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REQUIEM館

第36話:英雄の目覚め

ナナリは目の前の扉を見上げて冷静に頭を働かせていた。
扉を開けた時に起きうる全ての可能性を想定していた。

考えをまとめ扉を開いた瞬間ナナリは一気に前方へ走った。
直後ナナリがいた場所に無数の刃物が降り注いだ。
「やはり、奇襲は通じぬか」
ナナリの正面に見覚えのある年老いた男がいた。
「3賢者の一人、ハース」
ナナリの前にいた男はやよいの一件で対峙した3賢者の一人であった。
「いかにも、お前たちがここまで来るとは思ってもいなかったぞ。じゃがそれもここまで」
ハースは指を鳴らすと天井からなにかが降ってきた。否降りてきた。
「ベル・・・クローンか」
そうそこにいたのはフリューベルと瓜二つの男が立っていた。
「ジンと同じ奴がまだいたということか」
ナナリの頭にジンの姿が浮かんだ。
「あれと一緒にされては困るな。こやつは疾風と同レベルもしくはそれ以上の強さを持っている」
ハースは愉快気に笑いながら説明を始めた。
「ジンは失敗作じゃ、あやつには感情があったせいで非常になりきれてない所があった。じゃがこ奴は感情はない。ただの戦闘鬼人じゃ」
ナナリは太刀を抜くと構える。
「人のやることとは思えない」
「当り前じゃ、我は人ではなく神じゃ。さぁやってしまえクーフーリン」
ハースの声に言葉と共にクーフーリンが飛び出す。
クーフーリン、ケルト神話の半神半人の英雄の名であり槍の名手で有名である。
確かに今のフリューベルなら伝説の彼に近づけるかもしれないが、目の前にいるフリューベルもどきがそのレベルにあるのかナナリは冷静に見極めていた。
ナナリは前に踏み込み太刀を振り下ろした。クーフーリンの槍と激しい音を立ててぶつかり合う。
ナナリは立て続けに横薙ぎに一閃太刀を振りその反動を利用して回し蹴りを放つ、クーフーリンは後ろに下がることで距離をとりこれを回避する。
ナナリは追い打ちをかける為に一歩前に踏み出そうとした。しかし、ナナリは咄嗟に踏み込むのを止めた。
瞬間ナナリの目の前を鋭い風が襲った。踏み込んでいれば間違いなく致命傷だった。
(確かに力自体はベルと同等か)
ナナリは舌をうつとクーフーリンを見た。だがクーフーリンの顔つきは全く変化が無かった。感情が全く窺えなかった。
ナナリが様子をうかがっているのを悟るとクーフーリンは飛び込んできた。その速度、フリューベルと同格であった。
ナナリは視界を遮断して音で場所を見極めた。
地を這うように振り上げられた槍はナナリの心の臓を狙う。
ナナリは瞬時に太刀を振りおろした。激突した切っ先から火花が散る。
クーフーリンの槍撃を受け流し、時には押し返していた。
打ち合いの中でナナリがふと目を開いた。
「その程度」
ナナリは下段に落としていた太刀を勢いよく振り上げた。
クーフーリンの突きに合わせて振り上げられた太刀は槍を絡め弾き飛ばした。
「馬鹿な、奴の力はクーフーリンを上回るというのか」
ハースの驚愕の声が聞こえた。ナナリは無視してクーフーリンに追撃をかけた。
「所詮ベルに似ただけのまがい物、力、技術において劣っている。それに加えあれには信念がある。こいつにはそれがない。心が無い人間ほど弱い者はいない」
ナナリはクーフーリンを全力で斬りつけた。
赤い血しぶきをあげながらクーフーリンはハースの前まで吹き飛ばされた。
「後はお前だけだ」
ナナリは一歩前に踏み出した。
今ナナリを阻むものはいない、たとえ3賢者と言われた者でも今の彼を止めることは不可能であった。
しかしハースは突如笑いだした。
「さすがよの、白氷の獅子は名ばかりではないのう」
ナナリは聞き流し更に一歩前に出る。
「じゃがこ奴をきっちりしとめなかったのは失敗じゃったな。クーフーリン起きるのじゃ」
先ほどまでぴくりとも動かなかったクーフーリンがハースの声とともに立ち上がった。
ナナリは無言で構えた。
「ワシを殺せ」
ハースの言葉と同時にクーフーリンの腕がハースの首を貫いた。
「なんだと」
ナナリは今目の前で起きた状況が分らなかった。
ハースは自らを死を望んだ。だが今までの彼からそのような行為にはしるとは思えなかった。
ナナリは冷静さを取り戻し状況を整理した。
(何かある)
ナナリはぴくりとも動かないクーフーリンにを注意してみた。
「長かった」
全く聞き覚えのない低い声が聞こえた。
ナナリは一瞬でそれが誰のものか気づき構えた。
直後
太刀に強烈な衝撃が走った。ナナリは軽く数メートルは後ろに飛ばされた。
ナナリは咄嗟に後ろに飛ぶことでダメージを受け流していた。
「やるねー、そうでないとハースの死が無意味になるか」
クーフーリンは笑いながら槍を自在に振り回していた。
「貴方は何者だ」
ナナリは彼の存在が分らなかった。確かに先ほどまでいたクーフーリンと外見は同じだが、中身は全く違った。今目の前にいるのは圧倒的な存在感を纏った悪鬼であった。
「ふむ、確かに名乗ってなかったな。俺の名はクーフーリン、こちらではあまり有名ではないか」
クーフーリンはゆらりとした動きで槍を構える。
「神話に存在する者がこの世に存在するわけがないはずだ、冗談も」
「なら試してみれば分るさ」
ナナリの言葉を途中で遮りクーフーリンは神速の連突を放ってきた。
「くっ」
ナナリも瞬時に反応し全力で打ち返した。
ナナリの動きを見てクーフーリンは唇を吊り上げた。楽しんでいるのだ、まるでこの殺し合いを一種の遊びのように捉えていた。
「面白い、ならこれはどうだ」
クーフーリンが手を横に振ると、風の刃がナナリを襲った。
ナナリはクーフーリンが手を振る瞬間に次の行動を読んでいた。そのためカマイタチがナナリに到達する前に全力で前へと踏み込んでいた。
一瞬遅れてカマイタチがナナリのいた場所を通過し後ろの壁を貫通した。どれだけ高圧縮されていたのか切断面がバターのように溶けていた。
(神話の槍捌きにベルの能力をコピーしているのか、厄介すぎる)
ナナリは内心毒付ながらもクーフーリンへと斬りかかった。
クーフーリンはナナリの斬撃を紙一重の距離で避ける。死角から飛び出してきた斬撃すらまるで見えているようであった。
「中々面白い剣捌きだな。だがこの程度で俺を抑えれると思うな」
クーフーリンは太刀の側面を蹴りつけた。ナナリはその反動で僅かに態勢を崩してしまう。
またもやクーフーリンの連突がとびだす。ナナリは3段目の突きまでをぎりぎりで避けたが態勢は更に悪くなっていた。4段目は太刀で防いだがその反動で後ろに弾き飛ばされた。
ナナリは両足で何とか着地すると追撃に備えた。しかしクーフーリンは追撃してこなかった。
「どういうことだ」
ナナリは怪訝な表情でクーフーリンを見た。
「下賤な、何故力を使わない。このような場所に来るということはお前も能力者だろう。遠慮なく全力で来ないのか?」
何かを探るような目でナナリを見た。
「まぁいい、言っとくが俺はハースの死と引き換えにリミッターが切れた、即ち感情が戻ると同時に俺に殺しの束縛が下された。俺はその義を果たす必要がある。故に本気で行かせてもらうぞ」
クーフーリンは今までよりも深く槍を引いていた。
ナナリは瞬時に悟った。武神と呼ばれた存在クーフーリンの存在を知らしめた必殺の一撃がくる。
ナナリの周囲の温度が下がった。それが意味することを理解したクーフーリンは嬉々とした票所をしていた。
「やっと本気になったか。では我が必槍を受けてみよ」
クーフーリンは短いステップを踏むと全体重を乗せた槍を投げつけてきた。
ナナリの頭には一つの答えが出ていた。
(ゲイボルグ)
放たれれば確実に相手の息の根を止めると言われた驚異の一撃。
ナナリは正面に氷壁を展開する。だが今まで通りの展開ではなく、槍の激突場所のみに特化した壁を作りだした。
狙い通り槍の激突地点に壁を展開できたが衝突の衝撃波は尋常ではなかった。
「ぐっ」
ナナリは後ろに吹き飛ばされるのをなんとか踏みとどまっていた。
ナナリの力が上回って槍をはじき返すことに成功した。しかし氷壁も耐久度の限界を超え無残にも砕け散り自身もバランスを崩していた。
ナナリは態勢を立て直すために立ち上がろうとする。しかしナナリが見上げた先には最悪の展開が待っていた。
「ゲイ」
空中で回転する槍に向かってクーフーリンは飛んでいた。
「ボルグ」
クーフーリンは空中で一回転するとそのまま槍を蹴り飛ばした。
ゲイボルグ、それはクーフーリンが持つ槍の名と言われていたが、実際は槍ではなくその投擲法のことを指していた。
体重更には重力までも味方につけた槍の速度はまさに神速の領域であった。
音も時も置いて行く一撃、蹴り飛ばされた直後には既に地面に突き刺さっていた。
「・・・外したか」
クーフーリンは槍の落下地点とは反対側を見た。
そこには肩で息をしながらもしっかりと立っているナナリがいた。
「だが、無傷ってわけではなかったか」
ナナリの左腕は槍の一撃をよけきれず出血していた。
だがナナリにとっては左腕がついてること自体幸いであった。
ナナリはクーフーリンが槍を蹴りだす少し前に自分の正面に薄い氷を張ったのだ。
これにより光の屈折を利用しナナリの位置がずれて見えたため槍の落下点がずれたのだ。
左腕の出血は槍の落下による衝撃でまき散らされた床の破片が刺さった為であった。
クーフーリンの投擲の精度の高さが逆に幸いしたのだ。
だがその威力は落下地点を見ればわかった槍の刺さった地点から軽く数十メートルは亀裂が走っていた。
直撃すれば間違いなく死が見える。かすっただけでも致命傷であろう。
「まさかとは思うが、あれが本気だったとか言わないでくれよ」
槍を引き抜き不敵な笑みを浮かべるクーフーリンを見てナナリは背筋が寒くなった。
ゲイボルグを馬鹿正直に撃ってきたからこそ今回は避けれたが、連撃から出されたら間違いなく終わりだ。
ナナリの出した答えは簡単であった。
(視界を狭めて出される前に潰す)
ナナリは太刀を強く握ると自分の正面に立てた。
太刀を覆うように白い煙が上がる。
時間にしてわずか5秒で部屋は濃い霧が覆っていた。
「はは、やっとその気になってくれたようだな。そうでないとなっ」
クーフーリンは突風を起こし霧を吹き飛ばそうとした。
「無駄」
ナナリは背後から太刀を振り下ろした。クーフーリンは気配を察知しぎりぎりで避けた。
「なんと」
クーフーリンは困惑気味でありながらも気配だけを頼りにナナリの斬撃を避けていた。
徐々にナナリの太刀が届きだす。クーフーリンの体の数か所に僅かな傷ができていた。
しかし、押しているはずのナナリの表情は厳しかった。
「なるほど、理屈は分かった」
冷静な声と共に僅かな風が室内を走った。
「そこかーーーー」
クーフーリンの振り出された槍が金属に当たる音がした。
それは間違いなくナナリの太刀であった。
ナナリの表情が一層険しくなった。
ナナリとて見破られるのは時間の問題と考えていたが、冷静になったクーフーリンの対応はナナリにとって最悪であった。
微弱な風ゆえにナナリには気づかれず場所を割り出してしまうのだ。そのため条件が一気に5分まで戻されてしまった。
「次はこっちの番だ。次の手があるならさっさと出した方がいいぞ」
クーフーリンは接近戦に持ち込むべくナナリのいるであろう場所に向かって疾走する。
ナナリは霧の中にさらに自分と同じ姿をした氷のオブジェを作りだしやり過ごしつつクーフーリンに斬りかかる。しかしクーフーリンはあっさり受け止めて反撃してくる。
元々ナナリのスタイルがカウンターもしくは一撃を重視するため。相性が悪い。
カウンターをかけるにはあまりにも強大すぎて耐えきれない。かといって一撃にかけると手数で押されて潰されてしまう可能性がある。
ジリ貧になりつつも僅かな隙を突こうとナナリは全力で押しにかかる。
しかし、突如強烈な音をナナリの耳が感じ取った。
ナナリはすかさず後ろに飛び下がった。下がったのと同時に強烈な圧縮した風が床に叩きつけられた。
(まずい)
ナナリは休むことなく別の場所へと移った。
先ほどまでいた場所に同じく風の塊が叩きつけられる。
動きを読まれているのだ。
将棋で言う必至の状態に持ち込まれようとしていた。
「あばよ」
ナナリの着地のほぼ正面に槍を蹴りだそうとしているクーフーリンがいた。
ナナリの態勢からしてよけれない。完璧な詰みであった。
「一瞬で終わらしてやる。ゲイボルグ」
蹴りだされた槍は音も時間すらもおいてナナリを襲う。
床に叩きつけられた砂埃が舞う。完全に捉えたたクーフーリンは確信していた。
突如何かがクーフーリン目がけて飛んできた。
クーフーリンはそれを突風で上に弾いた。それが自分の槍であると直ぐに理解しつかんだ。
「なんだと」
クーフーリンは困惑しながら砂煙が上がっている場所を見た。
煙が晴れ傷だらけのナナリが見えた。
だがナナリは片膝をついていたが、致命傷には至っていなかった。
「つっ」
ナナリは出血が多い部分を無理やり氷漬けにして抑え込んだ。
「見きった」
ナナリは立ち上がりクーフーリンをにらみつけた。
「おもしろい、このたった2回で我が一撃を見抜いたというのか」
クーフーリンは驚きと興奮が混じっていた。
ナナリは知らない。何故クーフーリンは感情を押さえ込まれていたのか。
それはハース達が制御できず自らにゲイボルグを撃たれることを恐れた結果クーフーリンは感情を制御されただの操り人形になったのだ。
故に彼の一撃を防いだ者は誰一人としていなかった。
しかし、今目の前に誰もがなしえなかった一撃を防いだ奴がいた。
それが素直にうれしかったのだ。彼は武紳であったがその前に一人の武人だったのだ。
「いくぞ」
クーフーリンは勢いよく槍を振りだした。複数の風の刃がナナリを襲う。
ナナリは自分に直撃する手前で氷壁を作り全てを撃ち落とした。
だがクーフーリンの狙いはその後にある。ナナリが刃を受け止めることで次への行動を遅らせることにあった。目論見通りナナリは太刀で打ち合いにでてきた。
ほぼ互角の攻防、クーフーリンは速さでナナリを圧倒しようとする。ナナリはクーフーリンの僅かな攻撃の隙を突きカウンターを仕掛け相手の態勢を崩しにかかった。
お互い僅かなミスが命取りになるであろうこの状況で冷静に立ち回っていた。
二人とも気づいていないが、ほぼ無意識に最善の動きをしていた。
まさに無の境地であった。
二人の得物がそれぞれを突き刺した。両者苦痛に顔を歪めたがすぐさま後ろに跳び下がった。
距離を離せばゲイボルグが飛んでくる可能性があった。だがナナリはあえて後ろに下がった。
「終わりだ」
クーフーリンは槍を投げるとそのまま槍を追うようにとんだ。
先ほどと違いクーフーリンは槍の周囲に風を纏わしていた。放たれれば接触と同時に暴風が荒れる。ぎりぎりで避けれても荒れ狂った風が襲いかかりほぼ死がまっている。
完璧に王手をかけていた。
だが・・・
「ゲイ」
クーフーリンとは全く違う声が下から聞こえた。
クーフーリン以外にこの場にいるのはナナリのみ。
そしてナナリと太刀を覆うように雷が走っていた。ナナリはとーるとは違い帯電体質ではない。
ではどうしたらこうなるのか。それは絶対零度の状態で起きる超伝導現象が起きていたからだ。
超伝導現象を簡単に説明すると電気抵抗がゼロになると考えてもらえればよい。
そんな状態で空気中にある電気を纏うと現在のようになる。
「ボルグ」
撃ちだされた槍と太刀が衝突した。その余波だけでも消し飛ぶのではないかと思わせる重圧。
過去一度たりともゲイボルグの衝突が起きたことはない。それはかの技はクーフーリンの死の後、完全に消滅したからであった。
しかし、血脈だけは途絶えていなかったのだ。ナナリは自力でゲイボルグの真の姿を見つけたのだ。
それは、彼が英雄たるクーフーリンの血脈であったということになる。
ナナリの太刀が槍を砕いた。 伝説の英雄の一撃に打ち勝った。
「ちっ、結局俺は損する役だよな」
クーフーリンは襲い来る太刀を見て苦い笑いを浮かべいていた。
「あばよ、現代の英雄」
太刀はクーフーリンに突き刺さると勢いを失いそのままクーフーリンと共に地に落ちた。

ナナリはただその光景を唇を噛みじっと見るだけであった。
最後のクーフーリンの表情を見てナナリは気づいた。
本当ならナナリを殺さないといけないのに、クーフーリンはナナリの覚醒を促していたのだ。
ナナリが覚醒すればクーフーリン本人の死が待っているのは確実だった。だがクーフーリンはそれを選んだ。
ハースの命令に背くことのできない彼は全力で負かされるためにあえてこの行動をとった。
僅かな運命に抗うたに。
クーフーリンが地に落ちると同時に太刀が抜け落ちた。
ナナリは立ち上がり横たわるクーフーリンの前へ歩み寄った。
(二度とこんな悲劇があってはいけない)
もう二度と動くことが無いであろう彼の前でナナリは誓った。
ナナリは太刀を拾い鞘に納めると次の部屋に向かって歩き出した。
白氷の獅子、後に氷王、獅子王と呼ばれるが今の彼は一人の戦士であった。
ナナリはすべての悲しみを断ち切るために一歩また一歩前へ進んでゆく。
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