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REQUIEM館

第39話:覇王の力

カツン、カツン
廊下を歩く足音が響き渡る。
「相変わらず殺風景だな」
セツは周囲を興味なさげに見渡した。
「っ!」
突如視界に何かが飛んできた。セツは横に跳びつつその正体を見極めた。
「人?」
セツが見たその正体は人であった。
流石に予想外であったが相手を見てセツは気づいた。
そう目の前にいるのは人ではあったが中身は既に人ではなかった。
「GURUUUUAAAAAA」
人とは思えない声を上げ口からは涎がが流れ目は既に何を見ているのか分からなかった。
「力に溺れ発狂したか」
セツは相手を見ながら状況を分析していた。
「馬鹿が過ぎた力を求め、耐え切れなくなり自我を失うとはあわれだな」
セツは相手を見下した目で見た。
能力者には2種類のパターンが存在し、生まれつき力を持つものと人為的に力を与える方法の2種類ある。前者は生まれつきのため保有する力に耐えうる肉体と精神力が備わっている。しかし後者の場合、元々力を持たない者のため力に圧され飲み込まれる危険性が生じる。
目の前の相手は正にその実例であった。それもかなりの力を求めたと思われる。
「厄介だな。こうなるとどうにもならん」
セツは背中に担いでいた布袋から槍を引き抜いた。
「AGyaaaaaaaaaaaa」
咆哮とも取れる声を上げるとセツに向かって飛びついてきた。伸びた爪が
セツの喉元を狙う。
「絶纏:裂破一迅」
セツは一度後ろに短くステップを踏むと勢いよく前に踏み込んだ。
速度と体重をのせた突きを放ち首を突き刺しながら宙へ飛ばしそのまま下段から槍
「所詮獣か」
セツは一度だけ視線を向けるとそのまま横を通りすぎようとした。
「Guaaaa」
突如先ほどと同じく咆哮と共に倒れていた相手が飛びあがって襲いかかってきた。
「なんだと!」
セツは驚きつつも相手の胴体に槍を叩きこみ吹き飛ばした。
しかし、流石のセツも額に冷や汗を浮かべていた。
出血量からして死んでいたとしてもおかしくなかったはずだ。
『フフ、覇王と言われたあんたがそのようなミスをするとは随分と平和ボケしてるようね』
天井から女性の声が聞こえた。セツはその声を知っていた。
「お前、こいつに何をした」
セツは声の聞こえた方を睨みつけた。
『怖い顔して睨んでも無駄だよ。まぁいっか、教えてあげるよ。そいつには力を与えられた時に遺伝子を書き換えたのさ』
声は愉快そうに話を続けた。
『色々といじったから結構ガタが来てるけど。まぁあんたを消すくらいはできると思うよ』
声は明らかにこの状況を楽しんでいた。セツが不愉快になるような話し方をわざとしているのだ。
「・・・本気でそう思ってんなら、相当見くびられたもんだな」
セツの表情は変わらないがある程度彼を知っているならその表情の裏に隠された怒りに圧倒されたであろう。
『狂乱、やってしまいなさい』
そう、セツは目の前の相手が執行者であることは知らなかった。普通に考えればセツにとっては情報が全くない相手であって、向こうはこちらの情報がほぼ知られているというのはかなり不利であった。
狂乱は迷うことなくセツに向かって突進する。
「おっせーよ」
セツは狂乱が振り下ろしてきた爪を弾くとそのまま回し蹴りを首に叩き込んだ。
狂乱はきりもみ回転をしながら壁へと叩きつけられる。
「UGAAAAAAA」
体重の乗った回し蹴りを叩きこんだにも関わらず狂乱は立ち上がってきた。
『その程度の一撃なら執行者であれな誰でも耐えれるさ。あんたの弱点は知ってるんだよ』
セツは聞く気が全くいのか、狂乱の出方を窺いつつ間合いを詰めていった。
『あんたのその力、元は疾風のだよね。何せその力を与えたのはあたしだからね』
セツは高速の槍捌きで狂乱を斬り付けた。
月下一閃、セツの基本立ち回りで使う技でも速さを重視した技である。
狂乱は先ほどと同じく吹き飛ばされるが何事もなかったかのように立ち上がってきた。
よく見うると斬りつけられた箇所は既に傷が残っていなかった。
(超回復か、しかも再生機能というおまけつきとは面倒くせーな)
『何度やっても無駄よ。あんたの力の限界は知っているんだから』
セツは一度溜息をつくと声のした方をみた。
「そんなにあの時のことを恨んでいるのかライラ」
『当り前よ。忘れたことなどないわ。あんな屈辱一生忘れれるわけないわ』
ライラと呼ばれた者の声は先ほどまでと違って憎しみに満ちていた。
「確かに恨まれるのは仕方ないが、お前がアビッサルに加担した時点で俺は容赦する気ないぞ」
『へー、容赦しないって今のあんたの力ごときに私の作り上げた作品が負けるはずないわ』
狂乱が繰り出す爪の連撃をセツは余裕を持ってかわしんがらもライラの言葉はしっかりと聞いた。
「所詮はデータにしか頼ることができない馬鹿だったわけだ」
セツは嘲笑うかのように声の方をみていた。
『なっ、この出来そこないの分際で戯言いってんじゃねーぞ』
セツの言葉が癇に障ったらしく怒声が響き渡った。
セツは下を向き微かに笑った。そして顔をあげた時、彼の目は赤くなっていた。
血眼、セツの異常体質の一つでありそして爆発的な身体能力を高めた状態になる。
『血眼、そもそもあんたと同じくフェンリルにいた私がそれを見落とすとでも思ったの。それも想定にはいってるわ』
だがライラは彼の状態を知っている。そもそもライラはセツ、フリューベルと同じくフェンリルの一団にいた。ライラは元々は医学系のエキスパートで戦場では医療班として動いていた。
この頃セツは力を使えなかった。だが戦闘に関してのセンス、そして状況分析は一団の中でもトップクラスであったため、隊長クラスまで上がってきたのだ。また彼は面倒見もよく周りからも慕われていた。
ライラもこの時、医療班の隊長をしていた。ライラはフリューベルの力について研究していた。
あわよくば力を自分のものにしようと考えていたのだ。
だがこの研究は思わぬ最期を迎える。
通常、力はその使い手本人に適合するようになっているため別の人間がそれを取り込めば暴走し死を招く恐れがあった。
そのためライラは戦場で負傷した者を救護という隠れ蓑を利用して人体実験を行っていたのだ。
セツはライラの行っていることに感づき自分の部隊仲間が連れて行かれた後を追いその現場を目撃した。
力を無理やり与えられた仲間が風船のうように膨らみやがて破裂して無惨な姿へと変わっていくその一部始終を目にしたのだ。
実はこの実験を最後に彼女の実験は完成していたのだ。
そして自分に使い力を手に入れる準備までしていた。しかし自分にそれを投与する瞬間セツが妨害に入った。
セツは力の投与に巻き込まれ、結果として風を操る力を手に入れたのだ。
ライラはセツにそのチャンスを奪われ、更に非人道的行為を行ったとしてフェンリルを追われることになった。
「・・・あんま俺をなめんなよ」
『ぐっ!うぁぁっ』
いきなりライラの苦しんだ声が漏れた。よく聞くとミシミシという音が聞こえてきた。
『なんだと風の圧縮し力を押しつけているのか・・・違う・・・グッ』
ライラのうめき声に反応したのか狂乱がセツに向かって飛びついてきた。
「獣は地でも這ってな」
セツは狂乱を睨みつけた。ほぼ同時に狂乱の体が地面に叩きつけられた。
「Guuuuuuuuu」
叩きつけられた狂乱はそれでも前へと進もうと地を這おうとするがそれすらも叶わぬ強烈な力が上から圧し掛かっていた。
「さて幾つか質問する、素直に答えるなら殺しはしない」
セツは前にいる狂乱から視線を外した。
「一つ目、どうやってアビッサルに紛れ込んだ」
『あんたに・・・教えるわけない・・・ぐぁぁぁ』
セツは答えを聞き終わる前におもいきり睨みつけた。同時にライラの悲鳴が漏れた。
「もう一回だけ聞こう。どうやってアビッサルに紛れ込んだ」
『名前は知らない奴と取引をした。能力者研究をするかわりに保護をすると』
ライラは諦めて口を開いた。
「なるほどな能力者研究ならばありえるか。なら2つ目だこの目の前のこいつを元には戻せないのか」
セツは目の前で這いつくばりながらも掴みかかろうとしてきた狂乱を槍で突き飛ばした。
「Ugyaaaaa」
セツの一撃は見た目よりも強かったのか壁に叩きつけられた狂乱の体が壁にめり込んでいた。
『無理ね。一度与えてしまった力は戻すことはできない。例え元に戻れても精神が崩壊して廃人になるのがおちだ』
「ならば、精神が崩壊してない能力者なら元の力を持たない状態に戻す方法はあるのか?」
この質問、質問の内容以上に重要であった。
『ないね。それは力を必要とする過程で必要のないことだ』
「そうか」
セツは狂乱にかかっていた力を解いた。同時にライラにかかっていた力も解いたようだ。
「これが最後の質問だ、二度と人体実験と能力者研究をしないならこの場は見逃してやる」
セツは槍を狂乱に向かって構えたまま問う。
『答えはNo。あんたを殺して。その力を貰ってやる』
ライラの叫びと共にセツの周囲の壁が開いた。
『やってしまいなさい』
壁からは元人であったであろう者がでてきた。
「ちっ、腐れ外道が」
セツは冷たい目で狂乱たちをみた。
『外道でけっこう、あたしに逆らったあんたは死んで当然よ』
ライラの絶叫と共に狂った獣たちがセツに向かって一斉に襲い掛かる。
「なら、最後に見せてやるよ。俺の本当の力をな」
獣たち八方から斬りつけてきた。がその先にセツの姿はなかった。
セツは獣たちの遥か上、天井付近まで跳んでいた。
「簡単に死なせてやれればよかったんだがそうも言ってられんよな」
獣たちは一斉にセツに向かって跳びかかろうとした。
だが
「お前たちに跳ぶ権利なんぞ与えてない」
セツの言葉と共に獣たちは全員地に叩きつけられた。獣たちの体がベキベキなる。
唯一圧迫を逃れていた狂乱が横からセツに跳びかかってきた。
「撃ちもらしか」
面倒そうに横に突き出した槍が狂乱に当たり狂乱は獣たちの上に叩き落とされた。
セツは未だに天井付近を浮いていた。
『浮遊、風の力か』
ライラの驚愕した声が聞こえた。
「いや違うな。それならフリュだってできるだろ」
そうフリューベルは浮遊する力なぞもっていない。そうなるといったい何の力となるのだ。
ライラの頭にある答えが浮かんできた。
『まさか、重力』
「御名答」
セツは懐からナイフを複数取り出すとそれを無造作に落とした。
ナイフはやる気のない落下を始めたか思うと姿を消した。
グサッ
気づくとナイフはすでに獣たちに突き刺さっていた。
セツが行ったことは重力加速を利用しナイフを急降下させたのだ。
「まぁ、浮いていられる高さとか、精神的にもこいつは多用できないんだけどな」
セツは槍を構えたまま自分に重力を付加して急降下を始めた。
獣たちに向かって一気に加速する。そして射程に入ったと同時に急停止その爆発的にためた加速力で一回転し叩きつける。
「絶纏:絶廻纏滅」
叩きつけた衝撃波が周りの壁を抉る。
そしてその煙の中にはセツだけが立っていた。他の狂乱を含む獣たちはずたずたに引き裂かれ再生すらできない状態にまでなっていた。
「さて、後始末を死ねーとな」
セツはライラのいるであろう方角をにらんだ。
『ヒィッ』
ライラのひきつった声が廊下に響く。
「まぁあれだ、俺が甘くないってことを思い知って死にな」
セツが一睨みすると強烈な重圧がライラを襲った。
『ぐぎぎぎ、アガ』
今まで以上に手加減のない重圧にうめき声しかでていなかった。
「これでジ・エンドだ」
セツが指を鳴らすと、ギュポっと音が聞こえた。
そうライラは今この瞬間地面にすり潰され死んでいた。
その現場を見たものはそれがだれであろうか分からないほどにまですり潰されている。
セツは獣たちの肉片に一度視線を向けた。
「力に溺れたことを後悔するんだな」
そのまま背を向け廊下の奥へと消えていった。目指すは最奥。
アビッサルの当主がまつであろう場所へ、
セツは覇王と呼ばれた本来の力をふるい突き進む。
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第38話:時を経て(後編)

「まだ終わるわけにはいかない」
赤い髪をした男の声が荒れた戦場をかける。
「ティアは何処にいるんだ」
黒髪の男の切迫した声が戦場をかけ渡る。
「ロイ、落ち着けお前が前線に出たら指揮を執る人間がいなくなる。ここは俺とアークが探しに行く」
ロイと呼ばれた男を引きとめるように青髪の男が前に出た。
「くっ、仕方が無い。アル、あいつを頼む」
(これは・・・)
エリスは戦場のど真ん中にいるが飛び交う銃弾は全てすり抜けていた。
どうやらこれが過去の世界のようだ。エリスはただこの戦いの最後を見る傍観者でしかないようだ。
「アークいくぞ、雑魚はほっと」
アルと呼ばれた男はロイから視線を移し赤髪の男を見たが途中で言葉止まった。
「背中を押す風は集いやがて天空の怒りへかわる」
アークの周囲に強烈な風が覆う。更には纏わりつく風からは稲妻が発していた。
「もっと下がれ巻き添えになるぞ」
ロイの声に周囲にいた人間は即座に後ろに下がった。
それを合図にアークは全力の跳躍をした。
一回の跳躍でゆうに50mは超えていた。だがそれよりも
(はやい!)

エリスはアークの動きが見えていた。たぶんであるが過去の起きた現象全てがエリスにはわかるようになっているのだ。
(ベルさん以上だわ)
アークの速さはエリスの知る最速のフリューベルをうわまっていた。
「怒れる風は轟音と閃光に変わり裁きを下すだろう」
まるで歌うかのように言葉を紡いで拳を振り下ろした。
力強く振り下ろされた拳は至近距離にいた兵に当たると強烈な光を放っていた。
光は一瞬で止みそこに残っていたのはアークだけであった。
(反則的な強さだわ)
エリスはその光景を見て絶句した。アークの周囲には先ほどまで人がいたが今はアークを除いて誰もいなかった。あの一撃で完全に消滅させられたのだ。
「あの馬鹿敵とはいえ全力過ぎだ」
アルは呆れていた。
「アル、ここはアークに任せよう。他の場所が気になる」
ロイの言葉にアルはため息をつきながらも頷いた。
「あれで一児の親とは誰も信じねーよな」
アルとロイそれに続いて集団は移動を始めた。
「まぁそう言うな。お前とて息子がいるだろ似たようなもんだ」
アルは苦笑いをしながらロイを見た。
「まぁな、とはいえ俺は家族を捨てた。俺とアークでは立場が違う。それにロイだってこの前娘が1歳になったばかりだろ親が揃って戦場とか危険すぎだろ」
「これが終わったら、俺は武器を捨てるさ。それに妻が危険で夫が何もしないって立場ないしな」
「確かにな・・・っと敵さんがおいでなすったか」
アルは無造作に手を突き出すと先にいた兵たちが地面に倒れた。いや押しつけられていた。
「相変わらずえげつないですね。能力者の中でも異質な力、重力。世界中を探してもあなたぐらいでしょう」
ロイの言葉にアルは首を振った。
「いや俺だけじゃないぞ、遺伝かは分らないが子にも継承されてたからな」
アルは手を横に振ると集団にかかっていた重圧が消えた。しかし立ち上がる者はいない。アルの重力変化の前に失神してしまっているようだ。
「お見事です」
ロイの言葉に後ろに続いてた兵も賞賛の声を上げていた。
「喜ぶのは勝ってからだ、急ぐぞ」
アルは真顔で話すと失神している兵たちを横目に駆け抜けた。
ロイ達もそれに続いて走る。
(アークという方それとアルという方、誰かに似ているような)
エリスは彼らの後ろ姿を見ながら疑問を抱いた。しかし答えが見つかる前に目の前がゆがんだ。

「どれほどこの時を待ったことか。どれだけ恨んだことか」
エリスの視界が戻るとリーゼの姿が目に入った。しかしエリスが知っているリーゼとは全く違い、負の感情だけが伝わってきた。
「リーゼ、もう昔の貴方はいないのですね」
リーゼの姿を悲しそうに見る女性がいた。それはエリスが見た絵画の人物すなわち、エリスの母親であるティアであった。
「お前さえいなければ、ロイは私を見てくれた。この痛み死をもって償ってもう」
リーゼの周囲に黒い球体が浮かび上がる。
「今の貴方をロイにあわせる訳にはいかないわ」
ティアは剣を抜いた。
(あれ?)
エリスはその剣を見て気づいた。刀身が全く見えないのだ。
リーゼが腕を横に振ると球体がティアを襲う。
「ふっ!」
ティアが刀身のない柄を振り下ろすと球体は真っ二つに割れてそのまま消滅した。
「耀光、変幻自在であり光の屈折を自在に操ることでその姿すら消すといわれている」
リーゼは忌々しげにティアを見る。しかし直ぐにその表情は余裕の笑みへと変わった。
「ですが私も闇を統べる者、そこらの力のある奴とは違うのよ」
自信のある言葉と共にリーゼの周囲に数多の武器が出現する。だがこの武器には共通点があった。
「無理矢理取り込むとは」
ティアの表情が険しくなった。
「ふふっ、さすがにこれは堪えたようね。貴方の大事な仲間達はもういないわ」
そうリーゼの周囲に現れた武具はかつて彼女達を守護していた者が扱っていた。リーゼは無理やり彼らの力を取り込み意のままに操っていた。
「さぁ、お仲間の得物で貴方も消えなさい」
リーゼが指を鳴らすと同時に宙に留まっていた武具が一斉に襲い掛かった。
落下速度を纏い飛来する武具の威力からして当たれば致命傷は免れない。
ティアは加速して僅かに空いている空間を走り抜けた。
そして目の前にあった全ての障害を駆け抜けリーゼに向かって耀光を振り下ろした。
耀光とリーゼの間で何かがきしむ音がした。
「障壁!」
ティアの考えは当たっていた、耀光とリーゼの間には目には見えない分厚い壁が展開されていた。
「まだ迷いがあったのね」
そうティアは耀光を振り下ろした寸前で一瞬だけ躊躇した。
それは結果として耀光の力が弱まってしまったのだ。
ティアは耀光で弾いた反動で後ろに跳んだ。
「その迷いが貴方の最後となる」
ティアの着地に合せて地面から黒い手が現れティアの足をつかんだ。
「しまっ」
「もう遅い」
リーゼの声が聞こえたと同時に数多の武具がティアに襲いかかった。
確実に決まった。動けないティアにとって避ける術がない。

グシャ
体に突き刺さる音がした。しかしくるはずの痛みがなかった。
恐る恐る目を開けた。
「よ・・・う」
「アル!!」
ティアを庇うように立ち、壁となったのだ
アルの体の大半に剣が刺さり明らかに助からない状態なのが分かる。
「ま・ま・・にあって・・・よか・・・・・・た」
そのままアルは地面に倒れた。
「アル!アル!!」
ティアはアルを抱き起しすが既に息をしていなかった。
「ちっ、邪魔が入ったわ、ですが次で最後よ」
リーゼは同じく数多の武具を飛来させた。
「私のせいで、私のせいで・・・」
飛来する武具を全く見ず、ただ地面を見つめていた。
ティアの体からとてつもない程の力が流れ出ていた。
「許さない、私もリーゼも全て許さない」
直後、空を突きぬけんとする光が一瞬だけはしった。
「なっ!」
さすがのリーゼも驚きを隠せなかった。
今ティアから出ている感情は憎しみと殺意。
その負の感情に感化され、力が暴走しているのだ。
ティアの目にリーゼが映った。
「!!」

突如リーゼの腕が切りつけられた。
ティアは完全に自我を失っていた。ただ目の前で仲間が殺されたこと、そして何もできなかった自分が許せなかった。そうして今まで溜め込んできた結果彼女の精神がもたなくなってしまったのだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絶叫と共に振り出された耀光は既にリーゼの呼び出した剣を破壊していた。否消滅させていた。
圧倒的な力でリーゼを圧倒する。しかし全力の彼女にもその反動が出ていた。
ティアの体の至るところに傷ができていた。出血量からしてもかなりの致命傷である。
だが、ティアは止まらない圧倒的な速さでリーゼに反撃をさせない。
「生意気な、その程度で私を倒せると思うな」
リーゼは全力で障壁を作り出すとすぐさま両手を空へと向けた。
暗黒の球体を作りだした。
「闇に呑まれて消えてしまえ」
リーゼは勢いよく解き放った。球体はティアのまで爆発し多数の小型の球体に分裂した。
ティアは一直線にリーゼへと向かっていった。
球体がティアに向かって飛び勢いよく衝突する。だがティアは止まらない。
何度直撃しても前へ進む速度は落ちなかった。
「あああああああああああああああ」
耀光が勢いよく振り下ろされた。
先ほどとは変わってリーゼが追い詰められた。リーゼは恐怖のあまり目を閉じた。
しかし、次に来るはずの衝撃がなかった。
リーゼは恐る恐る目を開くとリーゼの首の手前で耀光が止まっていた。
「できるわけない」
ティアの目から涙が流れた。
「なんで、嫌いでもないのに妹と殺し合わないといけないのよ」
溜まっていた感情が爆発した。どれだけ冷酷になろうと徹しても最後は無理だった。
彼女にとって自分の苦しみを理解できたのはリーゼだけであった。
ただ、ほんのわずかな擦れ違いが原因で憎しみが生まれてしまったのだ。
だからこそできなかった。どれだけ憎んでも無理だったのだ。
「ね・・え・・・・さ・・・ん」
突如リーゼが苦しみながらティアを見上げた。
「わ・・・たしは・・・もうだ・・め・・・闇に・・・のまれて・・・しまっ・・ているわ」
リーゼの体から黒い煙が噴き出していた。それは怨念や呪いといった負の産物であった。
ティアの想いが一瞬とはいえリーゼに届いた。だがそれも長くは持ちそうになかった。
「リーゼ、正気に戻ったの!」
リーゼは首を横に振った。
「お願い・・・姉さ・・・ん・・・の手で・・・楽に・・さ・せ・・・て」
リーゼは自分の体を抱きしめて闇が出て行くのを押さえ込んでいた。
ティアは涙を拭い耀光を持ち直した。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絶叫とともに拘束の踏み込みが放たれる。この時、耀光は刀として具現化していた。
ドスッ
リーゼの胸に耀光が突き刺さる。
耀光が突き刺さった箇所から光が放たれた。光は一瞬で消えた。
「ね・・・え・・さ・・・ん」
弱々しい声がした。ティアは顔を上げるのが怖かった。自分の手で妹を刺したことを認識させられてしまうことを恐れていた。
「あ・・・り・・が・・・・と・う」
リーゼは感謝の言葉を残し消滅した。闇にのまれた時点で彼女は闇なしで生きてはいけなくなっていたのだ。
そして耀光の力により闇を消した今消えることは決まっていたのだ。
「つっ、うぅ」
リーゼは歯を食いしばり涙を流すのを堪えていた。
ほんの僅かしてリーゼは腕を振り上げた。振り上げた手には既に姿を消した耀光が握られていた。
「汚れた大地に再び光を」
そして大地に耀光を突き刺した。
ティアとリーゼの戦いにより大地は完全に闇の影響を受けていた。
このまま置いておくと死の大地へと変わるだろう。
しかし耀光が刺さった場所を中心に枯れ果てた草木が力を取り戻していった。
そう、一種の浄化だろうその力はあっという間に闇の影響を受けた大地に生命力を取り戻させた。
パキッ
耀光の柄の部分にひびが入った。そのままひびは広がりやがて
ガシャン
甲高い音と共に砕け散った。
「そう、もう限界がきたのね」
ティアの体が薄れていた。
「ティアーーーーーーーーーー」
ロイが走ってくるのが見える。
ティアにはそれがとてつもなく懐かしい気持ちになっていた。
リーゼとの激闘は実際の時間以上に長い戦いだった。
そのせいで時間の感覚が狂っているのだ。
ロイが立ち止まると驚愕の顔をした。
「ティア!」
瞬時にその意味に気づいたロイは絶句してしまった。
後数秒もしないうちにティアは消滅してしまう。
「ロイ、ごめんね。エリスのことお願いね」
ティアは笑顔を浮かべた。
「サイゴニアエテヨカッタ」
ティアは最後にロイに言い残して消えた。
ロイの足元に一つの石が転がった。それをロイは拾い上げた。
「これは」
ロイはその石に見覚えがあった。
それは耀光の柄に埋め込まれていた石であった。
耀光は砕けても装飾の石は割れなかったようだ。
「その石を渡してもらおうか」
ロイの前にフードで顔を隠した者が現れた。声からして男のようだ。
ロイはその者をよく知っていた。
「やはりアビッサルか」
ロイは剣を抜き構えた。
「愚かな、力も持たぬ者が」
フードの男の手から炎が上がった。
「消えろ」
炎は火球となりロイに向かって一直線に飛ぶ。
ただの人が受ければ消し炭になる威力はある。
しかしロイは避けようともしなかった。かわりに全力で剣を横に振った。
火球はそのまま二つに割れ霧散した。
ロイは振りぬいた状態のまま男の懐を飛び込んだ。
「しまっ」
男が気づいた時には剣は振りぬかれていた。
胴体を一直線に斬りつけ、男は血を噴き出してその場に倒れた。
「どんんだけ抗おうと無駄だ。あと少しで神の裁きが始まる」
男は言い残し息絶えた。
男の言ったことはこれからアビッサルの総攻撃が始まるということだろう。
狙いは曜光とアークとアルが持つ武具だろう。
ティアの耀光等は特殊な力を持つ武具は現存の技術では到底作れない物で希少な存在であった。
そのためこれらの力を欲しがる者が後を絶たないのである。
事実、アビッサル等の団体組織もこれらの力を狙っていたのだ。
完全に疲弊してるこちらにアビッサルは全軍をぶつけてくるだろう。
そうなれば勝敗は明らかだ。
ロイは遠目で黒い集団がこちらに向かってくるのをみる。
すべてアビッサルの兵である。
「やるしかない」
無謀としかいえないがもうそれしか方法がない。
勝てる可能性はほぼ0に近い。
ロイは決意を固め一歩前に踏み出したとき。黒い集団に向かって強烈な雷が落ちた。
続いて竜巻が勢いよく黒い集団を吹き飛ばす。
天変地異としかいいようのない現象に集団は散り散りになるが、竜巻から逃れた集団に雷が落ちる。
そして竜巻がまた発生する。
ロイは竜巻の発現場所に向かって走った。
ロイが辿り着いたときには既にアビッサルの軍は壊滅状態に陥っていた。
「ロイか」
現象を起こしていたのはアークだった。
「アーク・・・」
ロイは言葉が続かなかった。そう目の前にいるのは前線で暴れまわっていたアークだった。
アークの左腕がなかった。さらに足元には血だまりができ致命傷であるのが見てわかる。
カツン
アークの足元に石が落ちた。それは曜光と同じ大きさの石であった。
石に見覚えがあった。アークの槍に埋め込まれていた装飾の石だった。
しかし、石の色が違っていた。前見た時は澄んだ緑の石であったが今は黒く濁っていたのだ。
ロイはこの時になってあることに気づいた。
「この石が能力者としての力を増幅させていたのか。そして力を使いきった今ただの石になった」
ロイの言葉にアークは頷いた。
「後、俺を代償に石の力を限界まで高めた」
アーク自身の生命力を代償にすることであの天変地異を巻き起こしたのだ。
アークの顔に生気が見えないのは既に生命力を使い果たした事を意味していた。
「その石は時が来れば希望になる。失くすなよ」
アークはそのまま目を閉じ静かに息をひきとった。
ロイは何も言えずその場にただ俯いて立っていた。


・・・
・・・・・・
エリスは暗闇の中で目を覚ました。そして目の前にはロイが立っていた。
「耀光は使い手を選ぶ、過去幾人もの人が命を落とした。唯一の使役することができたのがティアであり、お前の母親だ」
ロイは淡々と話を続けた。
「耀光の力を望むのであれば首から下げてる石に問いかけろ」
そう、エリスが物心ついたときには既に肌身離さず身につけていた石はロイが持っていた耀光の石と同じものであった。
エリスは間違いなくティアとロイの間にできた子である何よりの証拠であった。
エリスは気づいていたが何も言わずただ頷き石を取り出し強く握りしめた。
石から眩い光が放たれ暗闇の世界が光り輝いていた。
「これは!」
エリスの手には先ほどまでティアが持っていた耀光の柄が握られていた。
刀身もないただの柄だがその宿す力は絶大であった。
「耀光は持ち手の思考に合わせて変化する」
エリスの頭の中には多数の形をした耀光の姿が描かれていた。
「そろそろ時間か」
世界がゆがみ始めた。ロイの体も少しずつ消え始めていた。
ロイはエリスを見て少しだけ笑みを浮かべた。
「大きくなったなエリス」
まだ消えていない右手をエリスの頭をなでた。
「お父さん・・・」
エリスは俯きながら涙が流れ出すのをこらえていた。
ロイもあえて何も言わずに次の言葉を待った。
「私、負けない。絶対に負けない。だから絶対に最後まで見守っていてね」
エリスは真剣な目でロイを見た。その瞳には確固たる意思の強さが見えた。
「あぁ」
ロイは微笑を浮かべ、そして消えていった。
そしてエリスの意識も薄れていった。
(目覚めなさい)
エリスは少しずつ瞼を開けた。
「ここは、・・・戻ってきたのね」
周囲を見回し自分が元の場所に戻ってきたことを確認した。
「・・・リーゼ?」
エリスはリーゼがいないことに気づいた。
「え!」
エリスは右手に感触を感じて視線を向けた。
手には耀光が握られていた。エリスは感触を確かめるために握り締めた。
「あれ?」
エリスはあることに気づいた。
「この石は」
耀光の中央に白と黒の石が埋め込まれていた。
白の石はティアの持っていた石である。そして黒の石は
「リーゼ、貴方も・・・」
エリスはリーゼが既にこの世にいない事を悟った。
リーゼはエリスに黒の石を託したのだ。石の名前は「深淵」と呼ばれるがエリスがその名を知るのはもう少し先の話であった。
光あるところに闇があり。闇あるところに光がある。耀光は本来の姿を取り戻したのだ。
そしてそれはエリスが本当の力を手にしたことも意味していた。
「行かなくては」
エリスは耀光を握り走り出した。耀光の光を纏い走る姿はとても神々しかった。
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