に叩き潰すこと

いまだ現在フリューベルの死亡を確認できていないのだ。僅かな望みを頼りに戦場まで出て探していたるのだ。
そしてこの原因を作ったアビッサルにはナナリ達4人は許すことができなかった。お互い殺し合いをしているのだから仕方ないのだが。やはり納得できなかった。

結果3人はそのまま戦場で戦い続けてきた。そして3人にエリスも加わり4人は既に戦場では有名になりつつあった。
そんな中頻繁に交戦した相手の中にやよいがいた。
現状1対1ではまだ敵わず最低でも2対1以上で押し込んでいる。

リオはやよいが自分と同じく洗脳されていると思い何度か探りを入れていた。
しかし洗脳された場合自我に矛盾が生じるのに対しやよいは確固たる意志で向かってきた。
結果、やよいの精神が麻痺(この場合破壊)してしまっていると判断したのだ。
「そうか、もしかしたら思っていたがやはりか。わざわざすまんな」
ナナリは少しだけ落ち込んでいる様も見えた。
「気にしたら駄目よ。今の私たちに彼女を押えるだけの力がないんだから。今は強くなる事を考えるべきだわ。っていうかナナリ、彼女作ったら?」
慰めの内容からいきなり変わった。
ナナリはコーヒーを吹きそうになったがなんとかこらえた。
「リオ、俺にはそんな暇はない。そもそもお前はどうなんだ気になる奴でもいるのか」
ナナリは呆れながら切り返した。
「いるわよ」
リオから思いがけない返答が返ってきた。
「ほーう」
ナナリは関心の声が漏れた。
「とはいっても今のままでは一生無理だけどね。その人が見つかってないのだから」
「リオ、お前まだ諦めきれてないのか」
ナナリは少しだけ悲痛な顔をしているリオを見てしまった。見るべきではなかった。
「どっちかっていうと憧れなんだろうけどね」
リオは苦笑いしながら残っていた紅茶を飲み干した。
「さてと、行ってきます」
「あれか?」
ナナリはリオが何処に行くのか分かっていた。
「あれです」
リオは先ほどとは違い笑みを浮かべていた。どちらかというと小悪魔っぽい笑みであった。
リオが研究室から出ていくのを見送った。
ナナリはそのままモニターに視線を戻すと一言つぶやいた。
「絶対に救い出してみせる」
その言葉にこれまで以上の強い意志がこもっていた。



「おっし、これで最後だー」
気合いの入った声がグランドに響いた。
「うおりゃーーーーー」
気合いの入りすぎとも言える声と同じく投げ出された球は高い音と共にキャッチャーのミットに納まった。
「ゲームセット」
審判の声にキャッチャーがピッチャーの元に走っていく。
「とーるさんナイスです」
「ハルこそナイス。ハルがキャッチャーでないと本気で投げれないから本当助かる」
とーるとハルはそれぞれ大学院、大学に進学し休日は地域の野球チームの試合等に参加していた。
とーるの投げる球は150k/hを超えておりハルが来るまでだれも取れなかったのだが、完全復帰し大学活も問題なくなったころから才能を発揮していった。とーるとハルは実質、大学内外問わず今では人気があった。
「とーるさん、ハルお疲れ様です」
とーる達にタオルを渡してきたのはエリスだった。エリスはとーる達が所属するチームのマネージャーであった。
とーるがハルをチームに連れてきたときに他のメンバーから拝み倒されて以来毎週かかさず来ていたのだ。この4年間で一番変わらなかったのはとーるであった。
フリューベルがいなくなっていち早く立ち直ったのも彼であった。

試合も終わり解散となり、3人は他愛のない話をしながら帰り道を歩いていた。
「エリス、そろそろ戦場に立つのやめないか」
とーるから思いもよらない言葉が飛び出た。
ハルは驚き、エリスは普段と変わらずとーるを見ていた。
「どうしてですか?」
「危険すぎるからだ。確かに今まで4人で十分にやってこれた。だが今までが上手くいっても今後上手くいくとは限らない。俺はもうこれ以上大切な人達を失いたくないんだ」
とーるは悲痛な面持ちで語っていた。
エリスはとーるがの言いたいことは理解できた。
「とーるさん、いいたことは分かります。ですが、私はもうあの時のような何もできなかった私に戻りたくありません。」
とーるもショックが受けていた時、エリスはただ待つことしかできなかった自分を責めていたのだ。
「ですから私は私の意志で私の為に戦場に立ちます。それは誰が止めても止まりません」
エリスの強い言葉にとーるは納得せざるを得なかった。
(俺がしっかりしないといけないのにエリスの方がよっぽどしっかりしてるじゃないか。
俺がエリスを守ってやるんだ。しっかりしろとーる)
とーるは自分に激を飛ばした。
「分かったもう止めはしない。その変わり絶対に倒れるなよ」
とーるはこの時エリスを一人の仲間として見た。
エリスは自信を持って頷いた。
ハルはそんな姉が眩しく見えた。

「では、帰りましょう。私たちの家へ」
エリスのさしだされた手をとーるは強く握った。そしてこの温もりを失わないようにすると固く誓うのであった。


それぞれが新たなる想い、誓いを立て新たなる戦場へ立つ。
この後、起きる大きな戦いは世界中の人全ての記憶に刻まれ歴史となる。

物語は新たなる幕を開けた。



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第17章:一つの終焉

フリューベルはリオの腕を手に取り赤く腫れた部分を突いた。
「これは痛いか?」
その問いにリオは頷く。
「ではこれを強く握ってみてくれ」
フリューベルは一枚のコインをリオの掌に置いた。
それをリオは力を入れて握った。
「ふむ、力を入れても痛みはこないか。打撲といったところだな」
その言葉にとーるは安堵のため息を吐いた。
「とはいえ2度と味方に縮地を叩きこむなよ」
フリューベルはリオの腕を固定しながら背後にいるとーるに注意した。
「すまん。悪いとは思ったんだがあれしか方法が思いつかなかった」
「私も覚悟はしてたし、悪いのは私も同じ。だからそれ以上は責めないで」
2人の言い分が分かっているためフリューベルはそれ以上は追及しなかった。
「ナナリはどうだ?」
「問題ない、弾も貫通していた。血止めと固定はしたからまだいける」
ナナリは撃ち抜かれた肩に一度目を向けた後フリューベルを見た。その目は何を言っても戦場に出ると言っていた。
フリューベルは一度周りを見まわした。
「そうか、なら聞いてくれ。すでにほかの部隊と第4部隊は生体工場で交戦中だ。気づいてるだろうがナナリととーるの部隊はほかの部隊に吸収された。第4部隊は既に前線を突破している。俺も直ぐに行くことになる。」
フリューベルの言葉に3人は頷く。
「3人は半年前の話通り例の石を奪取してもらう。これがその地図だ。現在守りが薄くなっているはずだから一気にたたみかけてくれ」
フリューベルは地図をとーるに渡して工場の入口を見る。
「時間は3時間だ。無理なら退くように。後、撤退時は周りは気にせず全力で下がってくれ」
フリューベルは言い終えると工場内に向かって走っていった。
それを見届けたリオは不安を覚えた。
「ベル兄さん何か焦っているように見えたけど大丈夫かな」
とーるとナナリも何か思う所があるのか少し不安そうではあった。
「今は気にしてる場合でもない、急ぐぞ」
ナナリの言葉に2人は立ち上がり工場に入った。


「フリューベル殿、相手の前線は崩壊状態です。今が好機です」
中年くらいの兵がフリューベルを見ると状況を報告する。第4部隊の副官といったとこだろう。
「分かった、周囲に伏兵がいるか確認しつつ破壊を行ってくれ。狭い通路に敵が隠れてる可能性がある」
フリューベルは周囲の兵と伝達の兵に聞こえるように声を上げた。
兵の全員は一層周囲に気を配りながらC4爆弾を設置し始める。一か所に4つのC4を設置する。1個で十分であるが確実に再起不能にするために数を惜しまず設置する。

ふとフリューベルはある場所に目を向ける、陰に隠れて見辛いが汚染物質をため込んだ貯水池の上に踏み台があり、そこに誰かいるのが見えた。
そして目を凝らすとHEを握っているのが見えた。
(やばい)
フリューベルは咄嗟にDEを取り出した。ほぼ同じタイミングで影は投げてきた。フリューベルは急降下するHEを狙ってDEを撃った。
弾はHEの缶を貫通して空中で爆発した。それを確認して視線を戻すが既に影はなかった。
しかし
(殺気)
フリューベルは踏み台からすぐ横の壁に視線を向けると同時に槍を構えた。
(そこか)
フリューベルは影を視認し迎撃しようとする。影の手に持っている物とぶつかり合い。フリューベルは弾き飛ばした。
「へー、あんた強いね。この中では実質No1になりそうね」
フリューベルは影が着地したのを見て構えなおす。兵はフリューベルの見る影へ構える。
「手を出すな。お前たちは引け、ここは俺が引き受ける」
兵はその言葉に危険と察知しすぐさま後退を始める。
「外見に騙されないのね」
「外見よりも今の一手とその重圧感からすれば危険だ」
フリューベルは影から現れた人物を見て冷静に言ってのけた。影の正体は見た目だけならリオと同じくらいの少女であった。
「お兄さん強いね、だから名前教えてあげる。私の名前はやよいって言うの。よろしくね」
屈託のない笑みが逆に恐ろしさ増す。
「俺の名前はフリューベルだ」
やよいと名乗った少女は一度目を見開きその後目を細めた。
「なるほど、あのナナリが興味を示した存在。確かに普通の強さじゃないわね」
フリューベルはやよいの言い方に微妙に引っかかるものを感じた。
「お前、ナナリに会ったのか」
フリューベルは訝しげにやよいを見た。
「あったわよ。少し痛めつけてやったりしわね」
その言葉を聞いてフリューベルは目つきが変わった。その目を見たやよいは一瞬、震えた。
「貴方、真っ当な生き方してないわね。私には分かるわ」
やよいは気圧されながらも、その重圧をはねのけた。普通の兵達ならその重圧にしっぽを巻いて逃げるほどの威圧感があった。
「ナナリと何かあるようだがこの際どうでもいい。死なない程度には加減してやるから来い」
フリューベルは重心を前に落し跳び込む構えに入った。
「あまり馬鹿にしないで欲しいわ。今の私はナナリより力はあるのだから」
やよいも同じく前傾姿勢で構える。
「参る」
「いきます」
二人の開始の合図を気に周辺は暴風と化した。


ナナリ、とーる、リオは工場の隠し通路を通りとある部屋にいた。
既にナナリの手には目的の石が布越しに持たれていた。
「リオ何か感じないか?」
ナナリの質問にリオは首を横に振った。
「全然ないわ」
とーるも腕を組みうなっていた。
「もしかしたら、石の種類とかあるのかもしれない」
とーるの疑問に2人は唸った。
「とりあえず、目的のものは手に入れたしここを出よう」
3人は部屋の扉を開け外に出ようとした。
「待て何かいる」
外に人の気配がする。敵地の中だ該当するのは敵のみだが敵意のような気配がしない。
「どういうこどだ」
とーるは訝しげに扉をにらんだ。
「中にいる君たち早く出てきてくれ。このままだとここは崩れるぞ」
3人はすぐさまへやを飛び出した。部屋の外には一人の男がいた。
「お前何者だ」
ナナリは男を見るなり問いただした。
「おれ?うーんベルの友達だな」
男の言葉に3人はぴくっと反応した。
「聞いたことないぞ。お前みたいな奴がベルさんと知り合いとか信じれるものか」
とーるの言う事はもっともだった。
「仕方ないこれに見覚えないか」
男は首から下げたペンダントを見せた。
そこには双頭の狼と一本の剣が描かれていた。
「これは、ベルさんも持ってたのと一緒だ」
3人はまさかこのような場所でフリューベルの旧友に会うとは思ってもいなかった。
「話はあとだ状況は最悪の方向に向かいつつある。急いで脱出をしろ」
男の言葉に3人は仕方なく頷く。
「とりあえず内部のやつは大半は倒した。今のうちなら脱出できるだろう急げ」
男の言葉を聞き3人は走りだした。
「でてきなお前たちの相手は俺がしてやるよ」
男の言葉に今まで隠れていたであろう強化兵が飛び出てきた。
「強化兵<スカル>か」
スカルと呼ばれた敵はとーるとリオが相手にしたのと同じタイプであった。
「5人くらいなら何とかなるか」
男は勢いよくスカルに向かって走りこんだ。


フリューベルとやよいの戦闘は既に2時間を超えていた。
やよいの顔から既に余裕は消えていた。
(化けものかこいつ)
やよいの突き出す刀を槍の先端で弾きつつ隙あらば弾き飛ばそうと踏み込んでくる。
途中苦し紛れにグロックを連射したが逆に隙ができ傷を負うことになった。
「そろそろだな」
フリューベルが周囲を見渡した。
C4爆弾のタイムリミットが近づいてたのだ。
「よそ見するな」
やよいは勢いをのせた刀を振り下ろした。
フリューベルは槍で受け流すと同時に槍をもちかえた。先ほどまで柄の部分だった方が先端となりやよいを狙う。
「流纏(りゅうてん):風牙疾空」
フリューベルは縮地の爆発力を突進力に変え零距離突撃を行った。
やよいはかろうじで刀で受け止めたが柄の部分にひびが入り吹き飛ばされた。
このときフリューベルはやよいの両肩と柄に1撃つつ叩きこんでいた。
「お前も早く逃げろ、もうここは持たない」
フリューベルは一度向きを変えると工場の入口に向かって走っていった。
「っく、フリューベル。この屈辱忘れないわ。ナナリと一緒に私の物にしてやる」
やよいは血を吐きながらも立ち上がりフリューベルとは逆の方へと消えていった。

とーるとナナリ、リオは工場を出た後気付いたことがあった。敵の追手がかなりいたのだ。
まるで工場等既に捨てていたというかのような配置であった。
「やばいぞ、囲まれてる」
ナナリの焦り声に残る2にも走っていた。
「こっちだ」
声の主はフリューベルだった。
「ベル」
「ベルさん」
「ベル兄さん」
3人の顔に僅かにだが明るさが戻っていた。
「とにかくこの道を真っ直ぐ行くぞ。先に橋があるそこを渡れば追手は振り切れる」
3人は全力でフリューベルを追う。
少しするとフリューベルの言う橋があった。橋は木でできていて勢いよくのると壊れそうでもあった。
「お前たちは先に行け」
フリューベルの言葉に3人は足を止める。
「どういうこだ。渡れば逃げ切れるのだろう」
ナナリの疑問にフリューベルは首を横に振った。
「このまま全員で逃げ切れはしない。この橋を壊したところでまだ別の橋がある。ならば足止めが必要だ」
フリューベルの言葉に3人は絶句した。
「それはないだろ。俺達だけがのうのうと逃げるなんてできると思うか」
とーるは声を荒げていった。さすがに起こっているようだった。
「ベル兄さんが残るなら私も残る。戦力が多ければそれだけ生き残れる可能性が増えるわ」
リオも残る気満々のようだ。
「そうか、なら仕方ない」
フリューベルの言葉に3人は安心したような顔をした。
「すまん、リオ」
「え!」
フリューベルは言い切る前に動きリオの首に手刀を入れた。完全に油断してたリオは立つことができずフリューベルに倒れこむ。
「ナナリ、悪いが背負って行ってくれんか」
ナナリは無言でリオを背負うと一度フリューベルを見た。
「いいんだな?」
フリューベルは頷いた。
「とーる、お前にはエリスが待っている。あんないい奴そうはいないぞ。生き残れよ」
ナナリが橋を渡り終わりこちらを見て一礼すると走っていくのを見送った。
「絶対生きて帰ってきてくださいよ」
「努力はする」
とーるは振り向かず橋を駆け抜けナナリの後を追っていった。
フリューベルはそれを見送ると橋の根元から叩き斬った。
「フリューベル隊長」
草陰から兵たちが顔を出した。
「悪いなお前たちにも行ってほしかったんだがな」
フリューベルは悔しそうな顔をした。
「第4部隊は既に捨て石になる前提で組まれた隊です。すでに覚悟しています」
一人の兵が笑って見せた。
「ですが隊長、私達とて簡単に死ぬ気はありません」
「そうです、ここで勝ち残って生きて帰りましょう」
「諦めなければなんとかなりますよ」
兵たちは口々に強気で言って見せた。
「そうだな隊長が諦めてどうするんだってな。やるぞ皆、絶対に死ぬなよ」
フリューベルの掛け声と共に兵は全員が返事をした。
そして、彼らはこれから起きる壮絶な戦いに身を投じていくのであった。


運命の歯車は残酷な道を紡いだ。
彼らの運命は既に定められた物だったのであろうか?
残された3人の運命の歯車が新たに動き出す。
彼らは、それぞれの思いを抱いて次なる舞台へと駆け上がるであろう。

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第16話:暗雲(後編)

「やぁーーーーーーーーーーー」
力の入った掛け声と共にリオがM4を放つ。しかし攻撃の対象はすんなりと避けてしまう。
「そこーー」
とーるは対象の逃げる方に跳び込みM3を放射する。
しかし、確実と思って撃ちこんだ射撃すらぎりぎりのタイミングでかわされる。
「あうっ」
リオの腕を弾がかすめ声がでてしまった。敵はとーるの弾を避けながらもリオにアサルトを撃ってきたのだ。
既にこの交戦が始まって1時間が経過した。当初の予定では既に制圧が終わっている時間であった。
実際は制圧どころかおされぎみであった。
援軍を呼びたいが今いるメンバーでまともに敵うのはフリューベルくらいしか思い浮かばなかった。
「ってーーーーーーー」
先ほどまで前で戦っていたとーるがリオの横まで吹き飛ばされていた。どうやら蹴りをガードしたまま飛ばされたようだ。
「まずいわ。このままでは先に私たちが倒れるわ」
リオの声に焦りが浮かんでいた。今でこそ2人がかりで5分だが戦い始めは若干だが勢いでおしていた。しかし時間がたつごとに体力と精神力は極限状態を迎えていた。
「俺に考えがある耳を貸してくれ」
とーるは敵がリロードしているのを見てすかさずリオに話しかけた。リオは頷きとーるが耳元で話しかけた。
「分かったわ。それができるなら、もうそれに賭けるしかないわ」
リオは言うが早く小太刀を抜き出した。とーるもM3を捨て構える。
リロードを終えた敵はリオに向かって走り出した。否跳びこんだ。
リオも敵に向かって跳び込む。二人の攻防は激しく入れ替わる。リオは無理やり避け敵は叩き落としてきた。
とーるはHEを取り出しピンを抜いた。
てきの銃撃に対してリオは小太刀、はっきり言うとかなり不利である。しかしM4と違い重量がないので移動速度はあがっていた。
リオの斬激を避けた敵は今までより少しばかし踏み込んできた。とーるはそのタイミングでHEをリオの足元に投げ込んだ、リオはそれに気づき限界まで高めた縮地で爆心範囲から離脱する。
敵もHEを視認し着地と同時に即座に右に跳んだ。
「はぁぁぁ」
リオは縮地の連続で敵の逃げた方にむかって突っ込んだ。その後ろからとーるが追ってきた。
敵は近づかれまいとアサルトを撃つがリオはギリギリのところでかわして距離を詰める。
とーるもリオとの距離を詰めその差は人一人分であった。
リオは小太刀で斬りかかる。しかし敵の反応速度も異常なため空を切る。しかし態勢が不安定になった。
「今よ」
リオは掛け声とほぼ同時にとーるは縮地の勢いを殺さずにリオの左腕に拳を叩きこむ。
「はぁーーーーーーーーーーー」
とーるの動きが突如敵のいる方に向かう。
「っつ」
リオは苦悶の表情を浮かべながら右手で左腕を押さえた。
リオの左腕が真っ赤に腫れていた。
(まさか縮地を手でやるなんてバカもいいところだわ)
とーるは足で行うはずの縮地を手で行ったのだ。
これはとーるが刃物を使わず己の肉体を鍛えていたことによる神技であった。
通常、蹴りは殴る威力の3倍はある。縮地は脚力を異常なまでに高めることで発生する。
とーるは縮地が放てるだけの力を拳からも繰り出せることになる。ほとんど奇跡の領域であった。
とーるは敵との距離を瞬時に詰める。先ほどまで詰めれなかった最後の距離をとーるは詰めることに成功した。敵は体をひねって逃れようとするが肉弾戦を得意とするとーるが失敗することはない。
とーるは敵の足を掴み思いっきり地に叩きつけた。膝あたりの骨が砕ける音がしたがとーるはそのままM4が握られた腕に全力で踏みつけた。腕の骨が粉々に砕けM4が地を転がった。しかし敵はそれでも立ち上がろうとする。
(ここで逃がすわけにはいかね)
とーるは左手で敵の頭を掴むと引きずり上げ顔面に拳を叩きんこんだ。
「貫の型:砕月」
敵の顔は殴られた割にはあまり目立った外傷はなかった。しかしとーるの放った一撃は表面ではなく内部に振動し敵の頭蓋骨を破壊した。
もともと顔自体が皮膚がただれていたりしため頭蓋骨の部分が爆砕するのが視認できた。
(打撃のダメージを内部で炸裂させることによってダメージを一点に集中したのね)
リオはとーるの一撃を直ぐに看破した。
(打撃系統に特化したとーるだからできる荒技だわ)
リオでは真似することは無理である。それは剣術に特化した鍛え方ととーるのように肉弾戦に特化した鍛え方では筋肉の作りが違うのだ。
とーるは敵の死を確認してリオ見る。
「先を急ごう、みんなが心配だ」
「そうね。皆を呼んで早く行きましょう」
とーるは無線を取り出し外にいた仲間を呼んだ。無線は各部隊ないでしか伝わらない設定になっているため、フリューベル達に無事を伝えることができなかった。



フリューベル達の部隊とセンター制圧部隊も無事合流した。
「ナナリが負傷する程の相手がいるとは驚きだ」
フリューベルは少しだけ考えこんでいた。
「油断しただけだ。とはいえ相手の強さは普通の強化兵の比じゃないが」
ナナリはやよいと会ったことについては出来る限り伏せていた。
フリューベルもそう言ったのがいるだけの情報があればいいのかそれ以上は追及しなかった。
「こっちは骸骨のような強化兵にてこずった。リオがいなければやられていたよ」
新たに未知の敵がでてきたことにより状況は悪くなっていた。
唯一の救いは予想したより負傷者の数がいなかったことだ。センターでの戦闘で犠牲者はでたがほかの部隊はけが人こそ出たが死者はいなかった。そのため生体工場に突撃できる数は十分だった。
「皆聞いてくれ。これより5km先にある工場を攻める。今よりも厳しい戦いになる。だがここで俺達が引いたら事態は最悪のシナリオを辿るだろう」
フリューベルの言葉にその場にいる全員が耳を傾ける。
「俺は皆に言いたい。世界の為に戦えなんて言わない。自分の守りたい人達の為に戦ってくれ。俺達の想いを全てぶつるぞ」
兵たちが何を考えているかはフリューベルには分からない、だが彼らの目は死んでいない。ならば絶対に勝てる。そう信じて指揮をとる。
「これより作戦は第2段階に移る。全軍突撃ーーーー」

兵たちの雄たけびがあがり全員先に見える工場に向かって走り出した。
守るべき物は違っても敵は同じそれが彼らの力となる。
フリューベルは彼らを頼もしく思った。これならいけると確信した。


戦いは終焉を迎えようとしていた。しかしその終焉はあまりにも辛い終焉になるとはそれを覚悟した本人達以外はだれも気づいていなかった。
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第15章:暗雲(中編)

「何故、敵の数が減らない」
ナナリの表情に焦りが浮かんでいた。
ポイントA をを前にした一直線の道の手前で押し切れない状態が続いていた。
実はセンターも同じ状態が続いているのだがそれを知るすべはない。
ナナリはパラを味方に渡すと両手にベレッタを握った。
(少々無謀だがやるしかない)
「これより私が突破を図る。アサルトは私に続け。スナイパーは援護の準備をしてく。そして全員私の合図でSGを中央付近にしいてくれ」
兵たちは返事はせず無言でうなずいた。
それから数分が過ぎたところで敵の銃撃が弱まった。
「いまだ、いくぞーーーーーー」
ナナリは叫びながらSGを投げた。それに続いて兵達もSGを投げつける。
SGが炸裂し前が全く見えなくなった。ナナリはSGを投げた直後即座にベレッタを握りなおす。
ナナリはとーる達に比べて投げ物が得意で狙った所で炸裂させることができる。今回も寸分違わず。炸裂させた。
ナナリは一人で前に出るとSGの炸裂場所より手前の敵をねらった。SGのおかげか遠距離から撃たれる弾はナナリ達から離れた場所の地面や壁に当たっていた。
ナナリは加速しつつ強化兵の銃撃を回避する。
後方からアサルト支援もあり無傷の状態でSGの中にとびこんだ。
「煙幕がはれるまでは後方を支援を頼む」
ナナリは煙幕に跳び込む手前でベレッタをホルダーに戻し、せなかにかついでいた野太刀を抜く。

ナナリは煙幕の中で目を瞑り周囲の気配を探る。
ザシュッ
ナナリは一番近くにいた強化兵を一歩で詰め寄せ一刀両断した。
強化兵は味方の倒れた方向を割り出しAKを連射する。
AKの弾が煙幕の中で飛び交う。
しかしナナリは冷静に半歩横にずれてかわす。
隙があれば一気に詰め込み斬りつける。ぎりぎりの攻防が数度行われると煙幕がはれてきた。

その場にいた兵たちは戦慄した。煙が晴れた地には赤い血だまりができていた。それはナナリのものではなくその足元に倒れている強化兵達のものであった。
その姿に兵たちは言葉が出なかった。それほど異常な光景に見えたのだ。
ナナリは野太刀を納め預けていたParaを兵からうけとる。
「一気に落すぞ。地下は俺一人で抑える。その間に上のポイントAを占領してくれ」
ナナリは冷静に指示をだすが、内容自体はあまりに無謀であった。
「多分、ポイントBとセンターも苦戦している。万が一、敵の援軍があったら。戦線が崩壊する。その前に一気に落すしかない」
「ですが、ひとりは無茶です」
兵の説得をナナリは聞く気はない。状況は時間が経つと共に悪くなってきているのは確かであった。
結局兵たちが根負けした。
「行くぞ」
ナナリの言葉にその場にいた全ての兵が構える。
「突撃ーーーーーーー」
ナナリの号令と共に兵たちは室内に侵入する。怒声と銃撃音が反響する。
ナナリは地下への階段にFBを投げ込むと階段を後ろ向きで降りる。
階段を半分ほど降りたところでFBが炸裂する。
閃光が止む瞬間ナナリは残り半分の段差を一気に飛び降りた。
ズサーーーーーー
飛び降りた反動でナナリはParaを抱えたまま滑り込む。
地下には強化兵が十数人いた。そして見辛いが中央に穴が開いているのが見えた。
(なるほど、あそこの通風口から援軍がきてたのか)
ナナリはParaを乱射し2人の強化兵を再起不能に追い込む。
残りの敵も吹き飛ばそうと向きを変えた時思わぬものを見た。
(うっげ、やべーーーーーーーー)
ナナリはとっさにParaを投げて横に思いっきり跳んだ。
ナナリが先ほどまでいた場所に無数の弾丸が撃ち込まれる。しかもその弾丸は拡散タイプであった。
強化兵が持っていた武器はXMであったのだ。それもなんと全員がXMを持って突進してきたのだ。
ナナリはXMの弾丸をかろうじでよけるが全てをよけきれるず腕や足などを削られていく。
ナナリはそれでも耐えた。唯一この波状攻撃を打破できるタイミングを待った。
そして

今までまとまっていた強化兵の集団から1体が遅れていた。
(ここだ)
ナナリはその強化兵に向かって突っ込んだ。他のXMをぎりぎりでかわし目的の強化兵に体重を乗せた拳を腹部に叩きこむ。
グシャッ
あまり聞きたくない音が聞こえたがナナリはお構いなしに強化兵の背中をつかみ前へ突き出す。更にXMを奪う。
そして敵の攻撃をナナリは非常な手段ではあるが友好的な方法でたいこうする。
XMの弾丸ナナリを狙うがナナリに届くことはなかった。ナナリがつかんでいた強化兵が全て受け止めたのだ。そしてナナリは掴んでいた強化兵を敵に投げ込みつつ突進し、一番前の強化兵の頭をXMで吹き飛ばした。そのまま吹き飛ばした強化兵を掴み同じように盾にする。
結果敵の数が半分をきった所でナナリはヘビーを拾いハチの巣にした。
そして場が静かになる頃にはナナリを除いた者は全て倒れていた。
「な、なんとかなるもんだな」
さすがのナナリも体中傷だらけであった。
『隊長、隊長応答願います。』
「ナナリだ地下の方は制圧したそちらはどうだ」
ナナリの返答を聞き安心したらしく無線越しに安堵の溜息が聞こえた。
『ナナリ隊長、こちらも制圧及び完全撃破しました』
「こちらの被害はどうなんだ」
『奇跡的に死者はいませんが重傷者が8名ほどでています』
「ではそちらで別に8人ほど選抜してそいつら連れて撤退してくれ。残ったメンバーはセンター経由でポイントBまで援護しに行くぞ」
『了解です。体長は少し休んでから来てください』
「分かった」
そこで無線はきれた。
「まぁなんとかなるもんだな」
ナナリはもう一度溜息を吐きその場に座りこもうとする。

「っ!!!」
ナナリは強烈な視線を感じ後ろに跳んだ。
視線の発信先は床の通風口からだった。
(この圧迫感、やばい)
ナナリは動くことができずなかった。消耗しきった今こられたらナナリに対抗する集団はないだろう。

そして何者かが通風口から瞬時に飛び出してきた。
「ナナリ、久しぶりだね」
そして親しげな声がナナリの耳に入った。それはナナリの記憶には鮮明に残った声で会った。
「ま、ま・さ・か」
ナナリの視線の先に一人の少女がいた。
見た目からしてリオと同じくらいの年で間違いないだろう。
「何呆けた顔しているの?ナナリらしくないね」
少女はクスッと笑ってナナリを見た。
「や、やよいなのか?」
ナナリは恐る恐る聞いた。まるで幽霊でも見てるかのようだった。
「ええ、やよいだよ。最後に会ったの8年前だったよね」
やよいは少しだけ笑みを浮かべていた。
「でも、もう貴方の知っているやよいじゃないけどね」
「くっ!!!!!!!」
ナナリは先ほどと同じ強烈な圧迫感いや殺意に反応し横に跳んだ。
「ぐぁっ」
ナナリからうめき声が発せられた。
右肩を撃ち抜かれたのだ。
「憎かった、どれほどこの時を待ったか」
やよいは倒れたナナリの肩を踏みつけた。
「うぁぁぁ」
ナナリは苦悶の表情を浮かべ呻いた。
「いつかは迎えに来てくれると信じていたのに、それだけしか希望がなかったのに貴方は来てくれなかった」
ナナリの体を力の限り蹴りつけた。
「そして気づいたの。私は捨てられたんだって。でもね、それが私の生きる糧になった。ナナリ、貴方に復讐するために私は今まで生きてきた」
やよいの顔には先ほどまでの親しみなんてなかった。あるのは殺意と憎しみだけであった。
「簡単には死なせないわ。私が味わった絶望と苦痛を与えてやる。死にたくても死なせてやらないわ。だから今回は見逃してあげる。今死ねなかったことを後悔させてあげるわ」
やよいはそう言うと通風口に向かって飛び降りた。
ナナリは左手で右肩の傷を抑え立ち上がった。
ナナリが立ち上がって数秒後穴から爆音がした。どうやらやよいが穴を爆破して塞いだようだ。

(現実とは残酷すぎる、どうればいいんだ)

ナナリは強烈なショックを隠せずその場に立ち尽くしていた。
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第14話:暗雲(前編)

ナナリ達は基地の前で車から降りた。

目の前には年期は感じるがそれでも尚勇ましく見えた。

「相変わらず大きいな~」
とーるがナナリの考えていることと同じことを言った。
「立派じゃない」
リオは基地の外観だけで判断したが、確かにそうであった。
「行くぞ」
ナナリが前に立ち歩き始めた。4人は基地の門の前で門番をしている兵にとめられた。
「何者だ!身分を明かせ」
「これでどうだ」
兵の言葉にフリューベルが一つのバッチを見せる。
「これは!失礼しました。どうぞ中にお入りください」
兵はバッチを見て驚愕の声を上げ、すぐに門を開けた。
ナナリは門が開くと中に入った。
門をくぐった先にいた兵がナナリ達を見てすぐ様敬礼した。
「ナナリ様、遠方よりはるばるいらっしゃいました。長官たちもお待ちです。こちらへ」
兵がナナリ達を先導し一つの部屋に入った。
そこは学校で言う体育館並の大きさの部屋であった。
「ブラス長官、ナナリ様がいらっしゃいまし」
兵の言葉に室内にいた他の者達にどよめきがおきる。
「あれがナナリか。一人で1個部隊を軽く潰すと言われているやつだ」
「よく見ろとーるもいるぞ」
2人の名前がささやかれる。2人は戦場での評価が高く顔もわれている。
周りからしてみれば生ける伝説といっても過言でない。
「女がいるぞ。まだガキじゃねーか」
リオを見た者が挑発気味に見下ろした視線を向ける。しかし当のリオは全く興味がないらしくドアの横に寄りかかっていた。
そして、その3人よりも注目される人物がいた。
「ま、まさかあいつが来てるのか」
「あの2人がいるんだ、来てるにきまってる」
周囲はある人物を探し始めた。
「リオ、こっちにきな」
リオはその言葉を聞くと嬉しそうな顔をして腕にとびついた。
「あいつがフリューベルだ」
一人の男が指した先には赤い髪、そして赤い目のフリューベルがいた。
戦場での彼は先の2人を凌駕する程有名であった。
2人が生ける伝説なら、彼は生ける英雄であった。
既に言葉は発せられていないが緊張した空気は未だに流れていた。

「おほん、皆の者遠路はるばる来てくれたことに感謝する」
ひげを生やした軍服の男がやや高い所からマイクを使い話始めた。
軍服の胸の部部には勲章がいくつもついていた。
男の名前はブラス、この基地内の実質トップである。
「すでに知ってのとおり今回の作戦はかなり大きいものになる。勝手な行動をとらないようにしてくれ」
ブラスは周りを見渡して一度間をおいた。
「では、今回の部隊長に挨拶をしてもらう。部隊長は全員前へ」
ブラスの言葉にナナリ達3人は壇上に上がった。
「第一部隊長から順にあいさつをしてくれ。第4部隊長は最後にあいさつだ」
ナナリは壇上のマイクを持ち挨拶をはじめた。
「第一部隊長のナナリだ。今回の戦いかなりの犠牲が予測されているが、捕まるくらいなら潔く死のうなんて考えるなよ。どんなことがあっても最後まで諦めないようにしてくれ」
ナナリは一礼すると後ろに下がった。変わってとーるが前に出た。
「第2部隊長のとーるです。部隊長では最年少になる。だからといって見下したりするようならぶっ飛ばすからな」
とーるはニヤッとして後ろに下がった。
つづいて第3、5、6の隊長と挨拶が続いた。
そしてフリューベルの番が回ってくる。
「第4部隊長にして今回の総指揮官をするフリューベルだ。先に言っておく。俺の命令は絶対ではない。それよりも最良の策があるならばそちらを優先してくれ」
この発言に周囲にどよめきが走る。命令をむしするようなことが起きれば隊の維持どころか全体に問題がでかねないからだ。

「俺達はプロだ。人の命令をほいほい聞くだけなら普通の兵でもできる。だが俺達は何度も戦場で戦い抜いてきた。俺は俺の命令に自信をもってだす。お前達はお前たちでそれが最善か判断しろ」
フリューベルの言ってる事は普通に見たら矛盾してるように見える。
しかし、彼らには言いたいことが伝わったようだ。
『俺の指揮は自信を持って出せるものと言いきったのだ。そしてそれ以上の策があるならば実行に移せ』
いわば挑発なのだ。命令に背くなら結果を出せと言っているのだ。
周りの顔つきが変わる。どこを見渡してもそこにいる者は全員戦場へ向かう戦士の顔つきに変わっていた。
「これから10時間後作戦を開始する。各自準備を怠らないようにしてくれ」
フリューベルの言葉にその場にいた者すべてから歓声があがった。



「おつかれ」
リオがコーヒーをさし出す。
「ありがとう」
フリューベルはコーヒーを受け取り小さくため息をついた。
「それにしても挑戦的な発言だったな」
ナナリはお茶を飲みながらベルを見る。
「今回みたいに大きな作戦は指示だけでは手に負えない事態が絶対に出る。その時に自分を信じて踏み込めるかが大事だからな。あとはやる気だな」
フリューベルはコーヒーを飲み干すとカップをゴミ箱に投げ込んだ。
「さてと俺も準備に移るか」
とーるもカップを投げ捨てると部屋を出ていった。
ナナリとリオも続いて部屋を後にした。
その後ろ姿が見えなくなるまでフリューベルは動かなかった。

AM1:00
まだ陽が昇るまで4時間はある。
その闇にまぎれてとある部隊が動き出す。
その名はIDU(Illegal Destruction Union)
※IDU・・・違法を破壊する集団(命名:リオ)


「皆、作戦通りいくぞ」
「おう」
とーるの声に兵は強く返す。
とーるはポイントBの室内めがけてFBを投げ込む。
とーるのやや後ろを同じ速度で走るリオとアイコンタクトをすると、速度を落とし態勢を落とす。
それをみてリオはとーるの背中を踏み台に上の通風口に跳び込む。
室内でFBが炸裂し室内から異常な光が漏れる。それを確認しつつ一気に室内へ走りこんだ。
走りこみながら入口付近にいた強化兵にM3をたたき込む。
ほぼ同時に部屋の奥にいたスナイパーが倒れる。リオが通風口からM4で迎撃したのだ。
やや遅れて味方の兵が展開を始める。スナイパーとアサルトをもった数人が走りこみ援護射撃を開始する。
残った兵は入口手前で挟撃されないように展開する。
とーるはとにかく近場の敵を狙い瞬殺していく。リオは通風口から飛び降り至近の敵を片付け
つつとーるを狙うスナイパー達を牽制する。
後から入ってきた味方はリオの射撃ラインから敵の位置を割り出し狙い撃ちを始める。
後方に待機していた味方が応戦しているのがリオの耳には聞こえた。どうやら伏兵がいたようだ。
しかしそれすら予想して後方に味方の半分を配置したとーるが今回は正しかった。
とーる達の勢いは止まらず敵の数は倍近くあったにもかかわらず20分でポイントBを制圧した。
「一応これで全部か?」
とーるの言葉にリオは周囲の気配を探る。
(・・・多分いな!)
「後ろ!!」
リオが声発したとほぼ同時にとーるは右に跳んだ。
とーるの髪が僅かに宙をまう。
「ぐあっ」
しかしとーるは反応できたその先にいた味方は反応できず肩を撃ち抜かれていた。
「全員外まで撤退、中はとーると私が守ります」
リオの指示に兵は素早く撤退する。とーるは態勢を立て直すと後ろを振り向いた。
「やっばいな」
とーるの顔から冷や汗が流れた。相手の正体は分からないが、リオがギリギリで気がつかなかったらとーるは今立っていなかっただろう。そしてとーるの眉間に寸分違わず撃ちこんできてもいた。
相手の力量は五分かそれ以上、下手をするとリオと2人がかりでも敵わないかもしれない。
「くるっ」
リオの言葉と同時に室内は嵐が起きたかのように爆音と物を壊す音が響く。
「くっ」
リオの顔に苦悶がひろがる。敵の攻撃の角度が毎回死角から襲ってくる。
「うぁぁぁぁ」
とーるは敵を視認しM3を打ち込むが弾が到達する時には既にその場にいない。
「いっつぅぅぅぅ」
とーるは右腕で敵の蹴りを防ぐが空中にいたためおもいっきり後ろに吹き飛ばされた。
とーるは地に着地すると同時にバック転で後ろに下がる。僅かに遅れて最初の着地点に弾が叩きこまれる。リオは敵の着地際にM4を撃ち込むがぎりぎりで回避されてしまう。
「なんて身軽さなの」
さすがに致命傷はとれなくても一発くらいはかすってもいいタイミングであったが完全に避けきられた。
「そこだーーーーー」
とーるは敵の動きを勘ではあったが見きり追い詰める。そのままM3を放射する。
しかし敵もフルオートで撃ってきた。
「って」
とーるの腕をかすめ痛みに声が出た。しかし今の一撃はあたりはしなかったが敵の頭から被っていたフードを吹き飛ばした。
「な、何なの」
リオは驚愕の声を上げた。吹き飛ばされたフードから姿を現した敵は顔の肉がただれていた。
今まで見た強化兵とは姿も能力も違った。まるで骸骨と言ってもいいような顔であった。
「へへっ、よわったなー対策見つからね」
とーるは苦笑いを浮かべた。
リオも平静を装っているがどうするべきか判断しかねていた。
「ここは下がれるわけにはいかね、ぜってー潰す」
とーるの言葉はリオの考えとおなじであった。
2対1の戦いにも関わらず力の衝突は拮抗していた。

(まずい、ナナリさんの方は大丈夫かよ)
とーるの疑問がはれることはなかく戦闘は続く。










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13話:暗き思惑

「ナナリ、ナナリこれ見て」
目の前に無邪気に笑顔を向けてくる少女がいた。
「花冠か、なつかしいな、どこで作ったんだ」
「温室のお姉さんがくれたんだ」
少女は嬉しそうにくるくる回る。その笑顔を見たナナリも自然と笑みがこぼれた。
「さぁ、戻ろう。検査をしないといけないからね」
ナナリは手をさし出した。
それの手をつかんだ少女は満面の笑みを浮かべていた。
・・・
ナナリは目を覚ますと自分の右手をまじまじと見た。
「未練だな」
ナナリの言葉に返事をする者はいなかった。


朝、フリューベルがリビングを入るとリオとエリスが話をしていた。
「珍しい組み合わせだな」
フリューベルが席に着くと目の前にカップがおかれた。中身はコーヒーであった。
エリスは既に全員の朝の行動パターンを把握しているので何も言われなくても自分から行動をおこしていた。
「ありがとう」
フリューベルは礼をいうと新聞を読みだした。この家で新聞を読むのはナナリとフリューベルの2人だけで早起きした方はポストまで取りに行くかわりに先に読んでいいという暗黙のルールがあった。
しかし最近は彼らがポストまで行かなくてもエリスが取りに行ってくれるためリビングに先についた方から読むようになっていた。

フリューベルが新聞を開こうとすると新聞の間に一枚の封筒が入っていた。
封筒の宛先はフリューベル宛になっていた。差出人を見てフリューベルは目を細めた。
(ついに来たか)
フリューベルはナイフを取り出し封筒の折口をきれいに切り取った。
中からは折りたたまれた一枚の紙と小型チップが入っていた。
フリューベルは紙を開き内容を読み始める。
(そうきたか)
フリューベルは読み終えた紙を胸ポケット入れてリオを呼ぶ。
「リオ悪いが、2人を呼んできてくれ」
リオは一度うなずくとリビングを出ていった。
エリスはフリューベルを見て一度頭を下げると部屋を出ていった。エリスもこれから話されることが自分が聞いていい話ではないことに気づいていた。

リオが2人を呼んできたのはそれから5分後であった。
ナナリとリオはともかく朝弱いとーるも珍しく真面目な顔つきで入ってきた。
3人が席に着くとフリューベルは部屋の中央にスクリーンを下ろしプロジェクターを起動した。
スクリーンにはフリューベルの名前から始まりとーる、ナナリの名前を含め多くの名前が出ていた。
「先ほど、明日の作戦の指令内容が届いた。作戦内容自体は大して変りがないが、メンバー割が新しく発表された」
フリューベルは長い挿し棒でスクリーンを指した。
「今回の部隊割だがリオ以外は全員別行動だ。というかリオは部隊員として数には入っていない」
フリューベルの言葉に3人は驚きを隠せなかった。
とーるとナナリは4人行動ができるものと想定していた。というのも今までそれで結果を出してきたからであった。そしてリオはメンバーに入ってないという事態が既に驚きであった。
「とーるとナナリには部隊長としてそれぞれの任務を行ってもらう」
「ええええええええええええ、俺が部隊長!」
とーるは驚きに更に追い討ちをかけられた。それもそのはず、とーるは3人で組むようになって実質指揮をとった経験がなかった。それはフリューベルがとる指揮が的確であったこととフリューベルがいない場合はナナリが指揮をとっていたため必要がなかったのだ。
「驚くのもわかるが話を続けるぞ」
フリューベルはとーるに落ち着けと目で合図を送る。とーるもそれを見て頷き席についた。
「今回の戦場となる場所だが旧市街の先にある生体工場の大型輸送機の破壊もしくは工場内の破壊だ」
フリューベルはスクリーンを切り替えると一枚の地図が表示された。
「これは旧市街の地図だが、ここで部隊は4組に分けられる。とーるは第一部隊、ナナリは第二部隊、そして俺は第四部隊のそれぞれリーダーとして配置される。リオはこのどれかの部隊に所属してもらうから考えておいてくれ」
リオは一度うなずいた。
「まずこの作戦は一度に3方向から侵攻を始める。ポイントA、ここは敵の配置しだいだがそこまで危険はないだろう。注意すべきは室内から外が丸見えなためスナイパーの存在にだけは注意してくれ、これはナナリの部隊にやってもらう」
ナナリは一度スクリーンを見て疑問に思ったことがあった。
「ベル、一つ質問だがポイントAまでに攻め込むのにどれくらい時間を使っていいのだ?」
「時間はそこまで急がなくていい、まぁ半日以内に攻略してくれれば助かる」
「分かった」
ナナリは納得すると攻略する糸口を模索しだした。
「次にとーる」
「あいよ」
「お前にはポイントBを制圧してもらう。とーるの本領発揮の場所だ」
フリューベルは地図から左に向かって出ている矢印を指した。
「このポイントはできれば一番最初に落してほしい、しかし室内は上の通風口と入口のみから侵入できるため待ち伏せが容易だ」
室内の入り口部分に×印がつけられていた。
「だが逆を言えば、内部からこちらの情報がわかるのは一部分だけだ。とーるの速さで撹乱しつつ部隊メンバーを突入すれば一網打尽ができるだろう。内部への侵入方法は考えてくれ」
とーるは少しだけ不安があったが頷き侵入方法について考え始めた。
「センターは第3、第5、第6の3部隊が制圧し、それからAとBに援軍として別れてもらうがこれは俺達の領分ではないから頭の片隅においといてくれ」
フリューベルがそこで言葉を止めたことに3人は違和感を感じた。
「あれ?第4部隊はどうするのさ」
とーるは率直な質問をした。
「第4はサポートと挟撃を防ぐために後方で待機となっている。が生体工場突入時に激戦区になる階段と中央廊下の突入で最前線にでる。第1、第2は後方から援護しつつ守りが薄い方に突撃してもらうことになるから覚えておいてくれ」
フリューベルは既に予想された質問であったのか返事は淡々としていた。そのため3人は納得していた。
「リオ、君にはとーるかナナリのどちらかに入ってもらおうかと思う。今日の夕方までに決めておいてくれ」
「え!」
リオは言葉を忘れた。それはナナリ達も同じだった。
今までフリューベルはリオを自分の目の届く場所に置いていた。それは保護者的役割とできる限り戦いの場から遠ざけていたのが理由だ。しかし今回はあえて戦闘が起きると分かっている場所に配置した、しかもフリューベルの目の届かない場所にだ。
「さすがに2人の部隊は前線できついだろうからリオの力があれば攻略しやすくなるはずだ」
もっともらしいことを言っているが腑に落ちなかった。リオは困惑した表情をしたが少しだけ考えて返事をした。
「分かったわ、とーるの部隊に入れてもらうわ」
リオはフリューベルの内心を探るが元々隠し事が上手いフリューベルからは何も読み取れなかった。
「伝えることはこれで全部だ、これから明日の準備を各自おこなってくれ。後、接近用武器の刃物は絶対携帯しておくように」
フリューベルは言い終わるとスクリーンとプロジェクターの片づけをはじめた。残された3人は納得できない顔でフリューベルを見ていた。

そして決戦の日を迎え4人は家を出る。目指す場所は戦場の地より最寄りの軍用基地、そこでほかのメンバーと合流し敵地へ乗り込む。

4人を見送ったエリスはリビングに戻るとテーブルに置かれた一枚の手紙に気がついた。
そこにはエリス宛に名前が書かれていた。
「わたし宛?」
エリスは手紙に目を通し終わると手足が震えていた。
そして立っていることもがきず椅子に座り込んでしまった。
「そ、そんな」
エリスが言葉にできたのはたったそれだけであった。
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