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REQUIEM館

第30話:目覚め

「せーやーーーーーーー」
気合いのこもった声がと共に鈍い音が響いた。
鈍い音の先には甲冑を着た兵がいた。
「たく、今時甲冑とは古すぎなんだよー」
さらにもう一度拳が甲冑にめり込む。
やよい達の死闘が繰り広げられる中、レーベルの外でも死闘が繰り広げられていた。
拳を叩きつけるのはとーるであった。
既に手加減する気もないらしく拳には雷光による光が夜の平野を明るく照らしていた。
とーるは勢いよく目の前の兵を地面に叩きつけると押さえつけ雷撃を直接流しこんだ。
そのまま更に縮地で飛びこむ。
標的になった兵が勢いよく剣を横に振った。
「あめーー」
とーるは地面に拳を叩きつけると、地面から砂埃が舞った。
兵の振った剣は砂埃を斬るだけで、とーるを捉えることはなかった。
そして兵は気付いていなかった。とーるが縮地を使い宙を舞っていた。
そして着地の瞬間とーるは背後に周りこみ兵の背中をいきよいく掌底を叩きこんだ。
「閃の型:虎鳳」
今までに何度も繰り出してきたとーるの得意技であり今回は雷撃のおまけ付きと凶悪じみた威力に兵は倒れることすらできず立ったまま気を失っていた。
「次は誰だ」
ふりむいたとーるの目には強い殺意がこもっていた。

ヒュッ
わずかに風を斬る音がした。
それから遅れて血があたりに飛び散っていた。
「貴方達、何が目的ですか」
声の主はエリスだった。しかしエリスの言葉にだれも反応せず黙々と前進してくる兵を見て諦めた。
「そうですか、話す余地もないということですね」
エリスは天の構えをとると兵の前にとびこんだ。
目の前の兵を斬ったように見えた僅か数秒後には向かってきた兵は地に崩れ落ちていた。
「これ以上、私は大切なものを失う訳にはいきません。そのためなら私は鬼となりましょう」
エリスの言葉には気迫と覚悟がこもっていた。

「レオンそっちいったよ」
「わかってる、そっちこそヘマするんじゃないぞ」
アイリスとレオンはとーる達が交戦している反対側の森で交戦していた。
とーる達の動きを察知し2人で単独で飛び出てきたのだ。
「まさか、このような時に攻めてくるとは予想外だよ」
アイリスは冷静にDEで敵の眉間を撃ち抜いた。
「相手も余裕がなくなってきたのかもな」
レオンはアイリスに背後からHEを投げた。アイリスが死角になりHEは夜の暗闇に消え落下地点で爆発し数人の兵が吹き飛ぶのが見えた。
「ビンゴー」
レオンは指を鳴らしながら身を伏せた。
刹那アイリスがDEだけを先ほどまでいたレオンの眉間の位置に合わせて撃ち抜いた。
どさっ
数秒遅れて草陰にいた兵が倒れた。
アイリスとレオンの二人の動きはまだ粗削りだが、ことコンビプレイは精錬されており兵達は近づくことができなかった。
「後どれくらいだ?」
レオンは周囲の気配を探りつつグレネードのピンを抜いた。
「残り10ですね」
アイリスとレオンはお互いを見ると一度頷いた。
レオンはグレネードを宙に投げると一気に投げた方に向って走りこんだ。
兵はそれを見てレオンに的を絞り襲いかかってきた。
「ここ」
アイリスは放物線を描くグレネードに向かってDEを撃った。
弾はグレネードを撃ち抜くと強烈な閃光を周囲に撒き散らした。
レオンは紙一重のタイミングで閃光を背に受けるポジションにつけていた。
兵はレオンに的を絞っていたため、閃光を直視してしまい動きを止めてしまった。
この一瞬のタイミングがすべてだった。
レオンが両手に握っていたのは一本の槍。
「絶纏:裂破一迅」
レオンは速度と体重をのせた突きを放ち正面の兵の首を突き飛ばすと兵の居た位置で体を屈めそのまま下段から槍を振り回し、一回転した後そのまま振り抜いた。
回転運動による槍の一撃はその場にいた兵を容赦なく吹き飛ばした。
「5、6、7・・・9人しかいないぞ」
レオンは人数を数えて首をかしげた。
首をかしげるレオンは振り向いて焦った。アイリスの後ろから密かに近づく兵の姿が目に入ったのだ。
「アイリス後ろだ」
兵が持っていた剣が問答無用で振り下ろされた。
しかしアイリスは背後から振り下ろされた剣を背負っていた槍で防いだ。
「おしかったですね。しかし、殺気を消せれないようでは3流もいいとこですよ」
背を向けた状態から瞬時に反転し勢いよく下から拳を振り上げた。
拳は兵の顎にめり込み僅かに宙を浮いた。
「流纏:裂空舞踏」
アイリスは瞬時に槍の中央を持つと柄と刃先の部分を振り胸の部分に強く打ちつけ、更に蹴り上げ浮いた体に渾身の突きを叩きこんだ。
兵はまるでボールのように地面をバウンドし木に叩きつけられた。
「おいおいやりすぎだろ」
レオンは飛んでいった兵を見た。どうやら死んではいないらしく痙攣しているのが見えた。
「4撃程度ではだめですね。まだ半分以上残っているのに」
アイリスは少しだけ落ち込んでいた。
裂空舞踏は合計10連撃の多段型で師のフリューベルはアイリスが4撃うった時間で10撃うってくるのをアイリスは知っている。
「お互いまだまだだな」
レオンの言葉にアイリスは頷いた。
「一応、周囲を散策して問題なければ引き返そう」
アイリスとレオンは森の奥へと入っていった。

闘技場内では無言の打ち合いが続いていた。
2人の攻防は既に100合を超えていた。
徐々にではあるが2人の腕や足に切傷が増えていた。
観客もその変化に気づいていた。
そして2人が間合いを取り直し構えたとき闘技場内に異変が起きた。

どーん
突如やよいの後ろから爆音と共にガラスの破片が落ちてきた。
フリューベルが見上げた先は来賓席であった。

「敵襲」
どこからか慌てた声が聞こえた。
「敵は少数だ、数でおせー」
外からは発砲音と剣がぶつかり合う音、そして悲鳴が聞こえた。
闘技場内もパニック状態に陥っており警備員がなんとか押しとどめている状態であった。
「ナナリとセツが心配だ。やよい、お前は医務室へ行け」
フリューベルはやよいの方を見た。
やよいも、迷わずうなずくと即座に門の中へ走って行った。
「フリューベル殿」
呼ばれた方に視線を移すとそこにはフォードがいた。
「闘技場の外は私の部隊で食い止めます。来賓席に執行者が向かったと情報が入っています。」
フリューベルはフォードの言葉を聞くや走り出した。

来賓席では既に大半の人間が殺されていた。
僅かに生き残っていたのは先の会議でセツ達と対立していた男と、それを庇うかのように足下に血だまりを作りつつも小太刀を構えるリオがいた。
「くっ」
リオは既に限界に達していた。それでも気力だけで立ち目の前の敵をにらみつけていた。
「いいねー、その顔を絶望に染めたくなるね」
リオの正面に立っていた男は手にしていた剣を振りおろした。
リオはそれを2本の小太刀で受け止めようとしたが刃が根元から折れそのまま吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
リオは体を引きずるように立ち上がり尚も素手で構えをとった。
「むかつくなその目、目障りださっさとしんでもらうか」
男は剣を振り上げた。
(みんなごめん、私はここまでみたい)
「死ね」
男の剣が振り下ろされた。よけることができないリオにとって止めの一撃であった。
しかし、リオを襲うであろう衝撃がいくら待ってもこなかった。
恐る恐る目を開けると、目の前に一本の槍が見えた。
その槍は先ほどまで下の闘技場で振るわれていた物と同じものであった。
「てめー、疾風」
リオには男の顔が憎悪でゆがんでいるのが見えた。
男は後ろに飛び下がりにらんだ。
フリューベルは男を無視してリオを見た。
「相変わらず無茶するな。何年たっても変わらないな」
フリューベルは苦笑いを浮かべた。
「え!」
リオはフリューベルが何を言っているのか理解できなかった。
「おいこら、俺を無視すんじゃねー」
男の顔は赤くしていた。
「少しだけ我慢できるか?」
リオは動揺していたがなんとか頷いた。
「おいこ」
「うるせー」
部屋の中が一瞬で凍った。
「俺の女をここまでいたぶってくれたんだ。覚悟はできてるんだろうなホウキ頭」
フリューベルの言葉に男は頭の中で何かが切れた。
「しねやーーーーー」
男はおもいっきり剣を振り上げフリューベルに突進した。
フリューベルは男の間合いに入っても動かない。
(とった)
男は確信した。この距離ならいくら早くても槍でふせぐことは間に合わない。
そしてフリューベルに剣が当たる瞬間フリューベルがつぶやいた。
そして男の剣は次の瞬間宙に弾かれ、男の後ろへと飛んで行った。
一体何があったのかわからなかった。しかしフリューベルの右手は槍を振り抜いた格好をしていた。
「我は疾風なり。我に名は必要とあらず。全ては風と共にあり我を導くであろう」
フリューベルが呟いた言葉の意味はわからなかった。しかしリオは悟った、それが何らかのキーとなり抑えていた何かを解放したのだ。
「一槍一陣」
フリューベルは振り抜いた槍を両手で持ち全力で振り下ろした。
何の技でもないただの上段斬りであった。
しかし2人は何が起こったのか分からなかった、否一人は既に壁まで吹き飛ばされていた。
止めを刺そうとフリューベルが一歩前に踏み込んだとき目の前にフリューベルと瓜二つの顔をした男が現れた。
「まさか狂乱がここまで一方的にやられるとは」
少し驚いた顔をしてフリューベルを見るがフリューベルは全く表情を変えなかった。
「オリジナルのあんたに会うのは初めてか。おれはジン、あんたの弟とでも言っとこうか」
ジンは男を担ぎあげながらもフリューベルから視線を外さなかった。
「次会うときは俺があんたを殺してやるからな」
ジンは勢いよく廊下を走って消えていった。
フリューベルは追わずにただそれを無言で見送った。
「リオ手当をするから少し我慢してくれよ」
フリューベルはリオを抱き上げて医務室へと歩き始めた。
「すまん、苦しい思いをさせたな」
リオは意識が遠のく中でフリューベルの声が聞こえた。

やよいは廊下を走っていた。医務室に入ってみたはいいが誰もいなかったのだ。
「まさかね」
やよいの中に不安が込み上げた。2人はつい先程まで極限の戦いをしていたのだ。
普通なら動けるわけがないのだ。侵入者に捕まって連れて行かれたのではないかと最悪の事態が頭によぎった。
やよいは2人を探すように絶えず走り続けた。途中十数人の侵入者が襲いかかってきたが、一瞬で壊滅させていた。傍から見れば暴走するトラックがそのまま人を跳ね飛ばしたようにも見えた。侵入者は天井や壁に叩きつけられそのまま気絶していた。
カーン、グシャ
廊下の奥から音が聞こえた。しかも何か聞いてはならない音が聞こえたが無視して奥へと走った。
そしてやよいの目の前に2人の悪鬼もとい見知った人物がいた。
「病み上がりだって言うのに仕事をしないといけないのは辛いぜ」
ガン・・・グシャ
鉄パイプが命中しそのまま壁にたたきつけられる音がした。
「まったくだ」
ドス
太刀の峰打ちがめり込む音がした。
鈍い音が廊下に響く。
「ナナリ、セツ」
やよいの声に二人は顔だけやよいに向けた。
「やよい無事か」
ナナリの顔に安堵が浮かんでいた。
「それはこっちのセリフよ、医務室行っても誰もいないから焦って探したわ」
やよいは安心した顔をした後、少し怒った顔をした。
「悪い、こいつらが侵入してきたことに気づいて奥に行かせないよう防いでた」
ナナリは話しながらも目の前の敵を一人また一人と無力化していた。
「怪我とか大丈夫なの」
「あれくらいじゃびくともしないって」
セツの言葉にナナリはうなずいた。
「なーんだ、そうなんだ」
やよいはナナリに笑顔向けた。ナナリの顔に冷や汗が浮かんだ。
いやな予感がしたのだ。
「だ~からって、私を置いていくなーーーーーーーー」
やよいの握っていた。レイピアがナナリの奥にいた侵入者をきりつけた。
一瞬で7人が無言のまま倒れた。
「今度からはちゃんと声をかけてね」
笑顔のままナナリをみた。
ナナリはただうなずくしかなかった。
「女ってこえー」
セツはやよいに聞こえないようにつぶやいた。
ナナリも同意だったのか苦笑いを浮かべて頷いた。


レーベルの混乱は1日で治まった。
被害は少なく拠点を攻撃する日程が少し遅れる程度の被害だったようだ。
そして、とーる達5人とフリューベル、セツはセツの家の居間にいた。
会議室で毎日合っているように報告をしていた。ただし一つの異常事態を除いて。
「そうなると、アビッサルも全勢力で迎撃に出てくる可能性があるな」
セツの言葉に皆がうなずいた。
「とりあえず次の拠点は2ヶ月後と決まった。それまでに部隊の再編とかしてくれ」
セツは全員の顔を見渡そうとして一点で止まった。4人もセツの視線が何を意味しているのか気づいていたが何も言わなかった。
セツの視線はリオの顔を見た後少しだけ上に向けた。
「お前ら何やってんだ」
セツの視線はフリューベルを捉えた。
「ん、困ったなどうしよっか」
フリューベルは顔を真っ赤にしていた。
フリューベルは普通に椅子に座っていた。それは良かったのだがフリューベルの膝の上にリオが座っていた。
しかもリオは思いっきり幸せそうな顔をしていた。
当事者とセツを除く4人は直視できずこの微妙な雰囲気を受け入れていた。
「まともに話を聞く気がないだろ」
セツのこめかみがピクピクと震えていた。
「いや聞く気はあるぞ」
フリューベルは真っ赤な顔のままセツを見た。しかしそれはセツの怒りを倍増させることにしかならなかった。
「だったら2人とも普通に椅子に座れや」
ダンとテーブルを叩いた後二人を指した。
「いいでしょ。私たち付き合っているんだから」

「へ?」
「は?」
「えーと」
「・・・」
「マジで?」
5人は耳を疑った。強烈な暴露に反応ができなかったのだろう。
「マジマジ」
リオは笑顔で答えた。
「ベルさん本当ですか?」
とーるが半信半疑で自信なさそうに聞いた。
フリューベルは無言で頷いた。

・・・


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
5人の絶叫がレーベルに響いた。

フリューベルは渋々状況を説明した。
「てことは、ベルさん記憶が」
「ああ、戻ってる」
とーるの言葉にフリューベルは頷いた。
「いつからだ?」
「少し前だな。漆黒とやりあった後意識が戻った時には思い出していたな」
フリューベルは少しだけ考え込むようだった。
「本当に良かったです」
「エリス、悪かったなあんな手紙残して色々と迷惑をかけた」
エリスは少し驚いて首を横に振った。
「気にしないでください」
フリューベルは頷きセツを見た。
「セツ、今まで黙ってて悪かった」
フリューベルは申し訳なさそうな顔をした。
「気にすんな、記憶が戻ろうが、戻るまいがお前は俺達の仲間だ。それよりもこれからも頼むぞ」
「ああ任せてくれ」
フリューベルとセツはお互いを真っ直ぐ見ると少しだけ笑みを浮かべた。
「ぅーーーーー」
フリューベルの顔が横に伸びた。
「いててててて」
「私を無視するなー」
リオが抗議の目でフリューベルを見た。
「無視はしてない。皆に納得してもらったんだからいいだろ」
フリューベルは困った顔をした。
「私と皆を納得させるのどっちが大事?」
リオは涙目でフリューベルを見た。
「どっちが大事って」
フリューベルは完全に動揺していた。
「私のこと嫌いなんだ」
リオは涙目でじーっとフリューベルを見る。
「そ、そんな訳ないだろ。リオを嫌いになるとか絶対にないから」
フリューベルの言葉に5人はため息をついた。
「じゃあどっちが大事?」
リオは視線をフリューベルに向けたまま先ほどの質問をした。
フリューベルの額に冷や汗が浮かんでいるのが見えた。
「リオだな」
フリューベルは真っ赤な顔で答えた。
リオは涙目だった顔からして笑顔へと変わった。
そのままフリューベルの胸に顔をうずくめた。
フリューベルも満更でない顔をしてリオの頭をなでた。
「フリュをここまで手玉に取るとは恐るべし」
「というかリオって元々こんなんだったか?」
「ため込んでた感情が爆発したのでしょう」
「いいなーナナリ、私もあれしたいな」
「頼むから勘弁してくれ」

7人は心の底から笑っていた。一つの希望が実現し失ったものを取り戻した彼らに本当の笑顔が戻ったのかしれない。
一時とはいえ彼等は穏やかな時間を過ごしていた。


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第29話:激闘

拠点攻略から一夜明けてレーベルでは軍法会議が開かれていた。
「それで堕天使の処遇についてだが」
セツ達から見て向かい側に座る一人の男が口を開いた。
「彼女は先の戦いで洗脳が解けている。今後はこちらの力になると約束をした」
セツは会議に集まっている者全員を見渡しながら説明をする。
「だが洗脳が解けたかどうか判断するには早急すぎないだろうか」
「確かに、判断材料が不足している中での決断は危険だ」
セツ、ナナリ、エリス、リオ、とーるの5人が説得を試みようとするがあまり効果がないようだ。
「攻勢の今、不安要素となりうる者を戦場に出すのは士気を落とすうえ危険なリスクを背負うことになりますぞ」
男の言葉に部屋にいた半数近くの者が首を縦に振った。
(まずいなー、このままだと押し切られるぞ)
「フリュ、何か意見というか打開策ない?」
セツはフリューベルの腕を肘でつつきながら小声で話しかけた。
フリューベルは仕方ないといった表情をして立ち上がった。
「まず集まった方全員に聞きたい」
フリューベルの言葉にその場にいる全員の視線が集まった。
「まず、現在私が知っている限り12の執行者のうち4人までが確認できている。漆黒、ジン、イージス、そしてやよい。そのうち、やよいはこちら側につくといっています」
セツ達も頷いた。
「そして現在11人の執行者に対抗できるであろう者はこちらは俺を含め僅か5人です。というのもこれは元々異能者といわれる力を持つ者でないと対抗できないからです」
フリューベルは周りの賛同があろうがなかろうが話を進める。
「今のままですと間違いなく犠牲者は相当な数を出すでしょう。もちろん俺達も該当します」
フリューベル言葉に全員黙り込んでしまった。事実フリューベルも何度か死の淵を彷徨った経験がある。
「この状況で、対抗できる者が増えるのであれば少々の危険は覚悟は必要だと思う。幸いやよいはナナリと面識があるし、彼を慕っている。セツとナナリが責任もって管理するのを約束の上で戦力の当てにしてみてはどうだろう」
フリューベルの言葉は的を射ていた。執行者が出てくると兵法など紙屑も同然のように部隊が壊滅に追い込まれる。それに対抗できるものがこちらが少ない現状、対抗できる者が増えることは貴重なプラスにつながる。
「しかしですな、堕天使が奴らに対抗できる証拠がありませんぞ」
またしても男は対向してきた。実はこの男、部隊長を務める程の実力者でかなりの堅物である。さらにフリューベルの口から出た異能者の事を毛嫌いしている。
「それでしたら証拠をみせれば文句はないですね」
「うむ、そうだ」
フリューベルの質問に即座に答えうなずいた男を見てフリューベルは僅かに口を釣り上げた。
「でしたら、実際に俺と彼女で試合を行いましょう。そうですね1対1では微妙だから俺とセツ対ナナリ、やよいの組み合わせで実戦形式の試合をしましょう」
さすがにこの提案に周囲がざわついた。無論セツやナナリ達も驚き言葉を失っていた。
「確かに、堕天使たちがお前たちと同レベルのようなら私も認めよう」
「では早速準備を始めましょう。あと審判はそちらで決めてください。くれぐれも公平に裁定をお願いします」
フリューベルは言い終わるとそのまま部屋を出て行った。
「おい、フリュ待てよ」
セツもあわてて出て行った。それを見たナナリ達3人も一礼すると後に続いた。
「ちっ、忌々しい」
男の呟きは誰の耳にも届かなかった。

「フリュ、お前なんて無茶な要求をするんだ。もし俺たちが勝ったら彼女の処遇はさらに悪くなるぞ」
セツはフリューベルの服をおもいっきり引っ張った。
「気づいてるだろ。あのおっさん普通には納得しねー。ならば他を納得させ文句を言わさない方法はこれしかない。あとはあいつらの力量次第だ。お前も手加減なんて考えるなよ」
フリューベルはそのまま階段を上がりセツの視界から消えていった。
「何かあるな・・・、全然わかんねー」
セツは苦笑いを浮かべた。


日が暮れた頃闘技場の熱狂は最高潮に達していた。
「皆さんお待たせしました。本日のメインイベントーーーー。本日の最後を飾るに相応しいカードとなりました。1ヶ月前の壮絶なる死闘を演じたレーベル2強に挑むはナナリとやよい。ナナリはフリューベルとの旧友であり相当の実力者と聞き及んでいます。やよいは我らの宿敵アビッサルの執行者12人の一人。今回の戦いは彼女の実力が本当であるか証明するために組まれた模様です。さぁ一体どんな死闘を演じてくれるのでしょう。それではご登場願いましょう」
解説者の声と共に両サイドの門が開いた。そこからまず登場したのはフリューベルとナナリ。2人は完全に戦場での姿であった。
そして遅れて出てきたナナリとやよいもそれぞれ戦場での姿と同じであった。がやよいの得物が違っていた。
「やはりな」
フリューベルは少し楽しそうな感じでやよいを見た。
フリューベルの目はやよいの手に握られた得物レイピアが映っていた。
「合図はなしだ、最初から全力で来いよ」
セツは一歩後ろに下がりフリューベルの斜め後ろで構えをとった。
「言われずとも本気でいかせてもらいます」
やよいは突きの構えを取りフリューベルを見た。
「セツ、覚悟」
ナナリは言い終わる前に飛び出した。
太刀を下段から振り上げた。
セツはそれをバックステップで避け槍を突き出した。ナナリは振り上げた太刀を即座に振りおろし迎撃する。
ナナリとセツの攻防にフリューベルはタイミングを見て飛び込んだ、完全にナナリの硬直を見切っていた。フリューベルの速度を乗せた一撃がナナリの胴体めがけて突き出された。
「あなたの相手は私です」
やよいは瞬時にナナリの前に立ちはだかると、フリューベルの3連続の突きをすべて突きで迎撃した。
まさに神業であった。少しでもずれたら後ろにいるナナリごと突きぬかれていたであろう。しかしやよいには自信があった。フリューベルの狙いは精度があるため狙いさえ分かれば反撃はできなくても守ることは可能だと考えた。
「やるなっ」
フリューベルはさらに速度をあげ突きからそのまま体術混じりの連撃にもちこんだ。
やよいは右に左に避けながら少しずつナナリの間合いから離れ誘導した。
フリューベルの間合いからナナリが離れると同時にセツはナナリに切り込んだ。
「あっちはおっぱじめたな。俺も手加減無しで行くから死ぬなよ」
「セツ、その言葉そっくり返してやるよ」
セツとナナリはお互いの得物の先端が届く距離での牽制を放つ。
牽制とは名ばかりの一つ一つが必殺の威力を纏っていた。
「流纏:疾空旋」
フリューベルが槍を横になぎ払った。通常では届かない距離を一足で詰める。射程に入る前に体を捻り回転の力を利用し槍を振り出した。 当たれば間違いなく骨の一本や二本は軽くおれるであろう。
やよいはレイピアを一度後ろに下げた
「グロッシュ」
傍から見れば何が起こったか分からないが、フリューベルの槍が押し負けていた。
やよいはフリューベルの槍の先端と中心部に合計6発の突きを入れていた。
まずフリューベルの槍を4発目で相殺し残り2発で押し返したのだ。
「速いな。ならば」
フリューベルは弾かれた槍をそのまま力任せに振りおろした。
「くっ」
やよいは即座に横に跳び寸での所でかわした。
やよいは横に跳躍した反動で動きが止まってしまった。
フリューベルはその一瞬を見逃さなかった。
フリューベルは完全に自分の周囲の流れを自分の物にしていた。
1対1の戦いにおいて場の流れを見方につけることは重要で一度流れが傾くと普通ならそこで勝負がついてしまう。フリューベルも流れが自分に傾いていることを察知していた。
「疾風一陣」
フリューベルは全力の縮地で切り込んだ。やよいの目にはまるでフリューベルが消えたように映っただろう。そうこの時点で勝負はついていた。
フリューベルの槍がやよいの体を貫きそのままやよいの背後に周りこんだ。
完全に必中の一撃であった。しかしやよいの体からは一滴たりとも血が流れていなかった。
そして更にフリューベルの表情が険しくなっていた。
「手ごたえがなかった。何をした」
フリューベルの声を聞いた。やよいは微笑を浮かべながら答えた。
「秘密。とはいえある程度は予想はできるでしょ」
やよいは2、3度ステップを踏むとレイピアを突き付け構えた。
「やられっぱなしっていやなのよね。お返ししなくちゃ」
2人の間にあった流れは元に戻っていた。

「ぐぅぬぬーーー」
「うおーーーーー」
セツとナナリが鍔迫り合いで互角の勝負をしていた。
力と力の交錯、周囲から見てもその差は互角。ましてお互い得物が長物なため見た目はかなり派手であった。しかし鍔迫り合いに入る瞬間の太刀と槍の位置関係や捻りを加えたりと実際には相当な牽制を2人は出していた。
フリューベルとやよいは速度と技術を重視し手数と絶えず動き続けることで翻弄している。対してセツとナナリは力と技術をメインに一撃とカウンターを重視している。
どちらが有利とか優れているということはないが2つのスタイルには接点があった。
それは技術、そして動体視力等がそれにあたる。
そしてフリューベルを除く3人は気づいていないが、今や執行者と同等のレベルに達していた。
「絶纏:破斬槍」
セツはナナリの懐に踏み込み柄と刃の繋ぎ目を狙った。相手や相手の得物を狙う技で1撃目の突いた場所と全く同じ場所に2撃目をたたきこむ技である。
セツの動きをナナリは捉えていなかった。だがセツは自分から攻めていながら当たるとは思っていなかった。
「水霧幻想(スイムゲンソウ)」
セツの突きが太刀に接触する寸前で太刀がとおのいた。そして踏み込んできたセツとの接触も体を捻りそのまま受け流した。水霧幻想とは相手の力を受け流す時に、相手が霧を斬る感覚と幻を見ているのではと錯覚させることからつけられた。
「しぶてーな、さっさと寝てくれたら助かるんだが・・・相変わらずの非常識な感覚をお持ちのようでそうはさせてくれないか」
セツは舌打ちしながらナナリを見た。
「その無尽蔵とも思える体力、セツの方が非常識な気がするぞ」
セツはナナリの倍以上動き回っているのに未だに平気な顔で動いている。ナナリは動きはあまりないがセツの攻めを完全に受け流していた。
「ナナリここはお互い一発勝負で蹴りをつけないか。実際に必要な勝負は俺達じゃないんだからな」
セツが槍をおろしナナリを見た。
「確かに」
セツはナナリがうなずいたのを見て構えた。ナナリも同じく構えをとった。
セツの構えが今までと違った。ナナリも一度見たことがあった。
(血眼か、ベルに使ったあれか)
ナナリはセツの目の色が変わっていることにも気付いた。
(やるしかない)
ナナリの中で今まであった迷いが消えた。ただ強い決心が前面に出ていた。
その証拠にナナリの体から冷気が流れ出ていた。
「ほー、既に物にしたのか。さすがフリュが認める奴らだ。異常体質とはお互い似た者同士だな」
セツはにやりと笑った。
ナナリも顔には出さなかったが笑っていた。
「絶纏:絶廻纏滅(ぜっかいてんめつ)」
「白氷爆砕」
二人の踏み出したタイミングは同時であった。
お互い一撃にすべてをのせ渾身の一撃をぶつけた。
ナナリの振り出し太刀は弧を描いきながら、セツの槍は一直線に向かって振り出された。
双方の刃先が触れお互いの位置が入れ替わった。
「見事だ。おれの負けだ」
肩から血が噴き出し膝をついたのはセツだった。
セツの槍が砕けていた。どうやらナナリはセツの槍を砕きながら斬りかかったようだ。
「相内も悪くない」
ナナリは呟くと前に倒れた。よくみると横腹あたりから出血していた。
「得物まで破壊された時点で負けだっつーの」
セツは仰向けになって倒れた。そのまま、動かなかった。
『両者、気絶戦闘不能とみなし引き分けです』
司会者の言葉が場内を響いたが誰も声を上げなかった。
まさかレーベルの2本柱の一角が倒れるなんて誰も予想していなかった。
しかし、実際は互角の勝負を演じていた。認めるしかない。セツとナナリが同格であると。
そして、場内にいた者が全員の頭によぎったのが目の前で死闘とも呼べる戦いを繰り広げている2人が互角であった。
誰が予想できたであろうこの展開。まさかフリューべルまでも負けてしまうのではないかと思ってもおかくしくない。
フリューベルが足を止めた。やよいも気づき距離をおいた。
「2人をつれてけ」
セツとナナリがいる場所へ視線を向けた。
救護班がフリューベルの言葉に反応して飛び出してきた。担架にのせられて闘技場から出て行った。
やよいは少し心配そうな顔でそれを見守った。
「あの二人のことだ大丈夫だ」
フリューベルは構えなおした。
「そうね、今は自分の事を考えるべきね」
やよいも構えなおした。
「フリューベルさん、あなたの本気を見せてください」
フリューベルの顔に動揺が走った。
「今の貴方になら私は勝てます。しかし貴方の本当の力はこんなものではないでしょ」
やよいの言葉にフリューベルは目を閉じて聞いた。
「わかった。そうだな今のおれに勝っても意味がないか」
フリューベルは大きく息を吐くと閉じていた目を開いた。
やよいは息をのんだ、目の前にいる相手は圧倒的な存在感を纏っていた。
「俺は、とーるやナナリみたいに具現化する異常体質ではない」
やよいの目の前からフリューベルが消えた。
「そして今のあいつらではまだ俺には届いていない」
やよいのはるか後ろにフリューベルがいた。
「移動系ですか。縮地とは違いますね」
やよいの背中に冷汗が流れた。
「俺が疾風と言われた本当の理由を教えてやる」
やよいは動かなかった。否動いたらその瞬間終わるだろう。
しかし恐ろしいとか怖いといった負の感情はなかった。
やよい自信冷静な自分にすこし驚いていた。
だがそれを表に出さずフリューベルを見た。
「執行者の中で誰もが認めた疾風。あの漆黒が認めた男。今あなたの目の前に立てること、光栄に思います」
やよいは一礼をすると。
軽く横にステップを踏んだ。
フリューベルはその時のやよいが2重になって見えた。
「俺の目がおかしいのか」
フリューベルは気付いていた。
「さっきも言ったけど。わかってて言ってますね」
やよいはもう一度ステップを踏んだ。
やよいの姿が今度は3重になって見えた。
「幻影かそれも高密度。それだけじゃないな何かあるな」
「それはこれからお見せします」
2人はお互いを見て笑った。
それは全力を出すに相応しい相手を見つけたことに対する純粋な喜びであった。
「ではいざ」
二人の本当の戦いは今始まった。



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第28話:白き虎の覚醒

「アイリス右行ったぞー」
アイリスはその言葉に従い右の敵に切り込んだ。
そのまま、DEを取り出し撃ち込んだ。
「どかぬというのなら私が相手してやる。死にたい人から出て来なさい」
アイリスはさらに左手にDEをとりだした。
「すでに本気か。なら俺も負けてられない」
レオンは両手にグロックを取り出し敵の背に一瞬で回りこみ撃ち込んだ。
「僕の名はレオン、レーベルに敵対すべき者は全て敵とみなす。全力でこられよ」
すでに白兵戦となった戦場で若き戦士は踊った。それは力押を否定する戦場の舞踏であった。

そんな激しい戦いとは別にもう一箇所でも少人数同士とはいえ激しい戦いが始まっていた。
「ナナリ、お前は先に進め」
セツの言葉にナナリは少し躊躇した。
「いけ、いって答えを出して来い」
とーるの声が後押しをする。
「そうです。ナナリさん、後悔だけはしてはいけません。行ってください」
エリスは目の前に敵を切り倒しつつ言った。
「分った、皆ありがとう」
ナナリは一度頭を下げた。
「やぁぁぁぁぁぁ」
まだあどけなさの残る声と共にナナリ達の前の敵が吹き飛んだ。
「今よ、ナナリいって」
リオの声が聞こえた。ナナリはそれを合図に真っ直ぐ駆け抜けた。途中抵抗する敵を問答無用で切り倒し奥へと進んだ。
「さて、大掃除と行くか」
セツは銃を投げ捨て槍を取り出した。それを合図に全員が得物を持ち替えた。
「ねぇ、賭けをしない?」
リオが突拍子もないことを言った・
「なんですか?賭けって」
エリスは敵の銃撃を捌きながら返してくる。
「誰が一番敵を倒すか勝負するの。一番倒した人、以下全員に一つだけ命令できるの」
リオは小悪魔っぽい顔をしながら言った。その顔には活の自分という自身があった。
「おもしれー、乗った。んじゃ俺が攻勢に移った時を合図に開始だ」
とーるの言葉に全員がうなずいた。
「それじゃー、おっぱじめるかーーーーーーーーーーーーー」
とーるの気合のこもった声に3人が散り散りに展開した。

既にアイリス達の指揮する外の部隊と基地内部のセツが指揮する遊撃部隊の勝利は確定していた。
フリューベルの作戦は外と内の両面突破の内容は完璧だった。その内容が物語るとおり敵の被害は甚大でこちらの部隊の被害は最小にとどめられていた。
「こちらは終わりましたよ」
アイリスは銃をしまいレオンがいたほうを見た。
「こっちも終わったよ」
レオンは既に他の部隊の援護へ向かっていた。
アイリスはそれを見送った。
「それで何故あなたがここにいるのですか?漆黒さん」
アイリスは視線を岩の方へ向けた。
岩の影から一人の男が姿を現した。
「ほう、中々やるな。お前が疾風の愛弟子か、さすがというべきだな」
漆黒は表情を変えずにアイリスを見ていた。
アイリスは腰に携えたDEに手をかけいつでも撃てる状態であった。
「お前がやる気なら構わんが、今のお前では俺には勝てんぞ。まぁ殺る気はないから安心しろ」
漆黒の表情が変わらないためアイリスもそれが本当か計りかねていた。
「こいつを渡しておく」
アイリスの前に一つの筒を投げた。
「お前達が次にしかける拠点の詳細図だ」
「なっ、そのような事を信じろと言うのですか」
アイリスの声を尻目に漆黒は背を向けた。
「信じるかどうかは疾風に聞け」
そういい終わると漆黒は岩の影に消えていった。
「まてっ」
アイリスは追いかけたが、そこには既に人の姿はなかった。
「フリュさんに後で聞いておくとして、今は援護を」
「終わったよ」
アイリスの言葉を否定するようにレオンが後ろから歩いてきた。
「とりあえず全部隊に待機命令をだしといた。後はセツさん達が戻ってくるのを待つだけだよ」
レオンとアイリスはここから先にある基地のほうをみた。
(皆さん御武運を)

基地内部での激しい戦闘が行われている中ナナリは基地の最深部にたどり着いた。
「ここは?」
最深部には大きな筒のようなものが多数おかれていた。そしてその中を見てナナリは驚愕した。
「子供!」
ナナリは他の筒を見たがそこには年齢こそ違うが子供が入っていた。
「なんて酷いことを」
「酷いとは心外ですな」
部屋の奥から声が聞こえた。ナナリは声がしたほう見ると、3人の老人がいた。
「なっ、3賢者」
ナナリは驚きを隠せなかった。
3賢者、それは現代の国が機能しなくなった世界に秩序をもたらした存在。今ある企業の大半は彼らの手によって作り出されたと言っても過言ではない。
「お前達には分らないかもしれないが、これも世界のためだ」
一番右の賢者が言った。
「だからといって、子供達をこんな扱いすることは許されない」
ナナリは太刀を抜き構えた。
「やれやれ、これだから戦うことしかできない馬鹿は困る」
中央の賢者が小馬鹿にするようにナナリを見た。
「お前達はここで死ねーーーーーーーーーー」
ナナリは激昂し賢者に向かって走った。
しかしナナリの前に邪魔が入った。
「マスターに手を出すことは許しません、よって排除します」
抑揚のない声だが聞き覚えがある声がした。そう忘れるわけがない、どれだけ願ったであろう。
「やよい・・・」
しかし、やよいの目は光を映していなかった。
「きさまーーーーーーーーーー、やよいに何をした」
ナナリが今までに無いほどの怒声を吐いた。
「ほっほ、戦いに感情は不要。ならば消しても問題ないであろう」
左の賢者が愉快そうな声を上げた。
「くっ、やよい俺が分らないのか返事をしろ。お前の憎んでた敵だぞ」
ナナリの呼びかけも虚しくやよいは全く反応しなかった。
「やれ、そいつは我等の敵じゃ」
やよいは聞き取るやナナリに向かって斬りかかった。
ナナリは太刀でそれをはじき返す。
そしてそのまま一気に懐へ飛び込んだ。
「白氷一閃」
それはナナリがやよいが捉えることができなかった剣技ゆえにナナリも自身があった。しかし
「白氷の如く」
ナナリの太刀はやよいの剣によって阻まれた。しかもそれはナナリと同じ技であった。
「驚いたか、だが驚くにはまだ早いぞ」
不愉快な声が聞こえてきたがナナリはそれを無視してやよいを無力化することに全力を費やす。
1合目、2合目、3合目・・・
しかしナナリの太刀はことごとく阻まれてしまう。やよいの剣もナナリは撃ちかえし膠着状態のような攻防が続いた。
しかし、それは罠であった。
どん
「しまった」
ナナリの背中には壁があった。これでは太刀を振ることができない。
無言の剣が振りおろされる。
(一か八か)
ナナリは太刀をやよいの横に投げ右手で剣を挟んだ。
そう無刀取だ。しかしナナリも予想してたとおり完全に無力化はできず刀の起動をずらし受け流した。
そのままやよいの頭に回し蹴りを叩きこんだ。
吹き飛ばされたやよいを確認しつつ太刀を拾った。
(どうするべきだ、やはり斬るしかないのか)
ナナリは決断に悩んでいた。しかし状況は誰もが予想しない方向に動いた。
「ナナ・・リ…タ・スケ…テ」
立ち上がったやよいの目に僅かだが光が見えた。そしてその目から涙が零れていた。
「やよい、正気に戻ったのか」
「ダメ…コロシテ。モウイ…ヤダ、ダレモ…コロシタ…クナ…イノ…ニ」
途切れ途切れだがそれでもやよいの本心が篭っていた。
「ちっ、先の衝撃で洗脳がとけたか。だが」
賢者が何か取り出した。それは石であった。そうリオが今持っている石であった。
石が光を放つとやよいが今よりも更に呻きだした。
「イヤ、ヤメテ。ヤメテー」
やよいは頭を振り必死に何かを耐えていた。
「やよい待ってろ。今すぐ何とかしてやるから」
ナナリは太刀を賢者のほうに向ける。
「無駄だ。ワシ等を殺したとこでその女は元に戻らんぞ」
「何!」
それでもナナリは賢者との距離を詰めた。
「この石には特殊でな。なぜかは分らないが人を洗脳する力を持っている。そして石にはわしらが厳重に暗号化をしてわしら以外の命令を受け付けないようにしているのじゃ」
賢者の言葉にナナリは愕然とした。それでは救いようがない。
そして後ろから気配がした。
「ナナリ…コロシテ。アタシヲ…コロシテ」
悲鳴とも聞こえる声でやよいはナナリに斬りかかった。
ナナリはそれを受け止める。しかし先と違い反撃することができなかった。
「オネガイ…ナナリ…アナタノテ…デラクニシテ」
やよいの悲痛な声がナナリに突き刺さった。
「ふざけんなーーーーーーーーーー、誰が殺してやるか。誰が殺されてやるか。やよいお前は俺のものだ絶対に助けてやる」
ナナリの言葉は今まで以上に強い意志があった。それは奥にいた賢者がたじろぐ程であった。
「女一人助けれないなんて無力あのときだけで十分だ」
ナナリの体に異変が起きた。ナナリの体を冷気が覆っていた。
そうとーるが帯電体質という特異体質と同じくナナリも異常体質であった。ナナリの感情が沸点を超えたときにのみ発せられる。
「あああああああああああああああ」
ナナリは力任せに太刀をふった。
キーン
やよいの持っていた剣が吹き飛ばされた。しかもそのまま剣は氷つき地面に落下し粉々に割れてしまった。
「許さん、絶対に許さんぞー」
ナナリは悪鬼の形相で賢者に向いた。背後からやよいが小刀ナナリに向かって刺そうとした・
「ダメ…ナナリヨケテ」
やよいの声が聞こえたがナナリは振り向かなかった。
そしてナナリを刺すはずだった小刀はナナリの体を貫く前に砕けた。
「まさか貴様、白き虎の一族の末裔か」
賢者達は一歩後ろに下がった。
「おっと逃がさねーよ」
賢者達の後ろから男が現れた。それはナナリがよく知っている男であった。
「なっ、貴様疾風。どうやって中に潜り込んだ」
賢者は驚愕し恐怖に陥っていた。
「さて面倒なことはどうでもいい。よっ」
フリューベルは石を持っていた賢者の首をつかむと持ち上げた。
「がはっ、何をする話せ」
賢者の抵抗もむなしくフリューベルはびくともしなかった。
「お前達は罪を重ねすぎた。裁きの時がきたんだよ」
フリューベルはそのままナナリに向かって賢者を投げた。
ナナリもそれが何を意味するか理解していた。
「白王(ハクオウ)の名の下に・・・今裁きを」
ナナリは太刀を振り下ろした。
賢者は声をあげることもできず真っ二つに斬られ二度と帰らぬ存在になった。
「ナナリ、その石に思いを込めて叩き砕け。暗号はラーズフリード。古代語で永遠の自由だ」
ナナリは目を閉じ石を拾い宙に投げた。そして色々なことが思い浮かんだ。
やよいのこと、記憶なくしても仲間として行動したフリューベル、どんな困難に直面しても諦めないとーる、人々を魅了する笑顔を持つ優しきエリス、そして会ってまだそこまで時が経っていないのに自分を信じてくれたセツ。
(本当にありがとう皆、そしてこれからもよろしくな)
「ラーズフリード」
ナナリの強い言葉と共に石はきれいに砕け粉になり地面に落ちた。
それと共にやよいを蝕んでいた力が霧散した。
「あ、苦しくない・・・」
やよいは自分の体をあちこち確かめるが痛みもなかった。
「やよい、よかった。ほんとによかった」
ナナリはおもいっきりやよいを抱き込んだ。
「痛いよ。痛いってば・・・ナナリ泣いてるの?」
やよいはナナリが声を殺して泣いていることに気づいた。
「ごめんな、迎えにいってやれなくて。苦しかったよな、ごめん」
ナナリは何度も謝った。
「もういいよ。あたしは怒ってないから・・・ね」
やよいの声を聞きナナリは何度もうなずいた。
「ただいまナナリ」
やよいは笑顔でナナリを見た。そしてナナリも笑顔で返した。
「おかえりやよい」
今2人の苦しく長い戦いは2人の最高の笑顔で幕を閉じたのであった。
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