FC2ブログ

REQUIEM館

第41話:過去との決別

暗い廊下を進んでいたナナリは違和感を感じていた。
先ほどまで、周囲には誰かしらの気配があったが今は気配が感じられないのだ。
(まずいな)
今の状態で6人がばらばらになるのは各個撃破をされる可能性が高くなってしまい危険であった。
とはいえこのまま引き返すわけにもいかずナナリは先を進むと、微かに光が差し込んできた。
そして光の差し込む場所に出た、そして部屋に入ったときナナリは相手の意図してたことを知った。
ナナリは目の前にはナナリそっくりの人物がいた。
「この状況でまさかとは思ったが」
そうナナリの前にはナナリそっくりと見知らぬ少女がいた。
「なんでだ!!」
ナナリの後ろからと-るの声が聞こえた。
「まんまとはめられたな。この様子だと、やよい達の方も何かありそうだ」
ナナリは太刀を抜き突きの構えをとった。
いきなり真っ向勝負を挑む気だ。
「・・・」
とーるは力のない視線で先にいる女性を見ていた。
「とーるしっかりしろ、こんなとこで戦意を失ってどうする。構えるんだ」
明らかに動揺しているとーるをナナリが叱咤する。
「その女性ととーる、お前はどういった関係ですか」
ナナリはとーるの動揺がただ事でないのは分かっていた。だがその理由までは分からなかった。
「あいつの名はユナ、俺の妹だ・・・」
とーるは悔しそうな顔でユナを見ていた。
ナナリはとーるの妹であるユナが既にこの世にいないことを知っている。
とーるの過去はナナリとフリューベルの2人だけが知っていた。エリスですらまだ知らないのだ。
それほどとーるにとって辛い過去なのだ。
「なるほど、となると目の前の私そっくりは兄バルトで間違いさそうですね」
ナナリは目の前の相手が自分の兄であることに確信があった。アビッサルの汚い手口は前のフリューベルの一戦で目の当たりにしている。
だがナナリは自分の兄であろうバルトに対して明確な殺意を出していた。
とーるはナナリが兄殺しを躊躇っていないことに気づいていた。
ナナリの背から無言の言葉聞こえたきがした。
(例え肉親であろうと邪魔するなら斬って捨てる)
ナナリの握っている太刀から蒸気が現れた。そしてそのまま太刀の刀身が凍結していった。
「秘剣、神無水月(カンナギミヅキ)」
ナナリの持つ太刀はナナリの故郷ヘイムで作られた業物である。
初代ヘイム王が国を築いた時に名匠の鍛冶師が作った一本の剣であった。
その剣は今までの剣と違い刀身が異常に長かったのだ。
多くの鍛冶師が納めた剣の中で長くそして雄々しい剣であったと伝えられていた。
王はその剣を手に取り月に照らされた美しい湖に向かって振り下ろすと湖が二つに割れそこから神が現れたと言われている。
神無とは「神のいる」すなわち神が宿る、水月とはすなわち水と月の両方の存在をさす。
神無水月には水の神と月の神が宿る太刀なのである。
しかしこの剣、初代王も一度しか抜くことができずナナリが誕生する時まで誰一人とて引き抜くことができなかったのだ。
ナナリは幼少の時に神無水月の声に従い剣を解き放った。
神に選ばれ神に愛された唯一の存在がナナリ、彼である。
「す、凄い」
とーるはその圧倒的な存在感にただ驚くだけであった。
「そうだよな、ここで俺が負けてしまったら今までの苦しみが無駄になってしまう」
とーるの目には覚悟が浮かび上がっていた。
「ユナすまないがお前が本当にユナであっても俺はお前を倒す」
とーるの体中を電撃がはしる。
バルトとユナは虚ろな目で二人を見ていた。
その姿をナナリととーるは見ていられなかった。
「一撃で終わらす」
とーるが飛び出し、ナナリもほぼ同じタイミングで飛び出す。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
とーるは拳を強く握り思いっきり振り抜いた。
ナナリも太刀を振り下ろす。
「くすっ」
ばしっ
ギシッ
「なっ」
とーるの拳をユナは片手で受け止めたのだ。
とーるの驚きとナナリの方では金属が軋み合う音が聞こえた。
「ナナリ、お前だけは許さん。あの時、一人のうのうと生き延びたお前だけはー」
バルトの目に強い憎しみが現れていた。
ナナリととーるは二人揃って後ろに跳び下がり構えをとった。
「兄さん、あの時助けてくれなかったよね」
ユナの体もとーると同じように電撃がはしっていた。
「ユナ、お前」
流石にこれにはとーるも面喰っていた。
確かにとーるの妹であれば雷撃を扱える可能性はあった。ましてやアビッサルにいる事を考えればその可能性はほぼ確実といってもよかった。
「ふふっ、綺麗でしょ。兄さんとお揃いだよ」
ユナは無邪気に笑いながら掌をとーるにむけた。
掌から雷球が生み出される。
「っち」
とーるは即座にナナリを巻き込まない場所に移動した。
「へー、妹は見捨ててもあの人は見捨てないんだ・・・なんかあったまくるね」
ユナの声が明らかに不機嫌になっていた。
雷球は呼応するかのように激しく火花を散らしていた。
直撃すればとーるとてただではすまない。
とーるの顔に余裕が消えた事に満足したのかユナは笑みを浮かべた。
「ふふっさぁ始めましょ。兄妹の語らいを」
ユナは歪んだ笑みを浮かべながら雷球を解き放った。

キーン
とーる達が戦闘を始めたと同時にナナリもバルトと戦闘を始めていた。
「兄に対して容赦ないな、本当に殺す気だな」
ナナリはバルドの挑発に対して何も答えず太刀を振り下ろした。
「いいことを教えてやろう」
バルトは薄気味悪い笑みを浮かべた。
「あのクーデター、主犯は俺だ」
ナナリの体少しだけ揺れた。
「あの時、お前も死んでいればあの国は俺のものになっていたんだ。だが、お前が生き残った事が民に知れ民はお前が帰ってくるのを待ち望んだ。俺はそれまでの仮の王として扱われた」
バルトの目は既に憎しみしかなかった。
「お前さえいなければ俺は王になれた。神無水月を使えるお前がいなければ俺は、俺は」
バルトの剣撃が更に激しくなる。右に左にとナナリの隙を狙おうとしてくる。
一般の人間としてはバルトは優秀な武人であっただろう。
しかし相手はそんなレベルの遥か上をいく存在
「言いたいことはそれだけか」
ナナリは今までにない冷めた声を吐いた。
キーーーーーーン
甲高い音をたててバルトの剣が宙をまった。
「欲に溺れた下衆に民がついて来るわけがない。昔から自分勝手で権力を求めそして振りかざしてきた、そんな人間に国が背負えるわけがない。まして神無水月が力を貸すわけがない」
ナナリは淡々と自分の思いを話し続けた。
「何故私が神無水月を抜くことができたか、神流水月が教えてくれた。神無水月の継承、その条件は確固たる意志、折れることがない絶対的な意思を持つ者ただそれだけ」
ナナリは太刀を真横に振ると刃先から雫が舞った。
「私の意思は私を慕ってくれる弱気者たちを守り導くそれ一点のみ」
ナナリの言葉に共鳴するかのように神無水月が淡く光りを放った。
「忌々しい。その何もかも見据えたような顔が昔から気に食わなかった。この苛立ちはナナリ、お前を消すことでしか満足できない」
バルトの周囲の温度が下がり、バルトは水弾を作り出すとナナリに向かって放ってきた。
ナナリは太刀を振り水弾を真っ二つに叩き割った。
だが次に迫りくる物に気づいてナナリは直ぐ様右に跳ぶ。
入れ替わりでナナリの足元に真っ赤な鞭が叩きつけられた。
ナナリはバルトが持つであろう手を見た。そしてそれが鞭でないことに気づいた。
「血を使ったのか」
バルトの腕に紅い鞭が巻かれていた。そしてその鞭の出所は肩の傷口から出ていたのだ。
「よく気づいたな、これが俺の力だ」
バルトはナナリと同じく水を扱えるがナナリのように水をあらゆる形へと変化させる力までは持っていない。かわりに自信の血液を自在に操ることができるようだ。
「お前を倒して俺は真の王になる」
バルトは既に狂っていた。そうナナリという存在が彼の存在理由を全て奪ってしまい彼はナナリを殺すこと以外に存在意義を見いだせなかった。そして狂っていった。
「初めから貴方を兄だとはおもっていませんでしたよ」
ナナリは呆れた声でバルトを見た。バルトはそれが気に入らなかったようで思いっきり突っ込んできた。

「ちっ」
とーるは舌打ちをしながら左右にステップを踏み雷球からのがれる。
「どうしたの、兄さんが攻めてこないなら終わらないよ」
ユナはとーるが攻め入ってこれない理由を知りながら挑発をしていた。
ユナの雷撃が止まることなくとーるの周囲を貫いていた。
現在のとーるの弱点はユナのように雷撃を連続で撃ちだすことができないことであった。
ゆえにとーるは自然に距離を詰めての戦いを優先してきた。
「ふふっ、いつまで逃げ切れるかな」
少女は妖艶な笑みを浮かべた。その幼さい顔立ちとのギャップが不吉であった。
とーるはユナの隙を探っていた。
能力者は大小なりとも力を使った反動で隙ができる。
ナナリやとーるみたいに力が強ければ強いほど力の行使をした時の隙は大きくなる。
逆を言えばユナの高速で飛び出す雷撃は一撃の威力はさほど強くはない。
だが数が多いため一度捕まってしまうと立て続けに雷撃がとんでくる。
タイプとしてはフリューベルと似ているといえるだろう。
「面白くないー、いつになったら反撃してくれるの」
ユナは少しだけむくれながらも雷撃の速度を上げた。
(見えた)
とーるは雷撃の一撃目を握りつぶしながら前に突っ込む。
「ふふっ、かかったわね」
ユナはとーるの動きを先読みしていた。
とーるの足下から3本の雷柱が昇った。完全に避けきれないタイミングであった。ユナはそう確信していた。
「それくらいで勝ったと思ったら甘いぜ」
とーるに当たるであろう雷柱は命中する寸前で消滅した。
とーるを阻む雷撃は既に消滅しており、とーるはそのままユナに向かって疾走する。
「しなない程度には加減してやるよ」
とーるは勢いよく拳を振り抜いた。
ユナはなんとか逃れようと後ろに跳ぶがとーるの踏み込みは深く拳が迫ってくるのをただ見ていることしかできなかった。
「砕月」
とーるの拳が肩に叩き込まれた。
鈍い音と共に肩の骨が砕ける音がした。
とーるも手応えがあった。しかし、次の瞬間とーるは後ろに跳び下がった。僅かに遅れて赤い刃がとーるのいた場所を通過した。
「それが砕月か、接近での打撃戦では厄介だな」
とーるは赤い刃を放った相手を見て驚いた。そこには今ナナリと戦っているバルトがいた。
視線をナナリのいた方に向けるとナナリとバルトが打ち合っているのが見えた。
「どういうことだ」
流石のとーるもこの状況を理解しきれなかったようだ。
「すぐにわかる」
バルトの体が急に溶け地面に飛び散った。
「これは血液か」
とーるは床に広がる血をみた。
「そう、彼の力は体内の血液を操る以外にその血を別のものに混ぜることで操ることもできる」
態勢を崩していたユナが立ちあがり視線をナナリと打ち合っているバルトに向けた。
ユナは視線をとーるに戻すと両手を胸の前で合わせた。
「そしてユナにも特別な力を持っているの」
両手が離れるとそこから弓が具現化した。
「まずは小手調べよ」
ユナは矢をもたずに弓を引く動作をした。すると引かれた弦から矢が具現化した。
矢は稲妻だけで構成されており物質としては存在していなかった。
ユナは矢を放すと轟音と共にとーるに向かって飛んで行った。とーるは瞬時に横に跳ぶことで直撃を避けた。
矢が突き抜けた場所は余波で電撃が暴れていた。
とーるの奥儀ほどではないがもろにくらえば再起不能になる威力はあった。
「天雷の弓か」
とーるはその弓を知っていた。いや知っていて当然であった。何故ならその弓はとーるとユナの父親が使っていた弓であった。
天雷の弓自体は物質として存在せずトールハンマーと同じく遺伝によって受け継がれてきた。
トールハンマーはとーる以前の使い手は初代しかいないため一族では天雷の弓を扱える者が最強と言われてきた。
だがとーるは天雷の弓を扱うことができなかった。それ以外の格闘術や気の扱いは間違いなく指折りの存在であったが天雷の弓が扱えないというのは大きな欠点となった。
今となればそれ以上の力を有するとーるにとってはさしたる問題にもならないが当時の彼にとっては大きなショックを受けた。
その弓を妹であるユナが扱えてもおかしくはなかった。しかしそれは今目の前にいる存在がまぎれもない妹であるということを意味していた。
とーるは唇を噛みやるせない怒りを堪えた。
(全力でいかないとこっちがやられる)
とーるは気合を入れた。とーるの気合いに呼応するように両腕に電撃が纏わりつく。
「でぃやーーーーーーーーーーー」
とーるは気合の入った声と共に飛び出した。
ユナはとーるの接近戦に応じるつもりがないように間隔をとるように動いた。
天雷の弓からは無数のイカズチの矢がとーるを狙って撃ち出された。
とーるは矢に合わせて左足を軸に拳を振りぬいた。轟音と共に飛来する矢ととーるの拳が衝突する。
僅かにせめぎ合いが続いたがとーるの拳が矢に打ち勝ち塵に返した。能力者といえど天雷の弓から放たれた矢を正面から、しかも素手で打ち勝つという非常識ぶりをとーるはやってのけたのだ。
さすがのユナこれには驚いていた。
「まさかあの矢を叩き落とす人がいるとは・・・」
「終わりにしよう。こんな馬鹿げた兄妹喧嘩はもうごめんだ」
とーるの両手が眩く光りを放った。


「串刺しになりやがれ」
バルトは3本の血の柱を作り出しナナリ目がけてはなってきた。
「白氷の如く」
迫りくる柱の側面を太刀で受け流しつつ前へ踏み込んだ。
踏み込んだナナリの足もとから無数の赤い針が噴き出してきた。
「水縛鎖」
目には見えない何かが全ての針の動きを止めた。
ナナリは空気中にある水分を操り薄い膜を作り出し針を覆ったのだ。
ナナリは針を尻目に勢いをつけて太刀を振り下ろした。
バルトは血の刃で受け止めた。
「くっ」
だがナナリの一撃は重く刃を砕いた。直後、針を覆ってた膜が破裂しもう一度ナナリに襲いかかった。
「氷雷」
ナナリは針に向かって太刀を振り下ろすと、太刀から強烈なら雷撃が針を消し飛ばした。
「なんだと」
バルト信じられないといった顔でその光景を見ていた。
ナナリは雷を操れない、それは間違っていない。では何故ナナリが今雷撃を放ったのか。
それはこの部屋の空気中に異常なまでの静電気が発生していたからだ。
この現象の起因はとーるとゆなにあった。ふたりが雷撃を振りかざせばそれだけ大気中に漂う静電気の密度は濃くなる。ナナリはこれを利用したのだ。
太刀に纏った氷はナナリの意思で絶対零度の域に到達していた。
絶対零度つまり摩擦抵抗がゼロの世界すなわち空気中にある電撃を受け入れることでナナリは擬似的に雷撃を繰り出したのだ。
「この化け物が」
バルトは怒りをまき散らしながら立ち上がった。
憎むべき弟に圧倒的な力を見せつけられ、そして見下ろされた。
これほどまでの屈辱は今までにないはずだ。
「こうなれば最後の手だ」
バルトは壁まで走り彫られて作られたであろう棚から瓶を取り出し地面に叩きつけた。
ナナリは遠目でそれが血液であることに気づいた。
バルトはありったけの瓶を地面に叩きつけると地面からバルトそっくりな人形が出来上がった。
その数は4体。バルト本人をいれると全部で5人になる。
「これで形勢逆転だ、一気に終わらしてやるぞ」

5人は同時にナナリにむかって走り出した。
ナナリは一番近いバルトを狙い一刀両断した。切られたバルトは血液に戻りそのまま地面に飛び散った。
「甘い」
だが地面に飛び散った直後血が集まり再びバルトの姿をかたどっていた。
「こいつらはいくらでも再生するぞ。血が消滅でもしない限り何度だって元に戻る。これが俺の最後の手段であり究極の力だ」
ナナリは冷静に3人を斬りつけたがどれも再生してナナリに襲いかかった。
「諦めるんだな。こうなってしまえばもうお前に勝ち目はないぞ」
高らかに5体が笑いをあげる。
ナナリはその笑いを無視し太刀を地に突き刺した。
そして拳を握り近くにいたバルトに拳を叩きつけた。
「血迷ったか。大人しく観念すればいいものを」
ナナリは自分の手に氷の剣を作り出してバルトの猛攻をいなしていた。
剣を作り出してはそれを砕き巻くことで飛び道具としても操っていた。
とーるが一撃の重さでNo1ならナナリは技術力・応用力でNo1といえるだろう。
だが流石に数で勝っているバルトが次第に押し始めていた。
「氷縛」
しかしナナリは僅かな隙をついて氷の鎖を作り出し5人のバルトに巻きつけた。
「ぐっ、くそっ」
自分が優勢に立っていたことで油断したようだ。
「終わりだ、縛殺」
ナナリは鎖の締め付けを強め一気に引き裂いた。
「終わりはお前だよ」
引き裂かれた5人とは別のところからバルトの声が聞こえた。
引き裂かれた5人はどれも血に戻り地面に飛び散っていた。
そう5人はすべて偽物で本体はナナリの背後から襲いかかっていた。
ナナリは氷縛鎖を使った影響で動きが止まっていた。
「しねーーーーーーーーー」
バルトは勝利を確信していた。ナナリが今から力を行使したところで発動前に殺すことができる距離にいた。
(勝った)
バルトの顔が狂気にゆがんだ。
「極零封結界」
しかし、刃がナナリに届くことはなかった。
よくみると床に突き刺さった太刀が蒼く光りを放っていた。光は柄の中心部からでそこにはフリューベルと同じく石が埋め込まれていた。
そしてこの現象が石の力で太刀を中心に半径100mの空間が凍結させたのだ。
「空間ごと凍結させたのか」
バルトは自分の体を覆う氷塊を砕こうとするがびくともしなかった。
「初めから本体が隠れていることは気づいていた。5体の体内からは水を感じなかった。この時点で人ではないことは明白」
ナナリは初めから目の前にいたバルトが人でないことには気づいていた。だがあえて気付かないふりをしたのだ。常人の数倍上である聴覚で場所を割り出し、そこにあえて隙を見せることで罠にはまったと思ったバルトを逆に罠にかけたのだ。
「これで終わりだ」
ナナリは太刀を蹴りあげそのまま高く跳びあがった。
それは絶対なる一撃。放てば確実に相手の息の根をとめる。
「ゲイ」
槍が最高点に達した時ナナリは既に体を捻っていた。
バルトはその光景をただ見てることしかできなかった。
「ボルグ」
そのまま太刀の柄の部分を全力で蹴りだした。
放たれた太刀はバルト目がけて急降下する。それはまるで流星のように美しかった。
「ナナリーーーーーー」
バルトはナナリの名を絶叫した。もうどうすることもできない彼にとっての最後のあがきだったのかもしれない。
太刀は簡単に氷を貫き地面に突き刺さった。瞬間強烈な爆音と氷塊が砕け散った。
砕け散った氷塊はゲイボルグの影響で熱を帯びた太刀により気化して消えていった。
バルトと人形も欠片一つ残さず蒸発し消滅ていた。
「終わったか」
ナナリの言葉はこの戦いの終わりを意味するものではなく、今まで自分を束縛してきた過去のしがらみから解放された瞬間であった。
ナナリは太刀を引き抜きとーるが戦っている方へ振り向いた。
(手出ししたら怒るだろうし、少し休ませてもらうか)



「うらうらうらーーーーーーーー」
とーるは気合いと共に飛んできた矢を全て殴り落とす。
「くっ、兄さんは化けものですか」
ユナは全力で矢を放つが、とーるは問答無用で殴り落としていった。
普通の能力者なら感電死してもおかしくないほどの密度の矢をとーるは気合いを入れた拳で打ち勝っていた。
「ならば」
ユナは矢を四方に放つと矢はそれぞれとーるを狙って向きをかえてきた。
「これくらい」
とーるは右から迫る矢に向かって跳び込んだ。
「どうってことねー」
右から迫る矢を殴り落とすとそのまま半回転し左手を広げた握りしめた右の拳を叩きつけた。
叩きつけられた左手から雷撃が分散するように吹き荒れ残りの3本の矢を消し飛ばした。
「そんな」
ユナは愕然とした。
致命傷とまではいかなくても、少しは傷を負わせれると思っていた。
だが結果はとーるは無傷、圧倒的なまでに力量差を見せつけられる結果となった。
ユナとて弱いわけではない、むしろ能力者の中では強い部類に入る。
だが相手は能力者という枠組みで見れるような存在ではなかった。
「こうなったら」
ユナは天雷の弓を今まで以上に強くひいた。
今まで以上にひかれた弦から矢が具現化する。今までと違いその矢は火花を散らしながらユナ自信を包み込んでいた。
これからユナが行おうとしていることをとーるは瞬時に悟った。
ユナは自分の生命力をそのまま力へと変え矢に乗せる。
足りない力は代償を払うことで補える。
「この一撃に全てを」
引く気はないという決意が伝わってきた。
文字通り命を賭けた一撃になるであろう。
「雷王の審判か」
とーるは即座に掌を前に出した。掌には透明な石がのせられていた。
雷王の裁き、伝承によれば罪人の魂を浄化させる時に使われたと伝わっている。
天から降り注いだ雷が罪人に落ち、その落雷から生きて帰ってきた者は汚れた魂が浄化された存在となる。しかし、その魂が汚れきっていると魂ごとこの世から消滅させられる恐怖の審判であった。
ユナの放とうしてる雷王の審判はとーるの必殺であるトールハンマーと同等の威力であろうと予測される。とーるは今後の戦いもあるためこれ以上の力の行使は避けたかったがそうもいってられる状況ではなくなった。
「来たれ、不変の盾」
とーるの左手には透きとおった盾が現れた。
「イシュタル」
ユナは矢を放つと矢は16に飛び散りそれぞれがとーるを射ぬこうとしてくる。
矢は同時にとーるの持つ盾に直撃する。激突地点から雷柱が巻きあがる。
「ぐ」
とーるの正面では力の拮抗の余波で床が抉れ巻きあがっていた。
「あはは、兄さんは本当に化けものですか」
ユナは既に力を使い果たし膝を床に落としていた。もう戦う力を残していない。いや生きる力すら残していなかった。
「俺は負け訳にはいかねえんだよーーーーーー」
とーるの叫びと共に右手を振りかぶった。既にとーるの右手には目の前の雷撃を上回る力を具現化していた。
「トーーーーーーーーーーーーーーーール」
そして雷神の鉄鎚が下される。
「ハンマーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
爆音などと生易しいレベルではなかった音が一定の領域を超えると人間の聴覚では認識できなくなる。多分とーるも今何が起きたか把握できていないだろう。
「はぁ、はぁ、これで終わりか」
とーるは両手を膝にあて俯き息を整えながらユナを見た。
「もう無理よ。立つ力も残ってないわ」
ユナは背中から床に倒れた。ユナの顔から生気が消えていた。
「何故こんなことをした」
とーるはユナを責めるつもりはなかったがそれでも情報は必要だと判断し問いただした。
「人を馬鹿にした茶番劇は3賢者が仕組んだことか」
とーるの後ろからナナリが太刀を納めながら歩いてきた。
「さすがです、その通り私は一度死んでいます。そして仮初の命と共にある命令をすりこまれました。それが貴方達の抹殺です」
ナナリはやはりと呟いた。
「だが奴等は私達がバルトやユナさんに抹殺されるとは考えてなかっただろ。たぶんだが、そうやって私達が苦しむ姿を見てほくそ笑みたかったのだろう」
「下衆が」
ナナリの言葉にとーるは怒りをあらわにした。
「ただ、ユナは兄さんに会えた事に感謝はしてるわ。兄さん達に伝えないといけないことがあったの」
既に声が小さくなりつつあった。最後が近いのだろう。
「あの襲撃事件の黒幕はアビッサルよ。そしてアビッサルの目的は兄さん達が持つその石にあるらしわ。その力をつかって更に企業の勢力範囲を広げるつもりよ」
とーるも薄々気づいていた。自分やナナリの持つ石は強力だ。それこそ使い方次第では国や企業を狩るかがると滅ぼすことができる。自分たちが力に秀でてるとはいえこれ程までの力はやはりこの石の力のおかげである。
「この石のせいで、今までどれだけの人が苦しんできたか」
ナナリは苦い表情で石を見た。
「絶対に彼等の手に渡らないようにお願いします」
ユナの言葉に2人はだまってうなずいた。それをみてユナは笑みを浮かべた。そして彼女の体から光があふれだした。
「もう時間がないようね」
ユナの体から光の粒が舞いあがる。
とーるはユナの手を握りしめた。
ナナリは離れて二人を見守った。声は聞こえないが何か話してるのは分かった。
そしてユナの姿がこの部屋から完全に消え静寂が訪れる。
「行こう、エリス達が心配だ」
とーるは立ち上がりナナリを見た。その姿はいつも知っている とーるであった。
ナナリは頷き部屋の扉を開けた。
無言で扉の先へ歩きだす。
この先に何が待っていようと2人は引き返さないだろう。
2人の過去に大きくかかわってきたアビッサル。肉親を仲間をそして想い人までも巻き込んだこの戦い。ナナリととーるはこの悲劇を繰り返さぬためにもまた一歩前へと進み始めた。
スポンサーサイト
小説 | コメント:0 | トラックバック:0 |
| HOME |