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REQUIEM館

第43話:流れ絶つ者と虚無の世界を受け継ぐ者

「馬鹿な、このようなことが」
賢者グラムの驚愕の声が部屋をこだまする。
グラムにとって絶対の布陣で臨んだ。しかしそれをことごとく打ち砕かれた。
「何故だ、何故だーーーーーー」
グラムの絶叫ともとれる驚きの声が鏡の世界に響いた。
「阿呆、この程度の偽りの世界を作った程度で俺を欺けると思ったのかよ」
冷めた声と共にガラスが砕け散る。
ガラスの破片の向こうからとーるが姿を現す。
「くっ、ならば」
グラムは大気中の水分を凍結させ砂粒程度の氷を作り上げる。
これが一気に投下されれば散弾銃のごとくとーるを襲うだろう。その威力は散弾銃等と比較できない威力を誇るであろう。
だが
「破ッッッッ」
とーるは自分の手のひらに拳を叩きつけた。
その瞬間に氷の粒は塵になり空気中へと霧散した。
「ぐっ」
グラムも一瞬で今の状況を理解した。とーるの中に帯電した電撃をバーストさせることで周囲に爆発的に霧散させ周囲の物体を塵に返したのだ。しかも肉眼では確認できないほどの微量な力でだ。
「終わりだー」
とーるは鏡の向こうにいるであろうグラムに狙いを定める。
実際の距離は10mはあるこの状況でトールハンマーで狙える距離ではない。しかし
とーるは腹の前で手を合わせる。
掌に力を入れ少しずつ離していくとそこに拳大の球体が現れた。
とーるはそれを左手で支えながら右腕を大きく振りかぶった。
「まさか」
グラムもとーるがこれからすることに気づいた。だが遅い。
「ぶっとびやがれーー」
とーるの右手にはトールハンマーと同じだけの力が備わっていた。
とーるの拳が雷球にあたると同時に轟音をあげながら正面の鏡を雷光がつきぬけた。
そう、とーるは遠距離の力は使えなかった。だが先の戦いにおいてきっかけをつかんでいた。
それをぶっつけ本番でやり遂げてしまうあたり野生の感性とでもいうべきなのだろう。
「ぐっ、この程度でワシを倒したと思い上がるな」
グラムはよろよろと立ち上がる。しかしその背後に二つの影が迫っていた。
「残念だが、お前はここで死ぬ」
声と同時にグラムの頭が吹き飛んだ。
「き・・さ・・・・・・ま」
グラムの視線には槍を振り抜いたフリューベルの姿が映った。
「命を弄んだお前にしては普通すぎる末路だったな」
放物線に跳ぶグラムの頭が真っ二つに割れそのまま幾重にも切り裂かれた。
もう一つの影はセツでありグラムにとどめをいれた。
「ベルさん、セツさん!!」
とーるは驚きの声をあげた。
突入後一度として合流できなかったフリューベルと一度は合流したが別々になってしまったセツが同時に現れたのは彼にとって安心できることであった。
「待たせたな・・・そういやナナリは?」
セツはとーるがナナリと共に行動していることは知っていた。
「ああナナリさんなら」
とーるの視線がある方へ向けられた。2人がその視線を追うと
どっかーーーーーーーん
爆音と共に扉が吹き飛んだ。扉と一緒に強化人間達も混ざっていた。
そしてその奥から太刀を持ったナナリが現れる。
「うは!派手な登場だな」
とーるはわざとらしい態度で驚いて見せた。
ナナリは冷静に強化兵の状態を確認し再起不能状態になっているのを確認する。
「この先に全ての元凶である彼女がいる」
セツは部屋の奥に見える階段に視線を向けた。
セツの視線を追うようにとーるとナナリは視線を向けた。
「だが、ここから先へ行くには俺を倒せたらの話だがな」
フリューベルは小声で呟いた。それはとーるにもナナリにも僅かに聞こえた程であった。
しかしフリューベルから発せられる殺気によって2人は本気だと捉えた。
「何故!といった感じかな」
セツは苦い顔をしていた。しかしフリューベルもセツもお互いに構えいつでも跳び込むつもりでいた。
「とーる、構えろ。ベルのあの目は本気だ」
ナナリはフリューベルの眼の色が澄んだ緑の色になっていることに気づいた。
セツも気付けば血眼状態になっていた。
「動揺は己を殺す。目の前の二人は敵だ」
ナナリの非常な言葉はセツ達2人にとってもお同じ考えであった。
対峙すれば自ずと敵か味方かに分かれるのは必然であった。
「流纏:風牙疾風」
フリューベルは既に突撃の初動に入っていた。
「くっ」
とーるは反応が遅れ避けることができない。すかさず腕を盾にして耐えようとした。
だが
「烈風陣」
槍はとーるに当たる直前で軌道を変えた。強烈な突きがくると読んでたとーるはこれに反応できず。
真横からの薙ぎ払いを叩き込まれ地面を3バウンドして地面を滑った。
「本気を見せろ。でないと死ぬぞ」
フリューベルは既に次の一撃を選択肢その構えに移っていた。
(やばっ)
とーるはこれからフリューベルが繰り出す物が何かを知らない。知らないが直感でそれを悟った。
「閃華烈風」
とーるは即座に右手に力を集中していた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ」
とーるは叫び声と共に拳を振り出した。出した先で力と力のぶつかり合いが始まった。
「ぐぎぎぎぎ」
歯を食いしばりながらフリューベルの力を押し返そうとしていた。
しかしとーるの視線の先に唇を僅かに吊り上げ不気味な笑みを浮かべたフリューベルがいた。
「風牙・・・」
フリューベルは回転した勢いを殺さず瞬時にトールハンマーの中心点に突き出した。
その速さコンマ3秒の領域。既に人が認識できる速度を超えていた。例え能力者であっても認識できる者はほとんどいないだろう。
とーるは即座に右に飛んだ。
直後先ほどまでいた場所を轟音と共に風の塊が突き抜けた。
「・・・むちゃくちゃだ」
とーるは先ほどまでいた場所の付近をみてつぶやいた。
床がめくれあがりその床は粉々に砕かれ宙をまう。避けなければとーるもああなっていたかと思うと冷や汗が流れた。
(本気だ、それも今までにないくらい)
「とーる、一つだけ教えてやろう」
フリューベルは槍を肩に担ぎながら見下ろした。
「お前が倒れたら次に槍を向ける相手はエリス達だ」
その冷ややかな目は本気であることを告げていた。
もしもエリスがフリューベルと相対すれば・・・間違いなく危険だ。
ズダン!
「力のないものがここから先に進む必要はない」
ナナリを吹き飛ばしながらセツはフリューベルの隣に着地した。
「そうそう、2人にいってなかったが俺とフリュは今まで全力を見せてないぞ」
2人はその言葉に声を失った。フリューベルとセツの闘技場の一戦あれすらも全力でなかった。
そうなればこの2人の強さの限界はどこにあるのだ。絶望にも近かった。
「だからと諦めるわけにはいかない」
ショックから先に戻ったナナリは太刀を蹴り上げ同時に跳躍した。
ナナリの大技ゲイボルグだ。例えセツであろうとこれを真っ向から受けることは無謀である。
「ゲイ」
「甘い、絶纏:絶廻纏滅」
ナナリがゲイボルグの動作に入った瞬間にセツは即座に打ち合いの体制に入っていた。
こと打ち合いに関して先手を取ったほうが有利になる。そういった意味でナナリはセツの1段階上をいった。
「ボルグ」
ナナリの蹴りだした太刀が空間を切り裂きセツを襲う。セツの槍と激突し唸りをあげる。
だがその打ち合いは時間にして僅か2秒で終わった。太刀が宙を舞いナナリの足元に突き刺さった。
「ゲイボルグの最大の効果を発揮するのは得物が最高速に到達したとき。ならば出始めを叩いたら最小限の効果しか発揮できない」
セツは打ち合いの反動を利用して空中で一回転して着地した。セツのいってることは正しかった。
とはいえそれを狙ってやることは神技といってもいいだろう。
「本気を出せ。今言う本気というのは潜在能力だ。限界を超えてみやがれ」
セツは大声で言うと大気が震えた。直後彼の目は深紅へと変わった。血眼だ。
「とーるお前もだ。フリューベルに勝てないならこの先で死ぬぞ」
セツの言葉は正しかった。とーるは立ち上がりながら
「この先に待つ相手は俺達でも互角に渡り合えるか微妙だ」
フリューベルは一度俯き地を見つめた。そして前を向き直したときフリューベルの瞳は澄んだ緑の色をしていた。
明らかに空気の流れが変わっていた。
「俺を超えてみろ」
フリューベルは槍を横一線に振り抜いた。
先端から飛び出した風刃がとーるの首を狙い飛び込んできた。
とーるはそれを一歩前に踏み込みながら態勢を落としかわした。
とーるはそのままフリューベルに向かって突進した。縮地で一瞬でフリューベルの前に現れる。
フリューベルはそれを予測し迎撃の態勢で構えていた。
そして
スガガガガガ
高速でぶつかり合う拳と槍撃の応酬はマシンガンを乱射してるような音をまき散らしながら火花を散らしていた。

「おーおー、やっとマジな顔になってるじゃん。んじゃこっちもいいとこ見せないとな」
セツはフリューベルととーるのやり取りに感心しながらナナリに話しかけた。
既にナナリはとーると違いやる気はあった。
「ナナリ、先に教えてやる俺の力は重力操作だ」
セツはそういうと床を全力で叩きつけた。床が砕け破片が舞いあがり空中で静止した。
「・・・」
ナナリは太刀を斜め上に上げると周囲に無数の氷弾があらわれた。
二人は無言でお互いの得物を振り下ろした。それを合図にお互いの弾丸は正確にぶつかりあった。
衝突の瞬間、既に二人は走り始めていた。
二人の得物はそのまま激しくぶつかりあい火花を散らす。
そう二人の戦いは速度ではない、己の持つ力をぶつける力押し。ゆえにフリューベルやとーるのように部屋全体を舞台とはせず一点に踏み止まり打ち合うことになる。
ナナリは全力で氷を纏った太刀を振り下ろしセツを問答無用に斬りつけようとする。
これに対しセツは下段から全力で槍を振り上げた。
完全に互角。お互い一歩も下がろうとせず、一歩たりとも前に進めなかった。
絶対境界線。
二人の間にある空間にはそれ以上踏み込ましてはならない境界線がある。
それを超えられた場合、越えられた側の明らかな敗北が待っている。
二人はこの絶対境界線を紙一重で維持していた。
二人の斬激のぶつかり合いは空間にまで影響を与えていた。
二人の外周を竜巻が覆っていた。外部からの接触を断ち切った空間。
お互いの意思、ただ前進あるのみ。それを具現化した世界がそこに展開されたい。
ナナリは中段から斬り払いをフェイントにし太刀を斜めしたらから斬り上げた。
セツはこのフェイントに反応しすかさず槍を振り下ろした。直後セツは全身にかかる重力を更に高めた。
振り下ろす速度に重力が増した槍は落下速度を更に速めた。
ナナリは太刀では受け止めと同時に刀身に纏う氷の純度を上げた。同時に太刀から電撃が迸る。
ナナリの物質量を高めた太刀はセツの槍を受け止め押し切った。
初めてセツの瞳に驚きが現れた。
(とった)
ナナリは勝利を確信した。そのまま零距離から太刀を蹴り飛ばした。
そう零距離ゲイボルグだ。
蹴り出しと同時にセツの体が吹き飛ばされる。竜巻を貫通しそのまま部屋の端まで吹き飛ばされた。
だが壁にぶつかる直前で失速し太刀は吹き飛ばされナナリの前まで飛んでいた。それを受け止めたナナリは視線をセツに向けた。
「いい一撃だ。だがそれでは足りない」
セツの腕には先の一撃でうけたであろう小さな傷があったが重症になるような傷はどこにもなかった。
そうセツはゲイボルグを受けきったのだ。
「ぐっ」
セツの横にフリューベルが着地した。その腕には雷撃の一撃をもらったのか僅かに電撃の残りがパリパリと音を立てていた。
「セツ、少しだけあれをやるぞ」
フリューベルはセツに向かって自分の槍を突き出した。
「仕方ない、少しだけだぞ」
セツも自分の槍を出した。
そしてお互いの槍をそれぞれ持ち直した。フリューベルはセツのをそしてセツはフリューベルの槍を持ち構えた。
「「目覚めよ流絶」」
言葉と同時に二つの槍がうなりを上げた。
そのうなりは二人を包み力を吸い上げていた。
「「いくぞ」」
二人はお互いに勢いよく走り出した。
とーるは左手に球体を作りフリューベルに向かって全力で放った。
雷球はフリューベルをしっかりと捉え真っ直ぐに飛んでいった。
フリューベルは問答無用で雷球に向かって突進をする。
受け止めようとも避けようともするつもりがなくただ真っ直ぐ駆けた。
そして雷球はとフリューベルが衝突する。
はずだった!
しかし雷球はフリューベルをすり抜けるように突き抜けていった。
「なっ!」
とーるは驚きの声をあげつつ腕をクロスに構えフリューベルの槍の一撃に備えた。
しかし、衝撃は全く別のところからきた。
「ガハァ」
とーるは正面に向かって勢いよく吹き飛んでいた。
そう衝撃はとーるの後方からきた。
(今何があった)
とーるは確かにフリューベルの動きにあわせて防御の体制にはいった。
しかし直後フリューベルはその直後とーるの後方に現れていた。
それ以前にどうやって雷球を抜けてきたのかも謎であった。
「これが流絶の最高峰に位置する歩法<<迅歩>>」
フリューベルはとーるに向かって突進しようとした。とーるはすかさず立ち上がり体制を立て直そうとした。
「人は何かを行おうとする時、ある程度結果を予想して動く」
フリューベルはとーるの正面に現れずとーるから見て左側の少し離れた場所にいた。
「では、相手が動くときにこちらの動きを変えればどうなる」
とーるはフリューベルの言わんとすることが分かった。
だがそれは理論的な話。フリューベルの動きは間違いなく縮地であった。
縮地の弱点である動きに制限がもたらされるといった点を度外視していた。
(これがベルさんの本気の一部なのか)
とーるは目の前に立ちはだかる壁の分厚さに絶望を覚えた。

「白氷一陣」
ナナリの太刀から数多の氷柱が吹き荒れる。
そしてそのまま床を凍結させナナリ自身も滑り込む。
「なるほど、力を使わせる前にうってでるか。確かに間違ってはいない」
セツは目の前にせまるナナリを見ながら彼の考えを分析していた。
「だが、それは時として無謀ともとれる」
セツは僅か一瞬で槍を振り下ろしていた。
「重力結界の真髄をうけてみろ」
ナナリの太刀がセツの槍と交差した直後、飛来した氷柱ごとナナリの体は地面にたたきつけられた。
セツは重力に耐えて踏み止まっていたナナリに向かって槍を突き上げた。
ナナリは太刀で防ぐも宙にういてしまい踏ん張ることができなかった。
そしてセツは一瞬でナナリの正面に現れると槍をナナリの胸元に突き当てた。
「流絶奥義:風翔」
荒れ狂う風がセツの体を伝いそのまま槍の先から放出された。
「ぐっっっっ」
ナナリは声を出すことすら適わず勢いよく壁に叩きつけられた。
ナナリは床に片膝を着けながら血を吐き出した。
(何故。彼らはここまで強いのだろうか。何故、私たちの前に立ちはだかるのか)
ナナリは戦いの中でも疑問に思っていた。確かにナナリはとーるよりも進んで戦いに望んだが疑問だけは続いた。
「げほっげほっ」
咳き込むような声が聞こえ視線をそちらに向けると、とーるも同じように片膝をついて咳き込んでいた。
(どうすればいい。どうすれば勝てる)
ナナリは僅かな時間で最善の行動を模索する。
「仕方ない。一つ教えるぞ。俺とフリュ、とーるとナナリの間にある決定的な差はなにか」
セツはナナリととーるを見て話を進めた。
「それは覚悟だ」
セツの言葉にフリューベルは何も言わずにただ一度うなずいた。
「覚・・・悟だ・・・と?」
とーるはよろめきながらも立ち上がった。
「流絶の力は諸刃の剣。俺たちの師であるソル以外の人間が使えばそれは力の代償として己の生命を捧げる」
よく見ればフリューベルとセツの腕は傷ついていた。とーるがフリューベルの腕に傷をつけた覚えはなかった。
「過去フリュは一度だけ仲間を救うためにその力を全力で解放した。正確に言えば目覚めたというべきか」
セツの言葉にとーるとナナリは何時のことかすぐに気づいた。そう、4年前とーる達の前から姿を消すことになったあの生体工場での戦いだ。
「あの絶望を誰も合わせたくない。その気持ちが俺の覚悟でもあり決意だ」
セツの言葉に続いてフリューベルが口をひらく
「そんな俺達でも彼女には適わないだろう。だがとーるとナナリが命を賭してでもこの戦いを終わらせたいと思い力を望むなら」
フリューベルは槍を振りかぶった。
「2人を支える仲間を守るために俺達・・・いや彼女すらこえられるはずだ」
フリューベルのまっすぐな言葉に嘘偽りが全くなかった。
とーるは口に溜まっていた血を吐き、立ち上がった。
「ベルさん、俺は貴方を尊敬してます」
とーるの体全体に電撃がはしる。
「貴方は強い、だが俺だってこんなとこで負けてたまるか」
とーるの周辺は先程までには感じられなかった電撃が具現化していた。
それを見たフリューベルはセツの方を見た。セツもはフリューベルの意図を読み取ったのか少しだけ笑みを浮かべて頷いた。
「こい」
フリューベルの言葉にとーるは弾かれたように突っ込んだ。
「あああああああああああああああああああ」
とーるの咆哮ともに周囲の電撃が収縮した。
そのまま圧縮された電撃がとーるの拳より爆散する。フリューベルはこれを風の防壁を作り凌ぐ。
だがとーるの本当の攻撃はこの数十撃後にあった。
とーるは瞬時に縮地を使いフリューベルの側面へと飛び込む。短い距離であれば縮地であろうと迅歩であろうと効果はさほど変わりはない。
とーるはフェイントを混ぜフリューベルを揺さぶろうとする。
とーるの体は全体が凶器といっていい、はたから見れば電流がながれて触れれば感電する人体なのだ。それを極限まで高めているのだ、不用意に触れば火傷どころか感電死するだろう。
だがとーるの電流はフリューベルに届くことはない。フリューベルとて風を操れば間違いなく右に出るものはいない。だが僅かにだがフリューベルの足が後ろに下がった。
とーるはこの僅かな好機を見逃さなかった。
今まで以上に深く踏み込むと風の防壁を両手でこじ開けた。
防壁は力を失い空気中へ霧散する。だがフリューベルの顔には焦りはなかった。
とーるの拳を槍で受け止めながら間合いを作るように迅歩で裏を取ろうと走る。
とーるはそれを気配と勘をフルに活用し後手に回らないように攻め立てる。
「見えた」
とーるはフリューベルの迅歩の着地先を先読みすることに成功した。
着地先はとーるの背後、とーるは瞬時に縮地のバックステップを踏む。
そしてとーるの思惑は見事に成功した。とーるの背後に現れるはずだったフリューベルの更に背後にとーるは移動できた。
フリューベルは迅歩の着地と同時に振り向き槍を横に振りぬいた。
だがそれは中途半端な体制で振りぬいた一撃。とーるの拳を受けるには到底不可能。
とーるは一気に槍を弾き返すと更にもう一撃と左の拳を叩き込む。
フリューベルはこれを弾かれた反動を利用し宙を舞いながら踵落しで相殺する。
こんま数秒でも狂えばフリューベルの足が消し炭になる危険性を背負いながらも冷静に成功させてきた。だがとーるはフリューベルの動きに惑わされずに全力の拳を振りぬいた。
その力はトールハンマーにはやや劣るが一撃で終わらないとーるが考え付いた最大のコンボであった。トールハンマーの隙はフリューベルとの攻防において防がれたときのリスクが高い。
ゆえに威力を落しフリューベルの得意とする手数で競う。とはいえその威力は間違いなくフリューベルと互角か上回っていた。
しかしそれでもフリューベルを押し切れないのはフリューベルの体技にあった。
迅歩を駆使し更にとーるの一撃を弾く、そして受け流す。その動きは舞に近いものがあった。
だがそれもとーるにとっては織り込み済み。
フリューベルの頭上に落雷が降り注いだ。右手を頭上に掲げて落雷を受け止めた。
(やっぱ化け物だ)
とーるはその光景を見てフリューベルの底なしを思い知らされた。
だが例え化け物であっても落雷を受け止めてしまっては動きが封じられる。
とーるにとって初めて訪れた絶対の好機。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉトーーーーーーーーーーールハンマーーーーーーー」
極限に達した雷撃の拳は白い閃光を放ちながらフリューベルを捉えた。
全くの手加減もこもってない相手を粉砕する全力の一撃。いかにフリューベルとてまともに受けては再起不能であろう。
「はぁ、はぁ、はぁ」
とーるは肩で息をしながら粉煙の先を見る。
(どうだ)
とーるは手応え感じていた。すなわちフリューベルに間違いなく当たっている。後はフリューべルの耐久力次第といったとこだ。
とーるの目の前で風が舞い煙を頭上に押し上げる。
(まじかよ)
とーるは苦笑いをしていた。煙の晴れた先にはフリューベルがたっていた。
だがフリューベルの体も無傷ではすんでいなかった。火傷や傷が増えていた。額からも出血したのか右目を閉じ真っ赤に染めていた。
だが、フリューベルを纏う殺気は今までと変わらずとーるに向けられている。
「いい一撃だ。後コンマ1秒遅れてたら消し飛んでたか」
変わらないフリューベルの冷静な声にとーるは苦笑いを浮かべた。
「どんだけ分厚い壁なんだ。今のだって最高の一撃だったのに」
とーるは大きく息を吐き出すと構えた。
「流絶の極」
フリューベルは槍を床に突き刺し手を離す。
「さあ行こう、我が覇道は常に一つの道しかなかれ」
「ばっ、やめろフリュそれを使うな」
セツはフリューベルの言葉に気づき声を荒げた。
「我が声は空を駆け、地へと流れ絶つ。流絶と我は一心同体」
「やめろ、今使えばお前の体では耐え切れないかもしれないんだぞ」
セツの言葉にナナリととーるは目を見開いた。
まさかここで捨て身の一撃を選ぶなど今までの冷静ならフリューベルなら考えられない。
だが現にセツが言ってるということは間違いなく死を覚悟した一撃となるのだろう。
「流絶奥義:飛翔」
後に八槍昇華と名を変えられる現流絶に存在しないフリューベルが独自で作り上げたオリジナルの技である。
風の槍を8本作る。それはどれもフリューベルの意思で操れる神速の槍の集団であった。
フリューベル本人の意識を8本の槍に同化させ8点の視点を駆使し相手を一瞬で葬る。
だがこの技は現段階でも研究段階で過去に一度生体工場でフリューベルは無意識の境地で使用していた。だがその負荷は絶大な影響を自身に与え記憶を失い死を彷徨うことになった。自身にとっても諸刃の一撃なのだ。
八本の槍が解き放たれとーるに襲い掛かる。
とーるは槍を全て弾き返そうと踏み込みその考えの愚かさに気づいた。
何と8本の槍に続いて、目を閉じたままのフリューベルが真下から現れたのだ。
(しまっ)
とーるはフリューベルの蹴りをまともに受け宙に投げ出された。
そしてそれを追うように槍が次々と飛んでいった。
槍は自在に向きをかえとーるに容赦ない攻撃を加えた。
「裂空舞踏」
10連撃の槍技を合計8回80撃という途方もない回数をとーるは身に受け地面に叩きつけられた。
「残念だがとーるお前はここまでだ、次はリオ達か」
フリューベルは背を向け歩き出した。
とーるは消え行く意識の中で悔しさをかみしめていた。
『こーの馬鹿兄さん、おきなさい』
突如、幼い声が聞こえた。
(え)
とーるは周りを見渡しすとそこに一人の少女が居た。
『兄さん、立つのよ。あんな小さい男に兄さんが負けるなんて私許さないよ』
ユナは腰に手をあていかにも怒ってますといった顔でとーるを見ていた。
(俺の最大の一撃を防ぎ更にあの技だ。俺はベルさんに届かなかったんだ)
とーるの諦めの声にユナは目を細めとーるを見下す様に見ていた。
『最大のって確かにそうかもしれないけどあの男の技なら兄さんは防ぐことはできるよ』
ユナの驚愕の言葉にとーるは動揺してしまった。
『兄さん、よく考えて何故トールハンマーを使えたのにもかかわらず天雷の弓の継承ができなかったか。それは簡単な答えだった。一族の・・・いえ全異能者にとっての最大の天敵ともいえる力を兄さんが持っていたからなのよ』
(知らないぞそんな力、全異能者にとっての天敵だと)
ユナは一度頷きとーるの耳元で何かを囁いた。
(あっ)
とーるはその言葉に思考が一瞬でクリーンにされた。
そしてユナに視線を向けるとユナは笑顔でとーるを見た。
『兄さん、負けちゃダメだよ。だって私の兄さんは世界で一番強くないといけないんだから。だから立って』
ユナの笑顔が消えるととーるの視界には天井が移っていた。
(ありがとう、ユナ)
とーるは残りの力を振り絞り立ち上がった。
「待ちやがれベルさん」
とーるの声にフリューベルの足が止まる。
「もうやめておけ、次に同じようにくらうと死ぬぞ」
フリューベルは振り向かずに話した。
「それはない。俺は次でベルさんと同じ高みへ向かうんだからな」
とーるの声には自身が満ちていた。
「そうかならば答えてみろ。お前のいう高みというものを」
フリューベルは槍を床に刺し一気に飛び込んだ。遅れて発現した8本の槍がフリューベルを追い越しとーるめがけて疾走する。そこからフリューベル迅歩でいっきにとーるの真横に現れる。
とーるはこれに反応しフリューベルの拳を弾き飛ばす。
だがフリューベルにとって自分は囮、メインは槍なのだ。
とーるがフリューベルに気を向けた時点で勝負はつく。奥義にふさわしい必ず相手を仕留めることに特化しているのだ。
8本の槍が別々の方角からとーるを狙う。
「ユナ見ててくれ、お前の兄さんは強いんだって所をな」
とーるは襲い掛かる槍を7本連続で避ける。だが8本目の槍はタイミング的にも無理があった。
(創造しろ、あそこには何も存在しない)
とーるは左手の掌を槍に向かって突き出す。
槍はまるでそこに存在しなかったかのように消滅した。
とーるは残りの7本も次々と左の掌を突き出し消していった。
「ついに目覚めたか。虚無の世界の担い手」
フリューベルはとーるの姿を頼もしく見ていた。そして力を使い切ったのか。床に倒れこんだ。
「これが俺の力」
とーるは自分でも信じられないといった声で自分の左手を見ていた。
とーるは生まれつき帯電体質の力を持っていた。それは一族では過去に例を見ないほどの力を有していた。だが常時その力を放出し続けることは赤子のとーるにとって負担でしかなかった。
そして神の悪戯なのかこれを制御する力をとーるはもっていた。それが虚無の世界。
とーるが視認できる力を否定することでその力を無かった事にする力。
異能者の存在を根本的に否定することのできる唯一の存在がとーるであった。
しかしその力の存在を知ったアビッサルはその力を脅威と認めとーるの抹殺をするためにとーるの故郷を滅ぼしたのだ。
そしてこの時のショックが引き金となりとーるは力を抑えることを否定した。
その後は何らかの力の抑える道具に頼ってきた。そしてフリューベルと出会い月日が立つうちに力の制御身に付けた。
結果として虚無の世界の力を必要としなくなりその存在にとーる本人も気づけなかったのだ。
だが今その力を取り戻したとーるは間違いなくフリューベルと同等かそれ以上の高みへと踏み込んだ。
「ユナ、ありがとうな」
とーるは瞳を閉じ最後に映った妹の笑顔を思い浮かべた。
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第42話:幻と孤独

リオは暗闇の廊下を進んでいた。
リオの手には暖かい感触があった。
「怖いの?」
リオはその感触の先にいる相手、やよいに声をかけた。
「そんなことはない」
やよいは顔を合わせず素っ気なく答えた。
しかしリオの手を握る力は弱まらなかった。
リオはやよいが一人になることが苦手な事を知っている。
悟られまいと虚勢をはるやよいの姿に思わず笑みがこぼれた。
やよいも気づかれてるのは分かっているのがそれでも隠そうとしていた。
傍から見れば仲のいい姉妹と思われるだろう。
「光が・・・」
リオは廊下の先にある扉からが射し込んでいた。
2人はお互いを見て頷くと扉の前へ足を進めた。
「中から人の気配がする」
やよいは手を放して警戒を強めた。
リオはゆっくりと扉を開け中に入った。
「これは・・・」

目の前の光景にリオは言葉を失った。
目の前には草木が生えちょっとした林が出来上がっていた。
「やよい、この場所見たことある?」
「無いね、こんな場所があるなんて聞いたことがないわ」
リオの質問にやよいは少しだけ考えるそぶりを見せたがどうやら知らないようだ。
「・・・これ本物ではない」
リオが木に手をあてて感触を確かめた。やよいも同じく手をあててみた。
「・・・命を感じられないよ」
やよいは地の力を操れることから地に根付く全ての生命力を感じることができる。
ゆえに目の前の木がどれだけ精巧に作られたものでもやよいならそれがまがい物であることに気づけるのだ。
「これ幻覚操作されてる。しかもこの規模、異常よ」
やよいは瞬時にこの状況を理解し、事の異常さに気づいた。
幻覚操作、今までやよい達の中では全く縁もなく出会ったことがなかった。むしろ、かなり珍しい部類に属し、力の系統で言えばフリューベルかリオがこれに近いといえるだろう。
しかし2人は今まで幻覚を使用したことがない。結果リオとやよいはこのような現象に出会うのは初めてだった。
「!!、そこ!」
リオは勢いよく小太刀を抜き振り下ろした。
ガキン
鈍い金属音が響き小太刀が途中で止まる。
「幻覚だけで私たちを欺こうなんて考えてるなら大間違い」
リオは小太刀で弾きつつ回し蹴りを叩きこんだ。
「っっぅ」
苦痛と共に景色が歪んだ。
「流石、幻覚だけでは通用しないか」
そこから現れたのはリオにとって衝撃的だった。
「久しぶりだね。といっても会ったことがあるのは一度だけだったか」
景色が正常に戻りそこに少年が現れた。
「何故、ここに!」
「何故も何もバーンはアビッサルに雇われた傭兵。そこにいた僕がアビッサルに所属していてもおかしくないでしょう」
そう、リオは目の前の少年と会っていた。バーンの屋敷に侵入した時に対峙した少年で間違いなかった。
「二度と関わらないって約束したはず、それが何故!」
リオは厳しい口調で少年を睨みつけた。その瞳にはやり場のない怒りがこもっていた。
「理由は説明できない。けど、ここで消えてもらうよ」
少年は右手を横に振りぬくとそれに呼応して空間に火球が現れ2人に向けて急降下した。
やよいは横に飛んで回避しリオは目の前に炎の壁を一瞬で展開し火球を消滅させた。
2人からしてみれば大した攻撃でもなかったが少年にとってはこの一瞬の回避動作の時間が狙いだった。
「さぁ、来い。炎狼」
少年の正面に巨大な門が開いた。
門は一瞬で開きそこから炎をまとった狼が姿を現した。
「・・・そう、もう引く気がないなら」
リオは目の前の少年を見ていなかった。見ていたのは少年の遥か先の扉を見ていた。
「死んでもらう」
リオの両手に握られた紅蓮から強烈な炎が吹き荒れた。
「リオ、いいんだね」
やよいがリオの決意を確かめる。
リオはそれに無言でうなずいた。
「だったら]
やよいの背から羽が現れる。
リオはその姿を素直に綺麗だとおもった。だがそんな感情戦場では必要でない。リオは直ぐに少年に視線を戻して一気に駆けた。
「ふっ」
リオが一呼吸する間に狼の正面に縮地で飛び込んだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
右手の紅蓮を全力で振り下ろし狼の頭をたたきつけた。どれだけの力で叩き込めばそうなるのか狼は地面に顔をたたきつけた後、宙にバウンドした。
「紅蓮天衝」
リオは振りぬいた体制から一気に左手の紅蓮を真横に振りぬいた。狼の体に十字の斬撃が叩き込まれ狼の体が4等分に分かれた。
「リオ下がって」
リオの直ぐ後ろまでやよいが迫っていた。リオも言葉に従いやよいとすれ違うように後ろにとんだ。
「無にかえれーーーーー」
気合と共にレイピアの矢が狼に向かって襲い掛かる。
「幻想」
一瞬で狼であった形は消滅していた。
やよいはレイピアを自分の前で立て右斜め下にふった。
「舞踏」
一瞬だった。2人の動きは無駄がなくそして美しかった。だがそんな2人の圧倒的な力を前にしても少年は動揺してなかった。
「炎狼、時間だ」
しかし少年は表情を崩さず炎狼を呼んだ。
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
その場の空間が振動した。
そして、部屋全体の景色が変わった。
「はっ」
リオは一気に少年との距離を詰めようとしたが、既に遅かった。
「炎幻結界」
少年の体がぐにゃりと揺れる。それは部屋全体の温度が上がったことにより陽炎が発生したのだ。
そして周囲は通常ではありえないビルや駅等が姿を現した。人もいる、だがそれも全て幻。
やよいはこの時、冷静に目の前を歩く幻を斬りつけた。幻の人は簡単に消滅した。
「やよい右に避けて」
焦った声のリオの声にやよいは即座に反応し跳んだ。遅れてやよいがいた場所に5本の矢が突き刺さった。やよい達が強くても不意の攻撃であれば一般の武器でも傷をつけることはできる。力が発動できなければ彼女達もただの人でしかない。少年の狙いは2人の力を抑え自分に力を最大限に発揮するこの空間を作り出すことだった。
「結界とは器用な事をする」
やよいが立ち上がりながら冷静に周りを見渡す。
そこら中に人やビルで視界をさえぎってくる。
2人は背中合わせに周囲を見る。この空間は幻、ゆえに周囲に壁があってもそこは何もない空間のはずであった。ここは何もない空間、視界に入るものは全て幻。
「一気にけりをつけるにしてもこの状態だと何もできないわね」
リオが少年の熱を探すがうまく誤魔化しているのか全く感知できなかった。
「リオ、この幻覚を解除できないの」
やよいは死角から飛び込んできた火球をレイピアで真っ二つに叩き割る。火球はやよいを避けるように割れて床に炸裂する。
「無理よ、この手の力ではあっちのが上手だわ。油断したわ」
リオは悔しげな顔をしていた。
やよいもどうしたらいいのか分からず明らかに動きが鈍っていた。
そしてそこを少年は見逃さず襲い掛かってきた。
「リオ姉ちゃん隙だらけだよ」
突如リオの足元から火柱があがる。とっさに炎を纏い相殺しようとする。
「リオ!!」
やよいの焦った声がした。
声に反応しリオは横から迫り来る炎狼に気づいた。しかし炎狼のほうが僅かに早くリオに飛びついてきた。
「うぁっ」
リオのうめき声が漏れた。リオと炎狼がもつれるように地面を転がる。
「くっ、は・な・れ・な・さ・い」
リオは渾身の力で炎狼を蹴り上げた。炎狼は空中で体制を立て直しながら着地すると直ぐ様幻の中に消えていった。
「リオ!大丈夫」
やよいは慌ててリオの元へ走りよってきた。
リオの左肩からは服越しに血が滲みついていた。
「大丈夫、少しだけかまれただけよ」
肩から少しだけ血が流れ出していたが傷自体は浅かったようだ。
やよいは確認すると安堵の息を吐いた。
「さて、どうするの?」
やよいは目の前の状況を見てつぶやいた。
「・・・やよい、このフロア一体の床を操ることってできる?」
リオは小太刀を構えて突撃の体制をとった。
「できるけど、フロア全てとなるとかなり集中しないと無理。その間、何もできなくなるって」
やよいは困惑の表情を浮かべていた。
もし今やよいが無防備な状態になったら、この状況をリオ一人で乗り越えなくてはいけないのだ。
「私がうってでる。あれは私が押さえ込むからその間にやって」
リオは言い終わるよりもはやくとびだした。
一瞬で幻影の中へ消えていったのを見たやよいはため息をついた。
「どうなってもしらないからね」
やよいは床に手をつけ目を閉じた。やよいの頭の中には今無数のラインが床をはっていた。それは床を構成する物質の繋ぎ目でありそして最ももろい部分であった。
(ここを繋げてここを・・・・)
やよいの集中力は周囲の雑音全てを遮断するほどにまで高まっていた。

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
リオは全力で感知した熱に向かって突っ走った。
途中炎の塊などがリオ襲ったがリオの一撃の下に粉々に粉砕された。
「そこーーーーーーーーーーーーーーーーー」
リオは小太刀をクロスするように振りぬいた。
剣圧が吹き荒れ僅かに幻影が揺らいだ。
「!!」
少年の姿一瞬だけ現れた。少年は驚きの顔をしていた。
まさか幻影を力技でこじ開けようとして一瞬とはいえ少年の幻影を打ち破った。これは少年にとって余裕がなくなることを意味していた。
「くっ」
少年は表情を歪めながら炎狼を操った。
炎狼は主を庇う様にリオの前に立ち飛びついた。
「ふっ」
リオは炎狼の牙を弾き残された小太刀で炎狼を斬りつけた。
だが炎狼自体が炎の化身であって実態があるわけではない、直ぐに再生してリオに襲い掛かってきた。
「こんの」
リオは炎の弾丸を立て続けに放ち炎狼を吹き飛ばそうとする。
だが炎狼も同じく撃ち合いに応じこれを相殺する。
両者の力は拮抗していた。リオにとってはあまり望ましくない状態であった。
(このままだと気づかれてしまう)
リオの中に僅かながら焦りが浮かんでいた。少年がやよいの存在に気づけば間違いなく阻止しにいくだろう。だがリオの最初の無謀な突撃がきいたのかリオの対応でいっぱいだったのだ。
だがここに余裕が生まれてしまうとやよいの存在に気づかれてしまう。
リオは撃ち合いをやめて無茶を承知で炎狼の放つ弾丸に向かって突っ込んだ。
「ぐっ」
強烈な衝撃がリオを襲うが気合で耐えた。
そしてそのまま炎狼の背を蹴り少年のいた空間を斬ろうとした。
「リオ姉ちゃんすごいよ。でもね考えが甘かったね」
突如リオの前に炎狼が現れた。先ほどまで炎狼は後ろにいたはずだ。それにも関わらず今はリオの前にいた。
「炎狼が1匹だと思ったリオ姉ちゃんの負けだよ」
そう炎狼は炎狼でも別の炎狼だったのだ。
そして目の前の炎狼はリオに頭から突撃してきた。
「っつ」
声にならない激痛と共に背中からも衝撃があった。
そう背後にいた炎狼が噛み付いてきたのだ。
リオは勢いよく床に叩きつけられた。
「よく頑張ったと思うよ。さすが漆黒を倒しただけのことはあるよ。でもね戦いってのは何も正面からぶつかるだけが全てじゃないんだよ」
少年は炎狼の少し後ろに姿を現した。
「大丈夫、リオ姉ちゃんは殺さないよ。でもね他の人たちは死んでもらうんだ。そうすればリオ姉ちゃんの居場所は僕のいる所だけになるんだから」
少年の目はすでに理性を失っていた。まるで何かに取り付かれたかのようにぎらぎらとしていた。
「まずはやよいってのを殺さないとね」
少年はやよいをいるであろう方に視線を向けた。
(ぐっ、体がいうこをきかな)
連戦もありリオの体は既に限界を迎えていた。
(立つのよリオ)
リオは自分に言い聞かせた。
「リオ姉ちゃんもうやめときなよ。それ以上動くと本当に死んじゃうよ」
少年も呆れたような感じでリオを見ていた。もう無理だと思っているようだ。
しかしリオはそれでも立ち上がった。そして紅蓮を構えた。
(次が最後になる。それ以上は動けない)
リオもこれ以上は動けないことを悟っていた。
『まったく、無茶しやがって。お前らしく戦えばいいんだよ』
突如リオの頭に声が響いた。そしてリオの前に何かが飛んできた。
「これは」
リオはそれを受け止めるとそこには澄んだ赤い石があった。そして瞬時にそれが何かを理解した・
『チャンスは一回だ。全力でうて』
声がもう一度響いた。そしてリオはこの声の主に気づいた。
リオは石を柄のくぼみに埋め込んだ。
瞬間紅蓮が共鳴した。消えかけていた炎にもう一度命を吹き与えた。
(これなら)
リオは二本の紅蓮を鞘に収める。そして素手で構えた。
「リオ姉ちゃん、素手で僕に挑むなんて狂っちゃった?」
少年はリオのその姿を見て哂った。
「そんな姿をさらすくらいなら戦いなんてしなければいいんだよ」
少年は炎狼をリオに向かって放ってきた。
炎狼は一直線にリオに向かって突進した。その速さは突進力に変わりリオを捉えたら二度と放さないであろう。少年の目にはリオは既に余力など残っていないように映っていた。
炎狼が牙をリオに突き刺そうと口を開いた。
このままリオは炎狼にかみつかれて終わりだった・・・はずであった
ガシッ
何かを掴むような音がした。
「なっ」
少年は今起きている事が信じられなかった。
炎狼の牙はリオに突き刺さる僅か数センチ手前でとまっていた。変わりに炎狼の頭を掴むリオがいた。
そしてそのまま、炎狼を地面に叩きつけた。直後炎狼が蒸発した。
「その体のどこにそんな馬鹿げた熱量があるんだ」
少年は信じられないといった顔をしていた。
炎の塊である炎狼を蒸発させることなど普通に考えれば無理である。
「常識で物事を測れるほど力の世界は甘くない」
リオは素手で構え一気に飛び込んだ。リオは一気に散らばっている炎狼の一角に飛び込みそのまま、体制を低くして下からこぶしを振り上げた。
その動きはとーる顔負けの体術であった。炎狼はその衝撃で宙に放り上げられた。
リオの動きよりやや遅れ残りの炎狼がリオに向かって飛びついてきた。
その数9匹。普通に考えればリオのほうが不利である。だが・・・
「甘い」
リオは一番近くまで来ていた炎狼の口に拳を突き入れた。
「はじけとべ」
炎狼はそのまま弾けとび火の粉を周囲に散らした。
「ありえない、もう動くだけの力を残していなかったはずだ、それなのになぜ」
少年はリオと炎狼の戦いを見ながらその光景を信じられなかった。
「それはリオの力を甘くて見すぎよ。そして貴方はここで負ける」
誰もいないはずの場所に答えが返ってきた。
少年は振り返ったがそこに誰もいなかった。
「リオ、反撃の時間よ」
声とともに幻影が晴れた。
そしてその空間は今までの部屋と同じ構造を映し出した。
「やよい!!」
リオはやよいがこの状況を作り出したことに即座に気づいた。
「やよい、あの子を討って」
「任せなさい」
二人は即座にお互いの担当分野を割り振った。
「くっ炎狼戻れ」
少年は幻影が解かれたことに動揺し炎狼を呼び戻した。だが
「させるわけないでしょーーーーーーーーーーーーー」
リオは鞘に手をつけて一気に抜きさった。
同時に爆発的な炎が吹き周囲にいた炎狼を蒸発させた。
紅蓮の真なる力は持ち主の肉体強化と鞘に納めることでその力を増幅させることにあった。
身体能力を爆発的に高めることで炎に対する耐性を高める。でないと自ら解き放つ炎によって己も蒸発してしまうのだ。
そして解き放たれた紅蓮を縦に構えもう片方の紅蓮を叩き付けた。
紅蓮はお互いの炎を起爆剤に激しい唸りをあげて少年の元に戻ろうとしていた炎狼すべてを飲み込みんだ。
炎狼を飲み込んだ炎は一瞬で消え去った。目的しか蒸発させない。リオは炎の制御を完璧にこなしていた。
「せいっ」
やよいのレイピアが少年の肩に突き刺さる。
「ぐぁっ」
少年はそのまま地面に叩きつけられてむせかえった。
「動かないで」
やよいは少年の首にレイピアを突くきつけた。
「変な動きをみせればどうなるか分かってるでしょ」
やよいの隙のない詰めに少年はなすすべがなかった。
少年は体の力を抜き降参の意を示した。
「何故、貴方がこんなことをしたの」
リオは少年の前で膝をついて視線をむけた。
「僕はリオ姉ちゃんが知ってる僕じゃない」
少年の言葉に2人の顔つきが変わった。
「そう・・・、やっぱりそうなのね」
やよいは検討がおおよその見当がついていた。それはリオも同じだった。
「3賢者」
リオの言葉に少年は小さくうなずいた。
「僕は、一度殺され、そして新たに命を与えられた。だから記憶はあれどあの時の僕ではない。それに僕の頭にはリオを生け捕りにし他は抹殺せよと命令が刻み込まれた」
少年の言葉にやよいはやはりとつぶやいた。
「だとしたら、戦いをあきらめた貴方のからだはもう長くはないのも気づいてるのね」
やよいの言葉に少年は何もいわなかった。
やよいはそれを無言の肯定と受け取った。
リオも少年がこの後どうなるのかは予想ができていた。今まで3賢者によって命を弄られた者の末路は消滅。であれば少年も消えていくのであろう。
「既に3賢者のうち2人は倒れている。そして最後の一人グラムも誰かと戦っている」
3賢者すべて倒れればアビッサルの戦力は激減する。長きにわたった戦いも終結へと向かいつつあったのだ。
「どうやら時間のようだね。リオ姉ちゃん最後にお願いがあるんだけど」
少年は手をさしだした。リオは少年の願いが何であるかすぐに気づき手を握った。
「ありがとう」
少年は目を瞑ると体が白い粉雪のように舞いながら消え始めた。
「今度は・・・リオ姉ちゃんと一緒に・・・・・・」
少年の声は最後までは届かなかったがリオには伝わっていた。
「リオ行こう、あと少しで長かった戦いが終わらせれる。ここで足を止めるわけにはいかない」
やよいはリオの肩に手を置いた。
「うん、行こう」
リオは言葉に色々な思いを込めていた。
やよいも一度だけ少年のいた場所へ視線を移した。
最後の最後まで名前も分からなかった少年。もしかしたら本当に名前がなかったのかもしれない。
今となってはもうわからない。やよいは少年は自分と同じだったのかもしれない。
ただ、誰かに手を差し伸べてほしかったのかもしれない。やよいにはナナリがいた。
エリスにはとーるがいた。そしてリオにはフリューベルがいた。
しかし少年には誰もいなかった。少年の力であった炎の幻は少年の心の姿を表していたのかもしれない。
一歩間違えればやよい達も同じ運命を辿ったのかもしれない。いや辿ってであろう。
全ての悲劇を消すことはできないであろう。しかし限りなく0(ゼロ)にすることはできると信じて2人は先に向かって歩みだす。
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