REQUIEM館

第39話:覇王の力

カツン、カツン
廊下を歩く足音が響き渡る。
「相変わらず殺風景だな」
セツは周囲を興味なさげに見渡した。
「っ!」
突如視界に何かが飛んできた。セツは横に跳びつつその正体を見極めた。
「人?」
セツが見たその正体は人であった。
流石に予想外であったが相手を見てセツは気づいた。
そう目の前にいるのは人ではあったが中身は既に人ではなかった。
「GURUUUUAAAAAA」
人とは思えない声を上げ口からは涎がが流れ目は既に何を見ているのか分からなかった。
「力に溺れ発狂したか」
セツは相手を見ながら状況を分析していた。
「馬鹿が過ぎた力を求め、耐え切れなくなり自我を失うとはあわれだな」
セツは相手を見下した目で見た。
能力者には2種類のパターンが存在し、生まれつき力を持つものと人為的に力を与える方法の2種類ある。前者は生まれつきのため保有する力に耐えうる肉体と精神力が備わっている。しかし後者の場合、元々力を持たない者のため力に圧され飲み込まれる危険性が生じる。
目の前の相手は正にその実例であった。それもかなりの力を求めたと思われる。
「厄介だな。こうなるとどうにもならん」
セツは背中に担いでいた布袋から槍を引き抜いた。
「AGyaaaaaaaaaaaa」
咆哮とも取れる声を上げるとセツに向かって飛びついてきた。伸びた爪が
セツの喉元を狙う。
「絶纏:裂破一迅」
セツは一度後ろに短くステップを踏むと勢いよく前に踏み込んだ。
速度と体重をのせた突きを放ち首を突き刺しながら宙へ飛ばしそのまま下段から槍
「所詮獣か」
セツは一度だけ視線を向けるとそのまま横を通りすぎようとした。
「Guaaaa」
突如先ほどと同じく咆哮と共に倒れていた相手が飛びあがって襲いかかってきた。
「なんだと!」
セツは驚きつつも相手の胴体に槍を叩きこみ吹き飛ばした。
しかし、流石のセツも額に冷や汗を浮かべていた。
出血量からして死んでいたとしてもおかしくなかったはずだ。
『フフ、覇王と言われたあんたがそのようなミスをするとは随分と平和ボケしてるようね』
天井から女性の声が聞こえた。セツはその声を知っていた。
「お前、こいつに何をした」
セツは声の聞こえた方を睨みつけた。
『怖い顔して睨んでも無駄だよ。まぁいっか、教えてあげるよ。そいつには力を与えられた時に遺伝子を書き換えたのさ』
声は愉快そうに話を続けた。
『色々といじったから結構ガタが来てるけど。まぁあんたを消すくらいはできると思うよ』
声は明らかにこの状況を楽しんでいた。セツが不愉快になるような話し方をわざとしているのだ。
「・・・本気でそう思ってんなら、相当見くびられたもんだな」
セツの表情は変わらないがある程度彼を知っているならその表情の裏に隠された怒りに圧倒されたであろう。
『狂乱、やってしまいなさい』
そう、セツは目の前の相手が執行者であることは知らなかった。普通に考えればセツにとっては情報が全くない相手であって、向こうはこちらの情報がほぼ知られているというのはかなり不利であった。
狂乱は迷うことなくセツに向かって突進する。
「おっせーよ」
セツは狂乱が振り下ろしてきた爪を弾くとそのまま回し蹴りを首に叩き込んだ。
狂乱はきりもみ回転をしながら壁へと叩きつけられる。
「UGAAAAAAA」
体重の乗った回し蹴りを叩きこんだにも関わらず狂乱は立ち上がってきた。
『その程度の一撃なら執行者であれな誰でも耐えれるさ。あんたの弱点は知ってるんだよ』
セツは聞く気が全くいのか、狂乱の出方を窺いつつ間合いを詰めていった。
『あんたのその力、元は疾風のだよね。何せその力を与えたのはあたしだからね』
セツは高速の槍捌きで狂乱を斬り付けた。
月下一閃、セツの基本立ち回りで使う技でも速さを重視した技である。
狂乱は先ほどと同じく吹き飛ばされるが何事もなかったかのように立ち上がってきた。
よく見うると斬りつけられた箇所は既に傷が残っていなかった。
(超回復か、しかも再生機能というおまけつきとは面倒くせーな)
『何度やっても無駄よ。あんたの力の限界は知っているんだから』
セツは一度溜息をつくと声のした方をみた。
「そんなにあの時のことを恨んでいるのかライラ」
『当り前よ。忘れたことなどないわ。あんな屈辱一生忘れれるわけないわ』
ライラと呼ばれた者の声は先ほどまでと違って憎しみに満ちていた。
「確かに恨まれるのは仕方ないが、お前がアビッサルに加担した時点で俺は容赦する気ないぞ」
『へー、容赦しないって今のあんたの力ごときに私の作り上げた作品が負けるはずないわ』
狂乱が繰り出す爪の連撃をセツは余裕を持ってかわしんがらもライラの言葉はしっかりと聞いた。
「所詮はデータにしか頼ることができない馬鹿だったわけだ」
セツは嘲笑うかのように声の方をみていた。
『なっ、この出来そこないの分際で戯言いってんじゃねーぞ』
セツの言葉が癇に障ったらしく怒声が響き渡った。
セツは下を向き微かに笑った。そして顔をあげた時、彼の目は赤くなっていた。
血眼、セツの異常体質の一つでありそして爆発的な身体能力を高めた状態になる。
『血眼、そもそもあんたと同じくフェンリルにいた私がそれを見落とすとでも思ったの。それも想定にはいってるわ』
だがライラは彼の状態を知っている。そもそもライラはセツ、フリューベルと同じくフェンリルの一団にいた。ライラは元々は医学系のエキスパートで戦場では医療班として動いていた。
この頃セツは力を使えなかった。だが戦闘に関してのセンス、そして状況分析は一団の中でもトップクラスであったため、隊長クラスまで上がってきたのだ。また彼は面倒見もよく周りからも慕われていた。
ライラもこの時、医療班の隊長をしていた。ライラはフリューベルの力について研究していた。
あわよくば力を自分のものにしようと考えていたのだ。
だがこの研究は思わぬ最期を迎える。
通常、力はその使い手本人に適合するようになっているため別の人間がそれを取り込めば暴走し死を招く恐れがあった。
そのためライラは戦場で負傷した者を救護という隠れ蓑を利用して人体実験を行っていたのだ。
セツはライラの行っていることに感づき自分の部隊仲間が連れて行かれた後を追いその現場を目撃した。
力を無理やり与えられた仲間が風船のうように膨らみやがて破裂して無惨な姿へと変わっていくその一部始終を目にしたのだ。
実はこの実験を最後に彼女の実験は完成していたのだ。
そして自分に使い力を手に入れる準備までしていた。しかし自分にそれを投与する瞬間セツが妨害に入った。
セツは力の投与に巻き込まれ、結果として風を操る力を手に入れたのだ。
ライラはセツにそのチャンスを奪われ、更に非人道的行為を行ったとしてフェンリルを追われることになった。
「・・・あんま俺をなめんなよ」
『ぐっ!うぁぁっ』
いきなりライラの苦しんだ声が漏れた。よく聞くとミシミシという音が聞こえてきた。
『なんだと風の圧縮し力を押しつけているのか・・・違う・・・グッ』
ライラのうめき声に反応したのか狂乱がセツに向かって飛びついてきた。
「獣は地でも這ってな」
セツは狂乱を睨みつけた。ほぼ同時に狂乱の体が地面に叩きつけられた。
「Guuuuuuuuu」
叩きつけられた狂乱はそれでも前へと進もうと地を這おうとするがそれすらも叶わぬ強烈な力が上から圧し掛かっていた。
「さて幾つか質問する、素直に答えるなら殺しはしない」
セツは前にいる狂乱から視線を外した。
「一つ目、どうやってアビッサルに紛れ込んだ」
『あんたに・・・教えるわけない・・・ぐぁぁぁ』
セツは答えを聞き終わる前におもいきり睨みつけた。同時にライラの悲鳴が漏れた。
「もう一回だけ聞こう。どうやってアビッサルに紛れ込んだ」
『名前は知らない奴と取引をした。能力者研究をするかわりに保護をすると』
ライラは諦めて口を開いた。
「なるほどな能力者研究ならばありえるか。なら2つ目だこの目の前のこいつを元には戻せないのか」
セツは目の前で這いつくばりながらも掴みかかろうとしてきた狂乱を槍で突き飛ばした。
「Ugyaaaaa」
セツの一撃は見た目よりも強かったのか壁に叩きつけられた狂乱の体が壁にめり込んでいた。
『無理ね。一度与えてしまった力は戻すことはできない。例え元に戻れても精神が崩壊して廃人になるのがおちだ』
「ならば、精神が崩壊してない能力者なら元の力を持たない状態に戻す方法はあるのか?」
この質問、質問の内容以上に重要であった。
『ないね。それは力を必要とする過程で必要のないことだ』
「そうか」
セツは狂乱にかかっていた力を解いた。同時にライラにかかっていた力も解いたようだ。
「これが最後の質問だ、二度と人体実験と能力者研究をしないならこの場は見逃してやる」
セツは槍を狂乱に向かって構えたまま問う。
『答えはNo。あんたを殺して。その力を貰ってやる』
ライラの叫びと共にセツの周囲の壁が開いた。
『やってしまいなさい』
壁からは元人であったであろう者がでてきた。
「ちっ、腐れ外道が」
セツは冷たい目で狂乱たちをみた。
『外道でけっこう、あたしに逆らったあんたは死んで当然よ』
ライラの絶叫と共に狂った獣たちがセツに向かって一斉に襲い掛かる。
「なら、最後に見せてやるよ。俺の本当の力をな」
獣たち八方から斬りつけてきた。がその先にセツの姿はなかった。
セツは獣たちの遥か上、天井付近まで跳んでいた。
「簡単に死なせてやれればよかったんだがそうも言ってられんよな」
獣たちは一斉にセツに向かって跳びかかろうとした。
だが
「お前たちに跳ぶ権利なんぞ与えてない」
セツの言葉と共に獣たちは全員地に叩きつけられた。獣たちの体がベキベキなる。
唯一圧迫を逃れていた狂乱が横からセツに跳びかかってきた。
「撃ちもらしか」
面倒そうに横に突き出した槍が狂乱に当たり狂乱は獣たちの上に叩き落とされた。
セツは未だに天井付近を浮いていた。
『浮遊、風の力か』
ライラの驚愕した声が聞こえた。
「いや違うな。それならフリュだってできるだろ」
そうフリューベルは浮遊する力なぞもっていない。そうなるといったい何の力となるのだ。
ライラの頭にある答えが浮かんできた。
『まさか、重力』
「御名答」
セツは懐からナイフを複数取り出すとそれを無造作に落とした。
ナイフはやる気のない落下を始めたか思うと姿を消した。
グサッ
気づくとナイフはすでに獣たちに突き刺さっていた。
セツが行ったことは重力加速を利用しナイフを急降下させたのだ。
「まぁ、浮いていられる高さとか、精神的にもこいつは多用できないんだけどな」
セツは槍を構えたまま自分に重力を付加して急降下を始めた。
獣たちに向かって一気に加速する。そして射程に入ったと同時に急停止その爆発的にためた加速力で一回転し叩きつける。
「絶纏:絶廻纏滅」
叩きつけた衝撃波が周りの壁を抉る。
そしてその煙の中にはセツだけが立っていた。他の狂乱を含む獣たちはずたずたに引き裂かれ再生すらできない状態にまでなっていた。
「さて、後始末を死ねーとな」
セツはライラのいるであろう方角をにらんだ。
『ヒィッ』
ライラのひきつった声が廊下に響く。
「まぁあれだ、俺が甘くないってことを思い知って死にな」
セツが一睨みすると強烈な重圧がライラを襲った。
『ぐぎぎぎ、アガ』
今まで以上に手加減のない重圧にうめき声しかでていなかった。
「これでジ・エンドだ」
セツが指を鳴らすと、ギュポっと音が聞こえた。
そうライラは今この瞬間地面にすり潰され死んでいた。
その現場を見たものはそれがだれであろうか分からないほどにまですり潰されている。
セツは獣たちの肉片に一度視線を向けた。
「力に溺れたことを後悔するんだな」
そのまま背を向け廊下の奥へと消えていった。目指すは最奥。
アビッサルの当主がまつであろう場所へ、
セツは覇王と呼ばれた本来の力をふるい突き進む。

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この記事のコメント

なんという破格な能力www
2008-11-21 Fri 22:14 | URL | びっちょ #-[ 編集]
びっちょってw
ビットとしっかり書きなさいな。

破格と言えば破格ですね。
色々と伏線いれたりと(前話)これでも悩んでつけた結果ですね。

この先の展開どうなるのかも実際は曖昧ですしねー。どないしよ。
2008-11-25 Tue 12:32 | URL | フリューベル #mQop/nM.[ 編集]

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