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REQUIEM館

設定:現在までの流れ

世界歴630年 ナナリ誕生 ヘイム王国次男
世界歴634年 エリス誕生 父親:ロイ 母親:ティア
世界歴634年 セツ誕生  父親:アル 母親:不明
世界歴635年 フリューベル誕生(長男) 父親:アーク 母親:不明
世界歴635年 エル誕生  父親:アル 母親:不明
世界歴636年 光魔戦争 開戦
世界歴636年 とーる誕生 両親不明
世界歴637年 光魔戦争 終戦(ティア、アル、アーク 戦死)
世界歴638年 ヘイム王国 クーデターで王族全てが処刑される(ナナリのみ生き延びる)
世界歴638年 リオ誕生 両親不明
世界歴638年 フリューベル、 セツ、ソルに拾われフェンリル入団(この時2人の母親は既に他界
※既にエルは入団済み
世界歴640年 ナナリ アビッサル研究部に入る。この年の末やよいと出会う。
世界歴643年 とーるの故郷が襲撃にあい壊滅
世界歴643年 フリューベル、セツ共に隊長クラスになる
世界歴645年 フリューベルの力の暴走によりエル死亡 この後セツ退団
世界歴646年 とーるの元故郷の隣国のカーニア国王暗殺(とーるの手によって)
世界歴646年 ナナリ、アビッサルを去り放浪のたびへ出る
世界歴646年 団長ソルが行方不明になりそのままフェンリル解散
※この時バールとフリューベルの間で後継争いが起こる
 バールは一部のメンバーと共にフェンリルを去る、残されたフリューベルとメンバーは後にアビッサルと呼ばれる企業の軍部に移る。
世界歴647年 フリューベル、アビッサルを去る。
世界歴648年 ナナリ、フリューベルと出会う。7ヶ月後本編のナナリの住まいを拠点に活動を始める。
世界歴648年 セツ、レーベルを訪れる。
世界歴648年 鳳凰の一族が何者かの手によって滅ぼされる。リオ、アビッサルに拘束される。
世界歴649年 エリス、バールの屋敷に仕える
世界歴650年 ナナリ、フリューベル、とーると出会う。
世界歴652年 アビッサルの活動が活発化 大半の国が滅び、かわりに企業が領土を統括する動きが強まる。
世界歴653年 フリューベル、ナナリ、とーる、リオと出会う。数ヶ月後リオの記憶が戻る
世界歴653年 とーる、エリスと出会う。
世界歴653年 エリス、とーるの誘いで住まいをナナリ宅へ移る。(バール死亡
世界歴654年 ナナリ、やよいと再開
         フリューベル戦場で行方不明になる(セツによって一命をとりとめるが記憶を失う
世界歴655年 ナナリ、セツ、リオ、エリス セツと出会いフリューベルと再会する。
世界歴655年 やよい、3賢者の束縛を解かれ自由の身となる。以降ナナリと共に行動する
世界歴655年 フリューベル記憶を取り戻す。
世界歴655年 レーベル本軍、アビッサル本部に向けて進軍
世界歴655年 レーベル本部内攻略にナナリ、とーる、フリューベル、セツ、リオ、エリス、やよいの7人が突入。それぞれ過去に関係のある人物との死闘が繰り広げられる。

そして現在にいたる。
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外伝:出会いそして幕開け

一人の青年がアビッサルを抜けてとある村を訪れたことがこれから出会う彼らの人生を変えたのかもしれない。
その人物はかつてはこの世界の最北端に位置する国の王子であった。
だが、国はクーデターを受け国王は殺害され、その一族もまた彼だけを残して皆この世を去っていた。
青年は愛用の銃と僅かな荷物だけで厳しい世界に放り出された。
だが青年の心は折れることがなかった。
青年は普通とは違い、戦う力を持っていた。まだ国があった時は青年を獅子王と呼んでいた。
青年は旅をする中で自分がこの世界を変えることができないかと考えだした。
だが常人の数倍上の強さを持っても青年一人では無理があった。
しかし一人の限界を感じていた時、青年はある人物と出会う。
青年の物語はここから始まったのかもしれない。

青年の名はナナリ、彼は今とある辺境の村で過ごしていた。
「ナナリさん、おはようございます」
村の人たちは皆ナナリを慕っていた。
現在、ナナリのいる国は隣国との仲が悪く、よく国境線で戦闘がおきていた。
そのため、ナナリがここに訪れるまでの間この村は幾度となく戦火に巻き込まれいたのだ。
ナナリは各国を放浪する中でこの村を訪れたが、当初の彼等はあまりにも生きる気力がなくショックを受けた。そして、ナナリが訪れたその日隣国がこの村に攻め込んできた。
普段のナナリなら直ぐに村を離れるのだが、何故か見過ごすことができなかった。
ナナリはこの隣国の勢力に一人で立ち向かった。結果は彼一人の力で隣国の兵は敗走。村人たちはこの話を聞き歓喜に奮えた。
ナナリは、村人たちの強い願いもあって村にとどまることになった。
実はこの時、ナナリの活躍は国の首都にまで届いておりナナリを軍に引き込もうとしていたがこれを丁寧に断った。このやり取りがさらに村人たちの信頼を得る結果になった。そして現在にいたる。
「あぁ」
ナナリは素っ気ない返事をした。普通なら気分を害すかもしれないが村人は笑みを浮かべその場を去っていった。村人たちもナナリの性格をよく知っており、ナナリが必要以上の事を話さない寡黙な人物と認識していた。
ナナリの奮戦の結果、隣国は国境線の度重なる敗北が原因で滅んでしまった。
結局この国が隣国を合併する形で長きにわたる戦争は終わった。
また合併したため村は国境線の村でなくなり戦火に巻き込まれる恐れもなくなった。
村人たちは多大な恩を返そうとしたがナナリはこれを断った。
ナナリにとって目の前の村が平和になれるのが一番の目的であった。
しかしこの平和も半年ともたなかった。
領土拡大に乗り出していた軍が敗走したのだ。
最初の敗走から連敗が続きついには元の国境線まで押し戻された。
また戦禍に脅かされることになり村中に不安が漂っていた。
そしてついに村に向かって軍が来てるとの情報が入った。
ナナリは無言で部屋に置いてあった各武具を身に着けた。
そした最後にロザリオを身に着ける。このロザリオはナナリの母が身につけていたもので唯一形見として残った物であった。ナナリにとって家族とは手に届かない特別な存在であった。そして自分を受け入れてくれた村の人達は家族と同じくらい特別な存在でもあった。
今のナナリは村のためなら相手が誰であろうと容赦はしないだろう。
ナナリは扉を開けると同時に村の外に向かって走り出した。
村の外に出て坂道を駆け下りる。そこでナナリはあることに気づいた。
(軍隊の進行速度が遅い)
ナナリは情報を元に交戦ポイントを絞っていたがそのポイントよりもかなり前に敵の陣があった。
ナナリは周囲を警戒しつつ敵の本隊の前まで行くことにした。そしてそこで見た光景は異常であった。
それは数えきれない程の死体の中央に血まみれの少年がいた。
見た目は14,5くらいだろうかナナリよりも4つは下になるだろう。
ナナリも感情を表に出さないが、目の前の少年は感情が元からないように見えた。
少年の腰には無数のホルダーケースがつけられていた。
少年がホルダーケースから取り出したのはカートリッジであった。よく見ると右手には短銃、左手には刃物を持っていた。
「で、まだやるの。無駄だと思うよ」
少年は表情を全く変えずに先にいる兵を見ていた。
既に相手は半分以上戦意を失っている。
目の前の少年は人間じゃない、バケモノだ。
そして軍のある人間がナナリに気づいた。
「あ、あ、あ・・・」
声にならないような声でナナリを指でさした。
それに気づいた他の兵達も一斉にひきつった顔をした。
「悪魔が、あの悪魔まで出てきたーーー」
どうやらあちらではナナリの事を悪魔と呼んでいるらしい。ナナリの強さは普通の人から見ればありえない強さであったためそう呼ばれているのだろう。
「悪魔とさらに鬼が出てきた、もう無理だ」
一人の兵の言葉きっかけに兵は逃げ出し始めた。どうやら鬼とは少年のことらしい。
数分としないうちに戦場であった荒野はナナリと少年だけになった。
二人はお互いに視線を相手に向けた。
(まだ幼いな、本当にこの少年がこの状況を作ったのか)
ナナリは半信半疑で周囲を見渡す。
「・・・敵?邪魔するなら消す」
少年は銃をナナリに向けた。ナナリが少しでも動けば引き金を引くであろう。
「敵ではない。だがやるなら死の覚悟をしておくように」
丁寧でな口調ではあるが内容はやるなら殺すと物騒な内容であった。
お互い口数が少なく片方は感情を表に出さないタイプ、片方は既にやり返す気でいる。
ナナリはベレッタを両手に持ちかまえる。
二人の間に緊張が走る、そして
「っ」
最初に仕掛けたのは少年、少年の持つ銃はデザートイーグル。
一瞬で足と手の2ヶ所を狙って撃ってきた。そしてそのまま態勢を低くして突っ込んできた。
ナナリはこれを僅かに半身よこに移動して避ける。
「!!」
少年は表情を変えていなかったが驚いていた。
そしてその驚きは隙を作ることになってしまった。
「まだ甘い」
ナナリは少年の横をすれ違うように回り込み足を狙って4発撃ちこんだ。
どうやらナナリは殺す気はないらしく無力化をするつもりでいるようだ。
完全に裏を取った形のこの構図、この4発のうち一発でも足に命中すればその時点で勝負は終わる。
そう確信していた。しかし事はそう上手くいかなかった。
少年の体が突如加速し弾丸をぎりぎりで回避した。
「強い」
少年はナナリを見てつぶやいた。
「でも、なんとかする」
そして先ほどよりも加速する。弾の牽制と致命傷を狙いつつ撃ってきた。
だがナナリも冷静であった。牽制の弾が当たらないと判断すると本命の弾丸のみに的を絞りこれを撃ち落とした。ナナリは2丁の銃を既に自分の体の一部として扱っているのでこの程度雑作もなかった。
少年は疾走しながらも続けざまにデザートイーグルを撃ち放つ。どうやら少年も同じく銃の扱いに慣れていた。

両者一歩も譲らない銃撃戦はいつしか銃撃+接近格闘戦にかわっていた。
そしてここにきて少年のうごきが更に鋭くなった。
(まだ14、5の子供にここまでの動きができるのか)
ナナリは額に冷や汗を流しながらも少年のラッシュを捌ききる。
「ちっ」
少年の声に苛立ちが混ざっていた。少年の足技に対してナナリは冷静に腕で受け止める。
そしてそのまま受け止めた腕で足をからめとろうとする。少年はその意図に気づき地面と平行に跳び残った足でナナリを蹴り飛ばす。
(なるほど)
ナナリはここにきて少年の弱点に気づいた。
先ほどから少年は足技しかしてこなかった。普通に一般の軍人などが相手ならそれだけでなんとかなったが相手はナナリである。瞬殺できなければいずれ劣勢に立たされるのが分かってたから少年は苛立ちを隠せなかったのだろう。
(若い)
ナナリは自然と笑いがこみあげていた。
ナナリは防戦一辺倒であったこの状況を打破するために少年の蹴りの間にできる僅かな隙をついて前に出た。
それは少年にとって驚くべき事態であり、それが勝敗を決する原因にもなった。
「せいっ」
ナナリは蹴りを前に飛び込みつつ屈みながら避けた。そしてそのまま斜め下から上に向かって全力の拳を振り出した。少年は咄嗟に銃を持つ右手で防ぐが体格の差もあり大きく後ろに吹き飛ばされる。
「くっ」
呻き声にも聞こえる声をあげつつも地面を滑りながら態勢を立て直す。
しかしナナリはこの間に今まで以上の速度で飛び込んできた。完全に防御を捨てた突進だった。
少年はデザートイーグルを撃つために右手を上げようとするが先ほどの蹴りの衝撃で腕が麻痺していた。
「うおぉぉぉぉ」
それでも今までにない気合いと怒号をまじりあわせた声を出しつつ両手でデザートイーグルを持ち上げた。一体どれだけの修羅場を潜り抜けたらこれほどまでの不屈の闘志を持てるのかナナリには理解できなかった。
少年はデザートイーグルに入っている7発の弾を一瞬にして全て撃ってきた。
どれもナナリの全身のどこかを狙っていた。しかしナナリは避けようとせず両手に持つベレッタを突き出し
「なめんなーーーー」
少年程速度はないがそれを補う二丁のベレッタで7発の弾を全て相殺した。
少年はその光景をただ茫然と見るしかできなかった。そして
「終わりだ」
ナナリは少年の頭にベレッタを付きつけた。
少年はため息をつき目を瞑った。
「殺せ」
動揺すらない声、まだ年端もいかぬ少年が簡単に死を受け入れることにナナリは怒りすら覚えた。
「殺す前に幾つか質問だ。君は何者だ」
ナナリの質問に少年は目を開けた。
「俺の名はフリューベル。何者と聞かれても困る。強いて言えば国や企業を憎んでいる一人だ」
ナナリは唖然としていた。どんな幼少期を送ったのか知らないが軍に対してあれほどまでの凶悪さを発揮する時点で相当憎んでいるようだ。
「何故私を狙った」
そう国や企業を憎み軍を狙うならともかくナナリを狙うのはお門違いであった。
「目撃者はできる限り消す。ましてあなたは私を逃がしはしなかったはずだ」
少年の考えの大半に納得がいった。ナナリとてフリューベルの強さは見過ごすわけにはいかなかった。味方ならまだしも敵になられると厄介きわまりない存在である。
「あなたもこの国の兵、俺みたいな異端者は始末するのが必然。なら消す以外に道はない。負けた今、消されるのは俺になるか・・・殺せ」
フリューベルは言い終わると目を閉じた。
「幾つか間違いがあるが先にこれだけ訂正しとく。私はこの国の兵ではない」
ナナリは呆れていた。ナナリの格好は確かに戦闘に備えた服装だが、軍が着るような服ではなく身動きの取りやすい軽武装であった。
「私は、この近辺にある村に住まわしてる者であって元はこの国の人間でもない」
ナナリの言葉にフリューベルは呆然としていた。まさか自分が殺そうとしていた相手が軍はおろかこの国の人間ですらなかったことに衝撃をうけていた。
「まぁそんなことはどうでもいい。とりあえずこれ以上私や付近の村人に危害を加えるなよ。もしそんなことをすれば次こそ殺してしまうからな」
ナナリはベレッタをおさめた。
直後背後から無数の気配がした。
「ちっ、奴ら性懲りもなくまた来たのか」
ナナリの視線の先には先ほどの軍が迫ってきているのが見えた。
(この状態だと厳しいな)
ナナリは残弾数と自分の状態を冷静に分析しどう出るべきか悩んでた。
「俺が正面から切り崩すから、あんたは右側からたたいて」
フリューベルは立ち上がりながら淡々と話してきた。
「あんたには借りができた。このままあんたが殺されても困る」
フリューベルはデザートイーグルの薬莢を抜き捨て新たに詰め替えていた。
「二人でやればあれくらいならどうにかなる」
フリューベルは試すような目でナナリをみた。その姿は年相応の幼さがあった。
(こんな顔できるんだな)
ナナリは感心しながら飛んできた何かを受け止めた。
「それ使え、あんたなら使いこなせる」
ナナリのてにあったのはファイブセブン、しかも改造されているようで30発近くの弾が装てんされていた。
しかもそれ以外に予備の弾のケースを渡された。ざっと見て300発近くある。
一体彼のどこにこれだけの装備が隠れていたのか謎であるがナナリにとってはありがたかった。
「フリューベルといったな。私の名前はナナリだ。あんたとはよばないでほしい」
ナナリの言葉にフリューベルは少しだけ考え頷いた。
「分かったナナリ、俺の事は好きに呼べばいい」
「それではベルと呼ばせてもらう。よろしくな」
ナナリはファイブセブンを握り感触を確かめた。相当に手入れがされていてナナリの手に合っていた。
「よろしく、・・・行く」
勢いよくフリューベルは飛び出した。ナナリもそれに続いて飛び出した。

時間にして僅か2時間、戦場に放たれた2人は圧倒的なまでの力で軍隊を壊滅。
「バ・バケモノ」
既に虫の息になりつつある兵が苦しげに呟いた。
「黙れ」
フリューベルは冷ややかな目で兵を撃ち抜いた。
「お前たちみたいな欲にまみれた奴のせいでどれだけの人が苦しんでるかその身に刻んで死ね」
フリューベルの容赦ない虐殺姿にナナリは危機感すら覚えた。 この少年が人を躊躇なく殺すことが続けば少年はいずれ自我を失うだろう。そうなればいずれ自分はおろか周囲の人間にまで驚異をふりまくだろう。
2人は戦場から引き上げ村まで戻った。
「ベル、これから行くあてがないなら私についてこないか」
ナナリの言葉にフリューベルはきょとんとした。
「私もやらないといけないことがあるためもうすぐここを出ていく。同じ戦場を駆ける仲間が欲しい」
ナナリの視線はフリューベルを突き刺しその先を見ていた。
「既に一度失った命、ナナリが必要とするなら預ける」
フリューベルはナナリを見上げた。
「ならベル、君が新たな目的ができるまでの間よろしく」
ナナリはフリューベルに手をさし出した。
「・・・よろしく」
フリューベルも少しだけ躊躇したがナナリの手を握り返した。

3ヶ月後戦乱の終了と共にナナリ達はこの地を後にする。
それから1年間、各地の戦場を駆け巡り名を馳せた。
しかしある機を境に二人は戦場から姿を消した。そしてそれから更に数年後また戦場に彼等は戻ってくる。
この空白の期間に新たな出会いがあったがそれはまた別の話である。
だがこれだけは言える全ての物語の幕開けはこの2人が出会った事から始まった。
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第40話:仕組まれた戦い

リオは目の前にある正面の扉を開けた。
突入からすでに3時間が経過していたが時間の感覚は麻痺していた。
扉の先には大きな広間となっていた。
そして中へ入ると少し遅れて別のところからも扉が開く音がした。
そこにはナナリととーるが、反対からはエリスとやよい、セツが現れた。
「皆無事だったのね」
リオは安心し胸をなでおろした、
「・・・ベルさんはまだなのか」
とーるはぐるりと室内を見渡したがそこにはフリューベルの姿はなかった。
『ようこそ、まずは君たちが執行者を倒しここへ辿り着いたことを賞賛しよう』
突如部屋の中央に男が現れた。金色の髪に真紅のめ瞳、その纏う存在感は桁外れであった。
『さてここにお集まり頂いた貴方たちには賭けをしてもらいます。見事賭けに勝つことが出来れば次の部屋への扉が開きます。賭けに負けた場合はとある人物の死が待っているでしょう』
男は口元を吊り上げていやな笑みを浮かべた。
6人はその姿に戦慄を覚えた。
「それで俺たちの賭ける対象はなんだ」
セツが一歩前に出て男をにらみつけた。
間違いなく6人の中で唯一、やる気でいたのは彼だった。
『せっかちな方ですね。いいでしょう、それではこちらのモニタを見てください』
男の後ろに巨大な画面が現れた。そこでは既に戦いが行われていた。
「ベル兄さん」
リオの驚きの声が室内を響いた。
そうそこにはフリューベルと女性が戦っていた。
『さて賭けの内容はいたって簡単。どっちが勝つかを賭けてもらいます』
男の言葉にとーるは笑って答えた。
「はん、何を言ってるんだ当たり前ベルさんにかけるに決まってるだろ」
とーるの言葉に男は一瞬だけにやついた顔をした。ナナリはそれを見逃さなかった。
「何か裏がある」
ナナリの言葉にエリスがうなずいた。
「最悪だ・・・」
セツが真っ青な顔でモニタを見ていた。
「何が最悪か説明を」
とーるはセツに説明を求めた。
「そうかお前たちは聞いてないのか。あれは、フェンリル時代のフリュのパートナーなんだ」
セツの口からとんでもない言葉が出てきた。
「え!」
とーる、ナナリ、リオ、エリスの4人は理解できずにいた。
「だがおかしい、既にあいつは死んでいるはずだぞ」
セツの疑問に今まで黙っていたやよいが口を開いた。
「クローンよ。しかも最悪なことに彼女の力は執行者で上位に入るのよ」
やよいの顔は強張っていた。それほど相手が強大な存在であることを物語っていた。
「その人って強いの?セツの評価を教えて」
リオが冷静な口調でセツに問いかける。しかし、それは動揺を押し隠そうと必死なのがセツにはわかった。
「互角、いや若干だがフリュの方が上だった・・が、それも時点での話だな」
「あまり、言いたくないけど今の私が彼女と戦ってもよくて互角に打ち合えるかどうか」
セツとやよいの評価は厳しいものだったが、しかし客観的に見ている証拠でもあった。
「それでもベルさんは絶対勝つさ」
とーるの言葉にリオも頷いた。
『それでいいんだね。では続きを見守ろうじゃないか』
6人は頷き画面へと視線を向けた。
『アビッサル、ここまで手の込んだ舞台を用意するとは外道もいいとこだ』
フリューベルの忌々しげな声がした。

フリューベルの相対する相手は青のセミロング、そして青の瞳、身にまとう服は白と海を連想させた。
「エル、本当に君ならここをどいてくれ。俺はここで君を斬りたくない」
フリューベルはただ静かにエルを見た。
「そうね、私とてこんな再会をしなければ譲っていたと思うわ。だけどそうも言ってられない」
エルは静かに小太刀を抜いた。それもリオと同じ二刀流だった。
「理由を教えてくれないのか」
フリューベルは目を瞑り答えを待つ。
「そうね、強いて言えば残された時間を無駄にしたくないから」
答えとは取れない言葉であったがフリューベルは説得をあきらめた。
「そうか残された時間か」
フリューベルは目を開きエルを貫くような視線で見る。その視線は目の前の人物を敵と認識していた。
エルもその意図に気づいている。次に変化があればそれは残酷な結果を生む壮絶な戦いの始まりとなるであろう。
既に前の戦いで消耗しているフリューベルにとってこの戦いを避けたかったがそうも言ってられない。
先に仕掛けたのはフリューベル、躊躇いをまったくみせない速度の斬撃を叩きこむ。
対するエルはフリューベルの斬撃にあわせてエルの小太刀が受け止める。
速度も威力も申し分なくあたれば致命傷所か死が見えるだろう一撃をエルは片方の小太刀で受け止めた。
「昔よりも速いね」
エルはフリューベルの反応を窺う。
フリューベルは立て続けに突きを繰り出す。それも一瞬のうちに腕、足、腹部の3ヶ所にに向かって放った。
エルは冷静にその3撃を右左右と二刀の利点をうまく使い受け止めそのまま受け流した。
しかしエルは受け止めたり、受け流したりするだけで反撃をしてこない。
「相変わらず、嫌な間合いなこと」
エルは冷静な顔つきでカウンターのタイミングを狙っていた。
だが、エルが二刀の利点を活かすようにフリューベルも槍の利点の間合いを使い隙をあたえていなかった。
時間にして5分くらいであろう、この攻防に変化が訪れた。
フリューベルの槍を受け流したときにフリューベルはそのまま後ろに跳んだ。
フリューベルの頬から血が吹きだした。
「知覚加速に、鋼糸か」
フリューベルは頬の血を手で拭いながら先ほどのエルの動きを分析していた。
「あの一瞬で見抜くとは流石ね。仕留めたとつもりだったのに」
エルは驚きつつもやはりといった感じでフリューベルを見ていた。
知覚加速、一般的に死の危機に面した時に起きる現象と言われ時が止まったかのような感覚に陥ることをさす(一種の走馬灯である)。
エルの場合、故意にその現象を起こすことができるようだ。
鋼糸、名前の如く鋼でできた糸である。用途は相手を縛ったり、ものを引きつけたりとできる。物よっては鋼糸で相手を斬りつけることも可能である。



「何故ベルさんは力をつかわないんだ」
モニタを見ていたとーるがじれったそうにする。
「今ベルのいる部屋は力を無効化する空間になっているはずだ」
ナナリがモニタから視線を外さずに口を開いた。
「では、エルの使う知覚加速は能力じゃないの」
「あれは俺たちが使うような特殊なものではない。あれは人が秘める潜在能力なだけだ」
セツは険しい表情でリオを見て頷いた。そこにはいつものような余裕が感じられなかった。


「あれを出さないの?今のままで私に勝てると思ってるの?」
エルの言葉にフリューベルがぴくっと反応する。
「その感じだと、私が殺されて以降使ってないのね」
エルはフリューベルを責めるような目で見る。
フリューベルは無言で構える。その姿は今までの覇気はなかった。
「そう、相当私を殺したことが後ろめたいのね」
エルの容赦ない剣撃がフリューベルを吹き飛ばす。
フリューベルも応戦するがその一撃にも重さがなく軽々と押し返されてしまった。
「何それ、そんな一撃私はおろか執行者の誰にも通用しないわよ」
なぜか、押しているはずのエルの方が苛立ちを浮かべていた。
「ちっ」
フリューベルは小太刀を冷静に弾くが、二刀のエルにとって一撃目を弾かれようが二撃目を繰り出せるため手数だけでフリューベルを圧倒していた。
今の状態がこのまま続けばいずれエルはフリューベルを捉えるだろう。
(何かがおかしい)
フリューベルは戦いが始まってから違和感を感じていた。
確かに目の前にいるのはエルそのものだろう。クローンとはいえその記憶、感情、仕草、小太刀の扱いそのどれもがエルそのものであった。だが何かが違った。
その原因がよく分からない。だがこの違和感の原因こそがフリューベルの突破口である可能性は高かった。
フリューベルはぎりぎりで小太刀を避けるだが逆の死角から迫る小太刀に反応が遅れた。
ガキッ
フリューベルの肩で小太刀か金属にぶつかる音がした。
正確には腕であったが場所からして肩といったほうが分かりやすいだろう。
腕輪はひびが入り真っ二つに割れ地面に落ちた。
「また助けられたのか・・・」
フリューベルは割れた腕輪を見てつぶやいた。
「そんな所に腕輪をしているとは運がいいわね」
エルの言葉にフリューベルの目つきが変わった。
「エル、お前これが何なのか分からないのか」
「腕輪でしょ、それがどうしたっていうのよ」
フリューベルの問いにエルは素早くこたえるが、致命的な間違いを犯した。
(なるほどそういうことか)
フリューベルの中にあった違和感の正体に気づいた。
「なるほどな。確かに用意周到にやってくれたがここだけはわからなかったか」
フリューベルはあまりの可笑しさに笑いがこみあげていた。
「何を笑ってるの」
フリューベルの急な変化にエルは怪訝そうな目をした。
「これが何か分かるか」
フリューベルは双頭の狼と一本の剣の紋様が入った槍を見せた。
そうそれはセツとフリューベルがかつて所属していた傭兵集団の証。
「フェンリルの証ね」
エルはそれがどうしたのといった顔つきで答えた。
「そうだよな、じゃあお前が使っていた小太刀の名は」
「紅蓮、それがどうしたの」
フリューベルの問いの意味をエルは図りかねていた。
「じゃあ、今ここにあるこの腕輪が何かわかるか」
フリューベルは割れた腕輪を手に取りそれを前に出して見せた。
エルは答えに詰まった。ただの腕輪にしか見えない。だが質問からして何らかの意味があるはず。だが分からないのだ。なぜなら
「やはりな、クローンで記憶も同化させたとまで思っていたがどうやら違ったようだな。外部から得られる情報は確実だが、エル自身の情報に欠落している所があったか」
フリューベルは腕輪の割れた片方の裏面を見せた。
そこにはある文字が刻まれていた。
[el=Sinfonia]
そうそれは彼女の所有物であった。
「おかしいと思った。エルも、同じ所に腕輪をしていたのに気付かなかった。腕輪を見たにもかかわらずかつてエルがしていた物だとも気付かなかった」
フリューベルは冷たい目でエルを見た。そう目の前にいる相手はエルでありエル出ない存在。
「だからそれがどうしたっていうのよ」
エルは冷静にそして笑ってフリューベルを見る。
「本当にお前がエルとしての記憶を持っているなら謝りたかった。お前になら殺されたって文句は言えなかった。それだけのことを俺はお前にしたのだから」
フリューベルは腕輪に目を落とした。
「俺の暴走さえなければ、エルは死ななかった。あいつは俺を守るために死んだ。最後の最後まで俺を心配していた。エルとしての記憶がないお前は別れの際あいつが俺に言った言葉が分からないだろ」
フリューベルの表情は腕輪を見るためにうつむいていたため分からなかった。
「腕輪をおれに託しあいつは逝った。この腕輪は彼女が死ぬまで決して誰にも見せることはなかった」
フリューベルは腕輪から宝石を抜き出した。
「この腕輪はなかつてティアと呼ばれる女性が身につけていた物、そして彼女に仕えたある戦士が女性との間に双子の子をなしたときにティアから譲り受けたものだ。双子の兄の名はセツ、そして妹の方がエルと名付けられた」
そう、エルはセツの双子の妹であった。セツは気づいていたがエル自身が気づいていたかどうかまでは謎であった。
「この腕輪はエルにとって唯一の家族との繋がりを持つ大事な形見であった。それを忘れるようなことがあってたまるか」
フリューベルを覆うように周囲の空気がかわった。
「そして今の俺の考えだけを言えば、これ以上エルの姿をしたお前を見ているわけにはいかない。本来なら余り見せたくはないがまぁいい」
フリューベルは石を槍のくぼみにはめ込んだ。
ゴゥッ
突如槍を中心に強烈な風が吹き荒れた。
「俺はあいつが死んでから、この力を制御することに命がけだった。強すぎる力はいずれ己の身にふりかかる。それは己だけに留まらず周囲の人にまで危険をもたらす」
フリューベルは横に槍を突き出した。力を抑制されているためか風はフリューベルの周囲だけを覆う。
「ゆえに必要でないとき以外はわざと外しているんだが。それも今日で最後だな」
フリューベルの姿が目の前から消える。
エルは冷静に鋼糸を張り巡らした。これでフリューベルがどこから来るかを見極めようとする。
エルの右斜め上あたりの鋼糸が僅かに反応した。
「そこっ」
エルの小太刀がフリューベルがいるであろう場所を振りぬいた。
しかしそこに手ごたえらしきものはなかった。
「背中を押す風は集いやがて天空の怒りへかわる」
そしてエルの背後から歌が聞こえた。
「怒れる風は轟音と閃光に変わる」


「あれは」
エリスの驚きの声が上がった。そうエリスはこの技をしっている。しかし
「でも、力を無力化する空間でできるはずが」

「怒れる風を受入れ全ての風を受入よう」
だがエリスの知っている歌と違い、そこには続きがあった。
凝縮された風が槍の中へと消えた。フリューベルを覆っていた風は今は存在しない。
先ほどまでの現象がうそのような静けさであった。
エルはどう動く悩んでいた。フリューベルの事だ失敗したとは到底思えない。そして異常なまでの力の行使。もしあれを直接その身に受けたともなればただ事では済まないだろう。
「こないのであれば俺から行くぞ」
フリューベルはゆっくりとステップを踏む。
しかし次の瞬間
「ふっ」
フリューベルの姿が完全に消えた。気配、否存在そのものが消えた。
間違いなく何処かにいる。しかしエルはそれを捉えることができない。
「!!」
エルはとっさに正面に踏み込んだ。
ヒュッ
先ほどまエルがいた場所を何かが突き抜けた。
エルはすぐさま小太刀を振り下ろした、小太刀が激しい接触音をあげた。
「くぅっ」
エルは押し負ける形で後ろにステップを踏んだ。
エルは地を滑りながら腰のポケットに左手を入れた。
エルから見て右側から強烈な風が吹き荒れた。
フリューベルが止めた言わんばかりの突きを放った。
「くっ」
エルは左手に何かを掴みそれを槍にぶつけた。
「なにっ」
フリューベルの驚きの声にエルは笑みを浮かべた。
「さすがね、でも私とてこの程度と思わないでよね」
エルの手にあったのは赤い石、形は違うがフリューベルの持つ石と同じく存在感を出していた。
「何故この空間が限定的に力を使えたか、それは私自身は力のないただの人。でもこの紅炎石を使うことはできる。結果として私は何の束縛も受けず貴方の力の効果のみ限定することになったわけ」
エルの説明を聞きフリューベルは納得した。
「確かに俺の力を抑えつつ自分が最大限の力を放つ力場を作ったのは分かった。なら、お前が持つその石と共にあるであろう緋炎剣を出してみな」
「言われなくても」
フリューベルの言葉にエルは笑みを消した。直後小太刀の刀身が紅く染まる。
エルは小太刀を真横に振りぬいた。
刃から轟音と共に炎が吹き荒れた。炎は意思をもったかのようにエルの周囲を纏う。
(おいおい、表面化できるのかよ)
フリューベルは冷静な顔の裏にあせりを浮かべていた。
前の戦いの傷のこともあり即攻で蹴りをつけるつもりだったが、そうも言ってられない状況になっていた。フリューベルは風を表に出すと室内の無力化により力が霧散してしまうの大してエルは表に出している。
(これはあれを使うしかないか)
フリューベルが考え事をしているとエルの方から動いた。
「それでは先ほどのお返しといきます」
エルの炎を纏った突進がフリューベルを狙って襲いかかる。
フリューベルは正面から立ち向かった。
小太刀と槍が衝突しそこから行き場を失った力が暴れまわる。
両者ともその反動を受け流しつつ後ろにはじき飛ぶ。
先ほどまでの一方的な流れは完全に消え、両者の強さはほぼ互角の領域まできていた。
フリューベルはこの時自分でも気付かないうちに笑っていた。
「何がおかしいの」
エルの問いにフリューベルは初めて自分が笑っていたことに気づいた。
「時間がないとか言ってる割に出し惜しみしてたんだな」
探るような目でエルをみる。だがエルも全く動じない。
「戦いにおいて相手が先に手の内を見せるまではできる限りこちらの手は明かさない。もし手の内を先に見せるならその時点で勝負をつけると言ったのは貴方よ」
エルの言葉はもっともであった。
フェンリルがまだ存在してた時、団長のソルが残した言葉がある。
『戦において相手に全力を出させないことが大事である』
戦場において常に一対一という状況はまずないが戦略という意味では相手の狙いを看破し2手3手と先を読む力が問われる。その中で相手に先に動かさせ何を狙っているのかなどを探る力も必要となる。これは一対一の場面ではほぼ確実に必要な技術であり、時と場合によっては最大の武器となる。
実はこの言葉フリューベルがソルに伝えたことをそのままソルが代弁していた。
そしてフリューベルがフェンリル時代に多くの戦略を気づいてきた土台でもあった。
このことをどこか別の筋から聞いたのであろう。エルは知っていた。
「参ったな、石の全力まで見せてしまった上でこうなると後は自力でなんとかするしかないってわけか」
フリューベルは苦笑いを浮かべながらも即座に攻撃にうつった。
エルもほぼ同時に動く。お互い牽制の応酬であった。
リーチで勝負するフリューベルに対しエルは炎を纏った鋼糸を鞭のように振るい距離を詰める。
接近時はエルの方が有利になるがフリューベルも体術(主に足技)で応戦する。
不気味なまでに息の合った攻防であった。傍から見れば息の合った演舞ともとらえれたであろう。
だがその応酬の都度、行き違う風と炎が既に常軌を逸した世界を作っていた。
何十回目の激突でフリューベルの腕に鋼糸が巻きついた。
「ちっ」
フリューベルは槍を持ち替え鋼糸が絡まった方の右腕を引き抜いた。
炎と熱にせいで右腕から焦げ付いた臭いがした。そしてこの僅かな間がエルにとって最大のチャンスとなった。
エルは両手の小太刀を重ね両手持ちの状態で上へ振り上げた。
小太刀の先から狂言まで高められた火柱が上がる。もしこれを刀の先とまで見たら小太刀が巨大な大剣へと変化したともいえるだろう。
エルにとって切り札となる必殺の一撃。
「やぁぁぁぁ」
気合いの乗った声と共に神速の一撃が振り下ろされた。
当たれば間違いなく肉の欠片すら残らないだろう。フリューベルはその振り下ろされてくる炎を見るしかなかった。
そして炎がフリューベルに命中する。同時に火柱が立ち部屋中に強烈な余波が駆け巡る。


「うそだろ」
とーるは目の前で起きたことが信じられなかった。
横にいたエリスは両手を口に当て言葉がでないことを物語っていた。
「くっ」
セツも歯を食いしばり目の前の状況をただ見るだけであった。
「そんな」
やよいは膝を地面について呆然としていた。今の一撃は確実に当たっていた。
あの状態で防ぐ手立てはない。
ナナリは無言でやよいの肩に手を置いた。
何も言わないがナナリの左手は強く握られ震えていた。
「まだよ」
沈む空気の中でリオの強い声が貫いた。
「ベル兄さんがこんなとこで死ぬわけがない。絶対に生きてる。私たちを置いて行くわけがない」
リオの瞳は諦めていなかった。

「そろそろかしら」」
エルは周囲の炎を消して刀の先から上がっている炎だけを見ていた。
「これで生きてたら、力があるとはいっても人間じゃないわ」
エルは火柱の炎を消そうと小太刀を横に振ろうとした。
だが
「なっ、動かない!」
小太刀が動かないどころか炎すら止むことがなかった。
「後一歩でも反応が遅れてたら死んでたな。流石は紅炎石の力、そしてそれを使いこなしたお前もすごいな」
炎の中から声が聞こえた。
エルにとっては信じられない光景であった。
一体何が中で起きているのか想像すらつかなかった。
「くっ」
エルは力任せに小太刀を引っ張ると小太刀にかかっていた重圧が消え後ろに跳び下がることができた。
「切り札は何もお前だけが残していたわけではない。石の力だけが俺のすべてとは思っていなかっただろ」
炎の中心から今までにない風が吹き荒れ炎を消し飛ばした。そしてその中心には少しだけ煤がついたフリューベルが立っていた。
「さて終幕の時間だ」
フリューベルは自然な動作で槍を構えた。
そうただ自然に槍を構えていた。しかしエルはフリューベルの姿が異常に見えた。
そしてある変化に気づいた。
「何その目」
エルの言葉にフリューベルは静かに答えた。
「これがあの時の暴走の原因でもありそして俺が命がけ手にした切り札だ」
フリューベルの目をよくみるとうっすらと緑に染まっていた。まるでそれはフリューベルが持っていた石と同じであった。
「答えだけ言うとだ何も石は一つだけではないってことだ。そしてその一つが俺の体内にあるってわけだ」
フリューベルの回答はとても単純であってそれがとんでもないことでもあった。
「この力は子供の頃の俺には過ぎた力でそれが原因で暴走、あの時エルが身を呈して守ってくれなかったらおれが死んでただろうな。だが俺を庇ったせいであいつは死んだ。死の間際彼女は俺にとある制御・・・ある種の封印が施された。それがあの腕輪だ」
フリューベルは一歩前に出る。
「これ以上の勝負は無駄だ。本気を出したらこの部屋は持たないだろう」
フリューベルの言葉がはったりでないことは確かだろう。
だがエルとてここで引く気はなかく立ち上がり小太刀を構える。
「たく、強情なところはあいつ譲りか」
フリューベルはため息をついた後強烈な殺気をエルに叩きつけた。
「全力であいてしてやるよ」
フリューベルの周囲を今までは消えていたはずの風が吹いた。
槍にはめ込まれた石が共鳴するかのようにフリューベルの瞳がはっきりと澄んだ緑に変わった。
部屋が揺れ始めた。風ではなく大気が振動していた。
「あ、う、あ」
エルはこの時悟った、目の前の相手が敵にしてはならない存在だったということを悟ってしまったのだ。
風を操るといっても今までのフリューベルなら台風並みの風を集めたり、鋭くした刃を作り出したりと、大気そのものを制御はできなかった。それはあまりにも莫大過ぎるその領域で無謀なことであったからだ。
普通に考えれば子供でも分かる。例えを上げると人間がバケツ一杯分の水を飲むことは可能だがそれが海の水と同じ量を飲むことができるかということだ。
そんなことすれば体が耐えきれず死んでしまうだろう。今のフリューベルはそれほどの無茶なことを可能にしてしまっている。
それを可能にしてしまっているのが2つの石の力であったのだ。
これは仮説でしかないがフリューベルの体内にある石が槍にはめ込まれている石と連動してその力の制御を果たしているのだと思われる。外界で得られた力を全てフリューベルが制御するのではなく石がその負担を肩代わりすることでこの異常現象を起こしていると考えるしかないだろう。
「さて、終わりだ」
既にエルに抵抗する意思はなくその場に座り込み震えていた。
フリューベルはエルの額に槍を当てるとつぶやいた。
「またな」
フリューベルの言葉と同時にエルは何かに押されたかのように後ろに倒れた。
「ふぅ」
溜息を付きながらエルを見た。
「殺したのか?」
フリューベルの背後から男の声がした。
「いえ、一時的に気絶するように脳を揺らしただけです。後、少しだけ記憶を飛ばしていると思うので後はお願いします・・・」
フリューベルは振り向かずに前の扉を押した。軋む音と共に扉が開いた。
「まて、こいつを持って行け」
フリューベルは振り向くと同時に右手に何かを掴んだ。
「本来の主に返してやれ」
フリューベルは手の中に納まった紅い石を見た後視線を声が聞こえた方に戻した。
「ありがとうございます。師よ、その子をお願いします」
フリューベルは一度頭を下げると扉の向こうへと消えていった。
「ったく、あの馬鹿弟子面倒事ばっか押しつけてくれるな」
ソルはあきれた口調で呟いていたが顔は笑っていた。
「まぁこういった損する役回りも久々だし今回だけだからな」
ソルはエルを抱えるとそのまま来た道を引き返していった。

『おみごと賭けは君たちの勝ちだ先に進みたまえ』
男は拍手をしながら先にあるドアの扉を開けた。
『この先にある部屋で次の試練を受けるがいい』
男はそう言い残すとその場から気配すら残さない速度で消えた。
6人はそれぞれを見て頷き扉の奥へと向かっていった。
この先に何が待っているのか、そして何が起こるのかは分からない。
だがこの先に待っている者はこの中の6人の誰かと縁のある相手だと予想はできた。
あまりにも出来すぎているこの戦い、一体誰がこのように仕向けたのか。
何か落とし穴が待っているかもしれない。
とーる、エリス、ナナリ、やよい、セツ、リオ、フリューベル、彼等を待つのは希望かそれとも絶望か、それはまだわからない。
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