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REQUIEM館

外伝:帰るべき場所

神殿の廊下であると思われる場所に一人の少年がいた。
「・・・」
少年の腕の中には少女が抱かれていた。
「リン、どうしたの難しい顔をして」
背後から女性の声が聞こえた。
リンは声だけで相手が誰か分かっていた。
「小雨さんか」
リンは振り返りそこに立っていた神官服の女性を見る。
「えらく、その子に御執心のようね。貴方にしては珍しいわ」
小雨は先ほどあった一件を思い出していた。

ことは1時間ほど前にさかのぼる。
リンがあきらと1戦交えその直後光の中から現れた少女をリンはそのままアジトまで連れて帰ってきた。
この事についてリンは勝手に他人をアジトに招き入れたことに周囲から猛反発を受けた。
しかし、リンはそれを真っ向から突っぱねた。
「彼女を僕達のギルドに入ってもらう。小雨さんからは既に了承を貰ってる。何かあれば僕が全て責任をとる」
リンの発言に周囲は騒然とした。今までリンは出来る限り周囲の人間との接触を避けてきた。
その理由は彼の生い立ちにも関係があるがその話はまた別の機会にでもしよう。
どちらにしてもこの件でリンは周囲から反感を買っただろう。
しかし、このギルドのリーダーである小雨の一言で周囲は言葉を詰まらせた。
「皆さん、今回はリンに任せてみましょう。何かあれば私とアルさんでフォローをしますから」
小雨は僅かに視線を横に移した、そこには盗賊のような格好をした女性がいた。彼女がアルと言われた女性である。彼女はギルドのサブリーダーでもある。
「OK、小雨がそこまで言うなら私も賛成だ」
これにより実質ギルドのNo1、No2が承諾した為誰も何もいえなくなった。
「それでわ、リンの処遇についてはこれまでにして次の議題に移ります」

このようなやり取りがあった。
「この人は、多分僕と同じだと思います」
リンは立ち止まると目の前のドアを開けた。
部屋の中は簡素でタンスとベッドに後はテーブルと椅子、小さな本棚があり側面に弓が幾つか立てかけられていた。
リンは少女をベッドに寝かせると椅子に座った。
「そう・・・、どちらにしても当分の間彼女の面倒は貴方が見るようにね。それとその服はあげるわ、元々私のお古だから気にしないで使って頂戴」
小雨はそう言うと部屋から出ていった。
リンは本棚から一冊のアルバムを取り出しあるページを開いてとめた。
「・・・もう3年もたつのか、早いものだ」
リンはふうっと溜息をついた後天井を見上げた。
リンの言葉はそのまま部屋の中に消えていった。
「んっ・・・」
ベッドから声が聞こえリンは振り向いた。そこにはまだ眠そうではあるが目を開きベッドに座っている少女がいた。
「あ・・・れ、ここは?」
少女は目をこすりながらキョロキョロと部屋を見渡しそして、リンと目が合う。
「おはよう、ここは僕の部屋だ」
リンは出来る限り穏やかに答えた。いすから立ち上がった。
「!!、近寄らないで」
少女は酷く混乱しているようで、その表情からは恐怖が一番強く伺えた。
リンは一度頷き、椅子に座りなおした。
「わかった、君が落ち着くまで俺はここで待とう」
リンは椅子に座りなおし机に置いていた本を読み始めた。
部屋は静かでただ時計の音だけが室内に響いた。
どれくらい立ったであろう少女の口を開いた。
「ここはどこですか?」
少女の質問にリンはそれまで避けていた視線を向けた。少女は少しだけびくりとしたが真っ直ぐにこちらを見返してきた。
「ここは僕達のアジトだ。詳しい場所は教えられないがここはジュノーのとある場所、多分君が知っているところではないはずだ」
リンは本を閉じながら答える。少女はリンの答えを聞いても理解できていないのだろう、何かを呟いていた。
「まず自己紹介をしておこう、僕の名前はリンという。君に危害を加えたり何かしようとは考えていないから安心してくれ。君の名前は?」
リンは普段は見せない優しい顔をしていた。少女もリンが危害を加えるつもりが無い事に気づいたのか少しだけ強張っていた表情を崩した。
「私の名前はサクラです。」
サクラと名乗った少女はベッドのシーツをぎゅっと握り締めた。
「サクラさん、いきなりで申し訳ないけど教えてくれないか。気を失う前に貴方の身に何があったのか」
リンの言葉にサクラはベッドのシーツを更に強く握った。
「えっと、すみません。名前以外はよく覚えていないんです。」
サクラの言葉にリンはやはりと思った。
リンはサクラが現れた時の事を思い返した。人一人が転移するとしてもあの莫大なエネルギーは異常だった。
そのエネルギーにさられていたのだ記憶が無くなっていたとしても不思議ではなかった。
「そうか」
リンは頭の中で色々と考える。彼女はこの世界の人間ではないのではないか?、もしかしたら自分はとんでもない事件に首を突っ込んだのではないか?と考えても答えが出るわけでもない。
難しい顔をしているリンを見てサクラは不安そうにする。
「あの、私はこれからどうすればよいのでしょうか」
サクラの声にリンは我に返った。
「そうだなー、結論から言うとサクラさん君には僕達のギルドに入ってもらおうと思う。既にリーダーからは許可を貰っている。しかし、君には行動制限がつけられる。アジト内は自由にしていいが、外に出る場合は僕と一緒になる。それと記憶についてだが思い出す事があれば教えて欲しい、何かの力になれるかもしれないからね」
リンの言葉をサクラは聞いて首をかしげた。
「それですと私はとても有難いのですが、どうしてそこまでしてくれるのですか」
サクラの疑問は当然だった、いきなり現れた行き場の無い自分を保護するのだ、今のままでは全くリンには見返りがないのだ。
「・・・あー」
リンは難しそうに頭をかいた。
「君の雰囲気が僕の幼馴染に似ていたんだ」
サクラは小さく首をかしげた。
そしてサクラが何か言おうとした時、部屋の扉が勢いよき空けられた。
「リン、大変だ!奴らが出たぞ」
勢いよく入ってきた男はサクラを見てしまったと思ったがそれも既に遅い。
「分かった、直ぐ出る。今回は僕と誰が行くんだ?」
男は首を振った。
「今、出れる奴はいない」
リンは誰にも聞こえない程度の舌打ちをした。
今回リンがサクラを勝手に迎え入れたことによる意趣返しであることは明白であった。
「分かった、僕だけで行こう」
男はリンにすまんといって部屋をでていった。
「悪い、ちょっと急用ができた。施設の案内は別の人にお願いしておくから分からない事があったら」
「あの!私も連れて行ってください」
リンの言葉が終わる前にサクラが割り込んできた。
あまりの勢いのよさにリンは頷いてしまった。

2時間後、目的の場所にリンとサクラは到着していた。
「・・・あれか」
リンは木の陰からその先にいる魔物の群れを見る。
そこには10匹程度の大小の魔物がいた。
(一気にけりをつける。絶対に前に出ないでね)
リンはサクラに小声で話すと勢いよく飛び出した。
魔物は虚をつかれリンの初撃のアローシャワーが全て命中する。
今の一撃で4匹の魔物が即座に絶命した。残された6匹のうち5匹がリンに向かって襲い掛かってくる。
リンは一番前にいた魔物の顔目掛けて1度に2本の矢を放った。
アーチャーではおなじみのダブルストレイフィングだ。
矢はリンの狙い通り命中し一番前にいた魔物がリンに向かって倒れこんできた。
リンはすかさずその魔物をつかむと勢いをつけて前方に蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた魔物は後方にいた3匹の魔物を巻き込んで地にたたきつけられた。
リンは容赦なく倒れた魔物向かって矢を放ち続けた。魔物が動かなくなるまで矢を打ち込んだ。
リンは魔物が動かなくなったのを確認すると、最後の1匹に視線を向けた。
「お前が親玉か」
リンの言葉に最後にいた魔物の顔がにやついた。
リンは次に何が起きるかを悟った。
リンはサクラがいた場所にむかって一直線に走る。
後方から魔物の詠唱が聞こえるがそんなことを気にする余裕は無かった。
「サクラさんそこから逃げるんだ」
リンの言葉の意味をサクラが理解するころには手遅れだった。
(まにあえ!!)
リンはサクラに向かって飛びつき、そのままサクラを押し倒しながら木陰の奥へと飛び込んだ。
「きゃあっ!」
「いっつ」
驚きの声と苦悶の声がそれぞれの口から飛び出した。
サクラを抱えたままリンは地べたを転がった。
「こんの野郎!」
リンは地べたに倒れたまま弓を反対側の木陰に向かって構え矢を放った。
矢は木陰に吸い込まれるように消えていき
ドスッ
何かに刺さる音がした。
木陰から弓を持った魔物がよろよろと出てきて地面に倒れこむ。
「伏兵を置いておくとは知恵の廻るやつがいたか」
リンは自分の左肩に刺さった矢を無理矢理引き抜いて立ち上がった。
サクラは肩の傷よりも背中の火傷を見て絶句した。
先の魔物が放った魔法はファイアーボルトであった。サクラにボルトが落ちる寸前でリンが自身を盾にして彼女を庇ったのだ。
リンの顔からは血の気が引き状態をみても良い状態ではないのがうかがえた。
「待ってください。傷を治さないと」
サクラはリンの腕をつかむと自分の方に勢いよく引っ張った。
怪我をしていたリンは踏ん張る事もできずサクラの体に倒れ掛かった。
「馬鹿、あいつをしとめないと増援がくる可能性がある。早く始末しないと・・・」
リンの非難の声は途中で止まった。サクラの手が火傷を負ったリンの背中にあたると、急に暖かい光がリンを包み込んだ。
(なっ!これはヒール!!)
リンの背中にあった火傷は徐々に消えていき最後には火傷があったとすら分からないほどになっていた。
肩の傷も同時に癒され傷はふさがっていた。
「ごめんなさい、私のせいで貴方を危険な目に」
涙を流しながらサクラはリンに謝る。
サクラのそんな姿を見てリンは少しだけ肩の力をぬいてサクラの頭に手を置いた。
「大丈夫だ、サクラさんのせいではない。僕がそうしたかっただけだよ」
リンは穏やかな顔でサクラの頭を撫でる。
サクラはリンに頭を撫でられ続けた。たったそれだけであったが高まっていた感情が落ち着いていくの。
不思議に思ったがそれ以上にこの心落ち着く時間をサクラは欲していた。
いきなり知らない場所に投げ出されたサクラにとって、リンはサクラに手を差し伸べてくれた唯一の存在。
しばらくしてリンはサクラの頭をぽんぽんと2回ほど優しくたたく。
「落ち着いたか?」
「はい、ありがとうございます」
サクラは先ほどまでの取り乱しっぷりを思い出し少しだけ頬が赤くなっていた。
「まだ、敵がいる」
リンはサクラの頭から手を離すと先ほどまでの穏やかな顔つきから、全てを否定するほどの厳しい顔つきへと変わった。
リンは木陰から先ほどいた場所を覗くと魔物の横に頑強な鎧をまとい顔は兜で覆った人間と思われる者がいた。
(・・・何者だ)
リンは矢を番え、走り出した。魔物と鎧を纏った者の視線がこちらに向く。
リンは魔物の方に向かって自身が放てる最速で矢を同時に2発撃ちだすスキル、ダブルストレイピングを撃ち込む。
最速で放たれた矢は魔物の反応速度を上回っていた。しかし
「っ!」
矢は魔物に当たる前に鎧を纏った者の剣によって叩き落された。
「ほぉ、貴様ただの弓使いではないな」
低い声が聞こえた。リンは矢を番いなおして再度射撃の態勢を取る。
「・・・」
リンは、無言でにらみつけながら弦を引く。
多分であるが、目の前の敵は現在のリンでは厳しいだろう。
「ふっ、この場で殺りあうのは好ましくない。次会うときまでにもっと腕を磨いとけ」
そう言葉を残すと陽炎のように揺らぎながら消えていった。魔物も既にこの場にはいなかった。
リンは構えを崩し息を吐きながら地面に座り込んだ。
「だ!大丈夫ですか?」
サクラは慌ててリンのもとに駆け出した。
リンの顔色を確認する。
リンは疲れた顔をしていたが、それでも笑みを返した。
「ああ、平気だ。とりあえず帰ろうか、サクラさん」
リンの言葉にサクラは頷く。
「リンさん、私のことはサクラと呼んでください」
サクラはリンに手を差し出した。リンは一瞬だけきょとんとしたが直ぐに笑みを浮かべた。
「よろしくサクラ。後、僕の事もリンでいいよ」
リンはサクラの手を握り立ち上がった。
「よろしくお願いします・・・リン」
サクラは少しだけ気恥ずかしそうであった。
2人は手を繋いだまま帰るべき場所へ歩き始めた。


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第8話:アカデミーでのとある1日

あなた私の騎士になりなさい

ビットはアカデミーの校庭の隅で槍の素振りをしていた。
頭に浮かぶのは先日ビットにとんでも発言をした女の事であった。
名前は聞いていないが詠唱の時にリアと言ってた事から彼女の名前は多分街がないだろう。
だがそれ以上の事はわからない。ただ並みのマジシャンではないことはあの魔法で分かっている。
(リア・・・どっかで聞いた気がするんだよなー)
しかしいくら悩んでも答えは見つからなかった。
「やべ、今日は最初から講義にでるんだった」
ビットは荷物をまとめて校舎へと足を向けた。

「よっ」
ビットが教室に入るとクラスメイトが挨拶してきた。
「おはよっと」
ビットも適当に挨拶をしつつ自分の椅子に座った。
「なぁなぁ今日転入生がくるって聞いたぞ。しかもこのクラスにだってさ」
クラスメイトの興奮した声にビットは面倒に答えた。
「で、その反応だと女子か。しかも綺麗か可愛いかどっちかか」
「何故分かる!」
クラスメイトの驚きにビットは半分あきれてしまった。
(その反応をみれば普通わかるって)
「だがそれだけじゃないんだぞ、その転入生どうやら王族のようだぞ」
「は?王族??なんでまた王族がアカデミーに転入してくるんだよ」
ビットは素っ頓狂な声をあげてしまった。それもそのはず、世界の王族、貴族はアカデミーではなく専門の育成学校に通っているのだ。その為アカデミーに王族が転入するということはまずないのだ。
「そこまでは分からないんだが、どうもめっちゃ可愛いって話だぜ」
クラスメイトの言葉にビットは何か違和感を感じたが適当に聞き流すことにした。
「ま、後数分もすれば分かる話だし。俺はとりあえず講義の準備をする」
ビットは机の中から次の講義で使う教材を取り出しながら答える。
クラスメイトもビットが興味を持たない為かそれ以上話さず別のクラスメイトの方に向かっていった。
「よーし、ホームルーム始めるぞー」
担任が教室に入ってくると同時に生徒は各々の席についた。
アカデミーの講師は全て現役の冒険者であっても通用する腕を持つものが集められている。
その為、講師に逆らったりすると容赦ない鉄槌が振り下ろされることになる。
結果生徒は講師のいう事をよく聞くようになっている。
「今日は転校生を紹介する。入ってこい」
「はい」
担任が呼ぶと一人の女性が教室に入ってきた。
(げ!)
ビットはその女性を見て気まずそうな声をあげた。
「でわ、自己紹介を」
担任に促されると女性は頷いて黒板に名前を書き上げた。
リア・トリスタン
(!!!!)
ビットはその名を見て思い出した。
現在の王であるトリスタンの末子に女性がおり、継承権からは遠く離れているが魔術の才においてはかなりの潜在能力を秘めていると噂を聞いた事がある。歳は確かにビット同じ年齢で間違いないことも確かであった。
「リア・トリスタンです。この度皆さんと一緒に勉学に励める事を光栄に思います。皆さんこれから宜しくお願いします」
凛とした声と優雅な振る舞いは王族であることを強く印象付けた。
ビットもリアのその姿に感嘆の声を漏らした。
「といわけで皆も気づいたと思うがこちらはプロンテラ王国の現王であるトリスタン王のご息女つまり王女である。くれぐれも粗相のないようにしてくれよ」
「先生、私はここに一生徒としてきました。特別扱いはやめてください。皆さんも私を王女だからって特別扱いはしないで下さいね」
担任の言葉を否定しクラスメイトに向かって一度頭を下げた。
「そうか失礼、というわけだ皆も彼女と仲良くしてやってくれ。それでは席だが・・・ビットの隣の席が空いてるなそこを使ってくれ」
リアは、はいと返事をすると指示された席へとむかった。
そしてビットの席の前を通り過ぎる所で
「よろしくね、私の騎士様」
ビットにだけ聞こえる声でリアは囁いてきた。
ビットはため息をついて窓の外を見てため息をついた。
(面倒な事になりそうだ)
リアがクラスメイトと馴染むのはそこまで時間がかからなかった。
クラスの大半の男子生徒は彼女の親しみやすさに惹かれていたし、女子生徒も話があうようでリアが一人でいることはほぼなかった。
ビットも彼女に興味がないためあまり関わろうとせず特に問題もおきていなかった。
そしてリアが転校してきた2週間が経過した。
「ビット、いるか?」
教室に珍しい人物が入ってきた。
珍しい来客にクラスがざわついた。
「ん、あきらか・・・」
ビットは立ち上がるとあきらのもとに近づいた。
「次の実技実習で俺と組んでくれないか」
あきらの言葉にビットは驚いた。
「今まで一人で全てをこなしてきた奴がいきなりどうしたんだ」
「実は・・・」
あきらはこれまでの経緯を話し始めた。
「なるほど、あのリンが次の大会に出てくるのか、それは興味あるね。しかしこっちはいいとして後一人どうするんだ」
「そこだが後衛が勤まる人を探している。俺もビットも前衛だ、至近距離での戦いだけなら俺達だけでどうになるがリンは弓使いだ、牽制の為にも後方からの魔法がいいんだが実際アカデミーのマジシャンでは厳しいのが現状だ」
あきらの考えは正しかった。ここでアコライトを味方にしたところでジリ貧な戦闘になるとであろう。
2人してうーんと考え込むが良い答えはでなかった。
そして時間は過ぎ実習の時間になる、そしてこの時ビットはある事に対してとてつもなく後悔する事になる。
「はあああああああああ」
ビットの振り出した槍が近くにいた前衛のソードマンを吹き飛ばした。
実習は今回大会で行われる3対3の形式で行われた。ビットのチームはビット、あきらのみと普通なら数の不利であるがこの2人はそんなことお構いなしと既に5戦全勝で6戦目を迎えていた。
「く、慌てるな相手は二人だ一人突破されても5分になるだけだ」
どうやら相手PTの最後尾にいるアーチャーが指揮官のようだ。
ソードマンが倒れたところをあきらが勢いよく飛び込む。
指揮官のアーチャーが矢を放ち牽制をかけるがあきらは短剣のグラディウスを巧みに操り矢を弾き飛ばしながら前進する。
慌てた2人目のシーフがあきらに向かって斬りかかる。しかしあきらはこれも予想していた。
シーフの短剣をグラディウスで受け止めると、空いていた左手を勢いよくシーフの腹部に突き出す。
<インベナム>
シーフの腹部で爆裂が発生し後方に大きく吹き飛ばされた。シーフは立ち上がろうとしているが体に力が入らず立ち上がる事ができない。インベナムは相手に一撃を与えると同時にその傷口から毒を塗りこむ技だ。
毒とはいえ致死的な程ではない為、相手を疲労させる時に使われる事が多くなる。
あきらはそのまま指揮官のアーチャーめがけて突撃する。
アーチャーはあきらが突進してくることを見越して矢を複数本抜き出していた。
「馬鹿が、突進しかできない猪はこれで止めだ」
<アローシャワー>
広範囲に矢をまとめて撃ちだすこのスキルはあきらが突進するのと反応できないであろう距離を予想して撃たれた。あたればあきらとてただではすまない。しかし
「あいつの矢に比べたら遅すぎる」
あきらは呟くとアーチャーの視界から消えた。
「なっ!!」
まさかの事態に戸惑うアーチャー、冷静に考えれば直ぐに気づいたであろう。
シーフ特有の技であるハイディングだ。矢はあきらがいたであろう場所を素通りし無人の場所に突き刺さった。
「ハイディングか、やってくれる。しかし場所は分かっているんだそこから炙り出せばどうとでも」
「馬鹿だなー、敵は1人じゃないだろ」
アーチャーの焦る声に呆れ果てたビットが走りこんできた。
「すこーしだけ寝てろ」
ビットはランスをぶん回すと地面に高速でたたきつけた。
<マグナムブレイク>
「ぎゃーーーーーーーーー」
情けない悲鳴と共にアーチャーは吹き飛ばされ地面にたたきつけられた。
「そこまで」
あきらと、ビットは武器をおさめるとグラウンドの隅へに座り込む。
2人は困った表情で悩んでいた。
「いないなー」
あきらはため息を吐いた。
「さっきのアーチャーはアカデミーでも上位に入る腕なんだけどねー」
ビットもあきらの溜息に続いて深いため息を吐いた。
どうしたものかと悩んでいると突如グラウンドで爆炎がまいあがった。
「は!!」
あきらのすっとぼけた声をあげた。
(げっ、そういえば彼女の存在を忘れていた・・・)
ビットは冷や汗を流しながらグラウンドの中央を見た。
そこには先ほどまで戦っていたと思われる3人が少しだけ焦げた匂いを出しながら倒れている姿が見えた。
更にその先には3人を哀れな姿に変えたであろう、マジシャンがいた。
「ビットさん、1戦ほどお相手願いますでしょうか」
マジシャンの正体はリアであった。むしろビットはこの惨状を作り出せるのはこの場には彼女しかいないだろうと思っていた。しかしそれよりも
(なんか滅茶苦茶怒っているんですけど)
リアは笑顔でこちらで見ているのにも関わらずビットにはそれ以上に威圧感がぶつけられている事に気づいていた。
「ははっ!まさかアカデミーにこんなとんでもないマジシャンがいるとは気づかなかった」
あきらは笑いながらグラウンドの中央へと足を進めた。
「あなたは?」
リアはあきらへ愛想笑いを浮かべながらたずねた。
「あきらだ。なるほど王族かそれもこれ程の魔力となると高位の継承権の持ち主か」
あきらは即座にグラディウスを抜いた。
「3:2ですがいいのですか?」
「かまわん、先手はもらうぞ」
あきらはグラウンドの外周から物凄い速さでリアの取り巻きの女剣士に向かって突撃する。
「こんの!」
女剣士はステップをふみ間合いをとろうとする。しかしあきらの方がいち早く自分の間合いへと詰め込んだ。
「遅い」
あきらはグラディウスを女剣士の右肩に突き出した。刃落としこそしているがダメージはきっちしと与えた。
さらに空いていた左手を相手の腹部に添える。
<インベナム>
「がはっ」
体内の酸素をいっきに吐き出し女剣士は後方へと吹き飛ばされた。
「ちっ、仕損じた」
あきらは舌打ちをしながら追い討ちをかけようとする。
(っ!)
あきらは咄嗟に真横から飛んできた火球を体勢を低くしてかわした。
「先手は譲ったわ、次は私の番よ」
リアはスタッフを前方に押し出した状態から上空に向かって振り上げる。
それまで晴天だった空に漆黒の雲が現れる。
明らかにリアが何かをしたのは理解できた。
あきらは直感でバックステップを踏むとそれまでいた場所にに落雷が打ち込まれた。
(やはりライトニングボルトか)
あきらは回避の態勢をとりながら相手の出方を待つ。
今のあきらとリアの状況を見るとリアが僅かながら優位な状態に立っている。
いかにあきらが回避に長けていたとしても後手になってしまっている事と、相手は距離をものともしないマジシャンであるからだ。これがソードマンやシーフなら後の先を取ればよかっただろう。
しかしリア相手ではそれが通用しない。ゆえにあきらからしかける事もできないというジレンマにあった。
「警戒するのはいいですが、警戒しすぎは警戒しないのと同じですよ」
リアの杖全体がバリバリと電流が走り回る。
「あきらー、それはボルトじゃない!」
ビットはもう一人のマーチャントの女を圧倒しつつその状況を分析する。
ライトニングボルトよりも高魔力の流れにビットは危機感を覚え咄嗟に声を発した。
声に反応した、既にあきらは回避不能であることを悟っていた。しかしそこで終わらないのがあきらの強さだった。
あきらはビットに視線を向けた。ビットはあきらの視線から何かを悟った。
ビットは女マーチャントに加減をしながら蹴り飛ばしてあきらのもとへ走り出した。
<サンダーストーム>
ライトニングボルトよりも広範囲に落雷が落ちる。あきらに向かって複数の落雷が襲い掛かる。
土煙を巻き起こしグラウンドの中央は視界が遮られた状態になっていた。
リアはこの時、確信していた。あきらがこの程度では倒せないと、そしてこの状況はあきらにとって最大のチャンスでもあることを。
「!」
土煙から突如何かがリアに向かって飛び出してきた。
そして土煙から、ボロボロになりながらも出せる最大速度であきらは飛び出してきた。
既に体力も限界に近いであろうあきらだが、それでも速度を緩める事無くリアに向かって突進する。
「あれを耐えられるとは!」
予想はしていたがリアは驚きを隠せなかった。
しかし冷静にあきらの攻撃を避けた。
避けた反動を利用し、振り出した杖であきらを弾き飛ばした。
既に限界の近かったあきらはこの一撃で地面に倒れる。
「おしかったですね、後もう一手はやければ私の方が追い詰められていたでしょう」
リアは大きく息を吐き出し、あきらを見下ろす。
「馬鹿が、今この場にいる敵はおれだけか?」
あきらは不適な笑みを浮かべた。
リアはその言葉に先ほどまで遠くにいたビットの姿がない事に気づいた。
そして次の瞬間、
「チェックメイトだ」
あきらの言葉と同時にリアの背後に槍の先端が突きつけられた。
リアはビットがどこから現れたのか気づかなかった。
ビットの速さではあきらがリアに到達した時点ではまだリアの背後に到達することは不可能であった。
「姫様、彼はサンダーストームの粉塵に紛れて空中から姫様の背後に飛び込んできたのです」
女マーチャントがビットに蹴られた腹部を押さえながら座り込んだ。
「姫様私達の負けです。3:2でここまで押し切られては認めるしかないです」
女剣士が女マーチャントに肩を貸して立ち上がる。
「そうね、私達の負けね」
リアはあっさりと負けを認めた。ビットは少し驚いた。
リアとい女性はビットが感じた自分勝手な人間ではないのかもしれないと考えを改めた。
「負けを認めるついでに一つこちらの頼みを聞いてくれないか」
あきらは真面目な顔つきでリアを見る。
「数日後に始まる大会で俺達と組んでくれないか」
あきらの頼みにリアは目をぱちくりとした。
「大会ってあのアカデミーである年1の大会ですよね?」
「ああ、そこで俺はある奴に勝ちたいんだ」
あきらの真っ直ぐな視線にリアは諦めにも近い溜息をついた。
「いいわその大会出ましょう。ただし出るからには優勝するつもりで行くわよ」
「ああ、よろしく頼む」
ビットはあきらとリアのやる気に満ちた顔を見て何故か不安を覚えた。
「さぁ、時間もないから今から特訓よ」
・・・はい?
リアの言葉にビットの思考は止まった。
「え、今からですか?」
「当然よ、貴方は私の騎士になってもらうんだからもっと強くなってもらわないといけないんだから」
ビットの疑問にリアは即座に言い放つ。
「さぁ、さっさと立って走りなさーい」
リアは火球を作り出すとそれをビットの足元に投げつけた。
「だはー、なんで俺だけーーーーー。てか誰か助けろよー」
ビットの悲鳴がグラウンドを突き抜けた。しかしわざわざ危険をおかしてまで助けに来る者はいなかった。
「こんの覚えてろよーーーーーーーーーーー」
このやり取り大会までずっと続く事になるが、その事について彼は気づく事はなかった。
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