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REQUIEM館

第34話:思いを胸に

やよいはよく知る人物と対峙していた。

これも運命なのかそれとも必然なのかどちらにしろ皮肉な話であった。
「やはりと思ってはいたけどジン貴方なのね」
やよいはレイピアを抜いて構えた。
「最後に聞きたい戻ってくる気はないのか」
ジンは下を向いたまま話しをする。
「戻る必要がないそれに私には帰るべき場所ができてしまったわ」
やよいは一片の迷いもなくジンを見る。
ジンも説得は無理とすでに諦めていた。だがそれでもジンは説得を試みた。しかしそれも無駄に終わったようだ。
「あなたとは戦いたくないわ、おとなしくそこをどいて」
やよいはレイピアをジンに突きつけて威圧する。
並の人間であればその威圧で気絶するほどの殺意を込めていた。
「仕方ないか、こうなることは必然であったと納得するか」
ジンは腰につけていた鉤爪をつけるとやよい以上の殺気を放った。
「他の奴が手を下すくらいなら俺があんたをこの場で消してやる」
ジンは一瞬でやよいの前に飛び込むと右手の鉤爪を振り上げた。
「くっ」
咄嗟のことに迎撃ができなかったが紙一重でかわした。
「ちっ、速い」
ジンも初手でけりをつける気だったようで避けられたことに舌打ちをした。
やよいはジンの爪の一撃をタイミングよく避ける。
2人の武器の特性上やよいは受け止めることができないのだ。
何故なら2人の武器の耐久性に差があるからだ。元来レイピアは突きを主体とした戦いに特化している。ゆえに斬ることや鍔迫り合いには向いてないのだ。さらにジンの持つ鉤爪は手の甲から5本の爪が飛び出しており一本折れようともカバーができるのだ。さらに武器を挟んでねじる等工夫を入れれば耐久性の低い武器は簡単に破壊されてしまうのだ。
そういった意味ではやよいは最悪の相性といってもいいだろう。
だがそれは一般論であって彼女はその一般論を簡単に一蹴してしまった。
「ふっ」
突如やよいの体が沈む。
ほぼ同タイミングでジンの爪が弾かれる。
「なんだって!」
驚きの顔はすぐに苦悶の表情へと変わった。
やよいの突きがジンの肩を貫いていた。
「まだ続ける?今のあなたではフリューベルさんはおろか私にすら勝てない。無駄な戦いはやめてそこをどきなさい」
やよいの口調は先ほどまでの物とは違い命令する厳しい物へと変わっていた。
ジンは口惜しそうな目でやよいを見る。
「んなこと言って、はいそうですかと引くと思ってるのか」
ジンは先ほど同じように飛び込む。しかしやよいには既にその動きは見きっていた。
やよいが絶対によけれる位置に動き反撃に移ろうとした。
しかし、先と同じく爪の軌道が変わりやよいを襲ってきた。
やよいは大きく後ろに下がることでジンの攻撃範囲からのがれた。
やよいは冷静にジンを見て探りをいれているが内心焦っていた。
優位な状況に立っているはずのジンは厳しい表情をしていた。
(おかしい)
やよいはとあることに気づいた。
「ジン、あなたあれを使ったわね」
ジンの表情が少しだけ驚きの物へ変わったことを見逃さなかった。
「そうなのね、このままだとあなた死ぬわよ」
やよいは冷たい視線でジンを見た。
「そんなことは百も承知だ」
ジンは吐き捨てるように言うとやよいの間合いまで飛び込み爪を振り下ろす。
やよいは冷静にはじき返すとジンの腹部に蹴りを叩き込んだ。
「そう、あなたがそこまで覚悟しているなら、私も本気で行かせてもらうわ」
やよいの周囲を覆っていた空気が変わった。
やよいの背中にはフリューベルと対峙した時と同じ羽が現れた。
更に彼女の周囲からはとてつもない殺気が飛び出していた。
やよいとジンは同時に飛び出していた。
二人の攻防はほぼ互角、レイピアと爪のぶつかり合いは熾烈を極めていた。
二人とも少々の傷は無視するように紙一重でかわし反撃に移る。
二人の戦いは修羅であった。
どちらかが倒れるまで決して終わることがなく続く、正に修羅の境地であった。
そしてジンはここにきて能力者としての力を初めて使った。
「風刃鷲爪」
やはりフリューベルのクローンだけあって風の能力を発揮していた。
ジンの爪は確実にやよいを捉え、多数の角度から貫いてきた。しかも衝撃はレイピアを貫通してやよいの腕を斬りつけた。
やよいも幻惑で翻弄しつつもジンの肩を貫いた。
お互いにダメージが蓄積し動きが鈍くなっていたが、それでも攻撃の速度は当初と同じかそれ以上に加速していた。
「はぁぁぁぁぁ」
やよいが今まで以上に大きく前へ踏み込んだ。
「幻想舞踏」
速さと幻惑の境地と言えばいいのだろうか、レイピアの突きが瞬時に12本の矢となってジンに襲いかかった。
「うおーーーーーーーーー」
ジンは気合いと同時にこれを爪ですべて迎撃する。
だがやよいの方が上であった。
「幻想の世界に終わりはないわ」
ジンの背後から声がした。
しかし既に時遅し。やよいの突きが完全にジンを捉えた。
両肩に4発腕に4発、足に4発にレイピアが突き刺さった。
そのままジンの後方へと走りぬけた。
突かれた場所から血が噴き出したがそれでもジンは立っていた。
「手加減しやがって。本気で撃っておけば即死だったのに」
ジンはやよいの幻想舞踏を受けた直後片方の鉤爪を外して投げていた。
やよいは幻想舞踏により隙ができていた。
だがジンの最後の攻撃は届かなかった。
「終わりです。大岩剣獄」
やよいが走り抜けた地面から柱が飛び出した。
やよいの象徴は「地」、後に後に「セイクリッドグラウンド」と呼ばれその力は強大であったこと言われる。また「セイクリッドフォーリンエンジェル(聖なる堕天使)」とも呼ばれることになる。
やよいも大技の連発で消耗が激しく肩で息をしていた。
「どうやら時間のようだ」
ジンの体が赤黒く染まり始めていた。
その進行速度はゆっくりであったが確実に彼を蝕んでいた。
「何故ジューダスペインを使ったの。あれは一時的に力を増幅できるけどその先は死しか待っていないのよ」
やよいは怒りに任せて叫んだ。
「どちらにしても俺は長くなかった。クローンとしての寿命はほとんど残ってなかった」
ジンの全身が赤黒く染まる。
「それならせめて最後くらい自分で選ぶくらいは許してほしいな」
やよいはジンの手を握った。すでに終わりが近いのか体温が下がっていくのが分かった。
「最後にこんなこと言いたくなかったけど、俺お前のこと好きだった」
やよいも薄々とは気づいていた。ジンは今まで何度もやよいを戦場から助け出していた。
また執行者という枠組みの中で、やよいが唯一気を許していた相手でもあった。
それはジンも同じであった。
しかし今のやよいはそれを受け入れる訳にはいかなかった」
「ごめんね、私にはもう好きな人いるから答えること出来ないよ」
ジンの手に涙がこぼれ落ちる。
しかし既に感覚がないのかジンはそのことに触れなかった。
「そうか、はは生涯最初で最後の告白は振られたわけか」
ジンの目が光を映さなくなっていく。
「やよい、俺からの最後のお願いがあるけどいいか」
「答えれる範囲でなら何でもいいよ」
やよいの言葉にジンはほほ笑んだ。
「しあわせ・・・に・・な・・・って・・・くれ・・・よ」
ジンは最後まで言い終わると目を閉じた。
そして二度とこの世に戻ってくることはなかった。
やよいはそっとジンの手を床につけて手を離した。
一度目をこすって涙を拭い立ち上がった。
「約束守って見せるから」
やよいはジンを見て誓うと背を向け部屋を後にした。

やよいの目に迷いはなかった。
(私は負けない!)
今、一人の天使が思いを胸に羽ばたく!
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第33話:風が舞う時

アビッサル内部での戦闘が始まると外の戦闘も激化していた。

「レオンそっちはどうですか」
アイリスはスナイパーライフルで500m先の敵を狙撃しながら周囲の状況分析をしていた。
「敵の数は多いがなんとかなりそうだな」
レオンの言うとおり戦況はレーベル側に傾いていた。
IDUの軍が合流後数でほぼ五分となった今、勢いのあるレーベルが有利におしていた。
「あとは師匠達がなんとかしてくれるはず」
レオンの言葉にアイリスも頷いた。


フリューベルは部屋のドアを開け静かに中に入った。
(異様な静けさだな)
フリューベルはさっきから嫌な違和感を感じていた。
足を止めるわけにもいかず前に進んだ。
「誰だ」
フリューベルは背後からの僅かな気配を読み取り振り向いた。
「ばかな」
フリューベルは強烈な動揺を覚えた。
「久し振りだな。最後に会ったのは10年近く前か」
緊張のない声がフリューベルに向けられるがフリューベルの顔は一層険しくなった。
青髪で澄んだ青い瞳、年齢は30前後といったところだろうか。
「何故、あなたがここにる」
フリューベルは声を荒げた。焦りを振り切るためにあげた声には僅かに震えが混じっていた。
「理由はない、強いて言えば義理かな」
男は右手に持っていた槍を構えた。
フリューベルも同じく構える。
二人の構えを見た者がいれば誰もが口を揃えて言っただろう。
『全く同じ』
「さあ、この10年で師を超えるだけの力を手に入れたか見せてみろ」
男の声は先ほどまでと違い強い意志が混ざっていた。
フリューベルは一つ大きく深呼吸をし動揺をかき消した。
「流纏の師にしてフェンリル最強のソル、いざ」
そう男の名はソル、かつて傭兵フェンリルの団長にしてフリューベルの師、その強さは一人で千人の傭兵集団を蹴散らすなど数々の異名と実績を残した歴史上最強の男であった。
勝てる確率などほぼ0に等しい存在、漆黒がNo2になったのは目の前にいる彼がいたからだ。
2人の槍が自分の間合いを作るためにぶつかり合う。初手は互角、さらに連撃を重ねる。
既にその速度は神速の領域。
繰り出す槍の軌跡は見えず、ただ槍がぶつかりあった場所から火花が散っているのがわかる程度であった。
フリューベルの突きに合わせてソルも突きを繰り出す。槍の先端がぶつかり合う音がすると同時にソルは一歩内側に踏み込み横なぎに槍を振る。フリューベルはこれを姿勢を低くして避けるとすかさず槍を下から振り上げる。ソルはこれを右に動いてかわす。
「風牙疾空」
ソルはフリューベルの懐に潜り込み神速の6連撃を放ってきた。フリューベルは槍の中央を持つと勢いよく振り回した。
「双頭流槍」
フリューベルの持つ槍は先端から柄の部分まですべて金属でできているため柄の部分は鈍器の役割も果たすことができる。
連撃を受け流しフリューベルは攻勢に移った。
「流牙疾風」
今まで以上の速度でフリューベルはソルの目前まで低空滑空し急停止し、その流れる反動の力を全て槍に込める。
前にセツとの試合の時に一度だけ使った大技であった。
「薙旋風」
6本の矢となった槍はソルの体を避けるように空を切った。
薙旋風、それは必要最小限の動きで相手の攻撃を受け流す技である。
ただ受け流すだけでなく相手の得物に付加を与えあわよくば破壊するという高等技術である。
フリューベルもソルの狙いに気づき強引に槍の軌道を変える。
一撃、二撃、三撃二人の槍は踊るように走る。
「流絶:裂光」
ソルはフリューベルの槍を押し返すと後方に飛びながら槍を振りかぶった。
「ちっ」
フリューベルもソルの狙いに気づいていた。気づいていたが態勢が崩れて思うように動けなかった。
ソルは槍を投げつけた。ソルの槍はフリューベルの物とは違い三つ矛の槍で扱いづらいが威力は段違いに高い。そのため今のような投擲としても効果を発揮する。
ゆえにフリューベルも受け止めるわけにはいかなかった。
フリューベルは瞬時に縮地で離脱する。態勢が崩れているため中途半端にしか距離が稼げないがそれでも直撃は避けれる。
はずであった
「流絶:穿空(せんくう)」
ソルは待っていた。フリューベルが縮地を使うタイミングを待っていた。
縮地には弱点が存在した。それは縮地が点と点でしか移動できないことにあった。一度動いていしまえば点に到達するまでは次への動作へ移れないのだ。そこに態勢を崩した状態であれば大きな硬直が生まれてしまう。
「流纏:烈風陣」
ソルの槍がフリューベルの体を穿つために地を這う。流絶、それはフリューベルの流纏、セツの絶纏を合わせた最強の槍術であった。
ゆえにフリューベルがソルに勝てる見込みなど最初からないのだ。地を這っていた槍の軌道がフリューベルを目の前にして跳ね上がる。
フリューベルは膝をついた状態で槍を回転させた。槍の遠心力を利用して威力を増加させる。
そのまま狙いを定め一気に振り下ろし飛び出してきた槍が衝突した。
「ぐっ」
フリューベルは衝突の反動で後ろに吹き飛ばされた。
「どうした、お前の10年の経験はその程度のものだったのか」
ソルはがっかりした顔でフリューベルを見た。
「確かにお前の槍捌きは達人レベルだがそれだけでは足りない、それをこの10年で見つけてきたのではないか」
試すような眼でフリューベルを見る。
フリューベルは無言で立ち上がる。先ほどの衝突時に肩を貫かれたらしく血を流していた。しかしフリューベルは気にすることもなく立ち上がった。
「目つきが変わったか、それでいい。必要とあらば師であろうと友であろうと倒していけばいい」
ソルは神速の突きをフリューベルに放った。
その速さ最早人間の視覚では認識できないレベルに達していた。
しかしフリューベルの肩めがけて放たれた突きは命中する寸前で軌道を変える。ソルもそれは承知の上、そのまま同じ速度の突きを休ませず繰り出してきた。
フリューベルはそれを全て自分から遠ざけるようにはじき返す。
ソルは連突の間隔を減らしその分死角からの一撃の重さを増やした。
ソルの槍捌きは既に間違いなくアビッサル、レーベルの中でも確実に最強であった。
速さ、精度、重さ、全てで勝っていた。
ナナリやリオ等、フリューベル以外の人間が彼と対峙していたら既に立っていなかったであろう。
同系統にして師である彼を知っていたフリューベルだからこそ耐えることができた。

ソルは不気味な感覚に襲われていた。間違いなくフリューベル圧倒しているはずだがそれでも押している感覚がないのだ。
それから数度の打ち合い後ソルは気づいた。
フリューベルの周囲の空気が変わった。
ソルの突きをフリューベルは弾き返すとソルの視界から一瞬で消えた。
「なっ」
ソルは気配だけでフリューベルの位置を特定し振り下ろされた槍を受け止めた。
「それが疾風の本当の姿か」
ソルの表情からしてそれは予想以上だったことがうかがえた。
しかしフリューベルはそんなことに構わず立て続けに突きを放つとまたもやソルの視界から消える。
ソルは視覚に頼らず気配だけで場所を特定しこれを迎撃する。
今フリューベルとソルは互角の打ち合いをしていた。それもお互いにわざと隙を見せ誘うなど高度な駆け引きの中で最善の一手を選んでいた。

「集え」
フリューベルの周囲の風が荒れ狂う。
「どういうことだ」
ソルはフリューベルの前に現れた暴風に目を疑った。
「俺が10年かけて身につけた力だ」
フリューベルの異能者としての才覚は間違いなくトップクラスである。
ソルの槍は目の前の風の障壁によって弾かれてしまう。
とーるの鉄槌は後にトールハンマーと呼ばれるようにフリューベルはこの障壁が後にこう呼ばれる。
『アブソリュートエア(絶対なる風)』と呼ばれその強固な守りは絶対防御とまで言わしめた。
「師よ、俺はこの10年で強くなったとは思っていません。しかし守るべき人たちを見つけた。俺を必要としてくれる人たちが俺を必要とする限り俺は裏切ることはない。ゆえに師にはここで舞台から退場を願います」
フリューベルは構えを取りソルを見た。
「我が弟子よ、大きく出たな。なばら我を超えて見せよ」
ソルは笑っていた。多分次の一撃で決まるであるのにも関わらず笑っていた。
「流纏奥儀:閃華烈風」
フリューベルの渾身の縮地で間合いを詰める爆発的に高められた踏み込みはそれ自体に強烈破壊力を伴い踏み込んだ地面がえぐり取られていた。
「流絶奥儀:絶止新流」
二人のこれまでの集大成とも言える奥儀のぶつかり合い、閃華烈風は一撃に全てを賭ける究極の突きである。しかしあまりの速さのため得物がどのタイミングで飛び出してきたのか分からずまさに閃光の如く速くそして烈風のように荒々しい威力を誇った。
対する絶止新流は流纏と絶纏の信念を合わせたものである。全ての流れを一度止め、新たに自分の流れを作り出すいわば攻防一体のカウンター技である。流纏と絶纏の両方を極めた者のみが登り詰める境地であった。創始者ソルが後に息子に伝えたと言われている。
「うぉぉぉぉぉぉ」
フリューベルの渾身の突きをソルは受け止めた。あまりの重さに後ろに引きずられる形になった。
しかしそれでもソルは気合いで踏ん張りカウンターに移った。
「終わりだーーーー」
ソルは受け止めた槍を薙ぎ払い硬直で動けなくなっているフリューベルに上段から槍を叩きつけた。
ソルは勝利を確信した。このタイミングでアブソリュートエアが発動しても既に間に合わない絶対の自信があった。

しかし
フリューベルの顔は焦りでも悔しさでもなく笑っていた。
「師よ俺の勝ちです」
ソルの槍はフリューベルを叩きつけた。しかし手ごたえがなかった。
「残像です」
フリューベルはソルの背中に回り込んでいた。
手のひらでソルを弾き飛ばしたフリューベルはそのまま槍をの中央持ち追撃した。
「流纏:裂空舞踏」
ソルの体に10連撃の強烈な打撃を叩きこむ。アイリスが依然使った技もこれに当たるが威力は段違いであった。
ソルの体が壁に叩きつけられる。
「よくぞ、ここまで強くなった。仲間が待っているのだろう。行け」
ソルは壁にもたれかかったままフリューベルを見上げた。
「分かった。だがこれが終わったら全てを話してもらうからな」
「いいだろう。お前が生きてここを出ることができればその時は話そう」
ソルの言葉にフリューベルは一度頷くと出て行った。

「さておいでなすったか」
ソルは体を無理やり起してフリューベルが出て行った反対側の入り口を見た。
そこからは無数の生体兵器が出てきた。
「使えなくなったやつは始末するか」
ソルは槍を持ち直した。
「弟子が頑張ってるんだ。師がここでくたばる訳にもいかんわな」
ソルの目つきが変わる。それは武人としてではなく一介の狩猟者の目であった。


フリューベルは背後で何か起きたかことには気づいていたが今は後ろを見ている暇はない。ただ師を信じで前に進むのであった。
フリューベルの走り去った後には一陣の風が舞った。
残る執行者は9人
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第32話:過去を乗り越え

「ここが正念場だ一気にねじふせろー」
セツの大声と共に甲高い銃撃音が鳴り響いた。
遂にレーベルはアビッサルとの本格的な総力戦が始まった。

当初各企業の予想はレーベルはアビッサルを苦しめるが勝つことができないと思われていた。それは人数に問題があった。レーベル連合10万に対しアビッサル30万と数で大きく上回られていた。しかし、開戦から2ヶ月がたった現在レーベルはアビッサルの本拠地を目の前にまで来ていた。
「敵の抵抗が厳しいな、新たな生体兵器も出てきたか」
セツは唇を噛みしめた。アビッサルが新たに投入してきた生体兵器はスカルよりも大きく主に重火器を使うタイプでまともに戦えば被害はおおきくなるばかりであった。
そのため、とーるやナナリが直接潰しにかかっているのだ。
「みんな頼むぞ」
セツは誰にいうわけでもなくつぶやき手にしたショットガンを持ちなおした。
「左翼が手薄になってきた。そこを一気に押しつぶす俺に続けー」
セツは隊の先頭に立つと敵陣に一気に突撃した。

リオは愛用のM4を小刻みに射出しながら敵に的を絞らせないよう走り周っていた。
「しぶといわね。今までの相手とは違って硬いいわね」
リオが相手にしている敵は見た目が筋肉質で動き自体はスカルより格段に落ちるがその分異常なまでの耐久力を持ち2,3発撃ち抜いただけでは倒れなかった。
「ベル兄さんはサイクロプスっていってたわね」
リオは相手のコードネームと詳細を聞いていたため、即座に対応に移れた。
リオの隊はリオがサイクロプスを相手にし、他の敵を隊が全力で相手にしていた。
「それにしても何なのこの数、どっから出てくるのかし」
リオは目の前のサイクロプスの心臓部に5発立て続けにM4を撃ち込んだ。
声も出さずに倒れていく生体兵器を悲しい目で見ていた。
(私も一歩間違えていたら、こういう風になっていのかな)
リオはふと自分の境遇を思い出した。アビッサルを脱走し運よくフリューベルに助けられた彼女は元々実験素体になるはずだったのだ。
(こんなこと許してはいけない)
「隊長少し休んでください。これ以上は危険です」
一人の兵がリオの後ろに立っていた。兵はリオの隊の副官であり、サイクロプスをリオが相手にしている間は指揮をとっていた。
「私はまだいける、それよりもそちらの被害はどうなの」
リオは厳しい表情を崩さずに副官を見た。
「今はまだ何とかなっていますが、数が多すぎて徐々に被害が拡大しています」
副官の厳しい顔で答えた。
「きついでしょうがこのまま押し切るしかないの指揮はあなたに任せるわ。私が突破口を開くから後から続いて」
副官は少しだけ黙ってリオを見た後頷いた。
「大変だー」
兵の一人がリオに向かって走ってきた。
「落ち着いて何があったの」
リオは兵を落ち着かせた。兵も息を整えてリオを見直した。
「敵軍の背後に不明の軍が現れました。敵の増援かもしれません」
兵の言葉にリオは言葉を失い。副官は顔を真っ青にした。
「増援は一体どれくらいいるの」
「約10万です」
リオは黙って空を見上げた。
「こうなったら私が一人で奥まで切り込むわ。あなた達は私が突撃した所に集中砲火で一気に蹴散らして」
リオは真面目な顔をで副官を見た。その顔には決意がこもっていた。
「何をおっしゃるのですが、そんなことしたら隊長が死んでしまいます」
「それしかないの、誰かがやらなければこのまま押し戻されてしまうわ。そうなったら私たちは負けの一歩をたどることになる」
レーベル軍はアビッサルと違い数に余裕はない一度負けてしまうと態勢を立て直すだけの力はない。
「でしたら私が行きます」
副官はリオの前に出ていこうとした。リオは出ていこうとした副官の腕を握った。
「あなたが行っても駄目よ、切り込んでもすぐに倒れるだけだわ」
「ではどうしろと言うのですか。この隊の指揮を本当にとれるのは隊長だけです。今あなたを失えば隊どころかレーベルの敗戦に繋がる可能性が高いのですよ」
副官は声を荒げた。リオも面食らって言葉を失った。
「あなたが行くなら私も無駄死にと言われようと着いていきます。いえむしろ全員があなたに着いていきます。それくらいの覚悟はもとよりしています」
副官の言葉に近くにいた全ての兵がうなずいた。
「分かったわ。今のは取り消すからあなた達が突撃するのはやめて。何か策を考えるからそれまで持ちこたえて」
リオの言葉に副官は安堵の溜息を吐いた。
「お願いします。全力で持ちこたえて見せます」
リオと副官はお互いを見て笑みを浮かべた。
「隊長ーーーー」
別の兵がリオの前に走ってきた。
「どうしたの」
リオは顔を引締め兵を見た。
「不明の軍がアビッサル軍に攻撃を始めました」
「えっ!」
兵の言葉にリオは今まで以上の衝撃を受けた。
「それと、不明の軍の部隊長らしき方が隊長に会いたいと申しています」
「通してあげて」
兵は一度礼をすると勢いよく走り去って行った。
「いったい誰なのかしら」
リオの事をしっている人間はそこまで多いわけではない。フリューベルとナナリ、そしてとーるは多数の企業と精通しているがリオ、エリス、やよいは彼らと違い企業とはかかわりを持っていなかった。いや持たないようにしていた。元々アビッサルにいた人間だと分かれば現在の居場所ですら危なくなるからであった。
ではいったい誰が。
「リオ様お久しぶりです」
リオの目の前に現れたのはIDUの煉獄隊の副隊長であった。
「うそ!なんで貴方がここにいるの」
リオは目を丸くした。普通なら居てはいけない人物がここにいた。IDUは一度解散して既に存在しない軍になっていた。
「国の上層部もアビッサルを脅威とみなし重い腰をやっとあげました。これより私たちはレーベルの援軍としてアビッサルに攻撃をしかけます。ここは任せて一度ナナリ様達と合流してください」
リオは男を見て頭を下げた。
「感謝します。絶対にアビッサルを倒しましょう」
リオは言い終わると向きを変えてセツがいる中央の陣に向かって走って行った。
「リオ様に感謝されてはな負けるわけにはいかなくなったか。お前らー聞けー」
男の大声で叫んだ。
「これより煉獄はアビッサルを敵とみなす。そしてリオ様のために全力をもって叩き潰せ。これは聖戦だ臆するな。正義は俺たちにあるぞ」
男は銃を突きあげて叫ぶ。それに呼応するかのように次々と兵は生体兵器を撃ち落としていった。

「みんな集まったか」
セツは6人の顔を見た。
「ああ、セツのお陰だ」
フリューベルはセツを見て答えた。5人も頷いた。
「IDU以外にも複数の企業が俺たちに力を貸してくれた、こんな好機はない一気に内部へ侵入し敵の頭をとるぞ」
セツはアビッサル内部の地図を広げた。
「まず突撃し中に侵入と同時に全員が別々の部屋を制圧し奥へと進む。そして最深部つまり敵の総大将がいる部屋の手前に部屋がある。この手前で集まり一気にたたみかける」
全員が黙ってセツの話を聞いた。
「各部屋には多分だが執行者がいる。未だ不明な執行者もいる油断しないで確実に殲滅してくれ。それでは行こう。レーベルの・・・いや俺達の未来のために」
セツは言い終わると未だ戦い続ける両軍の間を走り抜けていった。ナナリ達もそれに続いた。
近寄ってくる敵を倒しつつも速度は落とさず一気にアビッサル内部へと侵入した。
7人はそれぞれ別々の道を走り各部屋に飛び込んで行った。

とーるが部屋をけり開けて飛び込んだ。そしてとーるの視線には見覚えのある男が映った。
「待っていたよ。君と戦えるこれも運命なのかもしれないな。神も粋な計らいをしたものだ」
「イージス今度こそ決着をつけさせてもらうぞ」
とーるとイージスは互いに構えた。
一瞬だけ間を置きとーるが先に仕掛けた。とーるは既に雷光を纏った状態でいた。放たれる拳は必殺の一撃。当たればそれだけで死が見える程の雷を放出していた。
「さらに鋭くなっている。素晴らしい、これで私も本気を出せる」
イージスは笑みを浮かべてとーるの拳をよけていた。
イージスの手から無数のナイフが飛び出す。とーるはナイフを全て殴り飛ばして塵に変えた。
「んなもん効かねーよ」
とーるはイージスのが顔面を狙って拳を振りおろした。
(当たった)
とーるは確信した。
ドス
拳が当たる音がした。しかしそれはイージスの顔ではなくて腕に当たっていた。
「なに!」
「ふむいい拳だ。骨にまで伝わってきたぞ」
イージスは感心した声で言った。よくみるとイージスの腕から手にかけて黒いものが巻かれていた。
「雷撃を防ぐ何かを巻いている訳か、ならそれ以外の部分をぶち抜けばもんだいねえ」
とーるは拳の速度をあげた。
「君よりも私の方が速いのをもう忘れたかね」
イージスはとーるの後ろに回り込んで手に握ったナイフで突き刺そうとしてきた。
「んなこたぁー百も承知だー」
とーるは振り下ろした拳をそのまま地面に打ち込み縮地でナイフを回避しそのままイージスの腕に回し蹴りを放った。
イージスはナイフを振りおろした腕でそのまま受け止めた。
「成程あえて私に攻めさせることで隙を作らせそこを狙ってきましたか」
イージスは腕を見てその衝撃を確認した。
「今までの中でこれほどの体術を使う人間は君を含めて2人しか見たことがないが、彼の弟子ということか」
イージスは納得した顔でとーる見た。
「お前は、あの事件を知っているのか」
とーるは何かに気づいたのかイージスを憎しみの目で見た。
「知っているも何も私もあの場にいましたからね」
イージスは淡々と言い放った。
「てんめーーーーーーー」
とーるは振りかぶると一気にイージスの間合いへと飛び込んだ。
しかしとーるが拳を振り上げるよりも早くイージスはとーるの背後に回り込み蹴りとばした。
「動きが単調ですね感情が制御できなければ例え強くても2流ですよ」
とーるはそれでもなおイージスに飛び込んだ。
イージスはとーるを冷ややかな目で見ながらとーるの横腹を殴りそのまま背中に踵落としを放った。
「残念だよ君がその程度の心の弱い人間だったとは」
とーるはイージスの言葉も聞かず無理やり体をひねり拳を突き出した。
イージスはそれを難なく避けると後ろに下がった。
「今の君は見ていて痛々しい、今の君ではこの先生き抜いていけないだろう。ならばせめて私の手で君を神の元へ案内してあげましょう」
イージスは懐から今まで以上に長いナイフを取り出した。
とーるは既にイージスしか見ていない、イージスが何をしようと全く見ずにただひたすら衝動に身を任せていた。
とーるの拳を薙ぎ払い、イージスはナイフを突き出した。
ナイフがとーるの胸元を突き刺した。
「安らかに眠りたまえ」
イージスはナイフを抜きとーるに背を向けた。
とーるが地面に倒れる音がした。
ナイフの血を拭おうとして気づいた。
「ふむ、何か別の物に当たったか」
よろよろと立ちあがるとーるを見てイージスは呟いた。
パキッ
とーるの胸元で何かが割れる音がした。
とーるは首から下げていた鎖を引き胸元から懐中時計をとりだした。
懐中時計にはナイフが刺さった跡があり硝子が綺麗に割れ周囲にもひびが入っていた。
「そうか俺を守ってくれたのか」
とーるはふと家族のことを思い出した。何故だか悲しい顔で自分を見ている家族が思い浮かんだ。
「ははっ、あれだけ復讐をしてはいけないと戒めててこのざまか、そりゃ哀れだな」
とーるは自嘲気味に笑った。
「何やってんだよ俺、これ以上悲しみを起こさないためにきたんだ。こんなとこで復讐劇に走ってくたばるわけにはいかねー」
とーるの体から纏っていた雷光が消えた。
目を瞑り何かをつぶやき始めた。
「五雷より生ず天の理よ、我を戒め我が信念を貫く矢となれとなれ」
なにか変化が起きたようには見えないがイージスは気付いた、異常なまでにとーるの体が自然体になっていたのだ。
「ふむ、無駄のない良い構えですね」
イージスはとーるの背後に瞬時に回り込みナイフを振り落とす。
しかしイージスは気付いていなかった、とーるもイージスが動く瞬間動き出していた。
イージスの更に後ろに回り込んでいた。
「閃の型:虎鳳」
とーるは流れるように動きイージスの背中目がけて拳を突き出す。
「閃の型:虎鳳」
イージスは即座にとーるの拳に合わせて拳を振りおろした。
「追の型:練波」
とーるの体が突如イージスの視界から消えた。
しかしイージスも同じくこの技を知っていた。
「追の型:練波」
二人は地面すれすれから足を狙った拳がぶつかりあう。
「ならば、流の型:落葉」
イージスはぶつかり合った拳を受け流しながら懐に潜り込んできた。
「速の型:破竹」
とーるはイージスの潜り込んだ状態から打突に対してさらに内に潜り込むことで回避した。
両者互角の戦いを続ける。とーるとイージス全く関係ないような2人だが繰り出す技はほぼ同じで同門であったこと示していた。
イージスを柔の型とすればとーる剛の型と言っていいだろう。
イージスの顔に徐々に焦りが見え始めた。とーるの動きが少しずつであるが鋭さを増しているのだ。
とーるもイージスから致命傷は避けていたが徐々にダメージが蓄積していた。
「ちっ」
イージスはナイフを取り出しとーるに投げつけた。足、膝、腹の3か所を同時に狙う投てきはまさに神業といってもいいだろう。
しかしとーるは腕を地面に振り下ろすと指で3本のナイフを受け止めたのだ。
イージスはさすがに驚きの顔をしていたが直ぐに元の表情に戻った。
「戦の申し子にして戦場の死神、その強さは敵も味方も関係なく恐怖に陥れたと言われている」
イージスはとーるの姿を見てその言葉は正しいと認識した。
イージスは神父の服を脱ぎ棄てた、薄着の服を下に来ていたイージスは見た目と変わらず筋肉が盛り上がっていた。しかし無駄に筋肉をつけすぎた訳ではなく整った体をしていた。
「つっ」
とーるは反射的に距離を開ける、とーるの脳内で警告音が鳴り響く感じがした。
危険すぎる、そう思った瞬間既にイージスは完全に間合いに入っていた。
とーるはすぐさま縮地で回避するがバランスが崩れ着地点でよろめいた。
イージスは容赦なしにとーるの背後まで詰め寄り体重の乗った蹴りを放った。
とーるは受け身を取りつつ地面を転がった。
イージスの一方的な先制攻撃をとーるはぎりぎりでかわしていた。
そして一瞬できた隙にとーるは反撃に出る。しかしそれも空振りに終わっていた。
だが徐々にではるが反撃の回数が増えてきていた。
「なんという化け物ですか!この動きについてこれるとは」
イージスは驚いたように言っているが驚きの顔ではなかった。
イージスは先ほどと同じく懐に飛び込もうとした。
しかし先ほどと違う点があった。
とーるはイージスの攻撃を受けるためイージスを見ていた。
そのため、イージスが飛び込む手前に落としたグレネードに気づいていなかった。
イージスが間合いに入る手前で部屋中を覆う閃光が炸裂した。
イージスはとーるがFBを直視したことを確認しつつおもいっきり拳を突き出した。
イージスにとって必勝の一撃であった。
今までこの手を破れた者はいなかった。
人間は基本視覚に頼るため、一度目がくらめば確実にイージスは葬むって来た。
しかし今回は相手がわるかった。
イージスの拳が突き出された直後とーるは僅かに右に浮いていた。
イージスは体をひねりとーるの胴体を狙おうと視線をとーるに向けたとき強烈な雷光が見えた。
「うおおおおおおおおおおお」
とーるは先ほどまで雷光を使えなかったのではなく使わなかったのだ。
無駄に消費するのではなく一発にすべてを込めた正真正銘の必殺の一撃を放つタイミングを待っていたのだ。
とーるが纏っていた雷光は拳のみ集まっていた。
イージスは雷光を見た瞬間これは避けれないと悟った。
「雷槌」
とーるの拳がとっさに腕を交差させたイージスに命中する。
「見事だ」
イージスの体全体に電流が走りわたる。
まだ本人すら気付いていないが、雷鎚はと後に雷帝の怒りと称される「トールハンマー」そのものであった。
部屋中を走り回っていた雷撃が止むと、とーるはイージスを見下ろした。
「当分は立てないが死にはしないように加減した。少しだけ寝てな」
とーるは床に倒れているイージスに背中を向け部屋を出ようとした。
「まちなさい」
とーるは背中を向けたまま足を止めた。
「君に、伝えないといけないことがある」
イージスは横になったまま口だけ動かした。どうやら体は動かなくても口だけは動かせるようだ。
「あの時の事件の黒幕はアビッサルです。この3年間私が調べた結果あの事件はアビッサルの生体兵器の実験として利用されたことがわかりました」
とーるは後ろを向いたまま黙って聞いた。
「私は、旅の途中で立ち寄った村で君の父に会いお互いに武を競い合いました。そして村の方の好意で私は教会の神父として村にとどまることにしました。しかし僅か2ヶ月後にアビッサルの襲撃され村は壊滅、その時、私は君の父と抵抗しましたが、皆ころされてしまいました。君の父も抵抗むなしく私の目の前で息を引き取りました。そして死ぬ間際の君のは君に伝えてくれと私に遺言を残しました」
イージスは目を瞑り呟いた。
「強く生きろ」
とーるは声を殺して涙を流した。今まで何があろうとも流さなかった涙を初めて流した。
「私はこの事件の黒幕を突き留め、そして君に会うためにアビッサルの執行者として戦場を周りましたがそれもこれで最後、行きなさいすべてを終わらしてきてください」
とーるは頷いくと走って部屋から出ていった。
「神よどうか彼の物に光ある未来を」
イージスは胸に十字を刻んだ。そして口を閉ざすとしばしの眠りについた。

とーるはすべてを終わらせるために次の部屋へと飛び込んで行った。
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第31話:レーベルの休日

アビッサルの奇襲より既に1ヶ月がたっていた。
フリューベルの記憶が戻りそれが告げられた時、5人の当初の目的が達成された。
しかし、喜ぶにはまだはやい。アビッサルが存在する限り悲劇は繰り返されるのはわかりきった話であった。レーベル軍がアビッサルの力を落としている今5人がレーベルから離れる訳にはいかなかった。
これから更に1ヶ月後にはレーベルとアビッサルの全軍衝突が始まるであろう。
各国で緊張が走る中、レーベルは意外にも落ち着いていた。
セツが各国への協力要請で走り回っている中、フリューベルを含めた6人は休暇が出されていた。

とーるとエリスはレーベルの先にある川べりに来ていた。
「こうのんびりするのも悪くないな」
とーるは土手に座って川を見ていた。
「そうですね、この数カ月、いえこの5年私たちに休まる日なんてなかったのですから」
エリスもとーるの隣に座り空を眺めていた。
「俺は、5年間というよりガキの頃から戦い続けてきた。戦場の死神と呼ばれたりもした」
とーるは一度空を見上げるとエリスの方へ視線を移した。
「私はとーるさんと会うまではただ言われたことに従うだけの弱い人間でした。でもとーるさんに出会えたことで変わることができました」
エリスは目を閉じで懐かしむようにその頃を思い出していた。
「変わったか・・・俺も昔に比べればかなり変わったな」
とーるは川に石をなげた。
「なぁエリス、全部片付いたらさ一緒に行きたいところがあるんだけど来てくれないかな」
とーるの声が少しだけ下がった。
「これを持ち主に返そうかと思う」
とーるは首からかけていた鎖を持ち上げるとそこから懐中時計が出てきた。
「これは?」
「俺の妹が使っていた懐中時計だ。形見といったほうがいいのかな」
とーるは懐中時計を手のひらにのせた。
既に時計は動いていなかった。
エリスはただとーるの次の言葉を待った。
「今まで俺は復讐のために戦ってきた。ただ目の前にいる相手を倒すだけだった」
とーるはフリューベルと出会うまでただ力に任せて多くの人を殺してきた。
しかし、フリューベルと出会いナナリと出会い少しずつ変化していった。
「この時計は俺の復讐の始まりであり、今ではそれを戒める存在となっていた。でも俺は更に変わってしまった。いや変えられてしまったんだ」
とーるはエリスを真っ直ぐ見た。
「俺は守りたい存在を見つけたから」
とーるの言葉にエリスは嬉しそうにうなずいた。
「最後まで共にいましょう」
「ああ、共にいよう」
穏やかな川の流れを聞きながら穏やかな時間を二人は過ごした。


「リオ、ちょっとこっちこい」
フリューベルがリオた。
「なーにー?」
リオは呼ばれたこと嬉しかったのか笑顔で走ってきた。
フリューベルは両手に持っていたケースをリオに渡した。
「この前ので小太刀も駄目になったからな、これを使うといい」
リオはケースから小太刀を抜きだして声を失った。
「作者は不明だが、業物の逸品だ。俺がフェンリルの隊長就任祝いに師匠から貰ったものだ」
フリューベルは懐かしそうに小太刀をみた。
「こんな大事なものもらってもいいの?」
リオはフリューベルがうなずくのを見て愛用のホルスターケースに挿しこむ。
小太刀はまるでそこにあるのが当たり前のようにリオのケースに納まっていた。
2,3ど抜刀をしてリオは驚きの声を上げた。
「軽い、それでもってこの感覚」
まさにリオが使うために生まれきたのではないかと思うくらい一体感があった。
「後その小太刀は力を全開でも耐える強度があるから加減の必要はないぞ」
現在、異能者はフリューベル、ナナリ、とーる、やよいの計4人が自分の力を見せている。
また、リオとエリスも異能者としての力を表沙汰には出してないがナナリ達と同等の実力者であることは本人達を除いて皆気づいている。
「さて、本題に入るとして。リオの特訓に付き合えばいいんだよな」
フリューベルは準備運動をしながらリオを見た。
「今の私では足を引っ張ると思うの。せめて煉獄を制御できる所まではたどり着きたいの」
リオは迷いのない目でフリューベルを見た。その目からは決意と揺るぎない信念が感じ取れた。
(いつの間にかでかくなったんだな)
フリューベルはリオが精神的に大きく成長していることに素直な喜びを覚えた。
フリューベルの中でのリオは5年前で止まっていた。それがこの1月で大人びた表情や仕草を見て戸惑い等も覚えた。しかし、素直に気持ちを表現したりするとこ等は全く変わってないところもあった。
完全にフリューベルはリオに魅かれていた。
「どっからでも来い」
フリューベルは思考を止め構えをとった。手には今まで見たことのない槍が握られていた。
リオは瞬時にそれがフリューベルの本当の姿であることを悟った。
「いきます」
リオは勢いよく駆け出した。


「ナーナーリ」
やよいの甘えた声がする。
「ん?」
ナナリはキーボードを打つ手を止めてやよいを見た。
アビッサルの奇襲後、やよいの裁定を下すものが大幅に減ったため闘技場にいた者による全会一致で彼女を迎え入れることになった。
また、セツと激闘を繰り広げたナナリはレーベルのNo2として、セツの参謀役として作戦指揮を取ることになった。
そんなナナリはとーるとフリューベルに比べて休暇が少なくやよいと過ごす時間が減っていた。
本人はさほど気にしてはいないが、セツにはやよいの表情が時折我慢しているよう見えた。
さすがに見るに見かねて休暇をだしたのだ。
「仕方ないな~」
ナナリは部屋のベットに座り手招きをした。
「♪」
やよいはナナリに飛びつきそのまま膝の上に頭を置いた。
いわゆる膝枕の状態だ。
「ほんっと甘えるの下手だよな」
ナナリは苦笑いを浮かべた。ナナリとて仕事の合間やよいが我慢していることに気づいていた。
しかし、やよいは人前では毅然とした態度で甘えようとはしなかった。
「もっと甘えていいんだぞ」
ナナリもどちらかと言えば感情を表に出さないタイプだが、やよいのことになると別であった。
ナナリの中でやよいは第一優先にすべき存在であり、他に勝るものはなかった。
しかし、人前では感情を表に出さないため周りの印象は大人しい子というのが現状で会った。
「人前で子供みたいに思われるのは嫌よ」
やよいは、うーっと唸ってナナリの背中に手をまわしがっちりと固定した。
「難儀な性格」
ナナリは苦笑いしつつやよいの髪を撫でた。
やよいは気持ち良さそうに目を細めた。
「リオが羨ましい」
やよいはナナリの膝に顔をうずめた。
「リオも少し前まで我慢していたからなー。目の前にいたベルは、ベルであって俺たちの知るベルではなかった」
ナナリはその時のリオの事を思い出した。
ただじっとフリューベルを見てはいたが、目を合わそうとはしなかった。手のひらをぐっと握りしめただ耐えている姿は見るに堪えがたかった。
「ためてきた感情が一気に表に出てきた感じだな」
人前でもお構いなしに抱きついたり甘えるリオを誰も止めないのはそれまでの事を知っているからとめれなかったのだ。
「ナナリはリオみたいに抱きつかれる方がいいの?」
やよいは少しだけ涙目でナナリを見た。
さすがのナナリも面食らっていた。
「あそこまでとは言わんが、もう少し積極的でもいいと思うかな。まぁ、やよいが隣にいればそれだけで十分」
ナナリは笑みを浮かべてやよいを見た。
やよいは顔を赤らめてナナリを見上げた。
「ナナリ恥ずかしくない?」
「かなり」
ナナリは視線をそらしながら答えた。
やよいはナナリを見て笑顔を浮かべていた。


これから1ヶ月後、アビッサルとレーベルの総力戦という名の激闘の火蓋が切られる。
後にこの戦いをレクイエム大戦と呼び、後世まで語り継がれることになる。
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