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REQUIEM館

第6話:変化と謎の女

ビットは一人アカデミーの校庭を走っていた。
ビットが牢から解放されたのはつい1ヶ月前、何も言葉にしない彼らに学園長は諦めて解放をしたのだ。
以降ビットは授業にも出席し課題も難なくこなしていった。
しかしビットは今までと違い授業がつまらなく感じてきていた。
その変化があったのは3日前の激戦を目の当たりしてからで間違いないだろう。
あの時彼の視界には一人の騎士が映っていた。
ペコペコにまたがり縦横無尽に戦場を駆け回り敵を蹴散らす。
しかし攻撃一辺倒ではない、時には味方を庇い己が傷つく姿はビットが子供のときに読んだ御伽話の騎士そのままの姿であった。
今のままでビットはあのような存在になるのは無理である事には気づいていた。
それゆえに鍛錬の量も増やした。だがそれだけでいいのか。否、彼の心の中ではそれを強く否定していた。
だが何が足りないのかは分からない。ゆえにそのもどかしさを走る事にぶつけた。
既にビットは1周200mの校庭を20週していた。
更に彼の足と腕には錘がつけられていた。
同じクラスメイトからは最初は心配されていたが最近は怖がられてすらいた。
今でもクラスの中では明るくふるまい周りもそれを受け入れている。
だが時折見せる鬼気迫る顔は周りの者を震え上がらせた。
授業も入学当初は真ん中よりも下のレベルだったが現在では間違いなくクラストップの実力にまで上り詰めていた。
この頃時を同じくして大きく成長した者がもう一人いた。それは隣のクラスにいるあきらであった。
あきらはこの1ヶ月最低限の授業しか出席していなかった。
それ以外の時間はクエストを行い各地を転々としていた。
アカデミーには2種類の授業システムをとっている。
1つがクラス単位で行われる授業に参加し必修科目の単位を収める。
基本的に生徒の9割がこの形式を選んでいた。
だがこの場合アカデミー卒業は最速でも2年近くかかる。
それに対し2つ目のシステムがクエストであった。
クエストには討伐、護衛、運搬等がある。
また難易度もピンからキリで学園からの許可が下りたものしか認められないため評価もそれ相応にある。
過去の最短記録は半年で卒業であった。
だが、良いことばかりだけであれば生徒は後者を選択するだろう。しかし現実は逆である。
それはクエストの間はアカデミーの保護下ではなくなるからである。
例えばクエスト中に大怪我をした場合それは自己責任となりアカデミーからの助けはない。
他にも依頼品の紛失の責任等も受注者本人で取る必要があります。これによりクエスト自体の難易度よりも自己の責任で行動するという極めて困難なものになっているのです。
しかしクエスト達成時は単位以外にもそれ相応の報酬が入るため卒業後にも優位に立てることもあり腕に自身のある生徒の挑戦はそこそこあった。
あきらはそんな厳しい条件をクリアし高難易度のクエストをこなしていた。
教師からは最初はやる気のない生徒と思われていたが最近はその評価も変化していた。

ビットは校庭を更に20周すると校庭の端にある水道で頭を冷やしていた。
「ふう、生き返るー」
ビットは冷たい水に癒され気持ちよさ気な顔をしていた。
「そこの人、次の講義始まってますよ」
声に振り返るとそこには見知らぬ女性が壁にもたれながらこちらを見ていた。
真紅の腰までかかる長い髪に紅い瞳は消える事のない炎を連想させた。服装は黒のワンピースであった。
年齢はビットよりも1つ2つ年上と思われる。顔立ちも整い多分であるが貴族のご令嬢であるとおもわれる。
「ご忠告どうも、次の講義は既に一度覚えた所なんで出る必要がないのです」
ビットは興味なさそうにタオルで顔を拭くと近くに置いてあった槍を手にした。
「槍の使い手とは珍しい方ですね」
女性は少し驚きを見せていた。それもそのはず現在アカデミーの生徒で槍を扱う者はビットくらいであった。
理由は立ち回りが不便で剣の方が身軽に動けることにあった。
しかしビットは1ヶ月前の事件を境に剣を振るう事を止め槍を扱い始めた。
ビットは無言で槍を肩にかけながらアカデミーの裏山へと足を向けた。
女性はビットの後ろ姿を見て何かを思いついたのかにやりとした。
ビットは槍の修練をアカデミーの裏山で行っていた。理由はいたって簡単、修練の姿を誰にも見られたくなかったからだ。アカデミーの裏山には大量のモンスター住み着いている。腕試しなどで訪れる生徒もいるがそれも大抵は山の2合目あたりで生徒達は引き返す事が多くその先は徐々にモンスターの数や種類も増え難易度もぐっとあがるのだ。
ビットは現在4合目まで到達していた。
倒してきたモンスターの数も有に100を超えていた。ビットの腕や足にも傷があるもののそれほど気にしておらず先を進んでいた。
「あの女、後ろからついてきてるのかよ」
ビットは溜息をつきつつも後ろから迫る気配を無視して先を進んでいた。
途中で諦めるだろうと思っていたがその予想はどうやら外れたようだ。
後方から迫る視線にはかなり前から気づいていた。
この山は4合目からは更に難易度が跳ね上がる。アカデミーの中でも5合目まで到達できるものはクラスでもトップあたりの者でしかも集団でないとほぼ無理である。
現に現在のアカデミーで4合目に到達した者は数人しかいない。それも大半が複数人で組んでの到達であった。
そこにソロで到達した者は現在2人のみ、1人はビット本人。もう1人はあきらであった。
過去山の4合目までの到達者はそこまでいない、そしてソロでの到達は過去3人しかいない。
そのもの達は異例のスピードでアカデミーを卒業し、国内でも指折りの冒険者として名を馳せていいた。
しかしある時を境にその者達は姿を消していた。理由は不明とされ現在も行方不明とされている。
ゆえに現在ソロで到達できている者はビットとあきらの2人だけであった。
あったはずと言ったほうがよいだろう。現に1人ビットの少し後ろに5合目に到達しているものがいた。
(一体、あの女何者だ?)
見た目や立ち回り方からしたら多分マジシャンであると思われる。しかしビットの記憶にそれ程の力量があるマジシャンがアカデミーにいるという記憶はなかった。なぞは深まるばかりであった。
(!)
ビットは勢いよく横飛びをした。僅かに遅れてビットがいた場所に強烈な攻撃が叩き込まれた。
「っく、サスカッチか!」
現れたモンスターはサスカッチ、白い毛を生やした2足歩行の熊である。気性は荒く近づく物はすべて攻撃をしかけてくる性質がある。今のビットには荷が重い相手であった。
ビットはすかさず残りの回復薬を数えた。
(ぎりぎりか・・・厳しいか)
状況はあまりよろしくない。だがここで下がることはできない。後方には正体不明の女がいる、巻き込むわけにはいかない。
ビットはランスを両手で握ると臨戦態勢に入った。その力強い構えにサスカッチは僅かに後ずさりをした。
(好機!)
ビットは全力で踏み出すと槍を斜め後ろに振り上げた。
突進力を生かし更に槍を振り出すときに生まれる遠心力を最大限に生かした攻撃であった。
<バッシュ>
気合の入った一撃はサスカッチの肩辺りをたたきつけた。
全力の一撃にサスカッチは地面に叩き付けられたが直ぐに立ち上がってきた。
ビットを敵として認識したのか怒り狂った視線をビットにぶつけてきた。
ビットの背中に冷や汗が流れる。
(やはり、あの程度では効果は薄いか)
サスカッチは前足を地につけると勢いよく飛び込んできた。ビットはやや遅れて同じく飛び込んだ。
1人と1匹の攻防は息を呑むほど熾烈であった。
サスカッチの前足は生身の人間であれば一撃で即死級の力がある。
例え鍛え抜かれたアカデミーの学生でも耐えれる者は多くないであろう。
ビットは紙一重でその前足をかわしていた。とにかく一撃もまともに受ける事ができない。
ビットはたえず左右にステップをふんでいた。サスカッチの動きが僅かに鈍くなった。
「勝機!!」
ビットはランスを全力でぶんまわすとサスカッチの足元に叩きつけた。
<マグナムブレイク>
地面が爆発しサスカッチの体が大きく吹き飛んだ。
マグナムブレイクの効果でビットの槍の先から炎がゆらめいていた。
この時点で勝負はビットの勝ちがきまっていた。
大きく跳躍するとビットはサスカッチの脳天に向かって槍を振り下ろした。
<バッシュ>
見事サスカッチの脳天に直撃しサスカッチは低い唸り声をあげて倒れ込んだ。
「ふぅいーーさすがにきついぞ」
ビットは大きく息を吐き出すとその場に座り込んだ。
残った回復薬を飲み疲労を拭う。更にこれから下山を行う事を考えるとげんなりするがそうもいっていられない。
「へー、サスカッチを倒すなんてすごいわ」
ビットの背後から声が聞こえた。ビットはそれが誰か分かっている為振り向く気もない。
「でも、まだ詰が甘いわ」
ビットもその言葉の意味に気づいたのか立ち上がった。
視線をサスカッチがいたほうに向けると弱っているがそれでも尚飢えた目をしたサスカッチがいた。
「炎の精霊よリアが命じる。その身を火球へ変え敵を・・・」
ビットの背後から強烈な熱気が吹き荒れた。
この世界には大きく分けて2つの力が存在する。1つ目が己の体に宿る気や生命力を高めて力を生み出す者、2つ目が己の体に宿る魔力を高めて自然に存在する精霊や神と言葉を交わし力を具現化する者が存在する。
前者がビットやあきらである。後者が今ビットの後ろにいる謎の女である。
「討て!!」
<ファイアーボルト>
サスカッチの上空に10個の火球が現れ容赦なく降りかかった。
サスカッチは悲鳴をあげる事もできず息絶えた。
ビットは言葉を失った。間違いなくこの女はマジシャンであろう。だがその魔力はアカデミーの学生では見た事がなかった。
「さて邪魔者もいなくなったし。用事をすませましょう」
謎の女は何事もなかったかのようにビットの前に立つと人差し指をビットに突きつけた。
「あなた私の騎士になりなさい」
後にビットは
「自分の人生はこの時に決められてしまった。」
こう語る。
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